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2月14日の中国会社法改正セミナー:セミナー資料の目次(予定)

中国の会社法改正について、2月14日にオンラインセミナーでお話させていただく予定になっていますので、そのセミナー資料の目次をご紹介します。 下記は現時点で手元に用意してある資料案によるものですが、当日は時間の関係で全部はお話できない可能性がありますので、その点はどうぞご容赦くださ...

2023年8月31日木曜日

《外商投資法》施行による《会社法》準拠対応: 株主会の全会一致決議事項

先週ご紹介した、外商投資法対応の件で、もう一つ、是非知っておいていただきたい注意事項がありましたので、引き続き僭越ながら、ここで書かせていただきます。

従来、中国にある中外合弁会社においては、定款変更など重大事項については出資者双方が任命した董事全員が一致して決議する必要がありました。(《中外合資経営企業法実施条例》第33条第1項)
これに対し、《会社法》では、株主会や董事会における法定の全会一致決議事項は設けられておらず、定款変更などについても株主会における議決権の3分の2をもって決議可能です(《会社法》第43条第2項)。

ですから、日本側出資者の出資比率が3分の2を超えている場合、中国側出資者の意向に反していても、いわば「強行採決」してしまうことが可能になります。
ただ、だからこそ、気をつけないといけない「落とし穴」があります。反対株主による株式買取請求権です。(下記《会社法》第74条ご参照。)

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中国《会社法》
第74条  次に掲げる事由の1つがある場合には、株主会の当該決議について反対票を投じた株主は、会社に対し合理的な価額に従いその出資持分を買い受けるよう請求することができる。
  (1) 会社が連続して5年にわたり株主に対し利益を分配していないのに、会社が当該5年に連続して利益を取得し、かつ、この法律所定の利益分配条件に適合するとき。
  (2) 会社が合併し、分割し、又は主たる財産を譲渡するとき。
  (3) 会社定款所定の営業期間が満了し、又は定款所定のその他の解散事由が出現した場合において、株主会会議が定款変更の決議を採択して会社を存続させるとき。
  株主会会議の決議が採択された日から60日内に、株主が会社と出資持分買受合意を達成することができない場合には、株主は、株主会会議の決議が採択された日から90日内に人民法院に対し訴えを提起することができる。
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反対株主による株式買取請求権そのものは日本の会社法にもある制度なのですが、いかんせん、従来の《中外合資経営企業法》には該当する規定がなく、また、そもそも政府機関における手続上、ほとんど常に董事全員の署名のある決議書の提出が要求されていたという実務上の要因もあって、「強行採決」がなされること自体がほとんど見られませんでした。
しかし、今後は、会社法やこれに基づいて作成・修正された定款を見て、「中国側出資者が反対していても決議可能だ」と理解されて、強行採決に踏み切るケースも出てきそうに思います。

そのこと自体は何ら違法でも不合理でもないのですが、ただ、上記の反対株主による株式買取請求権のことを忘れて強行採決してしまうと、あとで思わぬ紛争になってしまうことも考えられます。
そのような事故を防ぐ意味では、従来の定款をなるべくそのまま踏襲し、定款変更などについては株主会でも全会一致決議を求めておく方が、安全策ということになるかもしれません。


2023年8月28日月曜日

8月第4週: ①水害からの復興、②「1件目」の住宅ローン、③15件の行政法規の改廃

①水害からの復興

各地で台風や豪雨による被害が出ているようで、その復興や水害防止の工事に関して、「以工代赈」(仕事を与えて救済に代えること)が奨励されています。
現地の群衆を工事に参加させて労働報酬を支払うことで家計に困難のある群衆に収入をもたらすとともに、工事に参加する過程で就業技能を高めること(「以工代训」)も求められています。
公共工事が行われることで復興関連需要も生じてくると思われますので、知っておくと何かのお役には立つかもしれません。

②「1件目」の住宅ローン

住宅ローン利率に関する優遇政策の適用に関し、「1件目」の住宅かどうかの認定基準について通知が出ています。
従来から、1件目の住宅取得時には住宅ローンの金利を低く抑えてもらえる政策優遇があるのですが、この1件目に該当するかどうかの基準に関する通知です。
「本人や家族がその都市で住宅を購入したことがなければ」、それ以前に住宅ローンを借りたことがあろうとなかろうと1件目と認定してよいとされています。
不動産をめぐる状況は各都市で異なるので、「一城一策」(一都市一政策)ということで各都市それぞれの政策が打ち出されています。およそ中国全般と一括りにするのではなく、各都市の状況を見る必要があるようです。

③15件の行政法規の改廃

国務院から14件の行政法規の改正と1件(製品品質監督試行弁法)の廃止が発布されていました。
《行政処罰法》に基づいて不合理な罰則等を取消・調整したこと、国際海運条例、道路運輸条例などの罰則の見直しといった内容だそうです。


2023年8月23日水曜日

《外商投資法》施行による《会社法》準拠対応: 株主会と董事会

《外商投資法》施行に伴っていわゆる外資三法が廃止され、中外合弁会社では《会社法》に適合するように定款変更(※)が求められています。
 (※)従来の中外合弁会社に関する《中外合資経営企業法》では「合弁契約」と「定款」が登場しましたが、《会社法》には「合弁契約」は登場しません。
  ですので、「合弁契約」の重要性は一歩後退して、「定款」の変更が主たるテーマとなります。

2024年末まで5年間の移行期間が設けられていますが、このうち2020年~2022年の3年間はコロナ禍による往来制限により面談ができず、「まだ5年もある」状況でしたので、しばらく様子見のままに過ぎていたような印象です。
そして、いよいよ今年の6月前後になって、多くの中外合弁会社では3年ぶり、4年ぶりとなるリアルでの董事会が開催されました。これに前後して、「そろそろ我が社も、《外商投資法》に合わせた定款変更を議論しよう」というお話になったのでしょうか、多くの企業で中国現地法人の合弁契約や定款の変更が議論されているようです。

これに関して、
「従来の董事会の決議事項を、そのまま株主会の決議事項にスライドさせてしまう」
また、これと似たようなものとして、
「その他すべての重大事項」を株主会での決議事項に入れてしまう
こういった合弁契約や定款の変更をお考えの例も見受けられます。

いろいろなところで見聞される情報の中で、
「董事会が最高権力機関だったところ、これからは株主会に変わる」ということから、
株主会が董事会に取って代わるようなイメージをお持ちになるのかもしれません。
また、
(A)「法改正があっても、法律上変更しないといけない部分以外は変えずに、従来どおり仲良くやりましょう」
(B)「董事会の上に株主会を作っても、同じような会議を2回開くのは重複で無駄なので、なるべく一つにまとめましょう」
という2つの発想も背景にありそうです。

ただ、上記のような対応は、あまり良くない場合もあるかもしれません。

というのは、株主会の決議事項について言えば、本当に法律上求められていることは、そのように「取って代わる」ことではなく、従来は董事会で決議していた事項の一部を株主会に移す(分離する)ことだけです。(所有と経営の分離、ということです。)
ですから、上記のように「全部を株主会にスライドさせる」という変更の提案をしてしまいますと、そのような変更案を提示された中国側の合弁パートナー側でも、やや面食らってしまう場合がありそうです。


ここで、少し日本の会社法の発想を振り返ってみますと、日本でも、取締役会設置会社の場合は、株主総会で決められることは法定及び定款所定の決議事項に限られます。(下記第2項)
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日本「会社法」
第295条(株主総会の権限)
1 株主総会は、この法律に規定する事項及び株式会社の組織、運営、管理その他株式会社に関する一切の事項について決議をすることができる。
2 前項の規定にかかわらず、取締役会設置会社においては、株主総会は、この法律に規定する事項及び定款で定めた事項に限り、決議をすることができる。
3 この法律の規定により株主総会の決議を必要とする事項について、取締役、執行役、取締役会その他の株主総会以外の機関が決定することができることを内容とする定款の定めは、その効力を有しない。
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なぜこのように株主総会での決議事項が限定されるのかというと、適切な役割分担のためです。
取締役会は経営のプロである方々の英知を集めて討論する場です。ですから、株主総会で株主自身が株主総会の場で何らかの議案を討論・作成しようとするよりも、取締役会で議論して議案を作ってもらった方が、多くの場合は、より経営の実態に即した株主にとっても利益になる議案になるはずと考えられます。
これは中国の《会社法》の制度設計でも同じです。
ですから、株主会に多くの決議事項を持たせるように定款で定めることは可能ですし適法でもあるのですが、全てを株主会に移してしまうことは、法律上はあまり予定されていない対応であろうと思われます。
(もちろん、董事会であれ株主会であれ実際に参加する顔ぶれは同じ、というケースがほとんどですから、実は分けるのは書類だけ、という場合も多いのですが...)


《外商投資法》によって変わるところは確かに色々あるのですが、
できれば従来の運営方法をなるべく踏襲して、なるべく最低限必要なところだけ修正する方が良いのではないか?
そのように思うこともありますので、ここで少し触れさせていただきました。


差し出がましいことで恐縮ですが、法律上求められる最低限の対応としては何が必要なのか、対応をお考えいただくご参考になるようでしたら幸いです。


【2024年1月17日追記】
 今回の《会社法》改正に至るまでの議論の過程(2021年12月の第1次改正草案)では、法定の董事会決議事項を列挙せずに、
 「董事会は、会社の執行機構であり、この法律及び会社定款所定の株主会の職権に属するもの以外の職権を行使する。」とだけ規定する案となっていました。
 つまり、ほとんど全ての事項を株主会に委ねてしまうことも可能でした。
 しかし、最終的にはほぼ現行法どおりの内容となりました。
 そのような経緯からしても、法定の董事会決議事項を株主会に移してしまうことは、おそらく認められないように思われます。

2023年8月21日月曜日

8月第3週: ①知的財産権法執行強化、②団体標準から推薦性国家基準へ、③環境事件に関する2つの司法解釈

①知的財産権法執行強化

国家市場監督管理総局から、新時代の知的財産権の取締強化ということで意見が出ています。
2025年までにネットワーク環境における取締の難題を解決するとの目標や、業界団体や仲介機構(特許事務所など)との連携などについて述べられています。

②団体標準から推薦性国家基準へ

社会団体などが制定・公布した団体標準のうち技術的な先進性、指導性のあるものを推薦性国家基準に採用することに関する暫定規定が出ています。
https://www.samr.gov.cn/zw/zfxxgk/fdzdgknr/bzjss/art/2023/art_646c3799c2d348ef8fd90a2437fdcf95.html
全国で比較的受け入れられており効果の高い団体標準については、推薦性国家基準に取り上げる際の手続を短縮することなども盛り込まれています。

③環境事件に関する2つの司法解釈

環境関連の権益侵害紛争における法律適用に関する司法解釈と、同じく環境関連事件における証拠をめぐる規定が発布されています。
環境汚染事件においては因果関係が複雑であり損害との関わりが直ちには判明しないことを考慮して、時効の起算点を被害者保護に有利なように、加害者その他行為者が判明した時点から起算することなど、環境事件特有の事情に配慮した内容になっているとのこと。
証拠についても、一般的被害者の手元に証拠が乏しいことから立証責任を軽減するための書証提出命令の活用や、司法鑑定に時間や費用がかかることや専門家の鑑定への過度の依存による問題などを考慮した規定が置かれているとのことです。

2023年8月16日水曜日

【体験レポート】自動翻訳の附属ツール「TexTra Files」(+VoiceTraアプリ)

NICT(情報通信研究機構)から提供されている「みんなの自動翻訳@TexTra®」という自動翻訳サービスがあり、個人的にときどき使ってみています。
この「みんなの自動翻訳」の関連アプリで、
「PCのデスクトップにショートカットを置いておいて、
 翻訳したいファイルをそこにドラッグ&ドロップすれば自動で翻訳してくれる」
というツールが紹介されていたので、使ってみました。
 (下記⑤のとおり、業務上の使用には適しない点、あらかじめご留意ください。)

自動翻訳、便利ではあるのですが、使うときには
 (1) Webサイトやアプリを開く、
 (2) ログインする、
 (3) 翻訳機能のメニューを選ぶ、
 (4) 翻訳したいファイルを選ぶ、
 (5) 翻訳が仕上がるのを待つ、
 (6) 仕上がったファイルを開いてみる、
 (7) どこかに保存する、
というように、何回もクリックや入力が必要になりますので、
ついつい使うのが「面倒」「おっくう」になります。
これに比べて、このツールと使うと、この手間がかなり省略できます。

【操作の流れ】
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デスクトップ上にあるアイコンに、ファイルをドラッグ&ドロップ





  ↓
何語から何語に翻訳するのか指定するウインドウが開く
 (一度指定してしまえば、次からは同じ設定のまま開くので、毎回指定する必要はないです。)







  ↓
「OK」を押すと翻訳サーバー上にアップロードされます。





  ↓
翻訳完了待ちの画面が開きます。
 (状況欄が「処理中」→「完了」になれば、翻訳完了です。
  私はせっかちなので、何度も「更新」ボタンを押してしまいます。)











  ↓
「ダウンロード」ボタンを押すと、指定した場所に翻訳済みのファイルが出てきます。
 (今回はデスクトップ上にファイルが出来上がるように指定してみました。)






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このように、簡単な操作で自動翻訳済みのファイルが出来上がります。


但し、使ってみると、ちょっと不便かな?と思うところもありましたので書いておきます。

① 「みんなの自動翻訳@TexTra®」のユーザー登録と、初回利用前にAPIの設定が必要です。これが少し面倒です。(一度設定してしまえば後は特に面倒なく使えます。)
② 最初インストールしたとき、なぜかショートカットにドラッグ&ドロップできず困りました。(一度ショートカットを削除して、プログラム本体のファイルから改めてショートカットを作り直したら、無事に起動するようになりました。)
③  出来上がったファイルが自動的にデスクトップに出てくるのかと思っていたのですが、2~3回、ボタンを押す操作が必要です。
④ WordやExcel、pptの古いファイルには対応しておらず、拡張子を変えて新しい「.docx」「.xlsx」「.pptx」のファイルにしないと翻訳できません。
⑤ PDFファイルでもOCR処理をして翻訳してくれます。ただ、OCR処理を介するゆえ、翻訳精度は悪くなっている印象です。(OCRの段階で、かなり誤字が発生していました。)
⑤ 翻訳対象として入力したファイルのデータはNICTで二次利用されるようです(利用規約第4条3)。ですので、個人情報や業務上の秘密情報など、秘密にする必要がある情報を入力してはいけません。(一般に公開されているような資料の翻訳にしか使えません。)

ということで、⑤の部分で、業務には使えず、各社でご利用されている業務用の翻訳サービスを使わないといけないことになってしまうと思います。

ですので、
業務用に使えるものとしては、別途、業務用の翻訳サービスに連係させることにして、
事務所のスタッフの方々に無理をお願いしまして、
「Aフォルダ(下の写真の左側)にファイルを入れて何分か待てば、自動的に、
 Bフォルダ(同右側)に翻訳されたファイルがアウトプットされてくる」
という仕組みを(手作りで)作ってもらいました。






事務所で使っている別の有償のサービスと組み合わせたものらしいのですが、
これはこれでなかなか便利ですので、今後ありがたく使わせていただこうと思っております。

便利な翻訳サービス、いろいろあるようですから、少しでも手軽に使えるように、
一つご参考になればと思います。



ちなみに、余談ですが...

同じくNICTから提供されている「VoiceTra」というスマホアプリがあります。
これも私は非常に気に入っています。
何故かと言うと、日本語で音声入力して外国語に変換された後、「こういう意味の外国語に変換しましたよ」というのが同時に表示されるのです。
(普通の翻訳アプリは、一方通行で、日本語→外国語の2段しか表示されないですが、
 このVoiceTraは日本語→外国語→日本語と3段で表示されます。)

「ちゃんと訳してくれているのかな...」という不安が無くなりますので、
是非一度お試しいただければと思います。

但し、惜しむらくは、実際の会話で使おうとすると意外に使い方が難しく、数秒のタイムラグも生じるので、思いのほかストレスが大きいです。現状では、「下手でも自分で話した方がよいかな?」と感じています。
使いこなせるまでには、私自身の訓練にもう少し時間がかかりそうです。



(なお、この記事を書くにあたり、詳しい方々のご助言等は特に受けておりませんので、
 もし私の誤解で「もっと便利に使えますよ」という点があれば、是非ご指摘ください。
 可及的速やかに訂正・補充いたします。)

2023年8月14日月曜日

8月第2週:①外商投資環境のさらなる改善、②高温・寒冷に関する労働者保護(モデル文書)、③フォーラム活動に関する規制

①外商投資環境のさらなる改善

国務院から7月25日付で、外資による投資をさらに呼び込むことに関する意見が出ていました。
入札によらない「首购」「订购」(イノベーション推進のために、市場に出ていない先進技術等を政府調達すること)による支援も内国民待遇の対象として言及されていることは、外資系企業の事業にも有利かと思います。
ビザについても、外資誘致や展覧会などのために必要な場合にマルチ(多次)の商用ビザを発給する措置などが挙げられています。
他に目を引く項目としては、「重要データ」や「個人情報」の国外移転(出境)について、「グリーンゲート」(绿色通道)として安全評価を効率よく行うこと、北京、天津、上海、珠江デルタなどでは試験的に「自由に流通可能な一般データリスト」の作成を模索することが述べられています。

②高温・寒冷に関する労働者保護(モデル文書)

暑い日が続く中、業務場所の高温・寒冷な気候における労働者保護についてのモデル文書が、人社部、全国総工会などから共同で公表されています。
《防暑降温措置管理弁法》では企業は防暑降温業務制度を確立することが求められており、何らかの問題があったときには制度が未制定・不備であること自体が法定の義務違反として指摘される可能性もあります。
今回のものはあくまで「参考文書」ですが、社内規程を整備する際の参考になると思われ、それほど分厚いものでもないですので、機会があればお目通しいただくと良いかと思います。

③フォーラム活動(论坛活动)に関する規制

政府機関や正規の組織が行っているフォーラム活動と紛らわしい、「ニセモノ」のフォーラムが開催され、市場秩序が乱されているということで、このような「ニセモノ」フォーラムの取締に関する通知が出ています。
先般、7月8日にも、11部門から共同で、フォーラム活動に関する特別整理業務に関する通知が出ていました。
フォーラムの名目で違法な詐欺などの犯罪を行うものに関与しないことは当然として、それ以外にも、商業目的で「中国」「中華」「全国」「国際」「高峰」などの用語を使ってフォーラムを開催することは違法となることがあるなど、注意すべき点があります。

2023年8月9日水曜日

外国人の雇用と、刑法の国外犯処罰(国外での行為は罪に問えない?)

ちょうど《対外関係法》も成立・公布されましたので、少し、日本の経営者・人事労務管理者の方々に知っておいていただきたい話題を一つご紹介します。
「刑法犯の国外処罰」についてです。

日本も中国も、それぞれ自国内で犯罪行為が行われた場合には、自国民であろうが外国人であろうが、当然、刑法による処罰対象となります。
一方、【国外で】犯罪行為が行われた場合については、「自国民でも外国人でも処罰する」場合と、「自国民のみ処罰する」場合、そして「我が国での処罰対象とはしない」場合があります。
 (注意事項として、日本の場合、「国民」かどうかは国籍で判断されます。住民登録や永住権の有無は関係しないようです。)

日本の「刑法」では、第1条から第4条の2まで、それぞれどの場合に当たるのか、犯罪行為によって詳しく規定されています。
一方、中国《刑法》では、第6条から第11条までに規定がありますが、日本ほど細かく規定されておらず、概ね最高刑・最低刑が3年の有期懲役になるかどうかで分けているようです。

ここで、日本の経営者・人事労務管理者の方々に知っておいていただきたいのは、社内で行われる不正行為についてよく問題になる窃盗、詐欺、横領、背任といった犯罪については、「自国民(=日本国民)のみ処罰する」という類型に分類されていることです(※)
つまり、(日本国外で)同じ行為をしても、日本人従業員なら日本の刑法で処罰できるのに、外国人従業員の場合は日本の刑法では処罰できない、ということが起こり得ることになります。
 (※) 但し、会社法上の特別背任罪の場合は、別途、国外犯処罰の規定が設けられているので(日本「会社法」第960条、第971条)、外国人による国外犯の場合でもなお処罰対象となります。念のため。

私(金藤)、個人的には、日本国内においては少子化の続く中で日本国内の企業でも外国人の募集・採用は積極的に進めていただく方がよいと思っており、様々な機会でそういったお話もさせていただいていますし、また、そもそも国籍を理由にして雇用差別をすることは違法でもあります。
しかし、だからといって無防備・無造作に従来の日本人の方々に対するのと同じ方法で外国人の方々を雇用することは、必ずしも適切ではない部分もあると感じます。
日本人従業員と外国人従業員に差がないわけではなく、実際にはこういった社内での重大な問題を起こした場合の処遇など、かなり重要な部分で日本人従業員とは異なる部分もあります。
普段そういった問題に遭遇することはほとんど無いはずではありますが、外国人従業員の方々の雇用管理について、一つの知識として、考慮しておいていただければと思います。

2023年8月7日月曜日

8月第1週:①党と政府の法規に関する学習、②中小企業への融資促進、③ドローン輸出規制

①党と政府の法規に関する学習

中国共産党中央委員会弁公庁と国務院弁公庁から、指導者・幹部において知っておくべき法規リストを作成することに関する意見が出ています。
https://www.gov.cn/zhengce/202308/content_6896297.htm
共産党内の規則と国家の法規をともに対象としており、分級分類してリストを制定することとされています。指導者・幹部の教育体系にも組み入れられるとのこと。
習近平法治思想の信仰者、伝道者、実践者となるべく学習が求められています。

②中小企業への融資促進

工業情報化部など5部門共同で、中小企業への融資促進行動の通知が出ています。
https://www.gov.cn/govweb/zhengce/zhengceku/202308/content_6896043.htm
単なる融資だけでなく、出資やIPOを目指す育成などまで含めて、各地の政府機関が連携して取り組むこととされています。多様な研修方式も列挙されています。

③ドローン輸出規制

日本の新聞等でも報道されていましたが、ドローンの輸出規制が拡大されました。
一定の基準を超える性能を有するドローンを両用物品及び技術輸出許可証による管理の対象とするようです。
いわゆる「両用物品」とは、核兵器や生物兵器、ミサイルなどの軍事用途と、民生用途の両方に使える物品です。これら両用物品については昔から輸出入許可管理の目録があり、ときどき調整されています。
今回のドローンをめぐる管制措置は臨時のもので、その実施期間は2年を超えないと規定されています。

2023年8月3日木曜日

中国の「社会保険」と、日本の「社会保険」


中国で「社会保険」というと、いわゆる中国語の「五险」、養老保険、医療保険、労災保険、失業保険、出産保険の5つを指します(中国《社会保険法》)。
一方、日本では、「社会保険」というと、健康保険(介護保険含む)と厚生年金保険の2つを指し、労災保険と雇用保険は「労働保険」と分けて呼称しています。
(といっても、中国の方々に説明するときは、「労働保険」と説明しても通じないので、「労災保険と失業保険」とご説明しています。)
社会保険は従業員を雇っていなくても法人を設立するときは加入しますが、労働保険は従業員を雇用するときに加入するので、実は会社設立の段階での手続で少し違いが出てきます。

なお、中国の「生育保険」は妊娠・出産・育児のための医療費用や休業期間における手当の給付を行うものですが、これは日本では雇用保険(育児休暇取得者への育児休業給付金)と健康保険(出産手当金、出産育児一時金)に分かれています。
思わず「社会保険」と一言で済ませてしまうのですが、実はその意味合いは日本と中国で違うということ、もし区別の必要がある場面に出会ったら、少し気に留めてみていただければと思います。