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2月14日の中国会社法改正セミナー:セミナー資料の目次(予定)

中国の会社法改正について、2月14日にオンラインセミナーでお話させていただく予定になっていますので、そのセミナー資料の目次をご紹介します。 下記は現時点で手元に用意してある資料案によるものですが、当日は時間の関係で全部はお話できない可能性がありますので、その点はどうぞご容赦くださ...

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2024年4月3日水曜日

4月1日からの登記手続変更:外国人の方々の日本国内での不動産登記(国内連絡先)

ひさしぶりに日本のお話です。

大阪で不動産を購入される外国人の方々の手続のサポートなどしておりますが、この4月1日は、司法書士の先生など不動産登記に関わる方々にはなかなか難しい時期になっているようです。
様々なところで苦慮されているのではないかと思いますので、雑感を含めて、ここで書き留めておきます。


不動産登記法やそれに関する政令等の改正があり、日本国内に住所のない外国人の方々などが日本で不動産登記をする際に、4月1日から「国内連絡先」の登記が必要になっています。
2024年3月1日:令和6年4月1日以降にする所有権に関する登記の申請について

ここでいう「国内連絡先」とは、単なる日本国内の住所や電話番号ではなく、「所有権の登記名義人が国内に住所を有しないとき」に、「その国内における連絡先となる者の氏名又は名称及び住所その他の国内における連絡先に関する事項として法務省令で定めるもの」(改正「不動産登記法」第73条の2第1項第2号)です。
つまり、外国人の方が日本の携帯電話をもっていて常時連絡が取れるとか、日本に来た時に滞在する不動産を持っているとか、そういった事情があったとしてもここにいう「国内連絡先」としては足りず、日本に住民票のある個人か、日本に事業所のある法人を指定しなければなりません。
(用語として、「連絡先」ではなく「連絡担当者」とか「連絡窓口」とした方が誤解が無いような気もします。)

この法改正自体は前々から知っていたのですが、「国内連絡先」については「なし」で申請することもできることが早い段階で決まっていましたので、特段問題にならないだろうと見ておりました。
ところが、いざ制度が始まってみると、「なし」で登記申請をしようとすると、「国内連絡先となる者がないときはその旨の上申書(登記名義人となる者等の署名又は記名押印がされたもの)」が必要とのこと。
もし国内連絡先として日本国内の誰かを登記しようとしても、その方の印鑑証明書と承諾書が必要になるという厳重さです。
まだしも「なし」で申請する方が簡単です。
(制度設計としては、本来はなるべく日本国内の連絡先を登記してもらった方がよいはずなのに、若干あべこべな感じもします。)
確かに、連絡先そのものについて地面師のような第三者に悪用されてしまう危険もありますから、慎重であるべきことも理解はできるのですが、なかなか厄介なところがあります。

立法の過程を見ていると、「国内連絡先」としては所得税・消費税に関する納税管理人のような委任関係のある第三者が想定されているらしいのですが、
誰かに国内連絡先をお願いしようとしても、国内連絡先になるとどのような負担が生じるのか、住所が変更になったらどうするのか、本人と連絡が取れなくなったらどうなるのかなど、分からないことが多いです。
比較的最近の政令改正に関するパブリックコメントの結果を見ていても、未解決の問題が多い中でスタートしているように見えます。
2023年10月4日:「不動産登記令等の一部を改正する政令案に関する意見募集結果について」

これでは、なかなか外国の方々に「国内連絡先」について説明するのも難しいですし、
日本国内で誰かに「国内連絡先」になってもらうようお願いするのも難しいような状況になってしまっています。
「国内連絡先になる方々へ」といったような手引きやリーフレットがとても欲しくなりますが、法務局の窓口には既にあるのでしょうか?
もしどなたかご存じでしたら、是非ご教示いただければと思います。

他にも、外国の住所の確認についてもパスポート(旅券)のコピー(これにもご本人の署名が必要。)が追加で必要になるなど、登記手続上、必要な書類が増えてしまっています。
いずれも外国から書類を取り寄せることになりますから、時間も手間もかかります。
登記手続が滞ってトラブルになってしまう例もありそうです。


日本では通常、改正法施行前に政令・省令・通達などが出て、研修会などもよく行われますので、施行日には実務対応は比較的分かりやすくなっていることが多いのですが、今回は比較的実務に大きな影響のある改正で、また改正項目が多かったためか、この外国人の方々向け対応のところまで固まっていない部分があるように思われます。
中国では、施行日直前まで細則規定が発布されず、施行後にようやく実務の対応が分かってくることが多いですので(場合によっては施行後随分経ってからようやく具体的な規定が出ることもあります。)、中国業務ではよく見る光景ではあるのですが、日本でもこういうことがあるのかと改めて感じました。


2024年3月29日金曜日

個人への貸付金と、使途不明金(役員への貸付か、担当者への貸付か)

中国の会社の帳簿を見ていると、見知らぬ個人に対して多額の貸付金(※)が計上されていることがあります。
(※)中国の一般の会社は金融活動ができないので、「貸付金」ではなく、「その他未収金」の項目に計上されていることが多いです。
日本の場合、とりわけ中小企業では、代表者など役員に対して多額の貸付金が計上されているのを見かけることがあります。これは、代表者のプライベートな支出を会社のお金から出したような場合や、会社業務ではあるが経費で落ちないお金を出した場合などに生じる現象です。
もちろん中国でも同じような状況はあるのですが、代表者でも役員でもない、単なる一従業員(会計・経理の担当者など)に対して多額の貸付金が計上されている場合があります。

ご存じのとおり、中国国内では各種経費支出について企業所得税の申告上の損金として算入するには「発票」(税務局所定の領収書、インボイス)が必要ですし、用途が会社の事業活動の一環として対外的に説明できることも必要です。しかし、ときには発票が取得できず経費として算入できない支出や、そもそも対外的に説明することが難しい支出(グレーな接待交際費など)が生じることもあります。そのような場合に、現金が支出されたことを埋め合わせるために使われる科目の一つとして、「その他未収金」として誰かに貸した又は立て替えた扱いにして会計処理をします。
もちろん、このような支出は会計・経理の一担当者が決めたものではなく、会社の経営者(老板)が決めているわけですので、そのような一担当者が自分が借りたことにする理由など全くないのですが、担当者としては経営者から「このおカネ、会社で処理しといてね」と言われて、処理しようがなく困ってしまい、他の人に迷惑をかけられないので自分で借りたことにして計上してしまう。そのような景色が目に浮かびます。

心の中では、「誰か見つけて欲しい」と思っておられるのかもしれません。

日中合弁の中国現地法人がある場合には、財務諸表を見るときに一つ、興味を持って見比べてみていただければと思います。


2024年3月20日水曜日

中国《会社法》改正: 二人の監事(よくよく見比べてみると)

中国《会社法》が改正されましたので、この機会に改めて、いくつかの話題について、備忘を兼ねて書き留めておきたいと思います。


先日、セミナーでお話した内容について、下記ご質問をいただきました。

Q:「監事が2名いる会社の場合、今回の会社法改正で影響があるとお聞きしましたが、会社法の条文のどこを見ればよいのでしょうか。」

A:下記のとおりです。

現行法第51条第1項:
有限責任会社は監事会を置き、その成員は3名を下回ってはならない。株主の人数が比較的少なく、又は規模が比較的小さい有限責任会社は、1名ないし2名の監事を置き、監事会を置かないことができる。
  ↓
改正法第83条:
規模が比較的小さく、又は株主の人数が比較的少ない有限責任会社は、監事会を置かず、1名の監事を置き、この法律所定の監事会の職権を行使させることができる。株主全体の一致した同意を経て、監事を置かないこともできる。

「1名ないし2名」の部分が「1名」に変わりました。また、末尾の下線を付した一文が追加されましたので、「1~2名」→「0~1名」になりました。
監事会を置く場合は3名以上(改正前後で変わらず。)ですから、文言上は、「2名の場合はどうなる?」という空白が生まれてしまいました。


このご相談の方によればですが、
「他の事務所から出ているニュースレターやセミナー資料などを見ても、この点について書かれているものがなかったので...」
とのことで、もしかするとこの変化に気づいておられる方は少ないのかもしれません。
中外合弁の場合、「双方1名ずつ出しましょう」というのは比較的よく見かける事項でもありますので、ご参考までにて。


2024年3月14日木曜日

企業の倒産と未払賃金

日本では、企業が倒産すると、労働者は国から未払賃金の立替払を受けることができます(日本「賃金の支払の確保等に関する法律」第7条)。原資は労災保険料です。立替ですから、雇用主の賃金支払義務がなくなるわけではないのですが、実際には雇用者は倒産しているわけですから、支払うことができない場合が多いだろうと思います。(法的倒産の場合はそれなりに回収ができますが、事実上の倒産ですと回収は難しい場合が多いようです。)
この制度の利用は、バブル崩壊後の時期に最も多かったのですが、現在はピーク時に比べると件数、支給額ともに少なくなっています。

この制度が利用されるのは破産や民事再生といった法的手続に入った場合が多く、そうでない事実上の倒産の場合は「労働基準監督署長の認定」が必要となります。それ以外に、労働者かどうか、未払の有無・金額など、事実関係の確認にはそれなりのハードルがあります。
余談ですが、従業員でも何でもなかった人を従業員であったかのように書類等を捏造して申請する詐欺事件も発生しているためです。近年では外国人労働者に対する立替払が必要になる場合も多いので、なかなか大変と聞いています。

一方、中国はと言うと、残念ながら、そのような公的な立替払制度はありません。ですので、従業員は企業が倒産して賃金が未払になると、人力資源社会保障局(昔の労働局)に通報する(※)、企業や地元政府の庁舎の前に座り込んで陳情する、企業の株主や経営者・管理者を取り囲んで責め立てるなど、相当深刻な事態が起こることになります。
しかたなく、倒産した会社の取引先の方で一部の給与を立て替えてあげないといけないような場面もあります。
(※)中国には「労働報酬支払拒絶罪」という犯罪があり、賃金不払に対しては刑事処罰が行われることもあります。中国《刑法》第276条の1参照。
そもそも中国では、(もはや昔の話かもしれませんが)失業保険そのものの申請も容易には認めてもらえないような場合もあります。そのような場面に出遭うたび、やはり日本は労働者に対する保護が手厚い良い国だと感じます。

ちなみに、日本でも、労働関連の債務については破産前に払えるならば払う、ということが実務上は推奨されています。さらに、解雇予告手当と、直近月の給与と、どちらかしか支払えないという場面では、解雇予告手当の方だけでも支払っておいた方が良い、ということになっています。解雇予告手当はこの未払賃金立替払制度の対象にならないからです。
ですので、立替払制度があるから賃金未払になっても安心とは簡単には言えず、それなりに手間もかかるものですが、それでも、制度があるか無いかでは大きな違いがあります。



2024年3月7日木曜日

差押・仮差押の申立てのハードル(債務者の財産の調査)

中国では、裁判所と登記機関、銀行や証券会社などがネットワークでつながっており、仮差押でも本差押でも、債権者が相手方の財産を探す必要はなく、裁判所がこのネットワークを使って差押対象となる財産を探してくれるようになっています。
このシステムを「ネットワーク執行調査統制システム」(网络执行查控系统)といいます。
本差押(強制執行)の場合は、必ずこのシステムを使って債務者の財産の状況がチェックされます。

《民事執行における財産調査にかかる若干の問題に関する最高人民法院の規定(2020年)》
第1条  執行過程において、執行申立人は被執行人の財産の手がかりを提供しなければならず、被執行人は財産をありのままに報告しなければならず、人民法院はネットワーク執行調査統制システムを通じて調査をしなければならないものとし、事件の必要に基づき他の方式を通じて調査をするべき場合には、同時に他の調査方式を採用しなければならない。

一方で、仮差押(民事保全)の場合は、必ずではなくて、裁判所の裁量によって、調査してくれたりしてくれなかったりします。
《人民法院が財産保全事件を取り扱う際の若干の問題に関する最高人民法院の規定(2020年)》
第10条  当事者及び利害関係人は、財産保全を申し立てるにあたり、人民法院に対し被保全財産の明確な情報を提供しなければならない。
  当事者が訴訟において財産保全を申し立て、確かに客観的な原因により被保全財産の明確な情報を提供することができないけれども、財産の具体的な手がかりを提供する場合には、人民法院は、財産保全措置を講ずる旨を法により裁定することができる。
第11条  人民法院が前条第2項の規定により保全裁定をした場合には、当該裁定の執行過程において、保全申立人は、既にネットワーク執行調査統制システムを確立している執行法院に対し、当該システムを通じた被保全人の財産の照会を書面により申請することができる。
  保全申立人が照会申請を提出した場合には、執行法院は、ネットワーク執行調査統制システムを利用して、保全裁定を受けた財産又は保全金額範囲内の財産に対し照会をし、かつ、相応する封印、差押え又は凍結措置を講ずることができる。
  人民法院は、ネットワーク執行調査統制システムを利用しても提供可能な保全財産を照会し得なかった場合には、保全申立人に書面により告知しなければならない。


日本では、債権者が差押対象財産を自分で見つけてきて指定しないといけないのですが、それに比べると、債権を取り立てようとする債権者にとっては、とても便利な仕組みです。
どこの銀行に預金口座があるか見てくれるだけではなく、その時点での残高があるかどうかまで見てもらえます。
日本では、差押の対象になる財産を探すために、弁護士会を通じた照会などの方法による必要があるので、調査すること自体に時間がかかってしまい、また、差押をしても空振りになることがよくあります。ですので、「紛争になる前に平素から」、取引先の状況をよく把握し、どの銀行に口座があるのか、どの会社と取引があるのか、不動産などの固定資産はどこにあるか、会社名義か代表者名義かなどを掴んでおくことが求められます。
中国では、(現地に赴任したご経験のある方々はお分かりいただけるかと思いますが)それほどきめ細かな対応は実際上困難ですから、そのこともあって、上記のような便利なシステムが用意されることになったのかもしれません。


2024年2月23日金曜日

中国《会社法》改正:定款の拘束力と増資の払込

中国《会社法》が改正されましたので、この機会に改めて、いくつかの話題について、備忘を兼ねて書き留めておきたいと思います。


会社の定款は株主に対して拘束力があります。
定款制定時にサインをしていない、後から入ってきた株主であっても定款には拘束されますので、その点ではイメージとしてはマンションの管理組合の規約に似ているように思います。
ですから、もし合弁パートナーの持分が売却・担保実行・差押競売などによって第三者に取得されてしまって、期せずして見知らぬ第三者が株主として入ってきてしまったとしても、定款に定めを置いておけば新株主に対しても拘束力を持たせることができます。
(この点が、合弁契約とはまったく違う特徴です。)

しかし、会社定款に定めがあれば、株主に対して何らかの行為を強制できるのかといえば、それはそうではありません。

例えば増資の決議については、中国の《会社法》上は、3分の2以上の出資比率を占める支配株主の場合であれば少数株主の反対を押し切って決議することができます。
しかし、これによって直ちに少数株主に増資払込が強制されるわけではありません。少数株主には優先的に割当を受ける権利があるだけで、割当を受ける義務はありません。この点は日本と同じです。(2020年8月24日福建省福州市中級人民法院判決など、裁判例を見ていてもそのように扱われています。)

ただ、増資を引き受けない少数株主においては、出資比率が低下(いわゆる「希釈化」)してしまう不利益が生じます。ですので、そのような希釈化をもたらすような増資の決議が反対株主の意向に反して行うと、増資決議そのものが株主権の濫用として無効と判断されることもあり得ますし、もしかすると少数株主の持分買取請求権の行使を許すことにもなり得ます。

普通に合弁会社を運営しているときにはこのような問題が意識されることはないと思われますが、環境も人も常に変わっていく部分はありますので、なかなか難しいところがあると感じます。


2024年2月7日水曜日

中国《会社法》改正: 少数株主からの持分買取請求のできる場面の拡大

中国《会社法》が改正されましたので、この機会に改めて、いくつかの話題について、備忘を兼ねて書き留めておきたいと思います。


今回の改正《会社法》でも、株主会決議について全会一致決議事項は設けられておらず、従来どおり、定款変更等の重要事項についても3分の2以上の議決権を有していれば決議ができます。
ただ、「落とし穴」として、少数株主からの持分買取請求がありますので、そのような請求を受けないように留意いただきたい旨、以前にご紹介していました。
 (2023年8月31日《外商投資法》施行による《会社法》準拠対応: 株主会の全会一致決議事項)

今回の改正《会社法》では、この持分買取請求ができる場面がさらに拡大されて、
「会社の株式支配株主が株主としての権利を濫用し、会社又は他の株主の利益を重大に損なった場合」に、
他の株主から会社に対して持分買取請求ができることが新たに規定されました。

何が「濫用」なのか、何が「重大」なのかは、個別の場面で異なりますので、裁判例などを参照しながら考慮する必要があるわけですが、
文言上はかなり幅広く適用されそうな条文でもありますので、
マジョリティを占めている多数派株主の立場にある場合こそ、意思決定の手続については万全を期していただくようにしていただくのがよさそうです。


2024年1月31日水曜日

中国《会社法》改正: 持分譲渡につき他の株主の同意が不要に 【追記あり】

今回の《会社法》改正では、中外合弁会社の合弁パートナー同士の関係が大きく変わってしまう可能性がある改正項目があります。
それが、持分譲渡につき他の株主の同意を得る必要がなくなるという改正です。(現行法第71条、改正法第84条)

比較的早期から中国に進出している中外合弁会社の場合、法律上、「合弁当事者の一方は、第三者に対しその持分の全部または一部を譲渡する場合には、必ずほかの合弁当事者の同意を経る」ことが求められていましたので(廃止された「中外合資経営企業法実施条例」第20条第1項)、自社が知らない又は同意しないうちに合弁パートナーが変わってしまって見知らぬ会社と合弁事業をしなければならないという事態は起きませんでした。

また、「会社法」では、「(持分譲渡に)同意しない株主は、当該譲渡される出資持分を購入しなければならない。」としつつ、同時に、「会社定款に出資持分の譲渡について別段の定めのある場合には、当該定めに従う。」としていましたので、定款に定めを置いておくことで、同じように、自社の同意なく合弁パートナーが変わってしまうという事態を避けることができました。

それが今や、同意を求められることもなく、単に優先購入権を行使するかどうかの選択ができるだけになろうというのですから、変化は相当大きいと思います。

今回の改正でも、「会社定款に出資持分の譲渡について別段の定めのある場合には、当該定めに従う。」との条文はそのまま残っています。ですので、今回の改正にもかかわらず、従来どおり持分譲渡について他の株主の同意を要するという約定をすることは可能です。但し、それは定款で定めておく必要があります。

日本でいう株式譲渡制限のある会社ということですが、日本でも、譲渡を承認しない場合には、会社自身がその株式を買い取るか、その株式の買受人を誰か指定しなければならないことになっています。
ですので、「譲渡に同意しないならば買い取れ」というのは別に酷な話というわけでもなく、実は、日本とあまり変わりありません。
ただ、出資している合弁会社が買い取るのか、株主自身が買い取るのかでは、株主自身がキャッシュを出さなければならないかが違いますので、株主自身が買取を求められるという点では、少しだけ酷ではあります。
「会社に買い取らせる」という選択肢はあり得ますが、中国の一般の有限公司は自社株買いを基本的に認めませんので(少数株主による持分買取請求権行使の場面のみ明文規定があります)、できるのはできるのですが少し難度は高くなります。

ですので、この点については、できる限り、定款に何らかの約定を置くことで対策を講じておかれることをお勧めします。
この定款に定める内容としては、共同売却(Tag-along)の約定を置くこともできます。また、優先買取権は特に約定せずとも法律上ありますので、その優先買取権の行使のための前提条件の部分で、買受意向者に関する情報を開示させ、買受意向者との間で協議を行って同意するかどうかを決定する、そのようなプロセスを定款で定めておくことも一案でしょう。
さまざまな方法が考えられるかとは思いますが、どの方法であれ定款での定めが必要になる場合が多いと思われますので、定款変更の際には是非忘れずに検討ください。


【2/15追記】
 私自身、セミナーでお話をしているうちに改めて強く意識したのですが、「30日」という非常に短い期間のうちに、合弁パートナーが入れ替わるという重要事項について判断するのは極めて難しいと思われます。
 せめて、この「30日」を3ヶ月や6ヶ月といった現実的に判断が可能な期間に改めておくことは、定款で考慮すべき一つの重要な記載事項になるのではないでしょうか。

2024年1月26日金曜日

中国《会社法》改正: 競業行為や利益相反取引と刑事処罰(《刑法》改正)

中国《会社法》が改正されましたので、この機会に改めて、いくつかの話題について、備忘を兼ねて書き留めておきたいと思います。


今回の中国《会社法》改正と合わせて、同時期に、中国《刑法》も改正されています。
経営陣や幹部従業員による競業行為や利益相反取引については、今回の《会社法》改正によって規定がより具体的になり、規制される範囲も広がっているのですが、それに加えて、さらに、《刑法》でも競業行為や利益相反取引についての処罰規定が改正されて、競業行為や利益相反取引について刑事処罰の対象になることがより明確になりました。

競業行為(改正《刑法》第165条):
① 企業の董事、監事又は高級管理者であること。
② 職務上の便宜を利用し、その任職する会社又は企業と同類の営業を自ら経営し、又は他人のため経営すること。
③ ②によって不法な利益を取得し、金額が巨額であること。
④ ②の行為が、法律又は行政法規の規定に違反していること。
⑤ 会社又は企業の利益に重大な損害を受けさせたこと。
→ ④について、《会社法》など関連する法令の条文を参照することになります。
 ですので、《会社法》の改正内容とともに見ていただく必要があるものと考えています。

利益相反取引(改正《刑法》第166条):
① 企業の董事、監事又は高級管理者であること。
② 職務上の便宜を利用し、次のいずれかの行為をすること。
 1) 会社の業務を自己又は親族・知人に引き渡す。
 2) 市場価格から明らかに乖離する価格で自己又は親族・知人の会社と取引する。
 3) 自己又は親族・知人の会社から不合格品を購入すること。
③ ②の行為が、法律又は行政法規の規定に違反していること。
④ 会社又は企業の利益に重大な損害を受けさせたこと。
→ ③について、同じく、《会社法》などの条文を参照することになります。


日本の「刑法」でも、横領や背任については具体的場面が列挙されているわけではなく、具体的には裁判例などを参照しているのですが、それに比べると、中国の方が法律でこのように列挙してくれているので分かりやすい部分があるようにも思います。

2024年1月24日水曜日

中国《会社法》改正: 株主会決議事項を、董事会決議事項に変更できるか?

中国《会社法》が改正されましたので、この機会に改めて、いくつかの話題について、備忘を兼ねて書き留めておきたいと思います。


株主会決議事項と董事会決議事項については、以前にも少しご説明しましたが
 (2023年8月23日《外商投資法》施行による《会社法》準拠対応: 株主会と董事会)
「株主会と董事会をそれぞれ招集・開催するのが面倒なので、どちらかに一本化したい」
そのような御要望はよく聞きます。

このとき、なんでも全て株主会で決議したらどうか?という点については以前に書いたとおりですが、
では逆に、全て董事会に委ねることにして、
定款に「株主会決議事項を全て董事会に授権する」と書くことは認められるでしょうか。

この点、改正《会社法》は第59条第2項として、「社債の発行」について董事会に授権してよい旨の条文を新たに追加しました。
逆に言うと、この第59条第2項に列挙された事由のうち、社債発行以外については、董事会に授権することを許す規定がありません。
このことからすると、社債発行以外の事項は、株主会は董事会に委ねてはいけないという趣旨であると解されます。

ですので、やはり、面倒ではありますが、株主会は株主会、董事会は董事会、それぞれ招集・開催する方がよさそうです。

なお、今回の改正《会社法》では、いずれの会議についても、特に定款に定めがなくても電子通信方式でよいことも明文化されました(改正法第24条)。
ですので、2つの会議を開催するとしても、比較的手軽に開催いただけるものと思います。
ご参考までにて。


2024年1月17日水曜日

《外商投資法》施行による《会社法》準拠対応: 董事会への代理出席

日本では、取締役会に取締役が出席できないとき、他の者に代理で出席してもらうことはできません。一般的にそのように理解されています。
一方で、中国の董事会については、従来の中外合弁企業の場合には、明文で、代理出席が認められていました。
つまり、《外商投資法》施行後5年の過渡期における《会社法》対応が未了で、いまだに株主会がなく董事会だけがある会社の場合にあっては、代理出席が法律上明文で可能です。
これは、従来の中外合弁企業は所有と経営の分離が未分化の状態にあって、株主に対する董事の義務履行という意識が希薄だったことが背景と思われます。

これに対して、《会社法》の適用される会社では、困ったことに、董事会での代理出席を認める明文規定がありません。
つまり、《外商投資法》に対応する定款変更済みで、株主総会が設置された中外合弁会社の場合には、董事会における代理出席ができるかどうか明文規定がなくなってしまうという困った事態になっています。

ただ、株式有限公司の場合の条文としては、原則として董事本人の出席が必要としつつも、「事情により出席することができない場合には、書面により【他の董事に】委託して代理出席させることができる」とする規定があります。
このことから、株式有限公司ではない一般の有限公司の場合であっても、董事会の議事規則(現行《会社法》第48条第1項)として【定款により】代理出席を認めることは問題なく、一般の中外合弁会社については従来から上記のように代理出席が認められていた背景もありますので、定款自治の範囲において、【定款に定めがあれば】代理出席を可とするものと理解されているようです。

ということで、この部分では、定款に定めがあるかどうかが実務上、意外に重要になります。

中外合弁会社の過去の定款を踏襲すれば、通常、代理出席の条文も入っているはずなのですが、部分的に《会社法》に基づく定款の書式を参照するなど、うっかり定款に記載するのを忘れてしまうと困ったことになります。
改正《会社法》においては、新たに、董事会会議の開催には董事の過半数の出席を要する旨の規定が追加されましたので(改正《会社法》第73条第2項)、代理出席ができないと会議が開催できないという不都合も起きかねません。
定款変更を検討される際には、ぜひご留意ください。


2023年12月22日金曜日

租税法律主義

日本では、税金の賦課・徴収の根拠は全て国会が制定する法律によって定めることが求められています。これを「租税法律主義」と言います。これは憲法にも明文で定められている原則です。
日本「憲法」
第八十四条〔課税の要件〕 あらたに租税を課し、又は現行の租税を変更するには、法律又は法律の定める条件によることを必要とする。

中国でも同じく、税金の賦課・徴収の根拠は法律によって定めることを求める条文はあるのですが、憲法ではなく、《立法法》という別の法律で規定されています。
中国《立法法》
第11条  次に掲げる事項については、法律のみを制定することができる。
(六)税目の設定、税率の確定及び租税徴収管理等の租税基本制度

ただ、中国の税収の大きな割合を占める増値税については、《増値税法》という法律が未だ成立しておらず、国務院が定めた行政法規に過ぎない《増値税暫定施行条例》によって課税されているという現状でもあります。
年内とは限らないものの比較的短期の間に成立が見込まれていたので(5月の記事)、そろそろかもしれないのですが、税収に影響があるので景気を見ながらなのかもしれません。

2023年12月15日金曜日

債権者による破産申立てのハードル



中国企業相手のビジネスに関する業務に携わっておりますと、売掛金のある取引先が事実上倒産状態にあるのに一向に破産などの法的手続に入ってくれない、差押など法的措置によって債権回収をしようにも既に多数の差押があって回収の見込みがない、という場面がよくあります。
こういう場面で、日本でもバブル崩壊後によく見られたのですが、財産散逸防止や損金処理などのために債権者破産の申立てによって回収を図ることがあります。

日本の場合、破産申立ての際には、その後の管財人による活動など破産費用に充てるために、申立人があらかじめ予納金を納付する必要があります(日本「破産法」第22条第1項)。この予納金、会社の規模などによりますが、裁判所に納付する予納金が100万円以上必要になる場合も多く、債権者とすれば自身の貸付金や売掛金が回収できていないのに、さらに破産会社のために比較的大きなおカネを立て替える形になりますので、これはなかなかハードルが高いです。

一方、中国の場合、債権者側が破産の申立てをするときは、費用をあらかじめ納付する必要がありません。(中国《訴訟費用納付弁法》第20条第2項但書、《「企業破産法」の適用に係る若干の問題に関する最高人民法院の規定(1)》第8条参照。)
実際には管財人の活動や資産評価のための会計事務所・評価事務所への委託など、さまざまな費用が発生してくるのですが、これらは破産会社の財産(破産財団)から拠出されることになっています。
ですので、中国では日本に比べて、債権者破産の申立てのためのハードルは低いと申し上げてよさそうに思います。

2023年12月6日水曜日

弁護士レター(中国語「律师函」)についての再考


弁護士からの「通知書」や「催告書」、「警告書」など、いわゆる弁護士レターが届いた場合、日本と中国ではその取扱いには実務上かなり差があるものと長年にわたって感じてきました。
しかし、最近では、日常業務においてさまざまな案件に接するうち、急速にそのイメージが変わってきているように感じることが多くなってきました。

例として、以下のような2つの事例を挙げます。
(1)当社の競合他社であるA社が、当社の顧客に対して、当社の特許を侵害している製品を販売しようとしている旨の情報を得た。そこで、当社は弁護士に依頼して、A社に対して、侵害を行わないよう警告するレターを送付した。
(2)当社はB社との間で、継続的に製品を供給してきた。数ヶ月前から、B社からの支払が滞るようになってきており、営業担当者が支払を催促しても猶予を求めるばかりで支払おうとしない。

(1)(2)いずれも、日本の場合であれば、弁護士から内容証明郵便で弁護士レターを送付すると、通常、少なくとも黙殺はされず、反論や解決の申出など何らかのフィードバックが得られます。そうして、弁護士を介しての協議が行われ、訴訟に至らず解決できるケースも比較的多いでしょう。これは、今も昔もそう変わらないように思います。日本では弁護士代理が強制されているので(過去の記事はこちら)、訴訟になると被告側も弁護士に応訴対応を依頼せざるを得なくなりますから、その負担を回避するための訴訟前の協議解決が促されるという面が一つあろうかと思います。
一方、中国はといえば、弁護士レターを送っても黙殺されるケースが日本に比べて明らかに多いというのが実感でした。むしろ提訴前にレターを送ることによって相手方に提訴対応のための余裕を与えてしまうなどデメリットもあるので、証拠さえ揃っていれば(つまり訴訟前の協議を通じて証拠を補充していく必要が特になければ)直接に提訴・民事保全をしてしまう、「奇襲攻撃で短期解決を目指す」戦略による方が時間と費用が節約できることが多いというイメージでした。
しかしながら、ここ数年、特に今年に入ってからは、弁護士レターを送付することで相手方が速やかに対応してくれるケースが明らかに目立つようになってきました。上記のA社の事例であれば特許の許諾を求めてくる、B社の事例であればごく近い時期での支払や分割払いの具体的提案をしてくる、そのような迅速な解決につながる回答が得られるようになってきています。

その原因や背景について個人的に思うところは、次のようなものです。
A社のような知的財産権をめぐる事例については、現在では特許法のみならず、商標法、著作権法、さらには不正競争防止法でも懲罰的賠償を認める制度が設けられており、実際に懲罰的賠償を認める事例も見られるようになってきていることがあると思います。弁護士レターの受領によって故意侵害としてこのような懲罰的賠償を求められることになってしまう危険が意識されることで、侵害を自主的に思いとどまってもらうことができるというわけです。これは、当社から見れば(不当な)競合他社を排除して売上が確保できることにつながるので、費用対効果が見えやすく、良い弁護士レターの活用方法であるように思います。
B社のような支払を遅らせる取引先の場合については、いわゆるブラックリストなど信用にかかわる制度の充実が2015年頃から進められてきましたが、この1~2年は、ある裁判所でB社が提訴されたという情報が公表されると、多くの会社から提訴が「殺到」して、数ヶ月のうちに通常の事業継続が困難な程度の信用不安に至ってしまうという現象が見られるようになってきました。これは、訴訟に関する情報の公開が非常に進んだこと、最高人民法院や各地の裁判所の運営するWebサイトでの掲載のみならず、アプリで取引先情報を登録しておけば自動的に危険な情報を察知して配信してもらえるサービスもあるなど、関係するサービスの利用が普及した結果という一面もあろうかと思われます。つまり、「提訴された」という情報そのものが伝播することを避けるために、提訴される前の協議による解決を希望するケースが増えてきており、結果として、弁護士レターがトラブル解決に役立つ割合が増えてきたという理解をしています。

弁護士レターについて、私自身も自らの認識をアップデートして、改めて活用のしかたを考えてみたいと思っているところです。

2023年11月30日木曜日

個人の破産制度が無いことで


拙著など含めさまざまな場面でご紹介していることですが、中国には今でも、個人の破産制度がありません。

企業については《企業破産法》があり、この《企業破産法》に基づいて破産清算のほか、和議、重整(日本の会社更生と民事再生に対応)といった再生型の手続も用意されています。企業については、取引先や従業員など多数の利害関係者がいて、地元の税収や雇用にも影響がありますので、債務超過・倒産状態になった企業の破綻処理を行うことは企業自身以外の利益にも適うところがあります。
一方、個人については、中国では個人が自由に事業を行うことはできず、個人事業者(个体工商户)としての登録を受けないと事業ができませんから、企業のように破綻処理の制度を用意する必要性は低そうですし、いわゆるモラルハザードの懸念もあるでしょう。
そのように制度の必要性の面でかなり差があるのかもしれないと推測しています。

実際、深センでは試験的に個人の債務整理の制度が実施されていますが、2021年3月の開始から2023年8月までの2年半ほどの間で中級人民法院での受理件数は2000件余り、そのうち受理されたものは632件という状況であり、深センの人口や経済規模から考えるとそれほど多くはない数字にとどまっている印象です。
(2023年10月11日深セン市人民政府Webサイト掲載記事参照。

このように個人の破産制度が用意されていない結果として、個人はいくら負債があっても整理ができないので、ご家族や友人に代わりに借入や契約をしてもらうことをお考えになるようです。個人的には、これが比較的気楽に他人の名義を借りる現象が多く見られるなど、とても複雑な状況を生み出している一因になっているようにも感じます。

2023年11月21日火曜日

取締役(董事)の選任方法


合弁会社において、それぞれの出資者・株主が何名の取締役(董事)を派遣できるのかは、合弁会社の経営の在り方を左右するポイントになる事項です。
ところが、この点について、日本と中国では、一部、気づかないうちに逆転が生じそうな部分があります。

日本では、取締役は株主総会の決議により選任されますが、取締役が2人以上いる場合、累積投票、すなわち株主の議決権の比率に応じて取締役が選任される仕組みが原則になっています(日本「会社法」第342条)。条文に「定款に別段の定めがあるときを除き」とあるとおり、これを排除するには定款の定めが必要です。つまり、日本では、例えば出資比率がA社60%:B社40%であり取締役が5名いる場合、通常、A社が3名、B社が2名を取締役として選ぶことができます。

これに対して、中国では、董事は株主会の決議によって選任されることになっており、通常の有限公司の場合、その投票のしかたについては特に定めがありません(中国《会社法》第37条第1項第2号、第43条)。株式有限公司の場合は累積投票制もありますが(中国《会社法》第105条)、なぜか有限公司の場合はこれに対応する規定がありません。
2020年1月1日に《外商投資法》施行に伴って《中外合資経営企業法》が廃止されるまでは、各株主が出資比率に応じて董事を任命派遣(指名)することになっていたので、特に何も意識して定款に規定を置かなくても、結果として日本と同じように、出資比率が董事会メンバーの構成に反映されるようになっていました。
しかし、現在は董事の選任方法について、《会社法》が適用される結果、特に定款で異なる規定を置いていない限りは単純に出資比率で決議されてしまう(上記の例ですと5名全てがA社の意向に沿ったメンバーになる)、そういった事態もあり得る状況になっていますので、特に定款の定めが重要になっています。

逆に、日中双方ともにですが、もし出資比率どおりではなく、より大株主の意向が反映されるようにしたければ、これも定款での規定が必要になります。興味深いことに、インターネットなどで公表されている定款の書式のうちには、日本における「別段の定め」(累積投票としない旨の規定)がデフォルトで入っているものがあります。経営上の意思統一のしやすさに重きを置いているのでしょうか。
この場面に限らずですが、書式を選ぶときにも、場面に適したものを選んでいただければと思います。


2023年11月17日金曜日

連載第4回まで来ました。

東海日中貿易センター様の会報誌で隔月で掲載いただいている連載「中国現法“攻め”と“守り”の組織作り」ですが、第4回まで来ました。

第1回: “攻め”と“守り”両面を見据えた体質改善
第2回: “攻め”(内販強化、新規事業)で直面する課題とその対処法
第3回: “守り”(事業売却・縮小、リストラ、外注化など)で直面する課題とその対処法 
第4回、第5回: 組織作りのポイント~組織・人員(本号、次号で掲載)
第6回: 組織作りのポイント~資産、取引、その他

原稿を書き始めた頃からたった半年あまりで、スパイ容疑での邦人の身柄拘束問題や、不動産業界をはじめとする経済状況の変化、輸出入の制限に関する問題など、随分と景色が変わってしまったなような印象もあります。
書いても書いても足りないようなところもありますが、どのような局面にあっても機敏に対応できるように、何かの参考にしていただけるようでしたら幸いです。




2023年11月8日水曜日

一般保証(単純保証)と連帯保証


中国では、以前は特に明示がなければ連帯保証と見なされることになっていましたが、2021年の《民法典》の施行後は、連帯保証ではない一般保証と見なされることになりました(《民法典》第686条第2項)。それまでは逆に、どちらなのか不明確な場合は連帯保証とされていました(廃止された《担保法》第19条)。
日本では民法にはそのような条文はありませんが、ビジネスの場面では「商法」第511条第2項の規定によって連帯保証になる場合が多いでしょうし、通常は契約書面上でも連帯保証であることが明記されていることが多いと思われます。

日本では個人根保証契約や事業に係る債務についての保証契約の特則など、保証をめぐるルールが近時改正されましたが、中国では元々、日本のように経営者や代表者が金融機関からの借入にあたって会社の保証人になる習慣がなかったためか、そのような特別のルールは特に無いようです。
それでも会社の債務について返済できない場合は経営者や代表者が会社とともに被告や被執行人になっている例をよく見かけますので、「保証していないから責任がない」というものでもないのですが、日本と中国、それぞれの習慣に応じたルールがありますので、ご留意ください。

2023年10月27日金曜日

賃貸借契約の期間



賃借物件を工場・倉庫として使っているとき、契約期間を30年と定めて借りていたのに、ある日、「法律上は20年が上限です」と言われて立ち退きを求められ、賃料の値上げなどを要求されるケースがあります。

賃貸借の期間については、日本でも中国でも法律上の制限があります。
日本では、民法上は50年が上限となっています(日本「民法」第604条)。以前は20年でしたが、民法が改正されて50年になりました。日本では不動産の賃貸借については借地借家法が適用される場合が多く、土地の賃貸借については下限が30年になっているので(日本「借地借家法」第3条)、民法上の上限よりも借地借家法の下限の方が長くなるという少し不思議な状況でしたが、それは解消されています。
一方、中国では、賃貸借期間の上限は、以前の日本と同じく20年となっています。そして、20年を超える部分は無効とされています。(中国《民法典》第705条)
更新することはできますので、当事者間で改めて契約すればよいだけなのですが、冒頭に述べた事例のとおり、条件が悪化することもあります。

中国では土地は国家・集団所有であり、企業や個人は土地使用権が付与されるに過ぎません(中国《憲法》第10条)。そして、この土地使用権には期限が付されているので、土地使用権と賃借権を混同してしまって勘違いされている例もあります。気をつけてみていただければと思います。




2023年10月20日金曜日

会社の印鑑の差押


会社の公印(中国語「公章」)は、会社名義での各種手続をするのにも、契約を締結するのにも使います。果たして、これが差し押さえられてしまうことがあるでしょうか。

日本の「民事執行法」では、「実印その他の印で職業又は生活に欠くことができないもの」は差押禁止動産の一つです(第131条第7号)。

中国でも、差押禁止動産は日本と概ね似たような物品が列挙されているのですが、印鑑はその中に含まれていません(《人民法院の民事執行における財産の封印、差押え及び凍結に関する最高人民法院の規定(2020年)》第3条各号参照)。
ですので、会社の公印が差し押さえられることもあり、実際に一部の裁判所では、公印の差押をして労働者への未払賃金の支払を実現した成功事例を公表しているところもあります。
公印を差し押えても競売を通じて売るわけにもいかないでしょうし、いったいどう処理するのか不思議ですが、裁判所も、法律に反しない範囲でいろんな方法を工夫しているようです。