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2021年5月21日金曜日

5月第3週:①香港企業の破産手続への大陸内での認可と協力、②ビジネス環境の評価、③労災認定と48時間

今週のキーワード:
クロスボーダーの破産協力、緊急対応管理情報化建設、違法な費用収受


①香港企業の破産手続への大陸内での認可と協力

香港の破産手続に基づいて香港企業の破産手続を行うにあたり、その企業の主たる資産が中国大陸内にある場合には、中国大陸内でもその香港での破産手続の効力を認めて、その手続に協力しましょう、という最高人民法院の意見が出ました。
これだけですと、意味がよく分からないと思いますので、背景について少しご説明しておきます。
まず、前提として、中国大陸内と香港は、一国二制度ですので、香港での破産手続の効力は当然には中国国内には及びません。しかし、歴史的経緯から、ある類型の香港企業の場合、その資産の多くが中国大陸内にある場合が存在しており、これらの資産に香港での破産手続の効力が及ばないとすると、破産手続を行うのに不便です。
ご存じのとおり、香港は歴史的に長らく中国への投資の窓口でした。1978年の改革開放の前後の時期は、いわゆる冷戦構造化でのチャイナリスクをヘッジするために、中国大陸内に直接投資するのではなく、香港に投資するスキームがとられました。中国大陸内に多額の投資をすることを避け、香港企業を設立して、その香港企業が保有する設備を中国国内に持ち込んで、香港企業が中国国内の郷鎮企業の分工場という名義を借りて実質的にその経営をコントロールすることで中国大陸内の安い労働力を活用していました。これが昔よく見られた「来料加工廠」スキームだそうです。(私が小学校に入るか入らないかの時代のことですから、当然ながら、聞いたり読んだりした伝聞情報です。念のため。)
2010年頃からこのような「来料加工廠」を中国現地法人に切り替えていく政策が推し進められてきたため、現在では来料加工を行っている工場も中国の現地法人として法人化されている例が多いと思いますが、このような歴史的な経緯もあって、現在でも中国大陸内に存在する資産が香港企業の名義になっていることはよくあります。それらについて、香港の破産管財人の「名代」になってくれる大陸内の管財人代理を中国大陸内の人民法院が指定してくれることで、香港企業が中国大陸内に預けていた資産を回収・換価して、債権者に正しく分配することができる、ということを意図したものと思われます。今回の試行内容としては、香港企業の「主たる資産」が試行地区として指定された3都市のいずれかに所在していることが条件となっています。
もちろん、他にも資金移動の便利さやキャピタルゲインについての税務上のメリットなど諸々の理由から、中国国内に事業の拠点を置きつつも香港にも別会社を設立している例も多くあります。ですので、意外に適用される場面は広いのかもしれません。
なお、余談ですが、メーカーで言うと例えば金型や治工具、検査機器など、日本の会社の資産として計上されていていても、実際には中国大陸内にあって中国企業が占有・使用している場合もよくあります。ですので、日本企業が中国大陸内に預けてある設備や部材については、相変わらず、日本の破産管財人の先生が頑張って外国企業として中国国内で訴訟を起こして回収しなければならない(それが費用倒れになる場合は放棄せざるを得ない)ということになりますが、香港現地法人経由で預けている場合は、中国大陸内に預けられている資産も円滑に回収できる場合が出てくるかもしれません。

②ビジネス環境の評価

それと、ビジネス環境評価についての新聞記事をご紹介しています。
中国では、2019年に《ビジネス環境最適化条例》を制定して、2020年1月1日から規制緩和や企業のコスト負担軽減、社会信用体系の確立などを推し進めています。世界銀行の発表している各国のビジネス環境ランキングでも中国はここ数年、順調に順位を上げてきており(その評価が妥当かどうかはともかくとして。)、中国国内でも、わが省、わが市こそビジネスをするのに便利・有利な場所だということで、「権威」「公式」などの名称を冠したビジネス環境のランキングがあれこれ発表されています。ただ、正式なものは《中国ビジネス環境報告2020》という報告が唯一のもので、それ以外のランキングは各地方政府や企業・団体から「スポンサー費用」や「手数料」などの名目でお金を払えば良い評価がもらえる、という不正なものであるようです。
実は、《ビジネス環境最適化条例》では既にこのような問題が生じることを予想して、「何者もビジネス環境の評価を利用して利益の取得を謀ってはならない」という条文を制定当初からわざわざ置いていたのですが、それでも守られていないとのこと。
少し前も、社債発行に関する企業の格付について、お金さえ払えば高い格付けが得られる仕組みが問題視されているという記事をご紹介しましたが、構造としては共通するところがあります。
日本でも、随分以前から「No.1マーケティング」という広告手法が流行っていて、「顧客満足度No.1」企業がたくさん存在する不可思議な現象なども起こっていますが(そのカラクリはまた後日どこかでご紹介したいですが)、地方政府までターゲットにしてしまうというのは、さすが中国という印象ですね。

③労災認定と48時間

もう一つ、労災についての記事では、出張からの帰路の途上で突発的に病気が発症して、救急治療の甲斐なく数日後に亡くなってしまったという事例が労災に該当するかどうか?という問題が取り上げられていました。
中国の労災認定の仕組みの中では、昔から「業務中に倒れて亡くなった場合、亡くなったのが48時間以内であれば労災とみなす」というルールがあります。ですので、私も昔から中国の労災に関するセミナーなどでは(半分冗談で)、職場で誰かが倒れたら、とにかく急いで病院に運んで、なんとしても48時間は無くならないようにする方が良いというお話をしていました。一時期、中国でも過労死という言葉が流行ったことがあり、今では定着した感もありますが、この過労死の認定のうえでも、日本と違って残業時間実績から認定するような基準がないので、48時間が一つの重要な基準になります。
ただ、この48時間はあくまでも「みなす」かどうかの基準にしか過ぎないので、理論的には、48時間が過ぎれば労災でなくなるというわけではありません。ですので、この事例では、現地の人力資源社会保障局が労災認定をしなかったのに対して、検察が是正を求め、労働者保護という初心に立ち返って、改めて労災認定をしたというお話でした。
日本もそうですが、中国でも今後は高齢の方も増えてくるかもしれません。今回のような出張の移動中や通勤途中などの微妙なケースも、実務では比較的頻繁に遭遇する場面という印象もありますので、人命第一で対応するのは当然として、労災の処理についても正確に理解して対応いただければと思います。


長々書きましたが、以上はいつもどおり私の個人的理解ですので、より正確には各法律事務所や権威ある先生が発表される論文等をご覧いただければと思います。
新しい法令や事例から遡って背景知識を増やしていただくと、今、必要な知識から順に頭に入れていただくことができると思いますので、ご興味がある項目があれば、このメール配信時の独り言にもお目通しいただければ幸いです。


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