中国に関係するビザ申請の関係書類や、中国で会社登記機関(市場監督管理局)や裁判所(人民法院)などの公的機関に提出する書類を記入したり署名したりするときに、「ボールペンで記入しないでください」「万年筆で記入してください」と言われたことはないでしょうか。
私は仕事柄、よくこのように中国側から言われ、依頼者の方々にも同じようにお願いする機会があるのですが、いつも不思議に思っていました。
そこで、今回改めて同僚にお願いして調べてもらいましたところ、なかなか面白いことが分かりましたので、ご紹介します。
この「ボールペン不可」のルールが生まれたルーツをたどっていくと、なんと1964年の下記通達まで遡るそうです。
国务院秘书厅、国家档案局《关于请勿使用圆珠笔、铅笔拟写文件的通知》(1964年1月24日)
この通達によると、政府機関に保管されているファイルを検査した際に重要な文書の文字が薄れて見えづらくなっていることが発見され、これは印刷・用紙・保管の面での原因のほかに、多くがボールペン(圆珠笔)や質の悪いインク(特に赤インク)で記入されたものであったとのこと。
そこで、今後はファイルの長期保存に適するように、重要な文書については「一律に」毛筆(毛笔)か万年筆(钢笔)、それも質の良いインクを使うようにして、ボールペンや鉛筆は使わないように!と求めていました。
しかしながら、万年筆は高価であり、ボールペンは安価であったため、相変わらずボールペンを使う人が多く、なかなかこの通達のルールを守るのは難しかったようです。ですので、その後も近年まで、各地でときどき同じような通達が出ていました。
(※ キャスト中国ビジネスでも、Q&A「議事録や登記などへ署名時のペンについて」でご紹介しています。)
このような歴史から分かるのは、「ボールペン不可」と言われているのは50年以上前の古いタイプのボールペンのことだ、ということです。
そして、ボールペンが不可とされている理由は、筆跡・文字の耐久性(長期間経つと色褪せたり薄くなってしまう)の問題であるということです。
また、この当時のボールペンは油性ボールペンのみでしたので、使ってはいけないとされているのは油性ボールペン(油笔)である、ということも分かります。
実際、その後に登場した水性ボールペン(水笔)やゲルインクボールペン(中性笔)については、政府機関でも裁判所でも使ってよいことになっています。
(ちなみに、油性ボールペンの中でも品質のよいものは使って良いこととなっているようなのですが、素人が判別することは難しいので、油性ボールペンは不可という扱いになっているそうです。)
日本語にするとき、水性ボールペンとかゲルインクボールペンなど細かく分けずに、単に「ボールペン」となってしまうことも多そうのですが、それは実は「油性ボールペン」の意味だと意訳・変換していただければと思います。
なお、青色とか紺色の「色付きのボールペン」で署名することも避けた方が良いでしょう。
最初にご紹介した1964年の通達でも既に赤色インクがダメな例として挙げられています。
実際に私も、依頼者が青色ボールペンで署名された書類を中国の会社登記機関に提出したところ、「黒色でなければならない」ということで受け付けてもらえなかったこともありました。
このような歴史的な経緯・背景からすると、サインペンの場合でも、油性のサインペンは避けた方がよいものと思われます。
以上です。
完全な無駄知識のような感じもしますが、何がよくて何がダメなのか、歴史を振り返ることで理由を含めて線引きが理解でき、私なりにはスッキリ腑に落ちたような気持ちになりました。
少なくともわざわざ万年筆を買っていただく必要はないことが分かりました。
同じような疑問・モヤモヤを感じられている方々のご参考になりましたら幸いです。
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