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中国で提出する書類の記入・署名: なぜ「ボールペン不可」「万年筆で記入」なのか?

中国に関係するビザ申請の関係書類や、中国で会社登記機関(市場監督管理局)や裁判所(人民法院)などの公的機関に提出する書類を記入したり署名したりするときに、「ボールペンで記入しないでください」「万年筆で記入してください」と言われたことはないでしょうか。

2022年2月2日水曜日

1月第4週:①「お歳暮」の会社への報告・届出制度、②歴史関連の地名と悪意の商標出願、③金融機関による顧客へのデューディリジェンス調査

①「お歳暮」の会社への報告・届出制度

某大手電気自動車メーカーでの社内不正取締活動が大きく報じられています。取引先側に対しても、「廉潔協議書」などに基づいて違約金などの制裁を課す制度が運用されているとのことです。
取引先との取引開始にあたり、守秘契約や取引基本契約と同時に、「廉潔協議書」などのタイトルで贈答や接待を禁じる旨の合意書に署名・提出を求められることも増えてきました。私たちのような外部専門家であっても提出を求められていますので、どのような取引であってもこの種の合意書を提出する慣行が少しづつ普及・定着しているように思われます。
春節前は、ちょうど日本でいう「お歳暮」の季節ですし、同郷の仲間と集って商売の話をする時期でもありますから、こういった節目の時期には思い出してみていただければと思います。

②歴史関連の地名と悪意の商標出願

「長津湖」という朝鮮戦争の激戦地を題名にした映画があるそうです。その映画が公開されるのに合わせて同名の商標を出願した会社があり、悪意での商標出願だと言うことで罰金及び違法所得没収の処罰を受けたという記事がありました。
出願されていないのに違法所得?と思われるかもしれませんが、この件で処罰を受けたのは出願人となった会社だけでなく、その出願を代理した代理会社も処罰を受けているので、この代理会社が受け取った出願業務の委託料であろうと思われます。
悪意の出願であると認定された理由の部分が、「明らかに正常な経営活動の必要を超えているから」と書かれているだけですので詳細は不明ですが、今後は商標の出願を委託するときには代理会社から「正常な経営に使うのですか?」と聞かれるかもしれません。

③金融機関による顧客へのデューディリジェンス調査

国際的なマネーロンダリング(洗銭)やテロ組織の資金源への取締の一環として、中国でも金融業界で顧客に対するデューディリジェンス調査の具体的要求事項の更新があります。金融リース会社や自動車ローン、消費者金融の会社も対象となっています。
疑わしい取引については顧客の身分につき独立のデータ・資料から顧客の身分を確認すべきこととなっていますが、リスクの状況に応じてデューディリジェンス調査の措置を講じなければならず、30日の双方の支払・受取累計が5万元又は1万米ドルなど、調査を行うべき一定のトリガーが定められているとともに、背後の実質的所有者についても調査することなどが規定されています。
また、第三者に委託して調査を行う場合につき、海外の第三者に委託する場合には、高リスク国家又は地域の第三者を通じて調査を行ってはならないことなども言及されています。
日常の取引にまで影響する場面は少ないかもしれませんが、金融機関からの株主の状況等に関する照会に対する対応などについては時折話題に上ることもありますので、ご参考までに。



なお、来週は春節休暇のため休載いたします。


2022年1月25日火曜日

1月第3週:①通販サイトでの低評価と誹謗中傷、②「新型オフショア国際貿易」、③商標登録の快速審査

①通販サイトでの低評価と誹謗中傷

通販サイトでのユーザー・購入者による評価について、興味深い事例が新聞で紹介されていたので、今回はこれを題材として取り上げています。
とある学習課程を購入した学生さんが、通販サイトで低評価をつけ、さらに別のブログで課程について「サービス態度が相当悪い」などの悪評を投稿したという事例です。これについて、事業者側は、「当社は高評価の割合が99.22%であり、低評価は滅多にない」などとして、低評価が誹謗中傷であるとして、その学生さんを訴えました。
裁判所はこの訴えを認め、約3200元の賠償と謝罪を命じました。(ちなみに、この課程の購入代金は300元であったようで、学生さんにとっては高い授業料になってしまったようです。)
日本では憲法で保障された表現の自由が極めて重要な権利とみなされていますが、中国では「消費者が事業者を監視・監督する活動」として捉えています。個人が好きなことを自由に発言して良いということではなく、あくまでも社会にとって有益かどうかという観点で判断されるという違いが存在しているようで、この事例もその一例かと思います。
事業を行う企業の観点では、日本では批判も甘んじて受けなければならない部分があるとしても、日本よりは中国の方が誹謗中傷に対しては厳しい態度を取っているので、たとえユーザーや購入者に対してであっても、事実と異なる誹謗中傷には毅然と対応する必要性が高いということを考えてみていただければと思います。

②「新型オフショア国際貿易」

国家外為管理局から、「新型オフショア国際貿易」の発展を支援することに関する新たな規定が出ています。
「新型オフショア国際貿易」とは、貨物が「一線」(外国と保税区の境界)を入らず、税関統計の対象にも組み入れられない、居住者と非居住者との間の売買や加工委託などの取引を指します。中国の外貨管理は基本的に資金決済と貨物通関記録が釣り合うことを求めているところ、オフショア貿易の場合は中国に出入りする貨物の通関記録がないので、以前は保税区でしか取扱いができず、その後も全国的には外為局による管理が厳しく銀行決済も難しい状況にありました。《多国籍会社クロスボーダー資金集中運用管理規定》のもとで、一部の企業は銀行を通じてこのようなオフショア貿易を含む決済が可能となっていました。もっとも、実際には、銀行の審査負担が重いことから、あまり活用されていないのではないかと思われます。今回も、銀行側で関係取引書類や顧客についてデューディリジェンスや事後モニタリング管理などの資料を5年間保存して調査に備えることが求められているので、まだまだ取扱いが厳しそうな印象ではあります。
ただ、外商投資を奨励する産業目録(2020年版)において、中西部地区外商投資優勢産業目録のうち海南省の部分で「23.新型オフショア国際貿易(オフショア転売取引及びオフショア取引に関係する商品サービス)」が挙げられていました。また、2019年の《広東・香港・マカオ大湾区発展規画綱要》でも、国際市場の開拓の項目で、香港と佛山でオフショア貿易合作を展開すること、深圳前海の深圳・香港現代サービス業合作区の機能としてもオフショア貿易の機能を発展させることが掲げられていました。さらに遡れば上海の自由貿易試験区でも以前からオフショア貿易は奨励されています。政策的にオフショア貿易が奨励されている一部地域では、銀行においても事例を蓄積して手続しやすくなっているかもしれませんので、もしオフショア貿易を検討される場合は地域を選ぶことを意識してみていただくと良いのではないかと思います。

③商標登録の快速審査

中国での商標の出願から登録に至るまでには比較的長期間が必要であり、新規登録の場合には通常、1年前後の時間がかかります。譲渡やライセンスの場合でも半年以上の時間がかかりますので、ビジネスの展開にとっては手続の負担が重くなっています。中国でも近年この審査期間を短くする方針が何度か出されていましたが、今回は、「快速審査」ということで、なんと20業務日以内に審査を終えるという新しい制度を作るようです。その前に快速審査を利用できるかどうかの審査がありますので、実際にはもう少し時間がかかるでしょうが、通常に比べると非常に短い審査期間です。
とはいえ、この制度を利用できるのは、国家の重大プロジェクトや重大災害などに関するもので、また、文字商標に限るなどの条件もあり、国家関連部門や省レベルの人民政府の発行した快速審査の推薦意見なども必要になるようですから、一般の企業が使える機会はあまり無さそうです。


2022年1月18日火曜日

1月第2週:①環境汚染の懲罰的賠償に関する司法解釈、②不動産登記と納税手続の一体化、③PCR検査をめぐる不備

①環境汚染の懲罰的賠償に関する司法解釈

中国では環境関連の規制を引き続き強化していますが、環境汚染行為については従来のような政府機関による立入検査による行政処罰のほかに、市民からの通報による取締も活発に行われるようになっています。
民事上の賠償を通じた抑止を図る発想も導入されており、今回、懲罰的賠償の適用に関して規定した司法解釈が出されたことで、今後さらに適用事例が増えてくる可能性も考えられます。
日系企業は環境対応におけるノウハウは豊富であり、恣意的な法執行が行われない公平・公正な競争環境が実現することは日系企業にとって概ね有利と考えられます。環境設備を購入だけして正常に運転していないような状況が改善され、環境関連設備などの市場での普及が進むことを期待しています。

②不動産登記と納税手続の一体化

不動産登記と納税手続の情報共有をさらに推進していく旨の通知が出ました。
不動産登記部門が税務局に不動産登記と納税手続に関する情報を共有し、税務局側では納税完了の情報を不動産登記部門にフィードバックするという仕組みが導入されていきます。さらに、この部門間の情報共有だけでなく、「省対省」の情報共有モデルを実現するということが書かれています。
大きな考え方として、中国では企業の活力を高めるために税金や社保負担、各種行政費用などの低減を進めてきていますが、税率や費用金額を下げる一方で、税の捕捉率(日本では所得税についてクロヨンとかトーゴーサンという言い方がありましたが、本来納税されるべき税がどれだけ実際に納税されているかの比率です。)を高めるためのシステム化、プラットフォーム化が進められています。
ただ、今この不動産関連融資の規制などが厳しくなってきているところに、さらに不動産取引関連の税の捕捉率を高めていくとなると、不動産市況にはさらに悪影響がありそうです。
私の普段の仕事との関係でも、今までですら、「不動産投資が見つかって税金を払うことになるのは嫌なので、不動産は登記をせずに置こう」というような考えで不動産登記をせず、不動産投資をめぐるトラブルになっている例が多いのに、ますます不動産登記がされなくなってトラブルが増えてしまうのではないか?ということも少し心配になってしまいます。
取引先に不動産投資が好きなオーナー社長がいらっしゃる場合には、少しご注意いただいた方が良いかもしれません。

③PCR検査をめぐる不備

PCR検査を受託する会社を傘下に持つ中国の某上場企業で、検査にまつわる不備が報道され、株価が大幅に下落するという事件が起きています。
現在のところ、子会社従業員が逮捕されたという以外にはまだ正式な発表はありませんが、サンプルを紛失したことを隠すために偽の検査結果を提出した、大量の検査を受注して提出期限に間に合わず陰性として結果を報告した、といったような行為があったのではないかと疑われているようです。
PCR検査をめぐっては日本でも一時期問題になった事例がありましたが、逮捕者まで出て強い取締を受けるのを見ると、やはり日本とは違った厳しさがあるようです。

2022年1月12日水曜日

1月第1週:①外資参入のネガティブリスト改正、②要素市場化配置改革、③動産と権利担保の統一登記弁法、④企業抹消手続の手引き改訂

新年あけましておめでとうございます。
毎年、年末は駆け込みで多数の法令が出てくる時期なのですが、今年はそれほどでもなく、平穏なスタートとなった印象です。
いつもどおり、毎週のワークショップ資料作成の過程で見ていた法令の中から、いくつかピックアップしてコメントいたします。


①外資参入のネガティブリスト改正

年末に外資参入許可ネガティブリストが改正されました。他にもさまざまなところで紹介されているので詳しくは省略しますが、自動車業界は外資規制の撤廃で再編が加速するかもしれません。
「中国内での投資禁止」分野が「中国国外での上場許可」と表裏一体のように紐づけられた部分があります。昔ながらのいわゆるVIEスキームによって海外に上場している会社はいわば既存不適格のような状態になってしまうものも出てくるのでは?という気がしますが、ニューヨーク上場を廃止して香港市場での上場に移るような例が促進されていくのでしょうか。

②要素市場化配置改革

「要素市場化配置」に関する新たな通知が出ています。
土地、労働力、資本、技術など、生産活動や経済活動に用いられるリソース(要素)の配置について、中国に存在する構造的な問題を市場メカニズムを通じて解消していこうということで、各要素を市場で取引しやすくする政策が推し進められています。
これらの従来からある要素に加えて、最近ではデータも重要な要素として市場化を進めることが志向されていることは各位もご存じのとおりです。「原始データは国外に出ない、データは利用可能だが不可視である」というキャッチフレーズは、目指されている取引モデルを分かりやすく示していると言えるでしょう。
その他、資源や環境も「要素」に含まれます。大きな政策方向性に関する文書であり、直ちに各企業の活動に影響するものではなさそうですが、技術やデータが取引所で取引される商品として流通していく時代に入ったということを示すものとして、新年にふさわしい話題でもあろうかと思います。

③動産と権利担保の統一登記弁法

昨年から、動産担保の登記は債権担保登記と同じく中国人民銀行のプラットフォーム上に統一して登記されることになっているのですが、これについて新しい登記弁法が発布されています。
以前も触れたことがありますが、これら登記については基本的に登記機関では真実性についてのチェックが行われていないばかりか、さらに、「共同申請ではなく担保権者側が」単独でオンライン登記申請ができるということになっている部分があり、間違いがあるときには担保設定者側が自ら異議登記を出さなければならないという、日本の方々から見ると少し違和感のある設計になっているところがあります。
ですから、実は与信管理や債権回収の面では非常に重要な規定ですので、詳しくはまた何かの機会にご紹介したいと思っています。

④企業抹消手続の手引き改訂

企業の閉鎖に伴う登記抹消については近年、規制緩和が進んでいますが、これに伴って抹消手続の手引きが改訂されました。2019年版からの改訂ということで、最後の図表も大きく変わっています。
簡易抹消手続や、プラットフォームでのワンストップ処理など、新たな仕組みが導入されていることが見て取れますし、それ以外の項目でも、解散清算活動の中で処理すべき項目などが細かく記載されています。
数年経つと状況が一変していますので、検討の際には改めて最新版を見ていただくことをお勧めします。


それでは、本年もどうぞよろしくお願いいたします。


2021年12月28日火曜日

12月第4週:①サプライヤー向けの文書から「炎上」、②ライブコマースの有名タレントの脱税、③コールドチェーン物流発展計画、④来週は休載

①サプライヤー向けの文書から「炎上」

今回はインテルがサプライヤー向けに発行したレターに「新疆地区の労働者、製品・サービスの不使用を確保する必要がある」との記述があったことが物議を醸して「炎上」し、謝罪と釈明に追い込まれた事例を取り上げました。
背景として、日本でも報道されているとおり、アメリカで新疆ウイグル自治区の製品の輸入を原則的に禁止する法律が成立し、半年後から禁輸措置が有効になるとのことです。
 (ジェトロ様Webサイトより)
今後、輸入製品が強制労働に依拠していないと証明する際に必要な証拠について定めるガイダンスが策定されていくとのことですが、半年後に米国に届いた時点で禁輸対象なのかどうかを判断しようとすると、そこから遡って必要な書類を揃える段取りも必要です。なるべく早期に具体的な企業対応が判明してもらえればと願うばかりです。
これまでも米中摩擦をめぐっては難しい話題が多かったですが、企業にとっては非常に敏感な話題です。冒頭の話題も、「この謝罪のしかたで鎮火できるのだろうか?」という気もしますので、今後の状況の推移を含めて見ることで参考にしたいところです。今後も類似の問題は容易に発生し得ることに留意しつつ、対応の参考となる情報を集めていきたいと思います。

②ライブコマースの有名タレントの脱税

ライブコマースの有名なインフルエンサーが、2年間で6億元以上の脱税をしていたということで、追徴課税と滞納金と罰金を合わせた金額が13億元以上(日本円では200億円以上)にのぼるとのこと。
数年前に大きな話題になった范氷氷氏のときは、同じく追徴課税や罰金などで合わせて8億元ほど(日本円で150億円近く)だったとのことですから、ライブコマースがどれほど急激に伸びているのか、税務当局の調査能力が向上しているのか、さまざまな変化があることが推測できるようにも思います。
企業としては、多額の広告費を投じて宣伝を依頼したインフルエンサーがスキャンダルを起こしてしまうと、企業イメージのダウンにもつながることになります。しかし、完全な対策というのはあり得ないことでもあるので、今後、さらに広告に関する契約のあり方も問われてくるのではないかと思います。冗談ではなく、このような事態に対応できる保険が中国でも必要になるような気もしています。

③コールドチェーン物流発展計画

「第14次5ヶ年計画期間におけるコールドチェーン物流の発展計画」が公表されています。農産品の流通段階での損失を減らし、高品質の食材が供給されることで、農村振興・農業収入の増加にも寄与するとのこと。2025年までに初歩的に全国と海外までをつなぐコールドチェーン物流を整備し、2035年には世界最先端水準までの進展を図るとの計画です。
輸送される品目の項目としても幅広くカバーするということで、①肉製品、②果物・野菜、③水産品、④乳製品、⑤冷凍食品、⑥医薬品、と並んでいます。
話はいつもどおり脱線しますが、新型コロナの感染状況について、一時期、日本では比較的流行が抑えられている要因として私が最も好んでおり且つそれなりに説得力がありそうに感じる仮説は、「ワクチンの輸送過程における冷凍保管の丁寧さ」によってワクチンの効果が高く維持された状態で接種場所まで届けられているのではないか?というものです。確かに、海外でお住まいになられたことのある方々であれば、誰しも、「確かに、日本ほど丁寧には運んでくれていないかも」と思われるのではないでしょうか。
また、アイスクリームは普通の冷凍食品などと比べても扱いが難しいらしく、アイスクリームの売上もその国のコールドチェーン物流の水準が上がるとともに増えていくというお話を聞いたことがあります。大雪のニュースを見ながらですが、アイスクリームがどこでも買えること、個人的にはとてもありがたいことと感じています。
こういった話を見るにつけ、日本にはまだまだ世界に誇れる技術や技能があふれているように感じます。

④来週は休載

来週はお正月休みのため休載いたします。
皆様、今年も一年、いろいろありましたが、どうもありがとうございました。
来年もどうぞよろしくお願いいたします。


2021年12月21日火曜日

12月第3週:①会社株主が「返済説明」に署名したら?、②登録商標を示す「○R」表示、③市場参入許可ネガティブリストに違反している事例

①会社株主が「返済説明」に署名したら?

株主有限責任の原則は、日本でも中国でも共通です。そして、中国では日本とは異なり、会社の債務について代表者やオーナーが個人保証を提供する商慣習は存在せず、会社の負債について個人保証を見かけることは極めて稀です。したがって、会社の実質的オーナーとの間で売掛金の回収について何度も話し合いをしたのに、結局、最後には「会社の負債は個人と関係ない」ということで回収が得られないままになってしまう事例も生じやすいことになります。
会社の負債について株主から返済意向が示されたとしても、それはあくまで会社としての負債の承認であると考える。それは法的には正しいのですが、しかしながら、実際の訴訟の場面では、個人が個人として責任を負担する意思を示したと解釈できる場合もあります。
今回はそのような事例を取り上げました。資料のp.4です。
債権回収のための交渉過程で、後日のために有利な材料を一つでも積んでおいていただきたく、この「返済説明」を代表者やオーナーに差し入れてもらうという手法は、覚えておいていただければと思います。

②登録商標を示す「○R」表示

商標一般違法行為についての新しい通知が出ています。
中国で商標の問題と言えば、いわゆるニセモノ、つまり権利がない第三者が登録商標を勝手に使ってしまう、少しだけ文字や図柄をアレンジして似たような表示をする、そういった問題がすぐに思い当たります。
しかし、実は、「権利者であったとしても」登録商標の表示を勝手にアレンジして使っていると、行政処罰を受けることがあります。例えば、漢字と英語で構成されている商標で勝手にその位置を入れ替えてしまう、図形と文字で構成される商標の図形を一部変更する、といったような場合に、そのまま「登録商標です」と記載している場合には、《商標法》第49条第1項違反として是正要求を受け、是正しない場合は商標の登録が取り消されることになります。商標について「●●は当社の登録商標です。」と書いてあれば分かりやすいのですがそうではなく、登録商標の表示の横に付される「○R」マークのみが付されている場合でも、これはRegistered(登録済み)を示す記号ですから、やはり登録商標として表示しているのと同じです。
非常にマニアックなお話ではありますが、商標登録をした表示をアレンジする場合には改めての登録が必要になること、ご留意ください。

③市場参入許可ネガティブリストに違反している事例

発展改革委員会から、市場参入許可ネガティブリストに違反している事例を収集する旨の通知が出ています。
いわゆるネガティブリストは、《ビジネス環境最適化条例》でも規定されている内外資問わず適用される中国の規制改革の重要な要素ですが、地方政府がこれを無視して独自の審査を行っているとか、逆に企業がネガティブリストで制限・禁止されている事業に違法に参入しているといった状況があるようで、今回の通知では、別紙で18個の事例が挙げられており、地方政府や業界団体主導で他省の業者を排除していた事例なども紹介されています。
このような事例について各地方、各部門が定期的な調査を行って国家発展改革委員会に報告するように求めるという内容ですので、今後はさらにさまざまな事例についての情報が集積されていき、予見可能性も高まっていくものと期待されます。
少し脱線しますが、補助金の申請もコネが無いと受理してもらえない、政府機関から紹介されたコンサルティング会社に依頼しないと申請しても通らない、といったようなことは外資系企業に限らず中国国内ではありふれた光景のようです。中国の政府機関は、日本と違って申請要件などを懇切丁寧に説明してくれたりはしないですので、このうちには、相当数、実際に申請要件を満たせていない、申請書類に不備・不足があるといったケースが含まれているはずであって、決して「コネ」の問題が全てではないと思いますが、一部そういった疑いを招くケースもあるのでしょう。
どのような申請の場面でも、窓口での指導を期待するのではなくて、きちんと根拠となる法令等を見て、申請要件を満たすかどうか確認いただければと思います。

2021年12月15日水曜日

12月第2週:①中小企業に対する未払金の精算、②国有金融機関の資産の譲渡に関する新たな通知、③期限切れ間際の特許の活用、④5G消息(メッセージ)の商業利用

①中小企業に対する未払金の精算

資料p.2について。
近年はこの時期になると見慣れた号令になってきた印象もありますが、国務院常務会議から各政府機関や事業単位に対して、中小企業に対する支払を遅らせている買掛金や工事代金などをきちんと支払うように、という呼びかけが出されています。
《中小企業代金支払保障条例》が昨年9月から施行されており、政府機関や大企業については、毎年3月31日までに前の年の中小企業への未払金の契約数量・金額等の情報を公表しなければならないというルールが始まっています。
各企業の財務や営業のご担当者は、長期未回収になっている売掛金が、取引先側できちんと公示されているかどうか、一度見てみていただくのは如何でしょうか。

②国有金融機関の資産の譲渡に関する新たな通知

国有系の金融機関が保有している資産の譲渡に関する新しい通知が出ています。
昨今の恒大集団の件などもあり、企業が自らの有する資産の換価を進めていく動きは今後も推進されていくことが見込まれるところですが、国有系の金融機関やそのグループ会社(地方政府が出資しているものを含みます)の有する株式等の資産の譲渡については、国有資産監督管理委員会の定めた《金融企業国有資産譲渡管理弁法》が従来から存在しており、国有資産の一部である財産が廉価で売却されてしまうことがないように厳格な手続が定められています。つまり、国有資産は迅速・機敏に譲渡して換価することが制度上できないことになっています。
今回の上記通知でも、資産評価や公開取引などの手続を厳格に履践するように求めているわけですが、一点、注目すべき点として、広く譲受人を募る公開取引をせずに直接、第三者への譲渡契約を締結できる場面の一つとして、「投資合意や契約で約定した条項の履行として退出する場合」や「契約の約定に基づき第三者に優先購入権を行使する場合」には、国有金融機関内部の決裁プロセスを経て、直接に譲渡を行うことができるとしている点があります。
今回の通知は国有系金融機関やそのグループ会社が出資している株式・出資持分などの譲渡に関するものですが、金融機関でない一般の国有企業に関しても、合弁契約や投資契約において優先購入権や売渡請求権を約定しておくことは改めて重要になってくると思われます。

③期限切れ間際の特許の活用

かねてから特許紛争を繰り返している中国の電器メーカー2社の間での紛争について、日系企業から権利期間の満了を目前にした特許を買い取って、その特許に基づいて相手方に対して賠償請求するという新しい「手口」が開発されたようで、裁判所もそのような権利行使を認めたという事例が出ていました。資料p.4の事例です。
日系企業各社は多数の特許を中国でも登録されていると思いますが、既に権利期間満了を間近に控えているものも多いと思われます。そういった場合、このように中国企業において活用いただく可能性もあるかと思いますので、一つのアイデアとして考慮していただくと可能性が広がるのではないかと思います。

④5G消息(メッセージ)の商業利用

日本ではリッチコミュニケーションサービス(RCS)と呼ばれるようですが、従来のショートメッセージの機能を拡充して、テキストのみならず画像や動画を使った相互通信ができるようになり、アプリのインストールや「お気に入り」登録などをせずとも、ショートメッセージから直接、予約や購入ができるというものだそうです。日本で言うと、「+メッセージ」というアプリもこれに該当するそうです。
この「5G消息」の商業利用が徐々に進んでおり、冬季五輪でも運用されるとのこと。中国聯通、中国電信、中国移動といった通信事業者がそれぞれ商業利用への投入を進めており、中国移動が工商銀行と共同でリリースしたデジタル人民元サービスも既に10月から始まっているそうです。
確かにアプリがたくさんになり過ぎて分からなくなりますし、便利になるのは良いことなのですが、今でもショートメッセージはどれが本物でどれがニセモノだろうか?と迷ってしまうくらいですから、一ユーザーとしては、正しく活用できるようについていくのは大変なような気もします。一方で、ビジネスのうえでは欠かせない存在となってくることが予想されますから、是非、ユーザーに使いやすいものが開発されていくことを期待したいです。

2021年12月10日金曜日

セミナーに登壇させていただきました。(中国《データ安全法》と《個人情報保護法》に関する対応)

昨日、標記のセミナーに登壇させていただきました。
相変わらず拙いお話で、一時間半という短い時間でしたが、
参加者の方々皆様、熱心にお聞きくださっていたようで、
改めて関係者各位に御礼申し上げます。
2分で分かる!という触れ込みでありながら、
実際には一時間半かけても話し尽くせないところがあったため
そこはどうなのか?というご指摘もあろうかと思いますが、
どうぞご寛容を賜れますようお願いいたします。

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日本国際貿易促進協会京都総局 様
【終了】2021.12.09(木) 第113回専門セミナー(ウエブセミナー)
演題『中国データ安全法(データセキュリティ法)と、中国個人情報保護法に関する対応』
講師 金藤 力 氏(弁護士法人キャストグローバル大阪事務所 代表弁護士・中小企業診断士)



2021年12月7日火曜日

12月第1週:①インターネット医療と処方箋、②消費者保護のダブルスタンダード、③交通運輸業界の「新業態」の就労人員の権益保障

①インターネット医療と処方箋

《インターネット診療監督管理細則(意見募集稿)》に関する記事が出ていました。2018年に《インターネット診療管理弁法(試行)》などのインターネット診療に関する法令が発布されましたが、その後、細則は未だ整理されていなかったとのこと。
この試行弁法では、初診の患者に対してはインターネット診療は不可としつつ、オンラインでのデジタル処方箋発行を一定の条件のもとで認めています。DTP薬局(Direct to Patient)がオンライン診療のうえで処方箋が発行できるような仕組みができれば、病院に長蛇の列を作るような必要もなくなり、非常に効率的になるように思われるわけですが、利便性ゆえに様々な新しい問題も起こり得ます。
今回のこの記事では、「統方」(医師の薬品使用につき統計し、それを医薬販売員に提供して、その薬品使用に応じたリベートを渡す行為)、「補方」(先に薬品を販売して後で処方箋を補充する行為。すなわち医師の関与なく患者と薬局がどの薬を使うか決めてしまう。)といった行為を禁止対象としています。日本でも昔から「薬漬け医療」という言葉もあり、過剰な投薬が行われる問題についての対策が講じられてきました。適切に使われてこそ大きなメリットをもたらす医薬品のことですから、経済目的の不正な方法がはびこらないように、効率的な管理が広まって、より効率的に正しく入手できるようになって欲しいものです。
折しも日本でもオンライン診療のガイドラインの見直しが行われており、オンライン診療の普及には逆にオフラインの「かかりつけ医師」(日頃より直接の対面診療を重ねている等、患者と直接的な関係が既に存在する医師)の方々の活動が重要になってくる面もあるなど、オンラインとオフラインの連係を取る仕組みが今後も大切になるのは日本も中国も共通なのだろうと思います。

②消費者保護のダブルスタンダード

資料p.3の記事について。
10年も前に書いた論稿でも書きましたし、その後も何度も同じことを色んな場面で申し上げているところですが、「中国国内における消費者保護は、中国以外の諸外国(日本を含む)における消費者保護に比べて、同様に設定されていなければならない」というのは、法律の世界でもそうですが、それ以上に、マーケティングの観点からは必須と言えます。
今回は、この典型的な問題で、カナダグースのダウンジャケットが「炎上」したという記事をご紹介しました。すっかり寒くなって、ダウンジャケットが活躍する時期ですので、こういった時期に販売に悪影響が及ぶ話題は、会社の方々としてはメーカーも販売店も驚かれただろうなと思います。
特に製品のリコールなどの場面では、「中国人の生命・身体の安全は、他国の方々よりも軽いと言うのですか?」という極めてまっとうなご指摘を招くことになります。
日本企業各社の製品は、世界でも有数の繊細と思える日本文化の中で暮らす日本の消費者の方々の目を通ってきたものですから、中国の消費者の方々は日本の消費者の方々よりはまだしも大らかではないかな?と思い、堂々と「ご不満があればどうぞおっしゃってください」と販売すれば良さそうにも思うのですが、なにぶんにも実際に応対する店舗や販売者の方々もまた中国の方々ですから、応対に不備が生じることもあります。
クレーム対応は企業の顔の一つですから、どうか日本企業各社は面倒に思わずに、堂々と中国でも展開していっていただければと希望しています。

③交通運輸業界の「新業態」の就労人員の権益保障

Uber(Eatsではない方)、滴滴のなどインターネット配車サービスについて、運転手と乗客に向けてプラットフォームが公示すべき価格計算ルールについて、8部門から連合で新たな政策意見が発布されました。今後、滴滴で配車サービスを利用した後、精算のときには、乗客が支払った総額がいくら、運転手の労働報酬がいくら、その総額から報酬を差し引いた「手数料」がいくら、ということを表示することが求められるとのことです。
また、これらのサービスで働く運転手について、社会保険に参加することを支援していくとの記載もあります。完全に労働関係が掲載させている場合でなくても、配車サービスのプラットフォーム企業が運転手を社会保険に参加させるように促していくそうで、段々と「従業員」ではない労働者の方々が社会保険の仕組みに参加していく仕組みに変わっています。
先日、ジョブ型雇用とメンバーシップ型雇用についての講演を拝聴する機会があって、(薄々感づいてはいたものの)やっぱり日本は特殊なのだなと改めて思ったところですが、「中国だから」の一言で片づけるのではなく、我々が慣れ親しんだ日本の制度と正しく比較のうえで、人事労務の管理を考えていただければと思います。