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2月14日の中国会社法改正セミナー:セミナー資料の目次(予定)

中国の会社法改正について、2月14日にオンラインセミナーでお話させていただく予定になっていますので、そのセミナー資料の目次をご紹介します。 下記は現時点で手元に用意してある資料案によるものですが、当日は時間の関係で全部はお話できない可能性がありますので、その点はどうぞご容赦くださ...

2023年8月31日木曜日

《外商投資法》施行による《会社法》準拠対応: 株主会の全会一致決議事項

先週ご紹介した、外商投資法対応の件で、もう一つ、是非知っておいていただきたい注意事項がありましたので、引き続き僭越ながら、ここで書かせていただきます。

従来、中国にある中外合弁会社においては、定款変更など重大事項については出資者双方が任命した董事全員が一致して決議する必要がありました。(《中外合資経営企業法実施条例》第33条第1項)
これに対し、《会社法》では、株主会や董事会における法定の全会一致決議事項は設けられておらず、定款変更などについても株主会における議決権の3分の2をもって決議可能です(《会社法》第43条第2項)。

ですから、日本側出資者の出資比率が3分の2を超えている場合、中国側出資者の意向に反していても、いわば「強行採決」してしまうことが可能になります。
ただ、だからこそ、気をつけないといけない「落とし穴」があります。反対株主による株式買取請求権です。(下記《会社法》第74条ご参照。)

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中国《会社法》
第74条  次に掲げる事由の1つがある場合には、株主会の当該決議について反対票を投じた株主は、会社に対し合理的な価額に従いその出資持分を買い受けるよう請求することができる。
  (1) 会社が連続して5年にわたり株主に対し利益を分配していないのに、会社が当該5年に連続して利益を取得し、かつ、この法律所定の利益分配条件に適合するとき。
  (2) 会社が合併し、分割し、又は主たる財産を譲渡するとき。
  (3) 会社定款所定の営業期間が満了し、又は定款所定のその他の解散事由が出現した場合において、株主会会議が定款変更の決議を採択して会社を存続させるとき。
  株主会会議の決議が採択された日から60日内に、株主が会社と出資持分買受合意を達成することができない場合には、株主は、株主会会議の決議が採択された日から90日内に人民法院に対し訴えを提起することができる。
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反対株主による株式買取請求権そのものは日本の会社法にもある制度なのですが、いかんせん、従来の《中外合資経営企業法》には該当する規定がなく、また、そもそも政府機関における手続上、ほとんど常に董事全員の署名のある決議書の提出が要求されていたという実務上の要因もあって、「強行採決」がなされること自体がほとんど見られませんでした。
しかし、今後は、会社法やこれに基づいて作成・修正された定款を見て、「中国側出資者が反対していても決議可能だ」と理解されて、強行採決に踏み切るケースも出てきそうに思います。

そのこと自体は何ら違法でも不合理でもないのですが、ただ、上記の反対株主による株式買取請求権のことを忘れて強行採決してしまうと、あとで思わぬ紛争になってしまうことも考えられます。
そのような事故を防ぐ意味では、従来の定款をなるべくそのまま踏襲し、定款変更などについては株主会でも全会一致決議を求めておく方が、安全策ということになるかもしれません。


2023年8月28日月曜日

8月第4週: ①水害からの復興、②「1件目」の住宅ローン、③15件の行政法規の改廃

①水害からの復興

各地で台風や豪雨による被害が出ているようで、その復興や水害防止の工事に関して、「以工代赈」(仕事を与えて救済に代えること)が奨励されています。
現地の群衆を工事に参加させて労働報酬を支払うことで家計に困難のある群衆に収入をもたらすとともに、工事に参加する過程で就業技能を高めること(「以工代训」)も求められています。
公共工事が行われることで復興関連需要も生じてくると思われますので、知っておくと何かのお役には立つかもしれません。

②「1件目」の住宅ローン

住宅ローン利率に関する優遇政策の適用に関し、「1件目」の住宅かどうかの認定基準について通知が出ています。
従来から、1件目の住宅取得時には住宅ローンの金利を低く抑えてもらえる政策優遇があるのですが、この1件目に該当するかどうかの基準に関する通知です。
「本人や家族がその都市で住宅を購入したことがなければ」、それ以前に住宅ローンを借りたことがあろうとなかろうと1件目と認定してよいとされています。
不動産をめぐる状況は各都市で異なるので、「一城一策」(一都市一政策)ということで各都市それぞれの政策が打ち出されています。およそ中国全般と一括りにするのではなく、各都市の状況を見る必要があるようです。

③15件の行政法規の改廃

国務院から14件の行政法規の改正と1件(製品品質監督試行弁法)の廃止が発布されていました。
《行政処罰法》に基づいて不合理な罰則等を取消・調整したこと、国際海運条例、道路運輸条例などの罰則の見直しといった内容だそうです。


2023年8月23日水曜日

《外商投資法》施行による《会社法》準拠対応: 株主会と董事会

《外商投資法》施行に伴っていわゆる外資三法が廃止され、中外合弁会社では《会社法》に適合するように定款変更(※)が求められています。
 (※)従来の中外合弁会社に関する《中外合資経営企業法》では「合弁契約」と「定款」が登場しましたが、《会社法》には「合弁契約」は登場しません。
  ですので、「合弁契約」の重要性は一歩後退して、「定款」の変更が主たるテーマとなります。

2024年末まで5年間の移行期間が設けられていますが、このうち2020年~2022年の3年間はコロナ禍による往来制限により面談ができず、「まだ5年もある」状況でしたので、しばらく様子見のままに過ぎていたような印象です。
そして、いよいよ今年の6月前後になって、多くの中外合弁会社では3年ぶり、4年ぶりとなるリアルでの董事会が開催されました。これに前後して、「そろそろ我が社も、《外商投資法》に合わせた定款変更を議論しよう」というお話になったのでしょうか、多くの企業で中国現地法人の合弁契約や定款の変更が議論されているようです。

これに関して、
「従来の董事会の決議事項を、そのまま株主会の決議事項にスライドさせてしまう」
また、これと似たようなものとして、
「その他すべての重大事項」を株主会での決議事項に入れてしまう
こういった合弁契約や定款の変更をお考えの例も見受けられます。

いろいろなところで見聞される情報の中で、
「董事会が最高権力機関だったところ、これからは株主会に変わる」ということから、
株主会が董事会に取って代わるようなイメージをお持ちになるのかもしれません。
また、
(A)「法改正があっても、法律上変更しないといけない部分以外は変えずに、従来どおり仲良くやりましょう」
(B)「董事会の上に株主会を作っても、同じような会議を2回開くのは重複で無駄なので、なるべく一つにまとめましょう」
という2つの発想も背景にありそうです。

ただ、上記のような対応は、あまり良くない場合もあるかもしれません。

というのは、株主会の決議事項について言えば、本当に法律上求められていることは、そのように「取って代わる」ことではなく、従来は董事会で決議していた事項の一部を株主会に移す(分離する)ことだけです。(所有と経営の分離、ということです。)
ですから、上記のように「全部を株主会にスライドさせる」という変更の提案をしてしまいますと、そのような変更案を提示された中国側の合弁パートナー側でも、やや面食らってしまう場合がありそうです。


ここで、少し日本の会社法の発想を振り返ってみますと、日本でも、取締役会設置会社の場合は、株主総会で決められることは法定及び定款所定の決議事項に限られます。(下記第2項)
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日本「会社法」
第295条(株主総会の権限)
1 株主総会は、この法律に規定する事項及び株式会社の組織、運営、管理その他株式会社に関する一切の事項について決議をすることができる。
2 前項の規定にかかわらず、取締役会設置会社においては、株主総会は、この法律に規定する事項及び定款で定めた事項に限り、決議をすることができる。
3 この法律の規定により株主総会の決議を必要とする事項について、取締役、執行役、取締役会その他の株主総会以外の機関が決定することができることを内容とする定款の定めは、その効力を有しない。
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なぜこのように株主総会での決議事項が限定されるのかというと、適切な役割分担のためです。
取締役会は経営のプロである方々の英知を集めて討論する場です。ですから、株主総会で株主自身が株主総会の場で何らかの議案を討論・作成しようとするよりも、取締役会で議論して議案を作ってもらった方が、多くの場合は、より経営の実態に即した株主にとっても利益になる議案になるはずと考えられます。
これは中国の《会社法》の制度設計でも同じです。
ですから、株主会に多くの決議事項を持たせるように定款で定めることは可能ですし適法でもあるのですが、全てを株主会に移してしまうことは、法律上はあまり予定されていない対応であろうと思われます。
(もちろん、董事会であれ株主会であれ実際に参加する顔ぶれは同じ、というケースがほとんどですから、実は分けるのは書類だけ、という場合も多いのですが...)


《外商投資法》によって変わるところは確かに色々あるのですが、
できれば従来の運営方法をなるべく踏襲して、なるべく最低限必要なところだけ修正する方が良いのではないか?
そのように思うこともありますので、ここで少し触れさせていただきました。


差し出がましいことで恐縮ですが、法律上求められる最低限の対応としては何が必要なのか、対応をお考えいただくご参考になるようでしたら幸いです。


【2024年1月17日追記】
 今回の《会社法》改正に至るまでの議論の過程(2021年12月の第1次改正草案)では、法定の董事会決議事項を列挙せずに、
 「董事会は、会社の執行機構であり、この法律及び会社定款所定の株主会の職権に属するもの以外の職権を行使する。」とだけ規定する案となっていました。
 つまり、ほとんど全ての事項を株主会に委ねてしまうことも可能でした。
 しかし、最終的にはほぼ現行法どおりの内容となりました。
 そのような経緯からしても、法定の董事会決議事項を株主会に移してしまうことは、おそらく認められないように思われます。

2023年8月21日月曜日

8月第3週: ①知的財産権法執行強化、②団体標準から推薦性国家基準へ、③環境事件に関する2つの司法解釈

①知的財産権法執行強化

国家市場監督管理総局から、新時代の知的財産権の取締強化ということで意見が出ています。
2025年までにネットワーク環境における取締の難題を解決するとの目標や、業界団体や仲介機構(特許事務所など)との連携などについて述べられています。

②団体標準から推薦性国家基準へ

社会団体などが制定・公布した団体標準のうち技術的な先進性、指導性のあるものを推薦性国家基準に採用することに関する暫定規定が出ています。
https://www.samr.gov.cn/zw/zfxxgk/fdzdgknr/bzjss/art/2023/art_646c3799c2d348ef8fd90a2437fdcf95.html
全国で比較的受け入れられており効果の高い団体標準については、推薦性国家基準に取り上げる際の手続を短縮することなども盛り込まれています。

③環境事件に関する2つの司法解釈

環境関連の権益侵害紛争における法律適用に関する司法解釈と、同じく環境関連事件における証拠をめぐる規定が発布されています。
環境汚染事件においては因果関係が複雑であり損害との関わりが直ちには判明しないことを考慮して、時効の起算点を被害者保護に有利なように、加害者その他行為者が判明した時点から起算することなど、環境事件特有の事情に配慮した内容になっているとのこと。
証拠についても、一般的被害者の手元に証拠が乏しいことから立証責任を軽減するための書証提出命令の活用や、司法鑑定に時間や費用がかかることや専門家の鑑定への過度の依存による問題などを考慮した規定が置かれているとのことです。

2023年8月16日水曜日

【体験レポート】自動翻訳の附属ツール「TexTra Files」(+VoiceTraアプリ)

NICT(情報通信研究機構)から提供されている「みんなの自動翻訳@TexTra®」という自動翻訳サービスがあり、個人的にときどき使ってみています。
この「みんなの自動翻訳」の関連アプリで、
「PCのデスクトップにショートカットを置いておいて、
 翻訳したいファイルをそこにドラッグ&ドロップすれば自動で翻訳してくれる」
というツールが紹介されていたので、使ってみました。
 (下記⑤のとおり、業務上の使用には適しない点、あらかじめご留意ください。)

自動翻訳、便利ではあるのですが、使うときには
 (1) Webサイトやアプリを開く、
 (2) ログインする、
 (3) 翻訳機能のメニューを選ぶ、
 (4) 翻訳したいファイルを選ぶ、
 (5) 翻訳が仕上がるのを待つ、
 (6) 仕上がったファイルを開いてみる、
 (7) どこかに保存する、
というように、何回もクリックや入力が必要になりますので、
ついつい使うのが「面倒」「おっくう」になります。
これに比べて、このツールと使うと、この手間がかなり省略できます。

【操作の流れ】
-----------
デスクトップ上にあるアイコンに、ファイルをドラッグ&ドロップ





  ↓
何語から何語に翻訳するのか指定するウインドウが開く
 (一度指定してしまえば、次からは同じ設定のまま開くので、毎回指定する必要はないです。)







  ↓
「OK」を押すと翻訳サーバー上にアップロードされます。





  ↓
翻訳完了待ちの画面が開きます。
 (状況欄が「処理中」→「完了」になれば、翻訳完了です。
  私はせっかちなので、何度も「更新」ボタンを押してしまいます。)











  ↓
「ダウンロード」ボタンを押すと、指定した場所に翻訳済みのファイルが出てきます。
 (今回はデスクトップ上にファイルが出来上がるように指定してみました。)






-----------
このように、簡単な操作で自動翻訳済みのファイルが出来上がります。


但し、使ってみると、ちょっと不便かな?と思うところもありましたので書いておきます。

① 「みんなの自動翻訳@TexTra®」のユーザー登録と、初回利用前にAPIの設定が必要です。これが少し面倒です。(一度設定してしまえば後は特に面倒なく使えます。)
② 最初インストールしたとき、なぜかショートカットにドラッグ&ドロップできず困りました。(一度ショートカットを削除して、プログラム本体のファイルから改めてショートカットを作り直したら、無事に起動するようになりました。)
③  出来上がったファイルが自動的にデスクトップに出てくるのかと思っていたのですが、2~3回、ボタンを押す操作が必要です。
④ WordやExcel、pptの古いファイルには対応しておらず、拡張子を変えて新しい「.docx」「.xlsx」「.pptx」のファイルにしないと翻訳できません。
⑤ PDFファイルでもOCR処理をして翻訳してくれます。ただ、OCR処理を介するゆえ、翻訳精度は悪くなっている印象です。(OCRの段階で、かなり誤字が発生していました。)
⑤ 翻訳対象として入力したファイルのデータはNICTで二次利用されるようです(利用規約第4条3)。ですので、個人情報や業務上の秘密情報など、秘密にする必要がある情報を入力してはいけません。(一般に公開されているような資料の翻訳にしか使えません。)

ということで、⑤の部分で、業務には使えず、各社でご利用されている業務用の翻訳サービスを使わないといけないことになってしまうと思います。

ですので、
業務用に使えるものとしては、別途、業務用の翻訳サービスに連係させることにして、
事務所のスタッフの方々に無理をお願いしまして、
「Aフォルダ(下の写真の左側)にファイルを入れて何分か待てば、自動的に、
 Bフォルダ(同右側)に翻訳されたファイルがアウトプットされてくる」
という仕組みを(手作りで)作ってもらいました。






事務所で使っている別の有償のサービスと組み合わせたものらしいのですが、
これはこれでなかなか便利ですので、今後ありがたく使わせていただこうと思っております。

便利な翻訳サービス、いろいろあるようですから、少しでも手軽に使えるように、
一つご参考になればと思います。



ちなみに、余談ですが...

同じくNICTから提供されている「VoiceTra」というスマホアプリがあります。
これも私は非常に気に入っています。
何故かと言うと、日本語で音声入力して外国語に変換された後、「こういう意味の外国語に変換しましたよ」というのが同時に表示されるのです。
(普通の翻訳アプリは、一方通行で、日本語→外国語の2段しか表示されないですが、
 このVoiceTraは日本語→外国語→日本語と3段で表示されます。)

「ちゃんと訳してくれているのかな...」という不安が無くなりますので、
是非一度お試しいただければと思います。

但し、惜しむらくは、実際の会話で使おうとすると意外に使い方が難しく、数秒のタイムラグも生じるので、思いのほかストレスが大きいです。現状では、「下手でも自分で話した方がよいかな?」と感じています。
使いこなせるまでには、私自身の訓練にもう少し時間がかかりそうです。



(なお、この記事を書くにあたり、詳しい方々のご助言等は特に受けておりませんので、
 もし私の誤解で「もっと便利に使えますよ」という点があれば、是非ご指摘ください。
 可及的速やかに訂正・補充いたします。)

2023年8月14日月曜日

8月第2週:①外商投資環境のさらなる改善、②高温・寒冷に関する労働者保護(モデル文書)、③フォーラム活動に関する規制

①外商投資環境のさらなる改善

国務院から7月25日付で、外資による投資をさらに呼び込むことに関する意見が出ていました。
入札によらない「首购」「订购」(イノベーション推進のために、市場に出ていない先進技術等を政府調達すること)による支援も内国民待遇の対象として言及されていることは、外資系企業の事業にも有利かと思います。
ビザについても、外資誘致や展覧会などのために必要な場合にマルチ(多次)の商用ビザを発給する措置などが挙げられています。
他に目を引く項目としては、「重要データ」や「個人情報」の国外移転(出境)について、「グリーンゲート」(绿色通道)として安全評価を効率よく行うこと、北京、天津、上海、珠江デルタなどでは試験的に「自由に流通可能な一般データリスト」の作成を模索することが述べられています。

②高温・寒冷に関する労働者保護(モデル文書)

暑い日が続く中、業務場所の高温・寒冷な気候における労働者保護についてのモデル文書が、人社部、全国総工会などから共同で公表されています。
《防暑降温措置管理弁法》では企業は防暑降温業務制度を確立することが求められており、何らかの問題があったときには制度が未制定・不備であること自体が法定の義務違反として指摘される可能性もあります。
今回のものはあくまで「参考文書」ですが、社内規程を整備する際の参考になると思われ、それほど分厚いものでもないですので、機会があればお目通しいただくと良いかと思います。

③フォーラム活動(论坛活动)に関する規制

政府機関や正規の組織が行っているフォーラム活動と紛らわしい、「ニセモノ」のフォーラムが開催され、市場秩序が乱されているということで、このような「ニセモノ」フォーラムの取締に関する通知が出ています。
先般、7月8日にも、11部門から共同で、フォーラム活動に関する特別整理業務に関する通知が出ていました。
フォーラムの名目で違法な詐欺などの犯罪を行うものに関与しないことは当然として、それ以外にも、商業目的で「中国」「中華」「全国」「国際」「高峰」などの用語を使ってフォーラムを開催することは違法となることがあるなど、注意すべき点があります。

2023年8月9日水曜日

外国人の雇用と、刑法の国外犯処罰(国外での行為は罪に問えない?)

ちょうど《対外関係法》も成立・公布されましたので、少し、日本の経営者・人事労務管理者の方々に知っておいていただきたい話題を一つご紹介します。
「刑法犯の国外処罰」についてです。

日本も中国も、それぞれ自国内で犯罪行為が行われた場合には、自国民であろうが外国人であろうが、当然、刑法による処罰対象となります。
一方、【国外で】犯罪行為が行われた場合については、「自国民でも外国人でも処罰する」場合と、「自国民のみ処罰する」場合、そして「我が国での処罰対象とはしない」場合があります。
 (注意事項として、日本の場合、「国民」かどうかは国籍で判断されます。住民登録や永住権の有無は関係しないようです。)

日本の「刑法」では、第1条から第4条の2まで、それぞれどの場合に当たるのか、犯罪行為によって詳しく規定されています。
一方、中国《刑法》では、第6条から第11条までに規定がありますが、日本ほど細かく規定されておらず、概ね最高刑・最低刑が3年の有期懲役になるかどうかで分けているようです。

ここで、日本の経営者・人事労務管理者の方々に知っておいていただきたいのは、社内で行われる不正行為についてよく問題になる窃盗、詐欺、横領、背任といった犯罪については、「自国民(=日本国民)のみ処罰する」という類型に分類されていることです(※)
つまり、(日本国外で)同じ行為をしても、日本人従業員なら日本の刑法で処罰できるのに、外国人従業員の場合は日本の刑法では処罰できない、ということが起こり得ることになります。
 (※) 但し、会社法上の特別背任罪の場合は、別途、国外犯処罰の規定が設けられているので(日本「会社法」第960条、第971条)、外国人による国外犯の場合でもなお処罰対象となります。念のため。

私(金藤)、個人的には、日本国内においては少子化の続く中で日本国内の企業でも外国人の募集・採用は積極的に進めていただく方がよいと思っており、様々な機会でそういったお話もさせていただいていますし、また、そもそも国籍を理由にして雇用差別をすることは違法でもあります。
しかし、だからといって無防備・無造作に従来の日本人の方々に対するのと同じ方法で外国人の方々を雇用することは、必ずしも適切ではない部分もあると感じます。
日本人従業員と外国人従業員に差がないわけではなく、実際にはこういった社内での重大な問題を起こした場合の処遇など、かなり重要な部分で日本人従業員とは異なる部分もあります。
普段そういった問題に遭遇することはほとんど無いはずではありますが、外国人従業員の方々の雇用管理について、一つの知識として、考慮しておいていただければと思います。

2023年8月7日月曜日

8月第1週:①党と政府の法規に関する学習、②中小企業への融資促進、③ドローン輸出規制

①党と政府の法規に関する学習

中国共産党中央委員会弁公庁と国務院弁公庁から、指導者・幹部において知っておくべき法規リストを作成することに関する意見が出ています。
https://www.gov.cn/zhengce/202308/content_6896297.htm
共産党内の規則と国家の法規をともに対象としており、分級分類してリストを制定することとされています。指導者・幹部の教育体系にも組み入れられるとのこと。
習近平法治思想の信仰者、伝道者、実践者となるべく学習が求められています。

②中小企業への融資促進

工業情報化部など5部門共同で、中小企業への融資促進行動の通知が出ています。
https://www.gov.cn/govweb/zhengce/zhengceku/202308/content_6896043.htm
単なる融資だけでなく、出資やIPOを目指す育成などまで含めて、各地の政府機関が連携して取り組むこととされています。多様な研修方式も列挙されています。

③ドローン輸出規制

日本の新聞等でも報道されていましたが、ドローンの輸出規制が拡大されました。
一定の基準を超える性能を有するドローンを両用物品及び技術輸出許可証による管理の対象とするようです。
いわゆる「両用物品」とは、核兵器や生物兵器、ミサイルなどの軍事用途と、民生用途の両方に使える物品です。これら両用物品については昔から輸出入許可管理の目録があり、ときどき調整されています。
今回のドローンをめぐる管制措置は臨時のもので、その実施期間は2年を超えないと規定されています。

2023年8月3日木曜日

中国の「社会保険」と、日本の「社会保険」


中国で「社会保険」というと、いわゆる中国語の「五险」、養老保険、医療保険、労災保険、失業保険、出産保険の5つを指します(中国《社会保険法》)。
一方、日本では、「社会保険」というと、健康保険(介護保険含む)と厚生年金保険の2つを指し、労災保険と雇用保険は「労働保険」と分けて呼称しています。
(といっても、中国の方々に説明するときは、「労働保険」と説明しても通じないので、「労災保険と失業保険」とご説明しています。)
社会保険は従業員を雇っていなくても法人を設立するときは加入しますが、労働保険は従業員を雇用するときに加入するので、実は会社設立の段階での手続で少し違いが出てきます。

なお、中国の「生育保険」は妊娠・出産・育児のための医療費用や休業期間における手当の給付を行うものですが、これは日本では雇用保険(育児休暇取得者への育児休業給付金)と健康保険(出産手当金、出産育児一時金)に分かれています。
思わず「社会保険」と一言で済ませてしまうのですが、実はその意味合いは日本と中国で違うということ、もし区別の必要がある場面に出会ったら、少し気に留めてみていただければと思います。

2023年7月31日月曜日

7月第4週: ①「車聯網」(クルマのインターネット)産業標準体系、②サイバーセキュリティ保険、③税制優遇のガイドラインとリスト

①「車聯網」(クルマのインターネット)産業標準体系

スマート・コネクテッドカーに関する各種の標準(規格・基準)の制定についてのガイドラインが公表されています。
https://wap.miit.gov.cn/zwgk/zcwj/wjfb/tz/art/2023/art_32a82e4b38564e0586d587919a2fa782.html
センサー・レーダーや通信に関するもの、決定・操作に関するもの、アプリケーションやインターフェースに関するもの、といったように各種の規格が必要になりますので、これらを2025年、2030年と区切りを定めて整備していくことが記載されています。
末尾別紙一に、現在既にある又は現在検討中の基準・規格や、それと対応する国際規格をまとめた表がついていますので、この表だけでもご覧になると、開発の場面などで参考になるかもしれないと思います。

②サイバーセキュリティ保険

ネットワーク安全に関するリスク管理の促進などのためにネットワーク安全保険を健全に発展させていくことに関する意見が、工業情報化部と国家金融監督管理総局から発布されています。
https://wap.miit.gov.cn/zwgk/zcwj/wjfb/yj/art/2023/art_0cc1cefdb4e74a169e0a98649c427153.html
業界や場面に応じたリスクに応じた豊富な保険商品を開発していくことなど、保険会社に関する内容が主ですが、リスク評価やモニタリング技術を向上させること、中小企業のネットワーク安全の防護自能力を高めることなど、保険の普及を通じて企業の安全対策を向上させていくことも意識されているようです。

③税制優遇のガイドラインとリスト

国家税務総局から、各種の税制優遇について、享受主体、優遇内容、享受条件、根拠規定の4つの面から整理したガイドラインが公表されています。
別紙として税制優遇に関連する法令や通達のリストが添付されています。

2023年7月26日水曜日

中国における問題発生時の広報対応(2つの対照的な事例。従業員を処罰すべきか否か)


ニュースなど見ていますと、「日本でも中国でも同じなのだな」と感じることもたくさんあります。

2018年にセミナーをしたときにご紹介した事例ですが、同じように衛生上の問題が大きく報道された2つの会社で、会社側の応対によって評価が大きく分かれたケースがありました。

(1)飲食業H社の事例
  厨房にネズミが繁殖している2店舗の動画が公開された。
  報道から4時間のうちに「事実に相違ない」「改善する」と謝罪。
  問題店舗の従業員を処罰せず、「責任は董事会が負う」と言明。
⇒ 従業員に責任を転嫁しない態度で、大衆に好意的に受け止められる。

(2)ホテル業Q社の事例
  顔を洗うミニタオルで清掃員がトイレを清掃している等の報道。
  同じく事実を認め謝罪したものの、その内容で「問題を起こした従業員を処罰した」
との部分があったために、かえって批判の的に。
⇒ 問題を一部の従業員の範囲に限定しようとしたことが逆効果に。


今は日本で発信した情報が直ちに中国でも報道されるような時代です。
中国で事業展開なさっている企業の方々においては、中国での受け取られ方についても少し気にしてみていただけると、より良い対応になる場面もあるかもしれないと思います。




2023年7月24日月曜日

7月第3週:①レンタル工場・倉庫の消防安全、②3つの消費促進政策、③領事保護・協力条例

①レンタル工場・倉庫の消防安全

賃借工場・倉庫の消防安全管理についての管理弁法が国家消防救援局から出ています。
工場・倉庫の賃貸人と賃借人は、各々の消防安全責任を書面で明確にしなければならず、そうでない場合は賃貸人が避難口(非常口)や消防施設など、賃借人は建物についての消防安全の責任を負うとされます。
それぞれの当事者が履行すべき事項も列挙されていますので、一読いただくと参考になる部分もあるかもしれません。

②3つの消費促進政策

家電や家具、インテリアなどに関する13部門共同での消費促進に関する措置が打ち出されています。
インターネットの活用やリフォームの促進などが述べられています。
このほか、発改委ほかいくつかの部門から、電子製品と自動車の消費促進に関する措置が発布されています。
それぞれあまり具体的な事項は書かれていないようですが、重点とされる項目を確認する参考にはなりそうに思います。

③領事保護・協力条例

国外の中国公民・法人・非法人組織の正当な権益が侵害を受けた場合や支援を要する場合に、在外中国公館が権益保護や支援を提供することに関する新しい条例が公布されています。
政府の各機関が国外に赴く旅行者などに対して危険に関する情報を事前に告知することなどが規定されています。
現地での法律・翻訳・医療などの情報についても必要に応じて相談に対応することとなっています。



2023年7月17日月曜日

7月第2週:①生成AIサービス管理暫定弁法、②「自媒体」(自社サイト、ブログなど)の管理強化、③食品経営許可及び届出管理弁法

①生成AIサービス管理暫定弁法

中国でチャットGPTなど生成AIに関する管理弁法が国家インターネット情報弁公室など7部門共同(もちろん公安部も入っています)で発布されています。
見てみると、中国国外から提供されるサービスであっても、この弁法その他中国の法令違反があれば、中国の政府機関による技術的措置その他の措置の対象となるようです。
生成AIを利用して作成されるテキスト、画像、音源などコンテンツを提供するサービスが対象です。
サービス提供者には、データ及び基礎モデルの由来が適法であること、他者の知的財産権を侵害しないことなどが求められているほか、先日ご紹介した「深度合成(ディープフェイク)」に関する管理規定に基づく表示を付す義務や、ユーザーによる違法な活動への利用を発見した場合の通報義務などが課されています。
一方、公衆へのサービス提供を行っていない、企業内部での研究開発などに利用する場合はこの弁法による規制の対象ではなく、むしろ生成AIを使って各分野で新サービスを生み出していくことは奨励されています。

②「自媒体」(自社サイト、ブログなど)の管理強化

企業や個人が自ら情報を発信できる「自媒体」(owned mediaとかself-mediaと呼ばれます。SNSなども該当します。)について、国家インターネット情報弁公室から管理強化の通知が出ています。
国内外にかかわることや公共政策・社会的事件に関する情報を発信するときは目立つ位置に情報源を記載するようにすること、自ら撮影した動画や写真を掲載するときは撮影日時や場所などを記載することなど、情報の由来についての管理にも言及されています。
いわゆるインフルエンサーのマネジメント等を行うMCN(multi-channel network)機構についても違法行為があった場合にはサービス提供制限などの措置を講じること、デマや違法情報を流す「自媒体」については一律に閉鎖することなども改めて規定されています。

③食品経営許可及び届出管理弁法

食品経営許可に関する管理弁法が改正されました。
食品販売や飲食サービスに適用されるもので、食用農産品や事前包装済食品を販売するだけの場合は適用対象ではありません。
既に《食品安全法》の改正などによって許可制から届出制に変わっていた部分を反映したことや、届出・報告事項への規制緩和、許可手続を簡素化したこと等が改正点として紹介されています。

2023年7月13日木曜日

賞与(ボーナス)の位置づけ・支給水準


日本のボーナスは年に2回か3回、夏と冬(場合によっては春も)に賞与があり、合計すると基本給の2~5ヶ月分くらいが支給されると思います。住宅ローンの返済も、ボーナス月は返済が多くなるようになっている場合が多いでしょう。つまり、賞与が生活給の一部になっています。
一方、中国では季節によるボーナスは年一回だけ、概ね基本給の1ヶ月分です。
中国では春節前には「双薪」、つまり春節前だけ2ヶ月分の給料がもらえるという言葉になっています。税制上もこの年一回のボーナスだけが優遇対象でした。
したがって、日本とはボーナスの重みが全然異なります。ボーナスを減らすと住宅ローンの返済が行き詰まるといったような最低限の金額を保障してあげる必要性も小さいですし、逆に言えば、もともとの金額が小さいので上積み余地も大きいです。
ボーナスを柔軟に活用して、従業員のモチベーション向上などに活用いただければと思います。


2023年7月10日月曜日

7月第1週:①製造業の信頼性向上についての実施意見、②人材サービス機構、③中央企業の法的紛争

①製造業の信頼性向上についての実施意見

工業情報化部など5部門から、製造業の信頼性向上に関する実施意見が発布されています。
https://www.gov.cn/zhengce/zhengceku/202307/content_6889718.htm
PDCAモデルによる品質・信頼性管理の強化など一般的な内容のほかに、機械、電子、自動車の3分野で、重点的に向上させていくべき品目を具体的に列挙しています。
これらの分野では、中国メーカーは日本からの技術導入もより積極的に進めていくことになると思われますし、逆に日系企業各社においてもより一層の技術情報の保護が求められるかと思います。
是非一度お目通しいただくことをお勧めします。

②人材サービス機構

企業による求人や労働者の求職に関する仲介サービスを提供する職業仲介活動を行う事業者の管理に関する新しい規定が出ました。
http://www.mohrss.gov.cn/xxgk2020/gzk/gz/202306/t20230630_502242.html?fromModule=lemma_middle-info
就職説明会(オンラインを含む)やヘッドハンティングなどの活動を行う場合に行政許可の申請を求めるものとなっています。
事業者からの委託を受けてサービスを提供する際に、求人企業側の提供する材料の真実性・適法性について審査すること等が義務付けられています。
フリーランスの方々も増えている中、求人に応募したら外国に連れていかれて強制労働させたというような怖い話も以前ありましたので(2022年2月の記事参照)、日本でも話題になっている「闇バイト」のような違法な活動に使われないようにという目的も含んでいるのかなと思います。

③中央企業の法的紛争

中央の国有資産監督管理委員会から、中央企業における法的紛争事件の管理に関する弁法が出ています。
18年前に発布された暫定規定からの改正とのこと。
5000万元以上の金額や、影響の大きい集団性事件になる可能性がある場合には、重大事件として届出を求めています。
法律事務所など外部専門家の起用に関する規定もいくつか置いています。


2023年7月3日月曜日

6月第4週:①《対外関係法》、②バリアフリー環境建設法、③知的財産権の濫用による競争制限・排除行為の禁止規定

①《対外関係法》

各国との外交関係及び経済・文化等の各分野での交流など、外国との関係に関する法整備について、国家主権・安全・発展利益などの面でまだ不備・不足の部分があるということで、憲法に基づく基本法となる《対外関係法》という法律が制定されました。
全人代、国務院、中央軍事委員会、外交部など、各政府機関における対外関係での職権が述べられています。地方政府も、中央の授権した特定の範囲内で対外交流・協力を行うと書かれています。
対外関係の目標としては、国家主権・統一、領土の完全性の維持、経済社会の発展への貢献が挙げられています。記者発表では、交流と協力、友好的な付き合い、国際協力といった内容が特徴として紹介されています。
続いて「国内法治」と「渉外法治」を統一的に推進し渉外分野の立法を強化すること、国際法の基本原則や国際関係の基本準則を遵守することをベースに渉外分野の法律法規の施行と適用を強化して、法により法律執行などの措置を講じることされています。
中国公民及び組織の海外での安全及び正当な権益を保護し、国家の海外利益を威嚇・侵害されないよう保護することも規定されていますので、中国国内の取引でなくても中国法が関係してくる場面が増えるのかもしれません。

②バリアフリー環境建設法

障害者や高齢者などのためのバリアフリー環境の構築のための法律が制定・公布されました。
https://www.gov.cn/yaowen/liebiao/202306/content_6888910.htm
対象となる建物としては、居住建築、居住区、公共建築、公共場所、交通運輸施設、都市道路などとなっています。既存のバリアフリーではない建物については、各地の人民政府が状況に応じて個別の改造計画等を定めることになっています。
また、法律の名前に「建設」とついているので建設関連の法律かと思いきや、そうではなく、情報交流や社会サービスの環境整備に関する内容も含まれています。
例えば、事故災害情報は音声・大きな文字・点字・手話などで伝えることや、スマートフォンなどのメディア端末にも同様のバリアフリー機能を持たせることなどが規定されています。
さらには、教育・医療、公共交通はもちろん裁判所などの司法機関でのバリアフリー確保や、法律事務所などのサービス提供におけるバリアフリーの奨励、郵便局や宅配企業による訪問サービスの奨励なども規定されています。

③知的財産権の濫用による競争制限・排除行為の禁止規定

知的財産権の濫用と反独占法(独禁法)との関係についての規定が改正されました。
https://www.samr.gov.cn/zw/zfxxgk/fdzdgknr/fgs/art/2023/art_e155397fbe5c4c05ad3c1838c1322ad2.html
国家基準や業界標準の制定にあたって知的財産権を十分に開示していない場合や、必須特許についていわゆるFRAND条件での許諾をしない場合などに関する規定が拡充されています。
また、一定のシェアを下回る場合を禁止対象としない、いわゆるセーフハーバー・ルールについて、改正前は具体的なシェアが数値により規定されている部分があったのですが、今回はその部分が「知的財産権分野における反独占指南」に委ねられています。
その他の改正箇所もありますが、比較的実務にかかわるものでもありますので、後日改めて検討したいと思います。


2023年6月29日木曜日

動産差押の方式(「死封」と「活封」)


中国の差押の方式には、「死封」と「活封」の2つの方式があります。

「活封」とは、債務者の財産のうち生産設備や原材料など事業活動に必要な動産が封印・差押の対象となった場合でも、引き継続き債務者や第三者にその使用継続を認める差押の方式です。活きた状態での封印、ということです。
(《人民法院の民事執行における財産の封印、差押え及び凍結に関する最高人民法院の規定》第10条第2項、第13条第2項など)
これに対して、「死封」とは、そのような差押対象となる動産の使用を認めない、差押対象動産が文字通り使えない状態で封印されてしまっている方式の差押です。
経験的には、差押を受けている債務者も堂々と工場を運営している場合が多いですし、最高人民法院も堂々と「活封」を活用することを奨励しています。

これに対して日本はと言うと、日本でも、動産の差押をするときは、執行官が相当であると認めるときは、債務者に差し押さえた動産を保管させることができ、さらに相当であると認めるときは、その使用も許可することができます。(日本「民事執行法」第123条)
ただ、動産をそのまま債務者に占有させておくと紛失などのおそれがありますから、中国ほど堂々と使わせることは稀であるように思われます。
そもそも、日本でそのように事業に用いる設備が差し押さえられてしまうような状況になれば、民事再生や破産など倒産手続に入るでしょうから、そこも大きな違いかもしれません。

2023年6月27日火曜日

6月第3週:①酷暑・高温作業に関する事故防止、②ガスボンベの安全検査、③安全生産管理の「一案双罰」(両罰)

①酷暑・高温作業に関する事故防止

今年も暑くなってきたため、「防暑降温」業務に関する通知が国家衛生健康委員会弁公庁から発布されています。
以前から《防暑降温措置管理弁法》という衛生部などが連合で発布している規定もあって、日中の最高気温が35度以上になると「高温天気」として作業の停止や作業時間の調整などが命じられることになっています。
今回の通知では、業界や業種によって健康への影響は異なるので業務ごとに的を絞った対策を講じるべきこと、重点業界・業種ではアニメーションや短編動画などを用いて宣伝に注力することなどが規定されています。

②ガスボンベの安全検査

6月21日に寧夏回族自治区の銀川市で発生した爆発事故を受けて、各地でガスボンベなどガス爆発の原因になる隠れたリスクの特別取締活動を行う旨の発表がなされています。
山東省や江蘇省でも緊急に安全対策についての会議等が行われていますので、各企業においても改めてガス関連の安全管理にはご留意ください。

③安全生産管理の「一案双罰」(両罰)

ちょうどその6月21日の朝ですが、企業の安全生産管理に関する重大事故リスク2023年特別取締活動について、企業と主要責任者の双方を処罰する、いわゆる両罰規定の適用事例が発表されていました。
「主要責任者」や「主管人員」が会社のどのような地位にあるものかは記載されていませんが、常に董事長や総経理が処罰対象となるというわけでもなさそうです。もちろん、部下に責任をなすりつけるのは良くないですが、業務の分担を明確にすることで、何でも董事長や総経理の責任になってしまわないようにしておくことは事故防止のためにも大切かと思います。


2023年6月19日月曜日

6月第2週:①「盲盒」(福袋、ガチャ)のガイドライン、②建物内装の安全管理強化、③知的財産権局のマークの使用

①「盲盒」(福袋、ガチャ)のガイドライン

国家市場監督管理総局から、「盲盒」経営行為規範指針(試行)が発布されています。
「盲盒」とは、事前に商品の範囲は告知されているものの、確定した型式等は告知されていない状態で、消費者がランダム抽選の方式で特定範囲の商品を購入する取引方式をいいます。日本で言えば福袋やガチャのようなものかと思います。
抽選規則や抽選の確率などを公示すること、抽選結果を操作したり確率を変えたりしてはならないことなどが規定されています。

②建物内装の安全管理強化

住宅都市建設部から、建物内装の安全管理強化に関する通知が出ていました。
https://www.mohurd.gov.cn/gongkai/zhengce/zhengcefilelib/202306/20230609_772638.html
最近、黒竜江省のハルピン市で賃借人が無断で建物の耐力壁を撤去してしまったという事件が話題になったようで、建物の耐荷重構造に変動を生じてしまうような施工をしないこと、クーラーの室外機が落ちる危険があるときは直ちに固定又は交換すること等が規定されています。

③知的財産権局のマークの使用

知的財産権局のマーク(英語の「IP」と星の図案)を製品や展示パネルに使用する行為についての照会回答(批复)が公表されています。
国家機関の名義やイメージを宣伝に利用しているもので、《特許標識表示弁法》や《広告法》の規定に違反しているとの回答になっています。
製品の宣伝のために特許登録番号や発明名称などを表示することはあると思いますが、その際に知的財産権局のマークをついでに付してしまうのは違法ということです。