労働契約(雇用契約)は、日本では「期間の定めのない」労働契約であることが一般的です。そして、日本では労働契約書を締結することも強制されていません。ですから、長らくの間、そもそも労働契約書を締結しておらず、労働条件通知書のみで雇用関係が成立している状態が「正社員」であって、労働契約書を締結する場合は「契約社員」と称されてきました。
労働条件通知書は法律上の作成義務がありますし(日本「労働基準法」第15条、同施行規則第5条)、労働契約の内容を「できる限り書面により確認する」ことにもなっていますが(日本「労働契約法」第4条第2項)、労働契約書が締結されていなかったとしても、そのこと自体に対する直接のペナルティはありません。
これに対して、中国では、労働契約の締結義務が法定されています(《労働契約法》第10条)。
そして、これに違反した場合には2倍の賃金の支払義務を生じる(同第82条)というペナルティがあるほか、さらに無固定期間契約を締結したものと見なされるという扱いになってしまいます(同第14条第3項)。
(ちなみに、中国でも、もともと昔の《労働法》の時代から締結義務を定めた条文はあったのですが、罰則がなかったので、《労働契約法》ができるまでは労働契約が締結されていないことも往々にしてありました。その後、《労働契約法》でペナルティが設けられた途端、状況がガラリと変わり、ほぼ例外なく全ての従業員との間で労働契約が締結されるようになりました。)
そして、この中国で全従業員が会社と個々に締結している労働契約には、業務内容や勤務地が明記されています。(中国《労働契約法》第17条第1項第4号による法定記載事項です。)
ですから、労働条件通知書で一方的に通知しているだけの日本と違って、業務内容や勤務地が変わる場合には、いちいち、個々人との間で取り交わした労働契約書の変更が必要ということになってきます。
日本の「労働契約法」と、中国の《労働契約法》、奇しくも同じ2007年にできた法律ですが、日本の「労働契約法」に比べて、中国の《労働契約法》の方が条文数も多く、法律で企業に義務付けられている内容も多いです。
さらに、それぞれ基礎となる雇用をめぐる各種制度や実務運用が異なっているところも多いですが、中でも、この労働契約の締結義務、そして、それによる個々人との労働契約の拘束力は、日本と中国では全然違う部分ですので、是非覚えておいていただければと思います。
この労働契約書の有無は、実はさまざまな場面で人事労務管理に大きく影響してきます。現在、東海日中貿易センター様の会報誌にて連載いただいている「中国現法“攻め”と“守り”の組織作り」でもご紹介していく予定ですので、機会があればご覧ください。
0 件のコメント:
コメントを投稿