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2月14日の中国会社法改正セミナー:セミナー資料の目次(予定)

中国の会社法改正について、2月14日にオンラインセミナーでお話させていただく予定になっていますので、そのセミナー資料の目次をご紹介します。 下記は現時点で手元に用意してある資料案によるものですが、当日は時間の関係で全部はお話できない可能性がありますので、その点はどうぞご容赦くださ...

2023年9月26日火曜日

インボイス制度のインボイス(発票、適格請求書)の書式

日本のインボイス制度、いよいよ来月からスタートです。
直前になってようやくですが、始まるにあたって、これはなかなか大変なことであることが個人的に実感として分かってきたので、少し話題として触れます。

中国の増値税のインボイス制度では、商品の販売者や役務の提供者が発行するインボイス(中国語では「発票」といいます。)は書式が固定されていて、発行者の名称、金額や税率など、どこに何が書かれるか、一目瞭然になっています。
中国語が分からない人でも、どこに何が書かれているか、「慣れ」ですぐに分かるようになります。

一方、日本の消費税のインボイス制度にいうインボイス(適格請求書)は、なんと、「書式が自由」だそうです。

そうなると、受け取り側の方で、記載事項が揃っているかどうかチェックするのが、とても困難になります。
さらに、「必要事項が複数の書類に分かれて記載されていてもOK」とされているので、下図のように、必要事項がどこに書かれているのか、複数の書類から拾い出していかなければならないという負担が生じることもあります。















インボイス制度、受け取る側の方が大変という話は聞きますが、確かに、もらった請求書からこの①~⑥を探して拾い出す作業はなかなか大変だろうと思います。
今はAIがあるから大丈夫なのかもしれませんが、一昔前のアタマで、「スキャンしてOCRで読み込む」と考えると、「紙のこの位置に、この大きさ、このフォント、この順番で書く」というフォーマットを決めて欲しい!」という気持ちになります。

取引先に「我が社への請求書はこの書式でお願いします」とお願いしたいところですが、発行側からすると、顧客ごとに異なる書式で発行するのも大変ですよね...。

ネジ、蛍光灯、乾電池、トイレットペーパー、なんでも大きさがバラバラだと困るので、JIS規格で一定の規格が決まっています。
自由に放置すれば多様化・複雑化・無秩序化してしまうモノやコトについて、「統一」又は「単純化」することで便利になるということだそうです。

社内の経費精算で経理の方に領収書を渡すときに、この①~⑥を拾い上げる作業をしなければならなくなって大変ということもあるかと思います。
いつもいろんな機会に感じることですが、このインボイスも、書式・様式・フォーマット、統一されていると便利という場面の一例かと思いました。

2023年9月25日月曜日

9月第4週:①税務関連業務の基本準則、②道路運送の重大事故リスク判定基準、③ビザ申請書フォーマットの改訂

①税務関連業務の基本準則

税理士事務所及び税務関連の専門サービスを提供する会計士事務所、弁護士事所、財務・税務コンサルティング会社などを対象とした基本準則と職業道徳規則が、国家税務総局から公表されています。
書面での業務報告又は専門的意見を提供する場合は(個人名ではなく)事務所名義で依頼者に対して提出すべきこと、納税状況審査など4類の業務にかかわる場合はその業務を担当した税理士、会計士又は弁護士が捺印すること等が規定されています。
また、業務過程で知り得た国家安全情報や個人情報の秘密保持についても、職業道徳規則で規定されています。国家安全情報の秘密保持については、最近はさまざまな法令で見かけるようになってきました。

②道路運送の重大事故リスク判定基準

交通運輸部から、旅客や貨物の道路輸送に関する重大事故リスクの判定基準が発布されています。
企業が自らチェックして、問題を発見したときは管轄の交通運輸主管部門へ報告するように求められています。物流企業のみが対象ですが、速度超過や積載量超過、運転者の過労など運用面にもかかわる内容のようですので、ご参考までに。

③ビザ申請書フォーマットの改訂

外交部の定例会見で、中国入国のためのビザ申請表フォーマットについて簡素化したことが紹介されていました。
https://www.mfa.gov.cn/web/fyrbt_673021/202309/t20230920_11145944.shtml
学歴や家族情報の記述などの項目が簡素化されたようです。
出張時にビザが必要な状況はまだ続きそうですので、申請するときに手間が少しでも省けるのは良いことかと思います。

2023年9月21日木曜日

逮捕と勾留、拘留と逮捕(捜査段階での身柄拘束制度) + 居住監視

ニュース・報道を見るとき、私自身もよく用語で混乱してしまうので、この機会に書き留めておきます。

日本の「刑事訴訟法」では、ある個人について犯罪の嫌疑があって身柄拘束を要する場合、通常まずは逮捕状により警察機関により「逮捕」され(第199条以下)、その後、72時間のうちに検察官により勾留請求が行われて(第205条)、裁判所が勾留状を発することで引き続き「勾留」されることになります。勾留の期間は延長を含め20日間です(第208条)。つまり、逮捕と勾留の期間を合わせると、最長で23日間(3+20)となります。

一方、中国の《刑事訴訟法》ではどうかと言うと、まず公安機関が「拘留」(※中国語ママ)し(第82条)、「拘留」後3日以内に(延長可)人民検察院に「逮捕」の請求をします(第91条)。「逮捕」されるのは懲役以上の刑罰に処する可能性のある被疑者又は被告人に限られます(第81条)。「逮捕」による身柄拘束の期間は2ヶ月(これも延長可で、最長では7ヶ月)となっています(第156条~第159条)。

つまり、起訴される前の捜査段階の身柄拘束としては、日本が「逮捕」→「勾留」の順番なのに対して、中国は「拘留」→「逮捕」の順となっており、日本にいう「勾留」が中国では「逮捕」と称しているので、とてもややこしいです。また、「拘留」も、日本で「拘留」といえば刑事罰の一種(30日未満の刑事施設での拘置)ですから(日本「刑法」第16条)、これも用語がとても混乱しやすいです。(「こうりゅう」という読み方も重複してしまっていますし...)





ちなみに、中国ではこの「拘留」(日本にいう「逮捕」)の前に、さらに、
取保候审」(保釈)(中国《刑事訴訟法》第67条、第71条)という制度と、
监视居住」(居宅監視)(同第74条、第77条)という制度があります。
期間はそれぞれ前者が最長12ヶ月、後者が最長6ヶ月となっています(同第79条第1項)。
保釈の場合は、市・県を離れてはならないという制限であり比較的緩やかですが、
居宅監視の場合は、監視場所(原則は自宅や居所)を離れてはならないという制限になります。
いわゆる自宅軟禁のようなイメージですが、テロ活動など国の安全に関する犯罪の嫌疑がある場合は別の場所が監視場所となることもあります(中国《刑事訴訟法》第75条)。

制度が似ているところ、違っているところが混在しており、用語もとても紛らわしいので、ご参考になりましたら幸いです。

2023年9月18日月曜日

9月第3週:①福建省の両岸融合発展モデル区(台湾関係)、②経営者集中(企業結合)に関する独禁法上のコンプライアンス、③企業標準化促進弁法

①福建省の両岸融合発展モデル区(台湾関係)

中共中央と国務院から、台湾と福建省の海峡両岸の融合発展モデル区の建設に関する意見が出ています。
台湾の子女が大陸で就学することなど、台湾との間の人員往来を歓迎する方向のようです。法律職業資格を得た台湾住民が福建エリアで弁護士業務に従事できる範囲を拡大することも述べられています。
厦門(アモイ)と金門島の融合発展の加速ということで、金門島に電気・ガスを通したり橋を架けたり、共用インフラを整備していくことも考えられているようです。また、福州と馬祖島も同じく「同城生活圏」を作り上げようということが書かれています。
その他、かなり読み応えのある内容になっていますので、別の機会にじっくり読み解いてみたいと思います。
ちなみに、これに先立って9月2日、東莞も最も早い時期から台湾企業が進出していた地域であるということで、台湾との連携を深める「合作総体方案」が国務院により認可されています。

②経営者集中(企業結合)に関する独禁法上のコンプライアンス

《反独占法》に基づく経営者集中の申告(独禁法上の企業結合の届出)について、買収・M&Aや合弁会社設立を行う企業側の目線でチェックすべき事項についてのガイドラインが出ました。
申告は集中を実施する前に行わなければならないところ、その「実施」の基準については、登記手続の完了有無だけではなく、経営陣の派遣や実際の経営上の意思決定への関与、敏感な情報の交換や実質的な事業の統合などがあるかどうかが考慮されるとのこと。
合弁会社の新設については、合弁当事者が共同支配権を有する場合は申告対象になるところ、これについて具体的な事例(【案例】)として、事業計画や財務予算、高級管理者の任免など経営管理事項に関する拒否権の有無が挙げられています。
内容はこれまで既に法令で定められているところに準拠しており、新たな規制となるものではありませんが、企業側の目線で整理されているので、とても参考になるものと思います。

③企業標準化促進弁法

1990年に制定された《企業標準化管理弁法》が改正されて、新たに《企業標準化促進弁法》として発布されています。
《標準化法》第27条にも定められている企業標準の自己声明公開及び監督制度によって届出管理制度に代えるということで、公共サービスプラットフォーム上で10分で手続できて費用もかからないとのこと。
また、企業におけるイノベーションに寄与すべく、目立った経済社会的効用を生む企業標準については奨励を与えるとされています。



2023年9月14日木曜日

従業員との間の労働契約書(雇用契約書)の締結義務

労働契約(雇用契約)は、日本では「期間の定めのない」労働契約であることが一般的です。そして、日本では労働契約書を締結することも強制されていません。ですから、長らくの間、そもそも労働契約書を締結しておらず、労働条件通知書のみで雇用関係が成立している状態が「正社員」であって、労働契約書を締結する場合は「契約社員」と称されてきました。
労働条件通知書は法律上の作成義務がありますし(日本「労働基準法」第15条、同施行規則第5条)、労働契約の内容を「できる限り書面により確認する」ことにもなっていますが(日本「労働契約法」第4条第2項)、労働契約書が締結されていなかったとしても、そのこと自体に対する直接のペナルティはありません。

これに対して、中国では、労働契約の締結義務が法定されています(《労働契約法》第10条)。
そして、これに違反した場合には2倍の賃金の支払義務を生じる(同第82条)というペナルティがあるほか、さらに無固定期間契約を締結したものと見なされるという扱いになってしまいます(同第14条第3項)。
(ちなみに、中国でも、もともと昔の《労働法》の時代から締結義務を定めた条文はあったのですが、罰則がなかったので、《労働契約法》ができるまでは労働契約が締結されていないことも往々にしてありました。その後、《労働契約法》でペナルティが設けられた途端、状況がガラリと変わり、ほぼ例外なく全ての従業員との間で労働契約が締結されるようになりました。)

そして、この中国で全従業員が会社と個々に締結している労働契約には、業務内容や勤務地が明記されています。(中国《労働契約法》第17条第1項第4号による法定記載事項です。)
ですから、労働条件通知書で一方的に通知しているだけの日本と違って、業務内容や勤務地が変わる場合には、いちいち、個々人との間で取り交わした労働契約書の変更が必要ということになってきます。

日本の「労働契約法」と、中国の《労働契約法》、奇しくも同じ2007年にできた法律ですが、日本の「労働契約法」に比べて、中国の《労働契約法》の方が条文数も多く、法律で企業に義務付けられている内容も多いです。
さらに、それぞれ基礎となる雇用をめぐる各種制度や実務運用が異なっているところも多いですが、中でも、この労働契約の締結義務、そして、それによる個々人との労働契約の拘束力は、日本と中国では全然違う部分ですので、是非覚えておいていただければと思います。

この労働契約書の有無は、実はさまざまな場面で人事労務管理に大きく影響してきます。現在、東海日中貿易センター様の会報誌にて連載いただいている「中国現法“攻め”と“守り”の組織作り」でもご紹介していく予定ですので、機会があればご覧ください。








2023年9月11日月曜日

9月第2週:①企業名称管理の細則の改訂、②企業の設備投資に関する税制優遇、③不法移民の送還、④今年の国慶節休暇は8連休

①企業名称管理の細則の改訂

企業名称についての弁法が改正されています。
自己使用目的ではなく悪意をもって先に他社の名称などを登録してしまう行為や、一定の影響力のある名称に近い名称を故意に登録することなどが禁じられています。
また、不正に登録されている企業名称を排除する方法・手続については、従来どおり、①登記機関に名称紛争処理を申請する、②不正競争行為として行政機関に通報する、③人民法院に対して提訴する、これら3つの方法があります。

②企業の設備投資に関する税制優遇

8月はさまざまな税制優遇が相次いで発布されており、特に企業における設備購入を後押しするものが目立つようです。
先進的な製造業企業における仕入増値税控除の優遇措置:
設備・機器等の固定資産の企業所得税上の加速償却:
外資R&D機構における科学研究設備・装置等の増値税還付:

③不法移民の送還

日本でも話題になった不法移民の送還について、この送還前の外国人の身柄拘束中の取扱いに関する規定が出ていました。
ビデオ監視システムの録画資料は少なくとも90日は保存すること、身柄拘束された人員にも毎日2時間以上の室外活動時間を与えることなどが規定されています。
また、送還先は国籍国とは限らず、近くで便利な国に送還するとされています。

④今年の国慶節休暇は8連休

昨年12月に既に発表されていたところですが、今年は中秋節の連休が国慶節の連休とつながって、9月29日から10月6日までの8連休になっています。
https://www.gov.cn/gongbao/content/2023/content_5736714.htm
10月7日と8日の土日が振替出勤になっていますので、私を含め、中国業務にかかわる皆様にとっては多少不便があるかもしれません。スケジュール帳に書いておいていただければと思います。


2023年9月2日土曜日

9月第1週:①《会社法》改正草案(三次審議稿)の意見募集、②《民事訴訟法》改正、③《外国国家適用除外法》成立、④《行政再議法》改正

8月末はさまざまな法令や政策が相次いで出てきましたので、一度に全てご紹介することができないのですが、法律の制定・改正の件だけご紹介しておきます。

①《会社法》改正草案(三次審議稿)の意見募集

8月末にも成立するかと見込んでいた《会社法》改正ですが、すんなり成立とはいかず、3回目の意見募集が行われることになりました。
意見募集期間は9月1日から9月30日となっています。
内容についてはまだ詳しく見ていませんので、おって改めて別の機会にご紹介できればと思います。

②《民事訴訟法》改正

《民事訴訟法》が改正されました。2024年1月1日施行となります。
日系企業との関係では、国際裁判管轄に関する規定が拡充されている点が重要と思います。
当事者が管轄異議を出さず、答弁又は反訴をしたときは、中国の人民法院が管轄を有するとみなされることや、同一の紛争について一方当事者が外国、他方当事者が中国国内、それぞれ訴えを提起した場合、特に外国の裁判所を専属管轄裁判所とする合意がなければ受理してよいとすることなどの規定が追加されました。
また、外国当事者がかかわる場合の送達や外国判決の承認執行に関する規定も改正されているようです。

③《外国国家適用除外法》(外国国家豁免法)成立

《対外関係法》が先だって成立したとおり、中国は渉外法治の面についての法律の整備を進めています。
今回は《外国国家免除法》という法律が新たに公布・施行されました。これも2024年1月1日施行です。
外国国家やその財産に関する民事事件の司法手続について全面的・系統立てて規定して、国内法治と渉外法治を統合的に進めるとのことです。
外国国家が行う商業活動で、中国国内で行われるか中国国内に直接影響するもの(金銭の貸借を含む)については、外国国家に対する管轄免除の対象にはならない、つまり中国の司法権のもとで管轄があるものとして取り扱うことができることなどが規定されています。
国際条約等に定められた外国の外交機関などの特権が影響を受けるものではなく、国際条約等が優先されることも明記されているので、直ちに何らかの影響があるものではありません。しかし、外国側が中国の国家とその財産に対して与える免除待遇がこの法律に規定するよりも劣っている場合、対等の原則によるものとされているので、詳しく見ていく必要があるのかもしれません。

④《行政再議法》(行政复议法)改正

行政処分についての不服申し立てについて定める《行政再議法》が改正されました。同じく2024年1月1日施行です。
行政再議の対象範囲に収用決定及びその補償に関する決定が含まれることが明記されるなど、行政再議の範囲が拡大したことなどが改正点として挙げられています。


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その他、社会保険の異なる地方での引継ぎなどを含む事務取扱に関する規定や
若年者人材育成についての政策、また住宅ローン関連の緩和政策なども出ていました。


2023年8月31日木曜日

《外商投資法》施行による《会社法》準拠対応: 株主会の全会一致決議事項

先週ご紹介した、外商投資法対応の件で、もう一つ、是非知っておいていただきたい注意事項がありましたので、引き続き僭越ながら、ここで書かせていただきます。

従来、中国にある中外合弁会社においては、定款変更など重大事項については出資者双方が任命した董事全員が一致して決議する必要がありました。(《中外合資経営企業法実施条例》第33条第1項)
これに対し、《会社法》では、株主会や董事会における法定の全会一致決議事項は設けられておらず、定款変更などについても株主会における議決権の3分の2をもって決議可能です(《会社法》第43条第2項)。

ですから、日本側出資者の出資比率が3分の2を超えている場合、中国側出資者の意向に反していても、いわば「強行採決」してしまうことが可能になります。
ただ、だからこそ、気をつけないといけない「落とし穴」があります。反対株主による株式買取請求権です。(下記《会社法》第74条ご参照。)

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中国《会社法》
第74条  次に掲げる事由の1つがある場合には、株主会の当該決議について反対票を投じた株主は、会社に対し合理的な価額に従いその出資持分を買い受けるよう請求することができる。
  (1) 会社が連続して5年にわたり株主に対し利益を分配していないのに、会社が当該5年に連続して利益を取得し、かつ、この法律所定の利益分配条件に適合するとき。
  (2) 会社が合併し、分割し、又は主たる財産を譲渡するとき。
  (3) 会社定款所定の営業期間が満了し、又は定款所定のその他の解散事由が出現した場合において、株主会会議が定款変更の決議を採択して会社を存続させるとき。
  株主会会議の決議が採択された日から60日内に、株主が会社と出資持分買受合意を達成することができない場合には、株主は、株主会会議の決議が採択された日から90日内に人民法院に対し訴えを提起することができる。
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反対株主による株式買取請求権そのものは日本の会社法にもある制度なのですが、いかんせん、従来の《中外合資経営企業法》には該当する規定がなく、また、そもそも政府機関における手続上、ほとんど常に董事全員の署名のある決議書の提出が要求されていたという実務上の要因もあって、「強行採決」がなされること自体がほとんど見られませんでした。
しかし、今後は、会社法やこれに基づいて作成・修正された定款を見て、「中国側出資者が反対していても決議可能だ」と理解されて、強行採決に踏み切るケースも出てきそうに思います。

そのこと自体は何ら違法でも不合理でもないのですが、ただ、上記の反対株主による株式買取請求権のことを忘れて強行採決してしまうと、あとで思わぬ紛争になってしまうことも考えられます。
そのような事故を防ぐ意味では、従来の定款をなるべくそのまま踏襲し、定款変更などについては株主会でも全会一致決議を求めておく方が、安全策ということになるかもしれません。


2023年8月28日月曜日

8月第4週: ①水害からの復興、②「1件目」の住宅ローン、③15件の行政法規の改廃

①水害からの復興

各地で台風や豪雨による被害が出ているようで、その復興や水害防止の工事に関して、「以工代赈」(仕事を与えて救済に代えること)が奨励されています。
現地の群衆を工事に参加させて労働報酬を支払うことで家計に困難のある群衆に収入をもたらすとともに、工事に参加する過程で就業技能を高めること(「以工代训」)も求められています。
公共工事が行われることで復興関連需要も生じてくると思われますので、知っておくと何かのお役には立つかもしれません。

②「1件目」の住宅ローン

住宅ローン利率に関する優遇政策の適用に関し、「1件目」の住宅かどうかの認定基準について通知が出ています。
従来から、1件目の住宅取得時には住宅ローンの金利を低く抑えてもらえる政策優遇があるのですが、この1件目に該当するかどうかの基準に関する通知です。
「本人や家族がその都市で住宅を購入したことがなければ」、それ以前に住宅ローンを借りたことがあろうとなかろうと1件目と認定してよいとされています。
不動産をめぐる状況は各都市で異なるので、「一城一策」(一都市一政策)ということで各都市それぞれの政策が打ち出されています。およそ中国全般と一括りにするのではなく、各都市の状況を見る必要があるようです。

③15件の行政法規の改廃

国務院から14件の行政法規の改正と1件(製品品質監督試行弁法)の廃止が発布されていました。
《行政処罰法》に基づいて不合理な罰則等を取消・調整したこと、国際海運条例、道路運輸条例などの罰則の見直しといった内容だそうです。


2023年8月23日水曜日

《外商投資法》施行による《会社法》準拠対応: 株主会と董事会

《外商投資法》施行に伴っていわゆる外資三法が廃止され、中外合弁会社では《会社法》に適合するように定款変更(※)が求められています。
 (※)従来の中外合弁会社に関する《中外合資経営企業法》では「合弁契約」と「定款」が登場しましたが、《会社法》には「合弁契約」は登場しません。
  ですので、「合弁契約」の重要性は一歩後退して、「定款」の変更が主たるテーマとなります。

2024年末まで5年間の移行期間が設けられていますが、このうち2020年~2022年の3年間はコロナ禍による往来制限により面談ができず、「まだ5年もある」状況でしたので、しばらく様子見のままに過ぎていたような印象です。
そして、いよいよ今年の6月前後になって、多くの中外合弁会社では3年ぶり、4年ぶりとなるリアルでの董事会が開催されました。これに前後して、「そろそろ我が社も、《外商投資法》に合わせた定款変更を議論しよう」というお話になったのでしょうか、多くの企業で中国現地法人の合弁契約や定款の変更が議論されているようです。

これに関して、
「従来の董事会の決議事項を、そのまま株主会の決議事項にスライドさせてしまう」
また、これと似たようなものとして、
「その他すべての重大事項」を株主会での決議事項に入れてしまう
こういった合弁契約や定款の変更をお考えの例も見受けられます。

いろいろなところで見聞される情報の中で、
「董事会が最高権力機関だったところ、これからは株主会に変わる」ということから、
株主会が董事会に取って代わるようなイメージをお持ちになるのかもしれません。
また、
(A)「法改正があっても、法律上変更しないといけない部分以外は変えずに、従来どおり仲良くやりましょう」
(B)「董事会の上に株主会を作っても、同じような会議を2回開くのは重複で無駄なので、なるべく一つにまとめましょう」
という2つの発想も背景にありそうです。

ただ、上記のような対応は、あまり良くない場合もあるかもしれません。

というのは、株主会の決議事項について言えば、本当に法律上求められていることは、そのように「取って代わる」ことではなく、従来は董事会で決議していた事項の一部を株主会に移す(分離する)ことだけです。(所有と経営の分離、ということです。)
ですから、上記のように「全部を株主会にスライドさせる」という変更の提案をしてしまいますと、そのような変更案を提示された中国側の合弁パートナー側でも、やや面食らってしまう場合がありそうです。


ここで、少し日本の会社法の発想を振り返ってみますと、日本でも、取締役会設置会社の場合は、株主総会で決められることは法定及び定款所定の決議事項に限られます。(下記第2項)
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日本「会社法」
第295条(株主総会の権限)
1 株主総会は、この法律に規定する事項及び株式会社の組織、運営、管理その他株式会社に関する一切の事項について決議をすることができる。
2 前項の規定にかかわらず、取締役会設置会社においては、株主総会は、この法律に規定する事項及び定款で定めた事項に限り、決議をすることができる。
3 この法律の規定により株主総会の決議を必要とする事項について、取締役、執行役、取締役会その他の株主総会以外の機関が決定することができることを内容とする定款の定めは、その効力を有しない。
--------

なぜこのように株主総会での決議事項が限定されるのかというと、適切な役割分担のためです。
取締役会は経営のプロである方々の英知を集めて討論する場です。ですから、株主総会で株主自身が株主総会の場で何らかの議案を討論・作成しようとするよりも、取締役会で議論して議案を作ってもらった方が、多くの場合は、より経営の実態に即した株主にとっても利益になる議案になるはずと考えられます。
これは中国の《会社法》の制度設計でも同じです。
ですから、株主会に多くの決議事項を持たせるように定款で定めることは可能ですし適法でもあるのですが、全てを株主会に移してしまうことは、法律上はあまり予定されていない対応であろうと思われます。
(もちろん、董事会であれ株主会であれ実際に参加する顔ぶれは同じ、というケースがほとんどですから、実は分けるのは書類だけ、という場合も多いのですが...)


《外商投資法》によって変わるところは確かに色々あるのですが、
できれば従来の運営方法をなるべく踏襲して、なるべく最低限必要なところだけ修正する方が良いのではないか?
そのように思うこともありますので、ここで少し触れさせていただきました。


差し出がましいことで恐縮ですが、法律上求められる最低限の対応としては何が必要なのか、対応をお考えいただくご参考になるようでしたら幸いです。


【2024年1月17日追記】
 今回の《会社法》改正に至るまでの議論の過程(2021年12月の第1次改正草案)では、法定の董事会決議事項を列挙せずに、
 「董事会は、会社の執行機構であり、この法律及び会社定款所定の株主会の職権に属するもの以外の職権を行使する。」とだけ規定する案となっていました。
 つまり、ほとんど全ての事項を株主会に委ねてしまうことも可能でした。
 しかし、最終的にはほぼ現行法どおりの内容となりました。
 そのような経緯からしても、法定の董事会決議事項を株主会に移してしまうことは、おそらく認められないように思われます。

2023年8月21日月曜日

8月第3週: ①知的財産権法執行強化、②団体標準から推薦性国家基準へ、③環境事件に関する2つの司法解釈

①知的財産権法執行強化

国家市場監督管理総局から、新時代の知的財産権の取締強化ということで意見が出ています。
2025年までにネットワーク環境における取締の難題を解決するとの目標や、業界団体や仲介機構(特許事務所など)との連携などについて述べられています。

②団体標準から推薦性国家基準へ

社会団体などが制定・公布した団体標準のうち技術的な先進性、指導性のあるものを推薦性国家基準に採用することに関する暫定規定が出ています。
https://www.samr.gov.cn/zw/zfxxgk/fdzdgknr/bzjss/art/2023/art_646c3799c2d348ef8fd90a2437fdcf95.html
全国で比較的受け入れられており効果の高い団体標準については、推薦性国家基準に取り上げる際の手続を短縮することなども盛り込まれています。

③環境事件に関する2つの司法解釈

環境関連の権益侵害紛争における法律適用に関する司法解釈と、同じく環境関連事件における証拠をめぐる規定が発布されています。
環境汚染事件においては因果関係が複雑であり損害との関わりが直ちには判明しないことを考慮して、時効の起算点を被害者保護に有利なように、加害者その他行為者が判明した時点から起算することなど、環境事件特有の事情に配慮した内容になっているとのこと。
証拠についても、一般的被害者の手元に証拠が乏しいことから立証責任を軽減するための書証提出命令の活用や、司法鑑定に時間や費用がかかることや専門家の鑑定への過度の依存による問題などを考慮した規定が置かれているとのことです。

2023年8月16日水曜日

【体験レポート】自動翻訳の附属ツール「TexTra Files」(+VoiceTraアプリ)

NICT(情報通信研究機構)から提供されている「みんなの自動翻訳@TexTra®」という自動翻訳サービスがあり、個人的にときどき使ってみています。
この「みんなの自動翻訳」の関連アプリで、
「PCのデスクトップにショートカットを置いておいて、
 翻訳したいファイルをそこにドラッグ&ドロップすれば自動で翻訳してくれる」
というツールが紹介されていたので、使ってみました。
 (下記⑤のとおり、業務上の使用には適しない点、あらかじめご留意ください。)

自動翻訳、便利ではあるのですが、使うときには
 (1) Webサイトやアプリを開く、
 (2) ログインする、
 (3) 翻訳機能のメニューを選ぶ、
 (4) 翻訳したいファイルを選ぶ、
 (5) 翻訳が仕上がるのを待つ、
 (6) 仕上がったファイルを開いてみる、
 (7) どこかに保存する、
というように、何回もクリックや入力が必要になりますので、
ついつい使うのが「面倒」「おっくう」になります。
これに比べて、このツールと使うと、この手間がかなり省略できます。

【操作の流れ】
-----------
デスクトップ上にあるアイコンに、ファイルをドラッグ&ドロップ





  ↓
何語から何語に翻訳するのか指定するウインドウが開く
 (一度指定してしまえば、次からは同じ設定のまま開くので、毎回指定する必要はないです。)







  ↓
「OK」を押すと翻訳サーバー上にアップロードされます。





  ↓
翻訳完了待ちの画面が開きます。
 (状況欄が「処理中」→「完了」になれば、翻訳完了です。
  私はせっかちなので、何度も「更新」ボタンを押してしまいます。)











  ↓
「ダウンロード」ボタンを押すと、指定した場所に翻訳済みのファイルが出てきます。
 (今回はデスクトップ上にファイルが出来上がるように指定してみました。)






-----------
このように、簡単な操作で自動翻訳済みのファイルが出来上がります。


但し、使ってみると、ちょっと不便かな?と思うところもありましたので書いておきます。

① 「みんなの自動翻訳@TexTra®」のユーザー登録と、初回利用前にAPIの設定が必要です。これが少し面倒です。(一度設定してしまえば後は特に面倒なく使えます。)
② 最初インストールしたとき、なぜかショートカットにドラッグ&ドロップできず困りました。(一度ショートカットを削除して、プログラム本体のファイルから改めてショートカットを作り直したら、無事に起動するようになりました。)
③  出来上がったファイルが自動的にデスクトップに出てくるのかと思っていたのですが、2~3回、ボタンを押す操作が必要です。
④ WordやExcel、pptの古いファイルには対応しておらず、拡張子を変えて新しい「.docx」「.xlsx」「.pptx」のファイルにしないと翻訳できません。
⑤ PDFファイルでもOCR処理をして翻訳してくれます。ただ、OCR処理を介するゆえ、翻訳精度は悪くなっている印象です。(OCRの段階で、かなり誤字が発生していました。)
⑤ 翻訳対象として入力したファイルのデータはNICTで二次利用されるようです(利用規約第4条3)。ですので、個人情報や業務上の秘密情報など、秘密にする必要がある情報を入力してはいけません。(一般に公開されているような資料の翻訳にしか使えません。)

ということで、⑤の部分で、業務には使えず、各社でご利用されている業務用の翻訳サービスを使わないといけないことになってしまうと思います。

ですので、
業務用に使えるものとしては、別途、業務用の翻訳サービスに連係させることにして、
事務所のスタッフの方々に無理をお願いしまして、
「Aフォルダ(下の写真の左側)にファイルを入れて何分か待てば、自動的に、
 Bフォルダ(同右側)に翻訳されたファイルがアウトプットされてくる」
という仕組みを(手作りで)作ってもらいました。






事務所で使っている別の有償のサービスと組み合わせたものらしいのですが、
これはこれでなかなか便利ですので、今後ありがたく使わせていただこうと思っております。

便利な翻訳サービス、いろいろあるようですから、少しでも手軽に使えるように、
一つご参考になればと思います。



ちなみに、余談ですが...

同じくNICTから提供されている「VoiceTra」というスマホアプリがあります。
これも私は非常に気に入っています。
何故かと言うと、日本語で音声入力して外国語に変換された後、「こういう意味の外国語に変換しましたよ」というのが同時に表示されるのです。
(普通の翻訳アプリは、一方通行で、日本語→外国語の2段しか表示されないですが、
 このVoiceTraは日本語→外国語→日本語と3段で表示されます。)

「ちゃんと訳してくれているのかな...」という不安が無くなりますので、
是非一度お試しいただければと思います。

但し、惜しむらくは、実際の会話で使おうとすると意外に使い方が難しく、数秒のタイムラグも生じるので、思いのほかストレスが大きいです。現状では、「下手でも自分で話した方がよいかな?」と感じています。
使いこなせるまでには、私自身の訓練にもう少し時間がかかりそうです。



(なお、この記事を書くにあたり、詳しい方々のご助言等は特に受けておりませんので、
 もし私の誤解で「もっと便利に使えますよ」という点があれば、是非ご指摘ください。
 可及的速やかに訂正・補充いたします。)

2023年8月14日月曜日

8月第2週:①外商投資環境のさらなる改善、②高温・寒冷に関する労働者保護(モデル文書)、③フォーラム活動に関する規制

①外商投資環境のさらなる改善

国務院から7月25日付で、外資による投資をさらに呼び込むことに関する意見が出ていました。
入札によらない「首购」「订购」(イノベーション推進のために、市場に出ていない先進技術等を政府調達すること)による支援も内国民待遇の対象として言及されていることは、外資系企業の事業にも有利かと思います。
ビザについても、外資誘致や展覧会などのために必要な場合にマルチ(多次)の商用ビザを発給する措置などが挙げられています。
他に目を引く項目としては、「重要データ」や「個人情報」の国外移転(出境)について、「グリーンゲート」(绿色通道)として安全評価を効率よく行うこと、北京、天津、上海、珠江デルタなどでは試験的に「自由に流通可能な一般データリスト」の作成を模索することが述べられています。

②高温・寒冷に関する労働者保護(モデル文書)

暑い日が続く中、業務場所の高温・寒冷な気候における労働者保護についてのモデル文書が、人社部、全国総工会などから共同で公表されています。
《防暑降温措置管理弁法》では企業は防暑降温業務制度を確立することが求められており、何らかの問題があったときには制度が未制定・不備であること自体が法定の義務違反として指摘される可能性もあります。
今回のものはあくまで「参考文書」ですが、社内規程を整備する際の参考になると思われ、それほど分厚いものでもないですので、機会があればお目通しいただくと良いかと思います。

③フォーラム活動(论坛活动)に関する規制

政府機関や正規の組織が行っているフォーラム活動と紛らわしい、「ニセモノ」のフォーラムが開催され、市場秩序が乱されているということで、このような「ニセモノ」フォーラムの取締に関する通知が出ています。
先般、7月8日にも、11部門から共同で、フォーラム活動に関する特別整理業務に関する通知が出ていました。
フォーラムの名目で違法な詐欺などの犯罪を行うものに関与しないことは当然として、それ以外にも、商業目的で「中国」「中華」「全国」「国際」「高峰」などの用語を使ってフォーラムを開催することは違法となることがあるなど、注意すべき点があります。

2023年8月9日水曜日

外国人の雇用と、刑法の国外犯処罰(国外での行為は罪に問えない?)

ちょうど《対外関係法》も成立・公布されましたので、少し、日本の経営者・人事労務管理者の方々に知っておいていただきたい話題を一つご紹介します。
「刑法犯の国外処罰」についてです。

日本も中国も、それぞれ自国内で犯罪行為が行われた場合には、自国民であろうが外国人であろうが、当然、刑法による処罰対象となります。
一方、【国外で】犯罪行為が行われた場合については、「自国民でも外国人でも処罰する」場合と、「自国民のみ処罰する」場合、そして「我が国での処罰対象とはしない」場合があります。
 (注意事項として、日本の場合、「国民」かどうかは国籍で判断されます。住民登録や永住権の有無は関係しないようです。)

日本の「刑法」では、第1条から第4条の2まで、それぞれどの場合に当たるのか、犯罪行為によって詳しく規定されています。
一方、中国《刑法》では、第6条から第11条までに規定がありますが、日本ほど細かく規定されておらず、概ね最高刑・最低刑が3年の有期懲役になるかどうかで分けているようです。

ここで、日本の経営者・人事労務管理者の方々に知っておいていただきたいのは、社内で行われる不正行為についてよく問題になる窃盗、詐欺、横領、背任といった犯罪については、「自国民(=日本国民)のみ処罰する」という類型に分類されていることです(※)
つまり、(日本国外で)同じ行為をしても、日本人従業員なら日本の刑法で処罰できるのに、外国人従業員の場合は日本の刑法では処罰できない、ということが起こり得ることになります。
 (※) 但し、会社法上の特別背任罪の場合は、別途、国外犯処罰の規定が設けられているので(日本「会社法」第960条、第971条)、外国人による国外犯の場合でもなお処罰対象となります。念のため。

私(金藤)、個人的には、日本国内においては少子化の続く中で日本国内の企業でも外国人の募集・採用は積極的に進めていただく方がよいと思っており、様々な機会でそういったお話もさせていただいていますし、また、そもそも国籍を理由にして雇用差別をすることは違法でもあります。
しかし、だからといって無防備・無造作に従来の日本人の方々に対するのと同じ方法で外国人の方々を雇用することは、必ずしも適切ではない部分もあると感じます。
日本人従業員と外国人従業員に差がないわけではなく、実際にはこういった社内での重大な問題を起こした場合の処遇など、かなり重要な部分で日本人従業員とは異なる部分もあります。
普段そういった問題に遭遇することはほとんど無いはずではありますが、外国人従業員の方々の雇用管理について、一つの知識として、考慮しておいていただければと思います。

2023年8月7日月曜日

8月第1週:①党と政府の法規に関する学習、②中小企業への融資促進、③ドローン輸出規制

①党と政府の法規に関する学習

中国共産党中央委員会弁公庁と国務院弁公庁から、指導者・幹部において知っておくべき法規リストを作成することに関する意見が出ています。
https://www.gov.cn/zhengce/202308/content_6896297.htm
共産党内の規則と国家の法規をともに対象としており、分級分類してリストを制定することとされています。指導者・幹部の教育体系にも組み入れられるとのこと。
習近平法治思想の信仰者、伝道者、実践者となるべく学習が求められています。

②中小企業への融資促進

工業情報化部など5部門共同で、中小企業への融資促進行動の通知が出ています。
https://www.gov.cn/govweb/zhengce/zhengceku/202308/content_6896043.htm
単なる融資だけでなく、出資やIPOを目指す育成などまで含めて、各地の政府機関が連携して取り組むこととされています。多様な研修方式も列挙されています。

③ドローン輸出規制

日本の新聞等でも報道されていましたが、ドローンの輸出規制が拡大されました。
一定の基準を超える性能を有するドローンを両用物品及び技術輸出許可証による管理の対象とするようです。
いわゆる「両用物品」とは、核兵器や生物兵器、ミサイルなどの軍事用途と、民生用途の両方に使える物品です。これら両用物品については昔から輸出入許可管理の目録があり、ときどき調整されています。
今回のドローンをめぐる管制措置は臨時のもので、その実施期間は2年を超えないと規定されています。

2023年8月3日木曜日

中国の「社会保険」と、日本の「社会保険」


中国で「社会保険」というと、いわゆる中国語の「五险」、養老保険、医療保険、労災保険、失業保険、出産保険の5つを指します(中国《社会保険法》)。
一方、日本では、「社会保険」というと、健康保険(介護保険含む)と厚生年金保険の2つを指し、労災保険と雇用保険は「労働保険」と分けて呼称しています。
(といっても、中国の方々に説明するときは、「労働保険」と説明しても通じないので、「労災保険と失業保険」とご説明しています。)
社会保険は従業員を雇っていなくても法人を設立するときは加入しますが、労働保険は従業員を雇用するときに加入するので、実は会社設立の段階での手続で少し違いが出てきます。

なお、中国の「生育保険」は妊娠・出産・育児のための医療費用や休業期間における手当の給付を行うものですが、これは日本では雇用保険(育児休暇取得者への育児休業給付金)と健康保険(出産手当金、出産育児一時金)に分かれています。
思わず「社会保険」と一言で済ませてしまうのですが、実はその意味合いは日本と中国で違うということ、もし区別の必要がある場面に出会ったら、少し気に留めてみていただければと思います。

2023年7月31日月曜日

7月第4週: ①「車聯網」(クルマのインターネット)産業標準体系、②サイバーセキュリティ保険、③税制優遇のガイドラインとリスト

①「車聯網」(クルマのインターネット)産業標準体系

スマート・コネクテッドカーに関する各種の標準(規格・基準)の制定についてのガイドラインが公表されています。
https://wap.miit.gov.cn/zwgk/zcwj/wjfb/tz/art/2023/art_32a82e4b38564e0586d587919a2fa782.html
センサー・レーダーや通信に関するもの、決定・操作に関するもの、アプリケーションやインターフェースに関するもの、といったように各種の規格が必要になりますので、これらを2025年、2030年と区切りを定めて整備していくことが記載されています。
末尾別紙一に、現在既にある又は現在検討中の基準・規格や、それと対応する国際規格をまとめた表がついていますので、この表だけでもご覧になると、開発の場面などで参考になるかもしれないと思います。

②サイバーセキュリティ保険

ネットワーク安全に関するリスク管理の促進などのためにネットワーク安全保険を健全に発展させていくことに関する意見が、工業情報化部と国家金融監督管理総局から発布されています。
https://wap.miit.gov.cn/zwgk/zcwj/wjfb/yj/art/2023/art_0cc1cefdb4e74a169e0a98649c427153.html
業界や場面に応じたリスクに応じた豊富な保険商品を開発していくことなど、保険会社に関する内容が主ですが、リスク評価やモニタリング技術を向上させること、中小企業のネットワーク安全の防護自能力を高めることなど、保険の普及を通じて企業の安全対策を向上させていくことも意識されているようです。

③税制優遇のガイドラインとリスト

国家税務総局から、各種の税制優遇について、享受主体、優遇内容、享受条件、根拠規定の4つの面から整理したガイドラインが公表されています。
別紙として税制優遇に関連する法令や通達のリストが添付されています。

2023年7月26日水曜日

中国における問題発生時の広報対応(2つの対照的な事例。従業員を処罰すべきか否か)


ニュースなど見ていますと、「日本でも中国でも同じなのだな」と感じることもたくさんあります。

2018年にセミナーをしたときにご紹介した事例ですが、同じように衛生上の問題が大きく報道された2つの会社で、会社側の応対によって評価が大きく分かれたケースがありました。

(1)飲食業H社の事例
  厨房にネズミが繁殖している2店舗の動画が公開された。
  報道から4時間のうちに「事実に相違ない」「改善する」と謝罪。
  問題店舗の従業員を処罰せず、「責任は董事会が負う」と言明。
⇒ 従業員に責任を転嫁しない態度で、大衆に好意的に受け止められる。

(2)ホテル業Q社の事例
  顔を洗うミニタオルで清掃員がトイレを清掃している等の報道。
  同じく事実を認め謝罪したものの、その内容で「問題を起こした従業員を処罰した」
との部分があったために、かえって批判の的に。
⇒ 問題を一部の従業員の範囲に限定しようとしたことが逆効果に。


今は日本で発信した情報が直ちに中国でも報道されるような時代です。
中国で事業展開なさっている企業の方々においては、中国での受け取られ方についても少し気にしてみていただけると、より良い対応になる場面もあるかもしれないと思います。




2023年7月24日月曜日

7月第3週:①レンタル工場・倉庫の消防安全、②3つの消費促進政策、③領事保護・協力条例

①レンタル工場・倉庫の消防安全

賃借工場・倉庫の消防安全管理についての管理弁法が国家消防救援局から出ています。
工場・倉庫の賃貸人と賃借人は、各々の消防安全責任を書面で明確にしなければならず、そうでない場合は賃貸人が避難口(非常口)や消防施設など、賃借人は建物についての消防安全の責任を負うとされます。
それぞれの当事者が履行すべき事項も列挙されていますので、一読いただくと参考になる部分もあるかもしれません。

②3つの消費促進政策

家電や家具、インテリアなどに関する13部門共同での消費促進に関する措置が打ち出されています。
インターネットの活用やリフォームの促進などが述べられています。
このほか、発改委ほかいくつかの部門から、電子製品と自動車の消費促進に関する措置が発布されています。
それぞれあまり具体的な事項は書かれていないようですが、重点とされる項目を確認する参考にはなりそうに思います。

③領事保護・協力条例

国外の中国公民・法人・非法人組織の正当な権益が侵害を受けた場合や支援を要する場合に、在外中国公館が権益保護や支援を提供することに関する新しい条例が公布されています。
政府の各機関が国外に赴く旅行者などに対して危険に関する情報を事前に告知することなどが規定されています。
現地での法律・翻訳・医療などの情報についても必要に応じて相談に対応することとなっています。



2023年7月17日月曜日

7月第2週:①生成AIサービス管理暫定弁法、②「自媒体」(自社サイト、ブログなど)の管理強化、③食品経営許可及び届出管理弁法

①生成AIサービス管理暫定弁法

中国でチャットGPTなど生成AIに関する管理弁法が国家インターネット情報弁公室など7部門共同(もちろん公安部も入っています)で発布されています。
見てみると、中国国外から提供されるサービスであっても、この弁法その他中国の法令違反があれば、中国の政府機関による技術的措置その他の措置の対象となるようです。
生成AIを利用して作成されるテキスト、画像、音源などコンテンツを提供するサービスが対象です。
サービス提供者には、データ及び基礎モデルの由来が適法であること、他者の知的財産権を侵害しないことなどが求められているほか、先日ご紹介した「深度合成(ディープフェイク)」に関する管理規定に基づく表示を付す義務や、ユーザーによる違法な活動への利用を発見した場合の通報義務などが課されています。
一方、公衆へのサービス提供を行っていない、企業内部での研究開発などに利用する場合はこの弁法による規制の対象ではなく、むしろ生成AIを使って各分野で新サービスを生み出していくことは奨励されています。

②「自媒体」(自社サイト、ブログなど)の管理強化

企業や個人が自ら情報を発信できる「自媒体」(owned mediaとかself-mediaと呼ばれます。SNSなども該当します。)について、国家インターネット情報弁公室から管理強化の通知が出ています。
国内外にかかわることや公共政策・社会的事件に関する情報を発信するときは目立つ位置に情報源を記載するようにすること、自ら撮影した動画や写真を掲載するときは撮影日時や場所などを記載することなど、情報の由来についての管理にも言及されています。
いわゆるインフルエンサーのマネジメント等を行うMCN(multi-channel network)機構についても違法行為があった場合にはサービス提供制限などの措置を講じること、デマや違法情報を流す「自媒体」については一律に閉鎖することなども改めて規定されています。

③食品経営許可及び届出管理弁法

食品経営許可に関する管理弁法が改正されました。
食品販売や飲食サービスに適用されるもので、食用農産品や事前包装済食品を販売するだけの場合は適用対象ではありません。
既に《食品安全法》の改正などによって許可制から届出制に変わっていた部分を反映したことや、届出・報告事項への規制緩和、許可手続を簡素化したこと等が改正点として紹介されています。