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2月14日の中国会社法改正セミナー:セミナー資料の目次(予定)

中国の会社法改正について、2月14日にオンラインセミナーでお話させていただく予定になっていますので、そのセミナー資料の目次をご紹介します。 下記は現時点で手元に用意してある資料案によるものですが、当日は時間の関係で全部はお話できない可能性がありますので、その点はどうぞご容赦くださ...

2023年10月31日火曜日

10月第4週:①愛国主義教育法、②未成年者ネットワーク保護条例、③消費者クレーム情報の公開

①愛国主義教育法

日本でもニュースで報道されていますが、「愛国主義教育法」という法律が制定されました。
対象としては全国民ですが、そのうち特に学校や家庭における青少年・児童の教育は特に重視されているようです。また、国家機関の公職者や、企業の従業員、香港・マカオ・台湾の同法、海外の華僑など、それぞれに対して教育活動を行うべきことが規定されています。
歴史文化教育や「一国二制度」、さらには「台湾独立」や分裂に対する対抗などについても言及されています。
日本企業にとっては、抗日戦争勝利記念日や南京大虐殺公祭日などについても規定されているところが注意点となると思います。
(その他、日系企業の方々に気をつけていただきたい日付については、こちらもご覧ください。東海日中貿易センター様の会報誌5月号にもご掲載いただいています。)
山河の観光などにより悠久の歴史や文化に触れることなどにも触れられており、なかなか興味深い内容になっています。

②未成年者ネットワーク保護条例

ネット上における未成年者の保護に関する基本的な法令となるべく、《未成年者ネットワーク保護条例》が制定されました。
https://www.gov.cn/zhengce/content/202310/content_6911288.htm
内容については、色情的、暴力的なものや、賭博、さらには自傷自殺へ誘引するような情報は禁止されています。具体的な種類や範囲、判断基準、注意喚起表示の方法などは、各関係政府部門により確定されるとのこと。
ネットにはまってしまって正常な学習生活が送れなくなってしまうことの予防や対策についても規定されています。

③消費者クレーム情報の公開

市場監督管理局が受け付けたクレーム情報の公示について、新しい規則が発布されています。
12315プラットフォーム上で原則公開されることになっています。
虚偽や悪意のクレームについては公開されないことになっていますので、初動対応で如何に事実の根拠の有無を確認するかが重要になってきそうです。


2023年10月27日金曜日

賃貸借契約の期間



賃借物件を工場・倉庫として使っているとき、契約期間を30年と定めて借りていたのに、ある日、「法律上は20年が上限です」と言われて立ち退きを求められ、賃料の値上げなどを要求されるケースがあります。

賃貸借の期間については、日本でも中国でも法律上の制限があります。
日本では、民法上は50年が上限となっています(日本「民法」第604条)。以前は20年でしたが、民法が改正されて50年になりました。日本では不動産の賃貸借については借地借家法が適用される場合が多く、土地の賃貸借については下限が30年になっているので(日本「借地借家法」第3条)、民法上の上限よりも借地借家法の下限の方が長くなるという少し不思議な状況でしたが、それは解消されています。
一方、中国では、賃貸借期間の上限は、以前の日本と同じく20年となっています。そして、20年を超える部分は無効とされています。(中国《民法典》第705条)
更新することはできますので、当事者間で改めて契約すればよいだけなのですが、冒頭に述べた事例のとおり、条件が悪化することもあります。

中国では土地は国家・集団所有であり、企業や個人は土地使用権が付与されるに過ぎません(中国《憲法》第10条)。そして、この土地使用権には期限が付されているので、土地使用権と賃借権を混同してしまって勘違いされている例もあります。気をつけてみていただければと思います。




2023年10月23日月曜日

10月第3週:①非銀行金融機構の行政許可事項、②特許の実用化推進、③汚染物排出の自動モニタリングデータ

①非銀行金融機構の行政許可事項

銀行以外の金融機関(リース会社など)に関する行政許可事項の実施弁法が改正されました。
海外の非金融機構が金融資産管理会社の出資者となることを認めるなど、参入条件が若干緩和された部分があるようです。また、出資者の資質審査についての規定を拡充したとのこと。
純資産など財務状況に関する条件も具体的な数字で示されているので、実務上は関係する事業をされている場合は参照する機会がある規定かと思います。

②特許の実用化推進

特許の実用化推進のための特別行動方案(2023~2025年)が国務院弁公庁から発布されています。
https://www.gov.cn/zhengce/content/202310/content_6910281.htm
スタートアップへの投資などにつき優先株や転換社債、科学成果とストックオプションによる資本参加、知的財産の証券化などについて言及されています。

③汚染物排出の自動モニタリングデータ

最高人民法院、公安部、生態環境部の3部門共同で、環境関連の汚染物排出の自動モニタリング設備への干渉、データの改ざんなどを行ったことに関する処罰事例を公表しています。
https://www.mee.gov.cn/ywgz/sthjzf/zfzdyxzcf/202310/t20231019_1043534.shtml
「COD除去剤」による汚染の隠蔽など、既に他のところでも見たような事例が紹介されていますが、事案の経過が比較的細かく紹介されているので、環境汚染に関する事案の発覚から処罰の決定までのプロセスについて、参考になるものと思います。


2023年10月20日金曜日

会社の印鑑の差押


会社の公印(中国語「公章」)は、会社名義での各種手続をするのにも、契約を締結するのにも使います。果たして、これが差し押さえられてしまうことがあるでしょうか。

日本の「民事執行法」では、「実印その他の印で職業又は生活に欠くことができないもの」は差押禁止動産の一つです(第131条第7号)。

中国でも、差押禁止動産は日本と概ね似たような物品が列挙されているのですが、印鑑はその中に含まれていません(《人民法院の民事執行における財産の封印、差押え及び凍結に関する最高人民法院の規定(2020年)》第3条各号参照)。
ですので、会社の公印が差し押さえられることもあり、実際に一部の裁判所では、公印の差押をして労働者への未払賃金の支払を実現した成功事例を公表しているところもあります。
公印を差し押えても競売を通じて売るわけにもいかないでしょうし、いったいどう処理するのか不思議ですが、裁判所も、法律に反しない範囲でいろんな方法を工夫しているようです。

2023年10月16日月曜日

10月第2週:①工業情報化部などの編制変更、②「普恵金融」推進、③中国共産党の幹部教育

①工業情報化部などの編制変更

いくつかの政府部門について、その職責、組織機構などについて、編制の調整が行われています。
工業情報化部については、科学技術部に属していた科学技術開発区などの建設業務や、技術市場・科学技術仲介などの業務が工業情報化部に移されています。
https://www.gov.cn/zhengce/202310/content_6908734.htm(工業情報化部)
中国人民銀行、国家衛生健康委員会、社会科学院についても同様にいくつかの組織や職責の調整が行われているようです。

②「普恵金融」(Financial Inclusion:金融包摂)の推進

普遍的にあまねく全ての人々が金融サービスを受けられることを推進していくということで、「普恵」、普遍的に恩恵のある金融体系についての実施意見が国務院から出ています。
https://www.gov.cn/zhengce/content/202310/content_6908495.htm
農村などで金融機関の視点などが置かれていない地方でも金融や保険のサービスが受けられる、零細企業や個人事業主でも直接に融資が受けられる、脱貧困のための小額貸付が得られるなど、広く金融サービスが受けられることを目標としています。
地方ごとの特徴ある農産品保険の奨励など、比較的具体的な施策も挙げられています。
消費水準がまだそれほど高くない地方都市や農村に向けたビジネス展開を考慮するときには、これら政策の活用も考慮いただくと有益かと思います。

③中国共産党の幹部教育

これは業務にはほとんど関係ないのですが、中国共産党中央委員会から幹部の教育研修に関する業務についての条例の改正が公表されていました。
https://www.gov.cn/zhengce/202310/content_6909282.htm
内容については勉強不足なのでよく分からないのですが、研修に参加する日数や時間数が決められているようで、また財政支出によらず本人負担で参加しなければならない研修もあるなど、幹部になるのも楽ではなさそうだということだけは感じられます。

2023年10月13日金曜日

銀行口座の開設(会社名義の銀行口座)

中国では、会社設立と銀行口座開設は一連の手続です。
そもそも資本金を払い込む時点から、資本金を払い込む基本口座という口座を開設する必要があり、それが会社設立の手続の一部として組み込まれています。
また、事業における資金決済も、会社の口座を通さなければ営業許可を得た会社の事業と認められず、個人の口座を使うと無許可の個人営業をしているか会社のおカネを横領しているように見えてしまいますから、会社名義の口座が無いということは通常あり得ません。
ですから、中国の方々は、「日本で会社を設立する」→「会社名義の口座ができて当たり前」と思っておられる場合があります。

ところが、日本では、会社を設立しても銀行口座を開設できるとは限りません。
むしろ近時では、個人事業のときから一定の取引実績を作っておかないと、法人成りしようとしても会社名義の銀行口座を開設してもらえないことがあります。
この規制をクリアするために架空の取引実績を作ることを請け負うような業者もいる、という話も耳にするほどです。

例えば、中国の企業や個人が日本のとある会社の事業を引き継ごうとする場面で、
「事業譲渡がよいですか? 株式譲渡がよいですか?」
というご質問を受けることはよくあります。
そういった場面では、この銀行口座をめぐる両国の事情の違いも少し考えてみていただければと思います。


2023年10月11日水曜日

売買代金額の75%の支払(所有権留保の75%ルール)


所有権留保付き売買について、中国には独特なルールがあります。

所有権留保の約定があっても、買主が75%以上の代金を支払っていると、売主は目的物を取り戻すことができなくなります(《売買契約紛争事件を審理する際の法律適用問題に関する最高人民法院の解釈(2020年)》第26条)。
破産の場合でも、売主が破産した場合であれ、買主が破産した場合であれ、売主はもはや目的物を取り戻すことができなくなります《「企業破産法」の適用にかかる若干の問題に関する最高人民法院の規定(二)(2020年)》第35条、第37条)。
さらに、2021年1月1日から施行された《民法典》では、「売主が目的物について留保する所有権は、登記を経ない場合には、善意の第三者に対抗することができない。」という条文が追加されました(《民法典》第641条第2項)。これに伴い、現在では、動産を対象とする場合であっても、中国人民銀行信用調査センターでの登記が第三者対抗要件として必要になっています。
設備の売買などでは、最終回の支払として10%程度を「品質保証金」などの名目で納品後1年ほど残してあることが多いのですが、そのような場合、残代金の回収のために所有権留保を主張することはできないという難点があります。

日本では、所有権留保については「代金が完済されるまで所有権は移転しない」とされることが通常であり、法律上も上記のように一定の比率を定めて所有権移転を強制するような制度はありません。
また、所有権留保は主に動産の売買について利用され、自働車など登記・登録の制度がある場合でなければ対抗要件は占有改定等の方法によることになり、機械・設備などで所有権留保を示すプレート等を付す例もありますが、いずれにせよ登記・登録を第三者対抗要件として必ず要求しているものではありません。

なにより、中国では以前から会計・税務上の取扱いとして「所有権が留保されている場合は、自社の資産であるから、自社の資産として計上し続けなければならない」(つまり、支払を受けるまで売上を計上することができない)という実務的な慣行が見られることから、営業部門にとって非常に不評であるためでしょうか、もともとあまり活用されていませんでした。しかし、債権回収の場面では、取引先が破産した場面でも所有権留保の条項があったゆえに危うく難を逃れることができたこともあります。
75%ルールなど、日本と違って落とし穴にもなりやすい部分がありますが、所有権留保、なるべく取引に活用を考えていただければと思います。

2023年10月9日月曜日

9月第5週:①企業档案管理規定、②ネット暴力違法犯罪に関する指導意見、③10月の「敬老月」活動

先週は国慶節の連休でしたので、1週間遅れて、9月末の分をご紹介します。

①企業档案管理規定

企業档案管理規定が改正されました。
「档案」とは、企業や個人のさまざまな履歴を保存するファイルのことで、人事档案、文書档案、会計档案など様々な種類の「档案」があり、国や地方政府が保存・管理している档案もあれば、企業その他の組織が保存・管理している档案もあります。
今回の規定は、企業の研究開発、建設、経営及びサービス等の活動により形成される記録に関するものです。
各企業では档案管理のための人員を配置し、火事などに強い場所に保管すべきことなどが規定されています。
また、当然ながら電子データで保存されるものもあるため、档案の情報化という章も設けられています。
なにぶん、档案局という普段あまり業務上かかわることがない政府機関が管轄しているものですから、頻繁に検査が入る安全生産や消防などと違って意識する機会も少なそうですが、情報管理についてはよく話題になる昨今ですので、ご参考までに。

②ネット暴力違法犯罪に関する指導意見

ネット上における誹謗中傷やプライバシー侵害などの行為について、被害者が精神的に追い詰められて自殺などに至ることのほか、社会公衆の安全感も損なわれるということで、取締に関する新しい指導意見が最高人民法院、最高人民検察院、公安部の連名で出ています。
典型事例も発表されています。
ネットを通じて不特定多数に対して個人情報を発信する行為は刑法第253条の1の個人情報侵害罪、悪意をもって煽り立てる行為(いわゆる炎上商法)は刑法第287条の1の情報ネットワーク違法利用罪など、各種の刑法規定が適用されることが紹介されています。

③10月の「敬老月」活動

全国老齢工作委員会から、10月1日~10月31日まで「敬老月」活動を行うという発表がありました。
ボランティアによる独居老人への慰問訪問などの活動が行われるようです。従来から提唱されているITを使った健康管理の普及活動もあります。また、いわゆる健康寿命を延ばすために、太極拳などの伝統的な運動種目を広める活動なども挙げられています。

2023年9月26日火曜日

インボイス制度のインボイス(発票、適格請求書)の書式

日本のインボイス制度、いよいよ来月からスタートです。
直前になってようやくですが、始まるにあたって、これはなかなか大変なことであることが個人的に実感として分かってきたので、少し話題として触れます。

中国の増値税のインボイス制度では、商品の販売者や役務の提供者が発行するインボイス(中国語では「発票」といいます。)は書式が固定されていて、発行者の名称、金額や税率など、どこに何が書かれるか、一目瞭然になっています。
中国語が分からない人でも、どこに何が書かれているか、「慣れ」ですぐに分かるようになります。

一方、日本の消費税のインボイス制度にいうインボイス(適格請求書)は、なんと、「書式が自由」だそうです。

そうなると、受け取り側の方で、記載事項が揃っているかどうかチェックするのが、とても困難になります。
さらに、「必要事項が複数の書類に分かれて記載されていてもOK」とされているので、下図のように、必要事項がどこに書かれているのか、複数の書類から拾い出していかなければならないという負担が生じることもあります。















インボイス制度、受け取る側の方が大変という話は聞きますが、確かに、もらった請求書からこの①~⑥を探して拾い出す作業はなかなか大変だろうと思います。
今はAIがあるから大丈夫なのかもしれませんが、一昔前のアタマで、「スキャンしてOCRで読み込む」と考えると、「紙のこの位置に、この大きさ、このフォント、この順番で書く」というフォーマットを決めて欲しい!」という気持ちになります。

取引先に「我が社への請求書はこの書式でお願いします」とお願いしたいところですが、発行側からすると、顧客ごとに異なる書式で発行するのも大変ですよね...。

ネジ、蛍光灯、乾電池、トイレットペーパー、なんでも大きさがバラバラだと困るので、JIS規格で一定の規格が決まっています。
自由に放置すれば多様化・複雑化・無秩序化してしまうモノやコトについて、「統一」又は「単純化」することで便利になるということだそうです。

社内の経費精算で経理の方に領収書を渡すときに、この①~⑥を拾い上げる作業をしなければならなくなって大変ということもあるかと思います。
いつもいろんな機会に感じることですが、このインボイスも、書式・様式・フォーマット、統一されていると便利という場面の一例かと思いました。

2023年9月25日月曜日

9月第4週:①税務関連業務の基本準則、②道路運送の重大事故リスク判定基準、③ビザ申請書フォーマットの改訂

①税務関連業務の基本準則

税理士事務所及び税務関連の専門サービスを提供する会計士事務所、弁護士事所、財務・税務コンサルティング会社などを対象とした基本準則と職業道徳規則が、国家税務総局から公表されています。
書面での業務報告又は専門的意見を提供する場合は(個人名ではなく)事務所名義で依頼者に対して提出すべきこと、納税状況審査など4類の業務にかかわる場合はその業務を担当した税理士、会計士又は弁護士が捺印すること等が規定されています。
また、業務過程で知り得た国家安全情報や個人情報の秘密保持についても、職業道徳規則で規定されています。国家安全情報の秘密保持については、最近はさまざまな法令で見かけるようになってきました。

②道路運送の重大事故リスク判定基準

交通運輸部から、旅客や貨物の道路輸送に関する重大事故リスクの判定基準が発布されています。
企業が自らチェックして、問題を発見したときは管轄の交通運輸主管部門へ報告するように求められています。物流企業のみが対象ですが、速度超過や積載量超過、運転者の過労など運用面にもかかわる内容のようですので、ご参考までに。

③ビザ申請書フォーマットの改訂

外交部の定例会見で、中国入国のためのビザ申請表フォーマットについて簡素化したことが紹介されていました。
https://www.mfa.gov.cn/web/fyrbt_673021/202309/t20230920_11145944.shtml
学歴や家族情報の記述などの項目が簡素化されたようです。
出張時にビザが必要な状況はまだ続きそうですので、申請するときに手間が少しでも省けるのは良いことかと思います。

2023年9月21日木曜日

逮捕と勾留、拘留と逮捕(捜査段階での身柄拘束制度) + 居住監視

ニュース・報道を見るとき、私自身もよく用語で混乱してしまうので、この機会に書き留めておきます。

日本の「刑事訴訟法」では、ある個人について犯罪の嫌疑があって身柄拘束を要する場合、通常まずは逮捕状により警察機関により「逮捕」され(第199条以下)、その後、72時間のうちに検察官により勾留請求が行われて(第205条)、裁判所が勾留状を発することで引き続き「勾留」されることになります。勾留の期間は延長を含め20日間です(第208条)。つまり、逮捕と勾留の期間を合わせると、最長で23日間(3+20)となります。

一方、中国の《刑事訴訟法》ではどうかと言うと、まず公安機関が「拘留」(※中国語ママ)し(第82条)、「拘留」後3日以内に(延長可)人民検察院に「逮捕」の請求をします(第91条)。「逮捕」されるのは懲役以上の刑罰に処する可能性のある被疑者又は被告人に限られます(第81条)。「逮捕」による身柄拘束の期間は2ヶ月(これも延長可で、最長では7ヶ月)となっています(第156条~第159条)。

つまり、起訴される前の捜査段階の身柄拘束としては、日本が「逮捕」→「勾留」の順番なのに対して、中国は「拘留」→「逮捕」の順となっており、日本にいう「勾留」が中国では「逮捕」と称しているので、とてもややこしいです。また、「拘留」も、日本で「拘留」といえば刑事罰の一種(30日未満の刑事施設での拘置)ですから(日本「刑法」第16条)、これも用語がとても混乱しやすいです。(「こうりゅう」という読み方も重複してしまっていますし...)





ちなみに、中国ではこの「拘留」(日本にいう「逮捕」)の前に、さらに、
取保候审」(保釈)(中国《刑事訴訟法》第67条、第71条)という制度と、
监视居住」(居宅監視)(同第74条、第77条)という制度があります。
期間はそれぞれ前者が最長12ヶ月、後者が最長6ヶ月となっています(同第79条第1項)。
保釈の場合は、市・県を離れてはならないという制限であり比較的緩やかですが、
居宅監視の場合は、監視場所(原則は自宅や居所)を離れてはならないという制限になります。
いわゆる自宅軟禁のようなイメージですが、テロ活動など国の安全に関する犯罪の嫌疑がある場合は別の場所が監視場所となることもあります(中国《刑事訴訟法》第75条)。

制度が似ているところ、違っているところが混在しており、用語もとても紛らわしいので、ご参考になりましたら幸いです。

2023年9月18日月曜日

9月第3週:①福建省の両岸融合発展モデル区(台湾関係)、②経営者集中(企業結合)に関する独禁法上のコンプライアンス、③企業標準化促進弁法

①福建省の両岸融合発展モデル区(台湾関係)

中共中央と国務院から、台湾と福建省の海峡両岸の融合発展モデル区の建設に関する意見が出ています。
台湾の子女が大陸で就学することなど、台湾との間の人員往来を歓迎する方向のようです。法律職業資格を得た台湾住民が福建エリアで弁護士業務に従事できる範囲を拡大することも述べられています。
厦門(アモイ)と金門島の融合発展の加速ということで、金門島に電気・ガスを通したり橋を架けたり、共用インフラを整備していくことも考えられているようです。また、福州と馬祖島も同じく「同城生活圏」を作り上げようということが書かれています。
その他、かなり読み応えのある内容になっていますので、別の機会にじっくり読み解いてみたいと思います。
ちなみに、これに先立って9月2日、東莞も最も早い時期から台湾企業が進出していた地域であるということで、台湾との連携を深める「合作総体方案」が国務院により認可されています。

②経営者集中(企業結合)に関する独禁法上のコンプライアンス

《反独占法》に基づく経営者集中の申告(独禁法上の企業結合の届出)について、買収・M&Aや合弁会社設立を行う企業側の目線でチェックすべき事項についてのガイドラインが出ました。
申告は集中を実施する前に行わなければならないところ、その「実施」の基準については、登記手続の完了有無だけではなく、経営陣の派遣や実際の経営上の意思決定への関与、敏感な情報の交換や実質的な事業の統合などがあるかどうかが考慮されるとのこと。
合弁会社の新設については、合弁当事者が共同支配権を有する場合は申告対象になるところ、これについて具体的な事例(【案例】)として、事業計画や財務予算、高級管理者の任免など経営管理事項に関する拒否権の有無が挙げられています。
内容はこれまで既に法令で定められているところに準拠しており、新たな規制となるものではありませんが、企業側の目線で整理されているので、とても参考になるものと思います。

③企業標準化促進弁法

1990年に制定された《企業標準化管理弁法》が改正されて、新たに《企業標準化促進弁法》として発布されています。
《標準化法》第27条にも定められている企業標準の自己声明公開及び監督制度によって届出管理制度に代えるということで、公共サービスプラットフォーム上で10分で手続できて費用もかからないとのこと。
また、企業におけるイノベーションに寄与すべく、目立った経済社会的効用を生む企業標準については奨励を与えるとされています。



2023年9月14日木曜日

従業員との間の労働契約書(雇用契約書)の締結義務

労働契約(雇用契約)は、日本では「期間の定めのない」労働契約であることが一般的です。そして、日本では労働契約書を締結することも強制されていません。ですから、長らくの間、そもそも労働契約書を締結しておらず、労働条件通知書のみで雇用関係が成立している状態が「正社員」であって、労働契約書を締結する場合は「契約社員」と称されてきました。
労働条件通知書は法律上の作成義務がありますし(日本「労働基準法」第15条、同施行規則第5条)、労働契約の内容を「できる限り書面により確認する」ことにもなっていますが(日本「労働契約法」第4条第2項)、労働契約書が締結されていなかったとしても、そのこと自体に対する直接のペナルティはありません。

これに対して、中国では、労働契約の締結義務が法定されています(《労働契約法》第10条)。
そして、これに違反した場合には2倍の賃金の支払義務を生じる(同第82条)というペナルティがあるほか、さらに無固定期間契約を締結したものと見なされるという扱いになってしまいます(同第14条第3項)。
(ちなみに、中国でも、もともと昔の《労働法》の時代から締結義務を定めた条文はあったのですが、罰則がなかったので、《労働契約法》ができるまでは労働契約が締結されていないことも往々にしてありました。その後、《労働契約法》でペナルティが設けられた途端、状況がガラリと変わり、ほぼ例外なく全ての従業員との間で労働契約が締結されるようになりました。)

そして、この中国で全従業員が会社と個々に締結している労働契約には、業務内容や勤務地が明記されています。(中国《労働契約法》第17条第1項第4号による法定記載事項です。)
ですから、労働条件通知書で一方的に通知しているだけの日本と違って、業務内容や勤務地が変わる場合には、いちいち、個々人との間で取り交わした労働契約書の変更が必要ということになってきます。

日本の「労働契約法」と、中国の《労働契約法》、奇しくも同じ2007年にできた法律ですが、日本の「労働契約法」に比べて、中国の《労働契約法》の方が条文数も多く、法律で企業に義務付けられている内容も多いです。
さらに、それぞれ基礎となる雇用をめぐる各種制度や実務運用が異なっているところも多いですが、中でも、この労働契約の締結義務、そして、それによる個々人との労働契約の拘束力は、日本と中国では全然違う部分ですので、是非覚えておいていただければと思います。

この労働契約書の有無は、実はさまざまな場面で人事労務管理に大きく影響してきます。現在、東海日中貿易センター様の会報誌にて連載いただいている「中国現法“攻め”と“守り”の組織作り」でもご紹介していく予定ですので、機会があればご覧ください。








2023年9月11日月曜日

9月第2週:①企業名称管理の細則の改訂、②企業の設備投資に関する税制優遇、③不法移民の送還、④今年の国慶節休暇は8連休

①企業名称管理の細則の改訂

企業名称についての弁法が改正されています。
自己使用目的ではなく悪意をもって先に他社の名称などを登録してしまう行為や、一定の影響力のある名称に近い名称を故意に登録することなどが禁じられています。
また、不正に登録されている企業名称を排除する方法・手続については、従来どおり、①登記機関に名称紛争処理を申請する、②不正競争行為として行政機関に通報する、③人民法院に対して提訴する、これら3つの方法があります。

②企業の設備投資に関する税制優遇

8月はさまざまな税制優遇が相次いで発布されており、特に企業における設備購入を後押しするものが目立つようです。
先進的な製造業企業における仕入増値税控除の優遇措置:
設備・機器等の固定資産の企業所得税上の加速償却:
外資R&D機構における科学研究設備・装置等の増値税還付:

③不法移民の送還

日本でも話題になった不法移民の送還について、この送還前の外国人の身柄拘束中の取扱いに関する規定が出ていました。
ビデオ監視システムの録画資料は少なくとも90日は保存すること、身柄拘束された人員にも毎日2時間以上の室外活動時間を与えることなどが規定されています。
また、送還先は国籍国とは限らず、近くで便利な国に送還するとされています。

④今年の国慶節休暇は8連休

昨年12月に既に発表されていたところですが、今年は中秋節の連休が国慶節の連休とつながって、9月29日から10月6日までの8連休になっています。
https://www.gov.cn/gongbao/content/2023/content_5736714.htm
10月7日と8日の土日が振替出勤になっていますので、私を含め、中国業務にかかわる皆様にとっては多少不便があるかもしれません。スケジュール帳に書いておいていただければと思います。


2023年9月2日土曜日

9月第1週:①《会社法》改正草案(三次審議稿)の意見募集、②《民事訴訟法》改正、③《外国国家適用除外法》成立、④《行政再議法》改正

8月末はさまざまな法令や政策が相次いで出てきましたので、一度に全てご紹介することができないのですが、法律の制定・改正の件だけご紹介しておきます。

①《会社法》改正草案(三次審議稿)の意見募集

8月末にも成立するかと見込んでいた《会社法》改正ですが、すんなり成立とはいかず、3回目の意見募集が行われることになりました。
意見募集期間は9月1日から9月30日となっています。
内容についてはまだ詳しく見ていませんので、おって改めて別の機会にご紹介できればと思います。

②《民事訴訟法》改正

《民事訴訟法》が改正されました。2024年1月1日施行となります。
日系企業との関係では、国際裁判管轄に関する規定が拡充されている点が重要と思います。
当事者が管轄異議を出さず、答弁又は反訴をしたときは、中国の人民法院が管轄を有するとみなされることや、同一の紛争について一方当事者が外国、他方当事者が中国国内、それぞれ訴えを提起した場合、特に外国の裁判所を専属管轄裁判所とする合意がなければ受理してよいとすることなどの規定が追加されました。
また、外国当事者がかかわる場合の送達や外国判決の承認執行に関する規定も改正されているようです。

③《外国国家適用除外法》(外国国家豁免法)成立

《対外関係法》が先だって成立したとおり、中国は渉外法治の面についての法律の整備を進めています。
今回は《外国国家免除法》という法律が新たに公布・施行されました。これも2024年1月1日施行です。
外国国家やその財産に関する民事事件の司法手続について全面的・系統立てて規定して、国内法治と渉外法治を統合的に進めるとのことです。
外国国家が行う商業活動で、中国国内で行われるか中国国内に直接影響するもの(金銭の貸借を含む)については、外国国家に対する管轄免除の対象にはならない、つまり中国の司法権のもとで管轄があるものとして取り扱うことができることなどが規定されています。
国際条約等に定められた外国の外交機関などの特権が影響を受けるものではなく、国際条約等が優先されることも明記されているので、直ちに何らかの影響があるものではありません。しかし、外国側が中国の国家とその財産に対して与える免除待遇がこの法律に規定するよりも劣っている場合、対等の原則によるものとされているので、詳しく見ていく必要があるのかもしれません。

④《行政再議法》(行政复议法)改正

行政処分についての不服申し立てについて定める《行政再議法》が改正されました。同じく2024年1月1日施行です。
行政再議の対象範囲に収用決定及びその補償に関する決定が含まれることが明記されるなど、行政再議の範囲が拡大したことなどが改正点として挙げられています。


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その他、社会保険の異なる地方での引継ぎなどを含む事務取扱に関する規定や
若年者人材育成についての政策、また住宅ローン関連の緩和政策なども出ていました。


2023年8月31日木曜日

《外商投資法》施行による《会社法》準拠対応: 株主会の全会一致決議事項

先週ご紹介した、外商投資法対応の件で、もう一つ、是非知っておいていただきたい注意事項がありましたので、引き続き僭越ながら、ここで書かせていただきます。

従来、中国にある中外合弁会社においては、定款変更など重大事項については出資者双方が任命した董事全員が一致して決議する必要がありました。(《中外合資経営企業法実施条例》第33条第1項)
これに対し、《会社法》では、株主会や董事会における法定の全会一致決議事項は設けられておらず、定款変更などについても株主会における議決権の3分の2をもって決議可能です(《会社法》第43条第2項)。

ですから、日本側出資者の出資比率が3分の2を超えている場合、中国側出資者の意向に反していても、いわば「強行採決」してしまうことが可能になります。
ただ、だからこそ、気をつけないといけない「落とし穴」があります。反対株主による株式買取請求権です。(下記《会社法》第74条ご参照。)

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中国《会社法》
第74条  次に掲げる事由の1つがある場合には、株主会の当該決議について反対票を投じた株主は、会社に対し合理的な価額に従いその出資持分を買い受けるよう請求することができる。
  (1) 会社が連続して5年にわたり株主に対し利益を分配していないのに、会社が当該5年に連続して利益を取得し、かつ、この法律所定の利益分配条件に適合するとき。
  (2) 会社が合併し、分割し、又は主たる財産を譲渡するとき。
  (3) 会社定款所定の営業期間が満了し、又は定款所定のその他の解散事由が出現した場合において、株主会会議が定款変更の決議を採択して会社を存続させるとき。
  株主会会議の決議が採択された日から60日内に、株主が会社と出資持分買受合意を達成することができない場合には、株主は、株主会会議の決議が採択された日から90日内に人民法院に対し訴えを提起することができる。
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反対株主による株式買取請求権そのものは日本の会社法にもある制度なのですが、いかんせん、従来の《中外合資経営企業法》には該当する規定がなく、また、そもそも政府機関における手続上、ほとんど常に董事全員の署名のある決議書の提出が要求されていたという実務上の要因もあって、「強行採決」がなされること自体がほとんど見られませんでした。
しかし、今後は、会社法やこれに基づいて作成・修正された定款を見て、「中国側出資者が反対していても決議可能だ」と理解されて、強行採決に踏み切るケースも出てきそうに思います。

そのこと自体は何ら違法でも不合理でもないのですが、ただ、上記の反対株主による株式買取請求権のことを忘れて強行採決してしまうと、あとで思わぬ紛争になってしまうことも考えられます。
そのような事故を防ぐ意味では、従来の定款をなるべくそのまま踏襲し、定款変更などについては株主会でも全会一致決議を求めておく方が、安全策ということになるかもしれません。


2023年8月28日月曜日

8月第4週: ①水害からの復興、②「1件目」の住宅ローン、③15件の行政法規の改廃

①水害からの復興

各地で台風や豪雨による被害が出ているようで、その復興や水害防止の工事に関して、「以工代赈」(仕事を与えて救済に代えること)が奨励されています。
現地の群衆を工事に参加させて労働報酬を支払うことで家計に困難のある群衆に収入をもたらすとともに、工事に参加する過程で就業技能を高めること(「以工代训」)も求められています。
公共工事が行われることで復興関連需要も生じてくると思われますので、知っておくと何かのお役には立つかもしれません。

②「1件目」の住宅ローン

住宅ローン利率に関する優遇政策の適用に関し、「1件目」の住宅かどうかの認定基準について通知が出ています。
従来から、1件目の住宅取得時には住宅ローンの金利を低く抑えてもらえる政策優遇があるのですが、この1件目に該当するかどうかの基準に関する通知です。
「本人や家族がその都市で住宅を購入したことがなければ」、それ以前に住宅ローンを借りたことがあろうとなかろうと1件目と認定してよいとされています。
不動産をめぐる状況は各都市で異なるので、「一城一策」(一都市一政策)ということで各都市それぞれの政策が打ち出されています。およそ中国全般と一括りにするのではなく、各都市の状況を見る必要があるようです。

③15件の行政法規の改廃

国務院から14件の行政法規の改正と1件(製品品質監督試行弁法)の廃止が発布されていました。
《行政処罰法》に基づいて不合理な罰則等を取消・調整したこと、国際海運条例、道路運輸条例などの罰則の見直しといった内容だそうです。


2023年8月23日水曜日

《外商投資法》施行による《会社法》準拠対応: 株主会と董事会

《外商投資法》施行に伴っていわゆる外資三法が廃止され、中外合弁会社では《会社法》に適合するように定款変更(※)が求められています。
 (※)従来の中外合弁会社に関する《中外合資経営企業法》では「合弁契約」と「定款」が登場しましたが、《会社法》には「合弁契約」は登場しません。
  ですので、「合弁契約」の重要性は一歩後退して、「定款」の変更が主たるテーマとなります。

2024年末まで5年間の移行期間が設けられていますが、このうち2020年~2022年の3年間はコロナ禍による往来制限により面談ができず、「まだ5年もある」状況でしたので、しばらく様子見のままに過ぎていたような印象です。
そして、いよいよ今年の6月前後になって、多くの中外合弁会社では3年ぶり、4年ぶりとなるリアルでの董事会が開催されました。これに前後して、「そろそろ我が社も、《外商投資法》に合わせた定款変更を議論しよう」というお話になったのでしょうか、多くの企業で中国現地法人の合弁契約や定款の変更が議論されているようです。

これに関して、
「従来の董事会の決議事項を、そのまま株主会の決議事項にスライドさせてしまう」
また、これと似たようなものとして、
「その他すべての重大事項」を株主会での決議事項に入れてしまう
こういった合弁契約や定款の変更をお考えの例も見受けられます。

いろいろなところで見聞される情報の中で、
「董事会が最高権力機関だったところ、これからは株主会に変わる」ということから、
株主会が董事会に取って代わるようなイメージをお持ちになるのかもしれません。
また、
(A)「法改正があっても、法律上変更しないといけない部分以外は変えずに、従来どおり仲良くやりましょう」
(B)「董事会の上に株主会を作っても、同じような会議を2回開くのは重複で無駄なので、なるべく一つにまとめましょう」
という2つの発想も背景にありそうです。

ただ、上記のような対応は、あまり良くない場合もあるかもしれません。

というのは、株主会の決議事項について言えば、本当に法律上求められていることは、そのように「取って代わる」ことではなく、従来は董事会で決議していた事項の一部を株主会に移す(分離する)ことだけです。(所有と経営の分離、ということです。)
ですから、上記のように「全部を株主会にスライドさせる」という変更の提案をしてしまいますと、そのような変更案を提示された中国側の合弁パートナー側でも、やや面食らってしまう場合がありそうです。


ここで、少し日本の会社法の発想を振り返ってみますと、日本でも、取締役会設置会社の場合は、株主総会で決められることは法定及び定款所定の決議事項に限られます。(下記第2項)
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日本「会社法」
第295条(株主総会の権限)
1 株主総会は、この法律に規定する事項及び株式会社の組織、運営、管理その他株式会社に関する一切の事項について決議をすることができる。
2 前項の規定にかかわらず、取締役会設置会社においては、株主総会は、この法律に規定する事項及び定款で定めた事項に限り、決議をすることができる。
3 この法律の規定により株主総会の決議を必要とする事項について、取締役、執行役、取締役会その他の株主総会以外の機関が決定することができることを内容とする定款の定めは、その効力を有しない。
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なぜこのように株主総会での決議事項が限定されるのかというと、適切な役割分担のためです。
取締役会は経営のプロである方々の英知を集めて討論する場です。ですから、株主総会で株主自身が株主総会の場で何らかの議案を討論・作成しようとするよりも、取締役会で議論して議案を作ってもらった方が、多くの場合は、より経営の実態に即した株主にとっても利益になる議案になるはずと考えられます。
これは中国の《会社法》の制度設計でも同じです。
ですから、株主会に多くの決議事項を持たせるように定款で定めることは可能ですし適法でもあるのですが、全てを株主会に移してしまうことは、法律上はあまり予定されていない対応であろうと思われます。
(もちろん、董事会であれ株主会であれ実際に参加する顔ぶれは同じ、というケースがほとんどですから、実は分けるのは書類だけ、という場合も多いのですが...)


《外商投資法》によって変わるところは確かに色々あるのですが、
できれば従来の運営方法をなるべく踏襲して、なるべく最低限必要なところだけ修正する方が良いのではないか?
そのように思うこともありますので、ここで少し触れさせていただきました。


差し出がましいことで恐縮ですが、法律上求められる最低限の対応としては何が必要なのか、対応をお考えいただくご参考になるようでしたら幸いです。


【2024年1月17日追記】
 今回の《会社法》改正に至るまでの議論の過程(2021年12月の第1次改正草案)では、法定の董事会決議事項を列挙せずに、
 「董事会は、会社の執行機構であり、この法律及び会社定款所定の株主会の職権に属するもの以外の職権を行使する。」とだけ規定する案となっていました。
 つまり、ほとんど全ての事項を株主会に委ねてしまうことも可能でした。
 しかし、最終的にはほぼ現行法どおりの内容となりました。
 そのような経緯からしても、法定の董事会決議事項を株主会に移してしまうことは、おそらく認められないように思われます。

2023年8月21日月曜日

8月第3週: ①知的財産権法執行強化、②団体標準から推薦性国家基準へ、③環境事件に関する2つの司法解釈

①知的財産権法執行強化

国家市場監督管理総局から、新時代の知的財産権の取締強化ということで意見が出ています。
2025年までにネットワーク環境における取締の難題を解決するとの目標や、業界団体や仲介機構(特許事務所など)との連携などについて述べられています。

②団体標準から推薦性国家基準へ

社会団体などが制定・公布した団体標準のうち技術的な先進性、指導性のあるものを推薦性国家基準に採用することに関する暫定規定が出ています。
https://www.samr.gov.cn/zw/zfxxgk/fdzdgknr/bzjss/art/2023/art_646c3799c2d348ef8fd90a2437fdcf95.html
全国で比較的受け入れられており効果の高い団体標準については、推薦性国家基準に取り上げる際の手続を短縮することなども盛り込まれています。

③環境事件に関する2つの司法解釈

環境関連の権益侵害紛争における法律適用に関する司法解釈と、同じく環境関連事件における証拠をめぐる規定が発布されています。
環境汚染事件においては因果関係が複雑であり損害との関わりが直ちには判明しないことを考慮して、時効の起算点を被害者保護に有利なように、加害者その他行為者が判明した時点から起算することなど、環境事件特有の事情に配慮した内容になっているとのこと。
証拠についても、一般的被害者の手元に証拠が乏しいことから立証責任を軽減するための書証提出命令の活用や、司法鑑定に時間や費用がかかることや専門家の鑑定への過度の依存による問題などを考慮した規定が置かれているとのことです。