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2023年12月6日水曜日

弁護士レター(中国語「律师函」)についての再考


弁護士からの「通知書」や「催告書」、「警告書」など、いわゆる弁護士レターが届いた場合、日本と中国ではその取扱いには実務上かなり差があるものと長年にわたって感じてきました。
しかし、最近では、日常業務においてさまざまな案件に接するうち、急速にそのイメージが変わってきているように感じることが多くなってきました。

例として、以下のような2つの事例を挙げます。
(1)当社の競合他社であるA社が、当社の顧客に対して、当社の特許を侵害している製品を販売しようとしている旨の情報を得た。そこで、当社は弁護士に依頼して、A社に対して、侵害を行わないよう警告するレターを送付した。
(2)当社はB社との間で、継続的に製品を供給してきた。数ヶ月前から、B社からの支払が滞るようになってきており、営業担当者が支払を催促しても猶予を求めるばかりで支払おうとしない。

(1)(2)いずれも、日本の場合であれば、弁護士から内容証明郵便で弁護士レターを送付すると、通常、少なくとも黙殺はされず、反論や解決の申出など何らかのフィードバックが得られます。そうして、弁護士を介しての協議が行われ、訴訟に至らず解決できるケースも比較的多いでしょう。これは、今も昔もそう変わらないように思います。日本では弁護士代理が強制されているので(過去の記事はこちら)、訴訟になると被告側も弁護士に応訴対応を依頼せざるを得なくなりますから、その負担を回避するための訴訟前の協議解決が促されるという面が一つあろうかと思います。
一方、中国はといえば、弁護士レターを送っても黙殺されるケースが日本に比べて明らかに多いというのが実感でした。むしろ提訴前にレターを送ることによって相手方に提訴対応のための余裕を与えてしまうなどデメリットもあるので、証拠さえ揃っていれば(つまり訴訟前の協議を通じて証拠を補充していく必要が特になければ)直接に提訴・民事保全をしてしまう、「奇襲攻撃で短期解決を目指す」戦略による方が時間と費用が節約できることが多いというイメージでした。
しかしながら、ここ数年、特に今年に入ってからは、弁護士レターを送付することで相手方が速やかに対応してくれるケースが明らかに目立つようになってきました。上記のA社の事例であれば特許の許諾を求めてくる、B社の事例であればごく近い時期での支払や分割払いの具体的提案をしてくる、そのような迅速な解決につながる回答が得られるようになってきています。

その原因や背景について個人的に思うところは、次のようなものです。
A社のような知的財産権をめぐる事例については、現在では特許法のみならず、商標法、著作権法、さらには不正競争防止法でも懲罰的賠償を認める制度が設けられており、実際に懲罰的賠償を認める事例も見られるようになってきていることがあると思います。弁護士レターの受領によって故意侵害としてこのような懲罰的賠償を求められることになってしまう危険が意識されることで、侵害を自主的に思いとどまってもらうことができるというわけです。これは、当社から見れば(不当な)競合他社を排除して売上が確保できることにつながるので、費用対効果が見えやすく、良い弁護士レターの活用方法であるように思います。
B社のような支払を遅らせる取引先の場合については、いわゆるブラックリストなど信用にかかわる制度の充実が2015年頃から進められてきましたが、この1~2年は、ある裁判所でB社が提訴されたという情報が公表されると、多くの会社から提訴が「殺到」して、数ヶ月のうちに通常の事業継続が困難な程度の信用不安に至ってしまうという現象が見られるようになってきました。これは、訴訟に関する情報の公開が非常に進んだこと、最高人民法院や各地の裁判所の運営するWebサイトでの掲載のみならず、アプリで取引先情報を登録しておけば自動的に危険な情報を察知して配信してもらえるサービスもあるなど、関係するサービスの利用が普及した結果という一面もあろうかと思われます。つまり、「提訴された」という情報そのものが伝播することを避けるために、提訴される前の協議による解決を希望するケースが増えてきており、結果として、弁護士レターがトラブル解決に役立つ割合が増えてきたという理解をしています。

弁護士レターについて、私自身も自らの認識をアップデートして、改めて活用のしかたを考えてみたいと思っているところです。

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