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2月14日の中国会社法改正セミナー:セミナー資料の目次(予定)

中国の会社法改正について、2月14日にオンラインセミナーでお話させていただく予定になっていますので、そのセミナー資料の目次をご紹介します。 下記は現時点で手元に用意してある資料案によるものですが、当日は時間の関係で全部はお話できない可能性がありますので、その点はどうぞご容赦くださ...

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2023年10月13日金曜日

銀行口座の開設(会社名義の銀行口座)

中国では、会社設立と銀行口座開設は一連の手続です。
そもそも資本金を払い込む時点から、資本金を払い込む基本口座という口座を開設する必要があり、それが会社設立の手続の一部として組み込まれています。
また、事業における資金決済も、会社の口座を通さなければ営業許可を得た会社の事業と認められず、個人の口座を使うと無許可の個人営業をしているか会社のおカネを横領しているように見えてしまいますから、会社名義の口座が無いということは通常あり得ません。
ですから、中国の方々は、「日本で会社を設立する」→「会社名義の口座ができて当たり前」と思っておられる場合があります。

ところが、日本では、会社を設立しても銀行口座を開設できるとは限りません。
むしろ近時では、個人事業のときから一定の取引実績を作っておかないと、法人成りしようとしても会社名義の銀行口座を開設してもらえないことがあります。
この規制をクリアするために架空の取引実績を作ることを請け負うような業者もいる、という話も耳にするほどです。

例えば、中国の企業や個人が日本のとある会社の事業を引き継ごうとする場面で、
「事業譲渡がよいですか? 株式譲渡がよいですか?」
というご質問を受けることはよくあります。
そういった場面では、この銀行口座をめぐる両国の事情の違いも少し考えてみていただければと思います。


2023年10月11日水曜日

売買代金額の75%の支払(所有権留保の75%ルール)


所有権留保付き売買について、中国には独特なルールがあります。

所有権留保の約定があっても、買主が75%以上の代金を支払っていると、売主は目的物を取り戻すことができなくなります(《売買契約紛争事件を審理する際の法律適用問題に関する最高人民法院の解釈(2020年)》第26条)。
破産の場合でも、売主が破産した場合であれ、買主が破産した場合であれ、売主はもはや目的物を取り戻すことができなくなります《「企業破産法」の適用にかかる若干の問題に関する最高人民法院の規定(二)(2020年)》第35条、第37条)。
さらに、2021年1月1日から施行された《民法典》では、「売主が目的物について留保する所有権は、登記を経ない場合には、善意の第三者に対抗することができない。」という条文が追加されました(《民法典》第641条第2項)。これに伴い、現在では、動産を対象とする場合であっても、中国人民銀行信用調査センターでの登記が第三者対抗要件として必要になっています。
設備の売買などでは、最終回の支払として10%程度を「品質保証金」などの名目で納品後1年ほど残してあることが多いのですが、そのような場合、残代金の回収のために所有権留保を主張することはできないという難点があります。

日本では、所有権留保については「代金が完済されるまで所有権は移転しない」とされることが通常であり、法律上も上記のように一定の比率を定めて所有権移転を強制するような制度はありません。
また、所有権留保は主に動産の売買について利用され、自働車など登記・登録の制度がある場合でなければ対抗要件は占有改定等の方法によることになり、機械・設備などで所有権留保を示すプレート等を付す例もありますが、いずれにせよ登記・登録を第三者対抗要件として必ず要求しているものではありません。

なにより、中国では以前から会計・税務上の取扱いとして「所有権が留保されている場合は、自社の資産であるから、自社の資産として計上し続けなければならない」(つまり、支払を受けるまで売上を計上することができない)という実務的な慣行が見られることから、営業部門にとって非常に不評であるためでしょうか、もともとあまり活用されていませんでした。しかし、債権回収の場面では、取引先が破産した場面でも所有権留保の条項があったゆえに危うく難を逃れることができたこともあります。
75%ルールなど、日本と違って落とし穴にもなりやすい部分がありますが、所有権留保、なるべく取引に活用を考えていただければと思います。

2023年9月26日火曜日

インボイス制度のインボイス(発票、適格請求書)の書式

日本のインボイス制度、いよいよ来月からスタートです。
直前になってようやくですが、始まるにあたって、これはなかなか大変なことであることが個人的に実感として分かってきたので、少し話題として触れます。

中国の増値税のインボイス制度では、商品の販売者や役務の提供者が発行するインボイス(中国語では「発票」といいます。)は書式が固定されていて、発行者の名称、金額や税率など、どこに何が書かれるか、一目瞭然になっています。
中国語が分からない人でも、どこに何が書かれているか、「慣れ」ですぐに分かるようになります。

一方、日本の消費税のインボイス制度にいうインボイス(適格請求書)は、なんと、「書式が自由」だそうです。

そうなると、受け取り側の方で、記載事項が揃っているかどうかチェックするのが、とても困難になります。
さらに、「必要事項が複数の書類に分かれて記載されていてもOK」とされているので、下図のように、必要事項がどこに書かれているのか、複数の書類から拾い出していかなければならないという負担が生じることもあります。















インボイス制度、受け取る側の方が大変という話は聞きますが、確かに、もらった請求書からこの①~⑥を探して拾い出す作業はなかなか大変だろうと思います。
今はAIがあるから大丈夫なのかもしれませんが、一昔前のアタマで、「スキャンしてOCRで読み込む」と考えると、「紙のこの位置に、この大きさ、このフォント、この順番で書く」というフォーマットを決めて欲しい!」という気持ちになります。

取引先に「我が社への請求書はこの書式でお願いします」とお願いしたいところですが、発行側からすると、顧客ごとに異なる書式で発行するのも大変ですよね...。

ネジ、蛍光灯、乾電池、トイレットペーパー、なんでも大きさがバラバラだと困るので、JIS規格で一定の規格が決まっています。
自由に放置すれば多様化・複雑化・無秩序化してしまうモノやコトについて、「統一」又は「単純化」することで便利になるということだそうです。

社内の経費精算で経理の方に領収書を渡すときに、この①~⑥を拾い上げる作業をしなければならなくなって大変ということもあるかと思います。
いつもいろんな機会に感じることですが、このインボイスも、書式・様式・フォーマット、統一されていると便利という場面の一例かと思いました。

2023年9月21日木曜日

逮捕と勾留、拘留と逮捕(捜査段階での身柄拘束制度) + 居住監視

ニュース・報道を見るとき、私自身もよく用語で混乱してしまうので、この機会に書き留めておきます。

日本の「刑事訴訟法」では、ある個人について犯罪の嫌疑があって身柄拘束を要する場合、通常まずは逮捕状により警察機関により「逮捕」され(第199条以下)、その後、72時間のうちに検察官により勾留請求が行われて(第205条)、裁判所が勾留状を発することで引き続き「勾留」されることになります。勾留の期間は延長を含め20日間です(第208条)。つまり、逮捕と勾留の期間を合わせると、最長で23日間(3+20)となります。

一方、中国の《刑事訴訟法》ではどうかと言うと、まず公安機関が「拘留」(※中国語ママ)し(第82条)、「拘留」後3日以内に(延長可)人民検察院に「逮捕」の請求をします(第91条)。「逮捕」されるのは懲役以上の刑罰に処する可能性のある被疑者又は被告人に限られます(第81条)。「逮捕」による身柄拘束の期間は2ヶ月(これも延長可で、最長では7ヶ月)となっています(第156条~第159条)。

つまり、起訴される前の捜査段階の身柄拘束としては、日本が「逮捕」→「勾留」の順番なのに対して、中国は「拘留」→「逮捕」の順となっており、日本にいう「勾留」が中国では「逮捕」と称しているので、とてもややこしいです。また、「拘留」も、日本で「拘留」といえば刑事罰の一種(30日未満の刑事施設での拘置)ですから(日本「刑法」第16条)、これも用語がとても混乱しやすいです。(「こうりゅう」という読み方も重複してしまっていますし...)





ちなみに、中国ではこの「拘留」(日本にいう「逮捕」)の前に、さらに、
取保候审」(保釈)(中国《刑事訴訟法》第67条、第71条)という制度と、
监视居住」(居宅監視)(同第74条、第77条)という制度があります。
期間はそれぞれ前者が最長12ヶ月、後者が最長6ヶ月となっています(同第79条第1項)。
保釈の場合は、市・県を離れてはならないという制限であり比較的緩やかですが、
居宅監視の場合は、監視場所(原則は自宅や居所)を離れてはならないという制限になります。
いわゆる自宅軟禁のようなイメージですが、テロ活動など国の安全に関する犯罪の嫌疑がある場合は別の場所が監視場所となることもあります(中国《刑事訴訟法》第75条)。

制度が似ているところ、違っているところが混在しており、用語もとても紛らわしいので、ご参考になりましたら幸いです。

2023年9月14日木曜日

従業員との間の労働契約書(雇用契約書)の締結義務

労働契約(雇用契約)は、日本では「期間の定めのない」労働契約であることが一般的です。そして、日本では労働契約書を締結することも強制されていません。ですから、長らくの間、そもそも労働契約書を締結しておらず、労働条件通知書のみで雇用関係が成立している状態が「正社員」であって、労働契約書を締結する場合は「契約社員」と称されてきました。
労働条件通知書は法律上の作成義務がありますし(日本「労働基準法」第15条、同施行規則第5条)、労働契約の内容を「できる限り書面により確認する」ことにもなっていますが(日本「労働契約法」第4条第2項)、労働契約書が締結されていなかったとしても、そのこと自体に対する直接のペナルティはありません。

これに対して、中国では、労働契約の締結義務が法定されています(《労働契約法》第10条)。
そして、これに違反した場合には2倍の賃金の支払義務を生じる(同第82条)というペナルティがあるほか、さらに無固定期間契約を締結したものと見なされるという扱いになってしまいます(同第14条第3項)。
(ちなみに、中国でも、もともと昔の《労働法》の時代から締結義務を定めた条文はあったのですが、罰則がなかったので、《労働契約法》ができるまでは労働契約が締結されていないことも往々にしてありました。その後、《労働契約法》でペナルティが設けられた途端、状況がガラリと変わり、ほぼ例外なく全ての従業員との間で労働契約が締結されるようになりました。)

そして、この中国で全従業員が会社と個々に締結している労働契約には、業務内容や勤務地が明記されています。(中国《労働契約法》第17条第1項第4号による法定記載事項です。)
ですから、労働条件通知書で一方的に通知しているだけの日本と違って、業務内容や勤務地が変わる場合には、いちいち、個々人との間で取り交わした労働契約書の変更が必要ということになってきます。

日本の「労働契約法」と、中国の《労働契約法》、奇しくも同じ2007年にできた法律ですが、日本の「労働契約法」に比べて、中国の《労働契約法》の方が条文数も多く、法律で企業に義務付けられている内容も多いです。
さらに、それぞれ基礎となる雇用をめぐる各種制度や実務運用が異なっているところも多いですが、中でも、この労働契約の締結義務、そして、それによる個々人との労働契約の拘束力は、日本と中国では全然違う部分ですので、是非覚えておいていただければと思います。

この労働契約書の有無は、実はさまざまな場面で人事労務管理に大きく影響してきます。現在、東海日中貿易センター様の会報誌にて連載いただいている「中国現法“攻め”と“守り”の組織作り」でもご紹介していく予定ですので、機会があればご覧ください。








2023年8月31日木曜日

《外商投資法》施行による《会社法》準拠対応: 株主会の全会一致決議事項

先週ご紹介した、外商投資法対応の件で、もう一つ、是非知っておいていただきたい注意事項がありましたので、引き続き僭越ながら、ここで書かせていただきます。

従来、中国にある中外合弁会社においては、定款変更など重大事項については出資者双方が任命した董事全員が一致して決議する必要がありました。(《中外合資経営企業法実施条例》第33条第1項)
これに対し、《会社法》では、株主会や董事会における法定の全会一致決議事項は設けられておらず、定款変更などについても株主会における議決権の3分の2をもって決議可能です(《会社法》第43条第2項)。

ですから、日本側出資者の出資比率が3分の2を超えている場合、中国側出資者の意向に反していても、いわば「強行採決」してしまうことが可能になります。
ただ、だからこそ、気をつけないといけない「落とし穴」があります。反対株主による株式買取請求権です。(下記《会社法》第74条ご参照。)

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中国《会社法》
第74条  次に掲げる事由の1つがある場合には、株主会の当該決議について反対票を投じた株主は、会社に対し合理的な価額に従いその出資持分を買い受けるよう請求することができる。
  (1) 会社が連続して5年にわたり株主に対し利益を分配していないのに、会社が当該5年に連続して利益を取得し、かつ、この法律所定の利益分配条件に適合するとき。
  (2) 会社が合併し、分割し、又は主たる財産を譲渡するとき。
  (3) 会社定款所定の営業期間が満了し、又は定款所定のその他の解散事由が出現した場合において、株主会会議が定款変更の決議を採択して会社を存続させるとき。
  株主会会議の決議が採択された日から60日内に、株主が会社と出資持分買受合意を達成することができない場合には、株主は、株主会会議の決議が採択された日から90日内に人民法院に対し訴えを提起することができる。
--------

反対株主による株式買取請求権そのものは日本の会社法にもある制度なのですが、いかんせん、従来の《中外合資経営企業法》には該当する規定がなく、また、そもそも政府機関における手続上、ほとんど常に董事全員の署名のある決議書の提出が要求されていたという実務上の要因もあって、「強行採決」がなされること自体がほとんど見られませんでした。
しかし、今後は、会社法やこれに基づいて作成・修正された定款を見て、「中国側出資者が反対していても決議可能だ」と理解されて、強行採決に踏み切るケースも出てきそうに思います。

そのこと自体は何ら違法でも不合理でもないのですが、ただ、上記の反対株主による株式買取請求権のことを忘れて強行採決してしまうと、あとで思わぬ紛争になってしまうことも考えられます。
そのような事故を防ぐ意味では、従来の定款をなるべくそのまま踏襲し、定款変更などについては株主会でも全会一致決議を求めておく方が、安全策ということになるかもしれません。


2023年8月23日水曜日

《外商投資法》施行による《会社法》準拠対応: 株主会と董事会

《外商投資法》施行に伴っていわゆる外資三法が廃止され、中外合弁会社では《会社法》に適合するように定款変更(※)が求められています。
 (※)従来の中外合弁会社に関する《中外合資経営企業法》では「合弁契約」と「定款」が登場しましたが、《会社法》には「合弁契約」は登場しません。
  ですので、「合弁契約」の重要性は一歩後退して、「定款」の変更が主たるテーマとなります。

2024年末まで5年間の移行期間が設けられていますが、このうち2020年~2022年の3年間はコロナ禍による往来制限により面談ができず、「まだ5年もある」状況でしたので、しばらく様子見のままに過ぎていたような印象です。
そして、いよいよ今年の6月前後になって、多くの中外合弁会社では3年ぶり、4年ぶりとなるリアルでの董事会が開催されました。これに前後して、「そろそろ我が社も、《外商投資法》に合わせた定款変更を議論しよう」というお話になったのでしょうか、多くの企業で中国現地法人の合弁契約や定款の変更が議論されているようです。

これに関して、
「従来の董事会の決議事項を、そのまま株主会の決議事項にスライドさせてしまう」
また、これと似たようなものとして、
「その他すべての重大事項」を株主会での決議事項に入れてしまう
こういった合弁契約や定款の変更をお考えの例も見受けられます。

いろいろなところで見聞される情報の中で、
「董事会が最高権力機関だったところ、これからは株主会に変わる」ということから、
株主会が董事会に取って代わるようなイメージをお持ちになるのかもしれません。
また、
(A)「法改正があっても、法律上変更しないといけない部分以外は変えずに、従来どおり仲良くやりましょう」
(B)「董事会の上に株主会を作っても、同じような会議を2回開くのは重複で無駄なので、なるべく一つにまとめましょう」
という2つの発想も背景にありそうです。

ただ、上記のような対応は、あまり良くない場合もあるかもしれません。

というのは、株主会の決議事項について言えば、本当に法律上求められていることは、そのように「取って代わる」ことではなく、従来は董事会で決議していた事項の一部を株主会に移す(分離する)ことだけです。(所有と経営の分離、ということです。)
ですから、上記のように「全部を株主会にスライドさせる」という変更の提案をしてしまいますと、そのような変更案を提示された中国側の合弁パートナー側でも、やや面食らってしまう場合がありそうです。


ここで、少し日本の会社法の発想を振り返ってみますと、日本でも、取締役会設置会社の場合は、株主総会で決められることは法定及び定款所定の決議事項に限られます。(下記第2項)
--------
日本「会社法」
第295条(株主総会の権限)
1 株主総会は、この法律に規定する事項及び株式会社の組織、運営、管理その他株式会社に関する一切の事項について決議をすることができる。
2 前項の規定にかかわらず、取締役会設置会社においては、株主総会は、この法律に規定する事項及び定款で定めた事項に限り、決議をすることができる。
3 この法律の規定により株主総会の決議を必要とする事項について、取締役、執行役、取締役会その他の株主総会以外の機関が決定することができることを内容とする定款の定めは、その効力を有しない。
--------

なぜこのように株主総会での決議事項が限定されるのかというと、適切な役割分担のためです。
取締役会は経営のプロである方々の英知を集めて討論する場です。ですから、株主総会で株主自身が株主総会の場で何らかの議案を討論・作成しようとするよりも、取締役会で議論して議案を作ってもらった方が、多くの場合は、より経営の実態に即した株主にとっても利益になる議案になるはずと考えられます。
これは中国の《会社法》の制度設計でも同じです。
ですから、株主会に多くの決議事項を持たせるように定款で定めることは可能ですし適法でもあるのですが、全てを株主会に移してしまうことは、法律上はあまり予定されていない対応であろうと思われます。
(もちろん、董事会であれ株主会であれ実際に参加する顔ぶれは同じ、というケースがほとんどですから、実は分けるのは書類だけ、という場合も多いのですが...)


《外商投資法》によって変わるところは確かに色々あるのですが、
できれば従来の運営方法をなるべく踏襲して、なるべく最低限必要なところだけ修正する方が良いのではないか?
そのように思うこともありますので、ここで少し触れさせていただきました。


差し出がましいことで恐縮ですが、法律上求められる最低限の対応としては何が必要なのか、対応をお考えいただくご参考になるようでしたら幸いです。


【2024年1月17日追記】
 今回の《会社法》改正に至るまでの議論の過程(2021年12月の第1次改正草案)では、法定の董事会決議事項を列挙せずに、
 「董事会は、会社の執行機構であり、この法律及び会社定款所定の株主会の職権に属するもの以外の職権を行使する。」とだけ規定する案となっていました。
 つまり、ほとんど全ての事項を株主会に委ねてしまうことも可能でした。
 しかし、最終的にはほぼ現行法どおりの内容となりました。
 そのような経緯からしても、法定の董事会決議事項を株主会に移してしまうことは、おそらく認められないように思われます。

2023年8月9日水曜日

外国人の雇用と、刑法の国外犯処罰(国外での行為は罪に問えない?)

ちょうど《対外関係法》も成立・公布されましたので、少し、日本の経営者・人事労務管理者の方々に知っておいていただきたい話題を一つご紹介します。
「刑法犯の国外処罰」についてです。

日本も中国も、それぞれ自国内で犯罪行為が行われた場合には、自国民であろうが外国人であろうが、当然、刑法による処罰対象となります。
一方、【国外で】犯罪行為が行われた場合については、「自国民でも外国人でも処罰する」場合と、「自国民のみ処罰する」場合、そして「我が国での処罰対象とはしない」場合があります。
 (注意事項として、日本の場合、「国民」かどうかは国籍で判断されます。住民登録や永住権の有無は関係しないようです。)

日本の「刑法」では、第1条から第4条の2まで、それぞれどの場合に当たるのか、犯罪行為によって詳しく規定されています。
一方、中国《刑法》では、第6条から第11条までに規定がありますが、日本ほど細かく規定されておらず、概ね最高刑・最低刑が3年の有期懲役になるかどうかで分けているようです。

ここで、日本の経営者・人事労務管理者の方々に知っておいていただきたいのは、社内で行われる不正行為についてよく問題になる窃盗、詐欺、横領、背任といった犯罪については、「自国民(=日本国民)のみ処罰する」という類型に分類されていることです(※)
つまり、(日本国外で)同じ行為をしても、日本人従業員なら日本の刑法で処罰できるのに、外国人従業員の場合は日本の刑法では処罰できない、ということが起こり得ることになります。
 (※) 但し、会社法上の特別背任罪の場合は、別途、国外犯処罰の規定が設けられているので(日本「会社法」第960条、第971条)、外国人による国外犯の場合でもなお処罰対象となります。念のため。

私(金藤)、個人的には、日本国内においては少子化の続く中で日本国内の企業でも外国人の募集・採用は積極的に進めていただく方がよいと思っており、様々な機会でそういったお話もさせていただいていますし、また、そもそも国籍を理由にして雇用差別をすることは違法でもあります。
しかし、だからといって無防備・無造作に従来の日本人の方々に対するのと同じ方法で外国人の方々を雇用することは、必ずしも適切ではない部分もあると感じます。
日本人従業員と外国人従業員に差がないわけではなく、実際にはこういった社内での重大な問題を起こした場合の処遇など、かなり重要な部分で日本人従業員とは異なる部分もあります。
普段そういった問題に遭遇することはほとんど無いはずではありますが、外国人従業員の方々の雇用管理について、一つの知識として、考慮しておいていただければと思います。

2023年8月3日木曜日

中国の「社会保険」と、日本の「社会保険」


中国で「社会保険」というと、いわゆる中国語の「五险」、養老保険、医療保険、労災保険、失業保険、出産保険の5つを指します(中国《社会保険法》)。
一方、日本では、「社会保険」というと、健康保険(介護保険含む)と厚生年金保険の2つを指し、労災保険と雇用保険は「労働保険」と分けて呼称しています。
(といっても、中国の方々に説明するときは、「労働保険」と説明しても通じないので、「労災保険と失業保険」とご説明しています。)
社会保険は従業員を雇っていなくても法人を設立するときは加入しますが、労働保険は従業員を雇用するときに加入するので、実は会社設立の段階での手続で少し違いが出てきます。

なお、中国の「生育保険」は妊娠・出産・育児のための医療費用や休業期間における手当の給付を行うものですが、これは日本では雇用保険(育児休暇取得者への育児休業給付金)と健康保険(出産手当金、出産育児一時金)に分かれています。
思わず「社会保険」と一言で済ませてしまうのですが、実はその意味合いは日本と中国で違うということ、もし区別の必要がある場面に出会ったら、少し気に留めてみていただければと思います。

2023年7月26日水曜日

中国における問題発生時の広報対応(2つの対照的な事例。従業員を処罰すべきか否か)


ニュースなど見ていますと、「日本でも中国でも同じなのだな」と感じることもたくさんあります。

2018年にセミナーをしたときにご紹介した事例ですが、同じように衛生上の問題が大きく報道された2つの会社で、会社側の応対によって評価が大きく分かれたケースがありました。

(1)飲食業H社の事例
  厨房にネズミが繁殖している2店舗の動画が公開された。
  報道から4時間のうちに「事実に相違ない」「改善する」と謝罪。
  問題店舗の従業員を処罰せず、「責任は董事会が負う」と言明。
⇒ 従業員に責任を転嫁しない態度で、大衆に好意的に受け止められる。

(2)ホテル業Q社の事例
  顔を洗うミニタオルで清掃員がトイレを清掃している等の報道。
  同じく事実を認め謝罪したものの、その内容で「問題を起こした従業員を処罰した」
との部分があったために、かえって批判の的に。
⇒ 問題を一部の従業員の範囲に限定しようとしたことが逆効果に。


今は日本で発信した情報が直ちに中国でも報道されるような時代です。
中国で事業展開なさっている企業の方々においては、中国での受け取られ方についても少し気にしてみていただけると、より良い対応になる場面もあるかもしれないと思います。




2023年7月13日木曜日

賞与(ボーナス)の位置づけ・支給水準


日本のボーナスは年に2回か3回、夏と冬(場合によっては春も)に賞与があり、合計すると基本給の2~5ヶ月分くらいが支給されると思います。住宅ローンの返済も、ボーナス月は返済が多くなるようになっている場合が多いでしょう。つまり、賞与が生活給の一部になっています。
一方、中国では季節によるボーナスは年一回だけ、概ね基本給の1ヶ月分です。
中国では春節前には「双薪」、つまり春節前だけ2ヶ月分の給料がもらえるという言葉になっています。税制上もこの年一回のボーナスだけが優遇対象でした。
したがって、日本とはボーナスの重みが全然異なります。ボーナスを減らすと住宅ローンの返済が行き詰まるといったような最低限の金額を保障してあげる必要性も小さいですし、逆に言えば、もともとの金額が小さいので上積み余地も大きいです。
ボーナスを柔軟に活用して、従業員のモチベーション向上などに活用いただければと思います。


2023年6月29日木曜日

動産差押の方式(「死封」と「活封」)


中国の差押の方式には、「死封」と「活封」の2つの方式があります。

「活封」とは、債務者の財産のうち生産設備や原材料など事業活動に必要な動産が封印・差押の対象となった場合でも、引き継続き債務者や第三者にその使用継続を認める差押の方式です。活きた状態での封印、ということです。
(《人民法院の民事執行における財産の封印、差押え及び凍結に関する最高人民法院の規定》第10条第2項、第13条第2項など)
これに対して、「死封」とは、そのような差押対象となる動産の使用を認めない、差押対象動産が文字通り使えない状態で封印されてしまっている方式の差押です。
経験的には、差押を受けている債務者も堂々と工場を運営している場合が多いですし、最高人民法院も堂々と「活封」を活用することを奨励しています。

これに対して日本はと言うと、日本でも、動産の差押をするときは、執行官が相当であると認めるときは、債務者に差し押さえた動産を保管させることができ、さらに相当であると認めるときは、その使用も許可することができます。(日本「民事執行法」第123条)
ただ、動産をそのまま債務者に占有させておくと紛失などのおそれがありますから、中国ほど堂々と使わせることは稀であるように思われます。
そもそも、日本でそのように事業に用いる設備が差し押さえられてしまうような状況になれば、民事再生や破産など倒産手続に入るでしょうから、そこも大きな違いかもしれません。

2023年6月13日火曜日

弁護士以外の者が代理人になれるかどうか(弁護士代理の原則)

中国の方々からのご相談を受けていると、「弁護士以外の者が代理人になることはできないのか? 自分が代理人になってはいけないか?」という質問を受けることがよくあります。
これは、日本の依頼者の方々からはあまり受けることがないご質問です。

「弁護士代理の原則」とは、日本において、訴訟の場面では原則として弁護士しか代理人になることはできないというルールのことを言います。
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日本「民事訴訟法」第54条(訴訟代理人の資格)
1 法令により裁判上の行為をすることができる代理人のほか、弁護士でなければ訴訟代理人となることができない。ただし、簡易裁判所においては、その許可を得て、弁護士でない者を訴訟代理人とすることができる。
2 前項の許可は、いつでも取り消すことができる。
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一方、中国では、弁護士でなくても、訴訟代理人になることができます。つまり、弁護士代理の原則というのがありません。
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中国《民事訴訟法》
第61条  当事者及び法定代理人は、1名から2名を訴訟代理人として委任することができる。
 次に掲げる者は、訴訟代理人として委任されることができる。
 (一)弁護士及び基層法律サービス業務者
 (二)当事者の近親者又は業務人員
 (三)当事者の所在する社区及び単位並びに関係社会団体の推薦する公民
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このように、少なくとも訴訟の場面で見れば日中双方の制度は大きく異なっていますので、冒頭のような日本ではあまり聞かないようなご質問が出てくることになります。


ちなみに、日本でも、訴訟の場面ではなく、報酬を得る目的でなければ、弁護士でなくても代理人になることができる場合はあります。
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「弁護士法」第72条(非弁護士の法律事務の取扱い等の禁止)
弁護士又は弁護士法人でない者は、報酬を得る目的で訴訟事件、非訟事件及び審査請求、再調査の請求、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事件に関して鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務を取り扱い、又はこれらの周旋をすることを業とすることができない。ただし、この法律又は他の法律に別段の定めがある場合は、この限りでない。
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ですので、訴訟以外の場面についてはご説明がなかなか難しいのですが、訴訟以外の場面であっても、非弁護士の代理人と称する方が介入している場合は、少なくとも日本の弁護士自身は、その案件に関わることが難しくなります。下記「弁護士職務基本規程」の規定があるためです。
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「弁護士職務基本規程」第11条(非弁護士との提携)
弁護士は、弁護士法第七十二条から第七十四条までの規定に違反する者又はこれらの規定に違反すると疑うに足りる 相当な理由のある者から依頼者の紹介を受け、これらの者を利用し、又はこれらの者に自己の名義を利用させてはならない。
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中国の方々が弁護士でない人を代理人に立てて交渉しようとする場面を見かけても、お互いに背景が違うことを理解して冷静にご対応いただければと思います。


2023年6月9日金曜日

会社数、事業者数(こんなにも激しい競争社会)


中国でのビジネスは日本に比べても熾烈な競争環境にあると感じられることがあります。
その感覚によく合う数字がありますので、ご紹介しておきます。

中国における事業者数は、2021年末時点において1.54億者であり、そのうち約3分の2にあたる1.03億者が個人事業者です。
ですので、概ね残りの3分の1にあたる約5000万社の企業があるというイメージになります。(法人格を持たない組合企業などが含まれるので、「法人化割合」ではありません。)

一方、日本の事業所数は2018年時点で約639万事業所、企業数が2016年で約359万社とのことです。
(経済センサス-基礎調査(令和元年)、中小企業庁平成30年11月30日発表にかかる中小企業・小規模事業者数の集計結果)

このように見てみると、およそ10倍以上の数の事業者が、3倍程度のGDPを奪い合っているような、熾烈な競争環境であることがイメージしやすいかと思います。

【2024年1月追記】
会社法改正の関係記事を見ていましたら、中国の事業者数が大幅に増えたのは2014年以降、出資払込の規制が撤廃されて、企業の設立が非常に簡単になった後だったようです。
この10年間で1億者増えた、数としては約3倍になったということで、この1億者の中には実態のない又は零細な事業者も多いでしょうから、見た目ほどに事業者が多いわけでもないのかもしれません。
補足までにて。

中国と日本の訴訟件数(中国の方が訴訟になりやすい)

日本における民事事件(※)の件数は、年間で約136万件(新受件数ベース)とのことです。
 (※)訴訟のほか、強制執行、破産なども含まれています。

参照:令和4年司法統計年報速報版 


これに対して、中国の場合、同じく民事事件の件数を見ると、1812万件(受理件数ベース)となっています。

参照:2022年全国法院司法統計公報


随分前に、同じような比較の観点から、「日本の3倍くらいのGDPで、事件数は10倍くらい。つまり、日本よりも3倍くらい訴訟になりやすい、と言えそうです。」というお話をしていたような記憶がありますが、今はその傾向がもっと強まっているように思います。