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中国で提出する書類の記入・署名: なぜ「ボールペン不可」「万年筆で記入」なのか?

中国に関係するビザ申請の関係書類や、中国で会社登記機関(市場監督管理局)や裁判所(人民法院)などの公的機関に提出する書類を記入したり署名したりするときに、「ボールペンで記入しないでください」「万年筆で記入してください」と言われたことはないでしょうか。

2022年3月24日木曜日

3月第3週:①3・15晩会(「404エラー」の驚くべき原因)、②薬品安全に関する刑事事件の司法解釈

①3・15晩会(「404エラー」の驚くべき原因)

 今年も3月15日の消費者保護デーにCCTVの「3・15晩会」が放送されました。今年は日系企業に関わる話題はなく一安心でしたが、一つ、とても興味深い話題がありました。
 企業活動において、消費者の「口コミ」はますます重要になっています。これら口コミをめぐる各種のマーケティング活動をバズマーケティングと呼ぶそうですが、中には、消費者を装って問答を自作自演したり検索エンジンの上位に表示されるよう操作したりする業務を受託する会社もあるそうです。
 今回はそれらと並んで、「自社の評判を低下させる情報が記載されたページを『404エラー』で表示されないようにする」という手法が暴露されていました。
 「404エラー」とは、「このURLは存在しません」という表示される、インターネットを閲覧しているとよく見かけるものです。この404エラーを活用する「技術的手段」を利用して、なんと、自社にとって不都合な記載のあるページを表示されなくすることができるとのこと。番組では、従業員への給与遅配などの書き込みがなされていた某企業から依頼を受けたバズマーケティング会社が、そのページにアクセスした人の画面に404エラーが表示させるように遮蔽し、企業にとって不都合な情報を見えないようにした事例が紹介されていました。
 そう言われてよく見てみると、今週の資料でご紹介した事例の記事の中でも、「昨日は表示されていたのに、今日は表示されなくなっている」というものがありました。私自身、このような現象は中国政府による行政指導か何かによるものかと思い込んでしまっていたのですが、それ以外に、企業向けの民間による世論操作サービスによっても同様の現象が起きていることがある。これは個人的にはかなり驚きでした。
 企業法務の業務においては、法的責任の有無と並んで、企業のレピュテーションリスクもよく考慮される事項です。その観点からすると、自社の悪評を見えなくする、良い情報だけが表示されるようになるという「世論浄化契約」によるサービスは、興味を引くものではあります。
 ITの世界は次々にさまざまな手法が登場してくるので追いつくのが大変ですが、法的にどのような位置づけになるのか、私もこれから勉強してみたいと思います。

②薬品安全に関する刑事事件の司法解釈

 薬品安全の刑事事件に関する新しい司法解釈が出ました。刑法改正で新たに薬品管理妨害罪という罪名が追加されていたところですが、今回の司法解釈では、無許可で薬品を製造する工場(「黒作坊」)やそのような無許可で製造された薬品をそれと知りつつ販売する行為が薬品管理妨害罪に該当すること等が規定されています。もちろん、その薬品がニセモノや粗悪品であった場合には、さらに重い虚偽・劣悪薬品の製造・販売罪として処罰されることになります。
 医療保険基金は市民の「救命」のための資金であり、医療保険を利用して医薬品を騙し取って転売するなどの行為については厳しく取り締まるとされています。先日も処方箋を「後付け」で発行する例などをご紹介していましたが(2021年12月第1週)、薬品流通の利便性と適正確保の両立がIT技術の進歩によって高まっていくことを期待したいと思います。

2022年3月15日火曜日

3月第2週:①政府業務報告、②全国商業秘密保護イノベーション試行業務方案、③手続代行業者の選定、④中小企業向け優遇政策(見逃し厳禁!)

①政府業務報告

毎年、全人代では国務院(政府)から全人代の代表の方々に対して、その一年の活動と次の一年に向けた方針の報告が行われます。
この政府業務報告は、中国政府が注力している分野などが全般的に述べられていますので、中国でのビジネスや投資に携わる方々は多くの方がご覧になっていると思います。
個人的には、今年は不動産について何か新しい言及が見られるか興味を持っていたのですが、従来どおり「住宅は住むために用いるものであり、投機のために用いるものではない」ということで、大きな方針転換は無いような印象でした。
毎年、前年分と比較してみると一層面白いだろうと思いつつ、ざっと眺める程度しかできないのが少し残念ですが、抽象的な記述が並ぶ中でも雰囲気が少し変わっている部分などもありますので、興味のある言葉が登場する部分だけでも、ご覧いただければと思います。

②全国商業秘密保護イノベーション試行業務方案

一部の地域において3年の時間をかけて、商業秘密保護をさらにレベルアップさせるという施策が打ち出されています。行政、司法、民事の多元的な保護制度によって、政府各部門が連動して互いに補いあう業務メカニズムを形成するとのこと。また、国際競争ルールとも連結された保護体系を構築するとのことです。
特許や著作権などの目に見えるものから、さらにノウハウなどの商業秘密に保護の範囲を広げるもので、企業においても十分に保護が得られるように、しっかりノウハウを認識・特定して管理することが求められるかと思います。

③手続代行業者の選定

商標局から、商標関連の代行業者の選定に関する注意喚起が出ていました。
内容としては、既に会社の法人登記を抹消されているのに、商標局の側での登録が残っているのを良いことに、そのまま新たな商標関連手続の代行業務を受託する業者がいて、代行を依頼した申請者が損害を被る事例が見られるとのことです。
手続代行を依頼するときには国家企業信用情報公示システムで登記状態を確認してください、とのこと。
とはいえ、毎回依頼するときに確認するのか?という疑問も湧きます。
商標に関する手続代行に限らず、普段の取引でも同じ問題は発生する可能性はあるので、取引先の名前を登録しておいて、登記状態に変化があったら自動的に通知が来るようなシステムやサービスがあれば良いのにと思います。
もし既にそのようなサービスがあり、ご存じの方がいらっしゃいましたら、是非、ご教示いただければと思います。
よろしくお願いいたします。

④中小企業向け優遇政策(見逃し厳禁!)

今年、2022年1月から12月にかけて、中小企業が購入した500万元以上の設備や器具について、償却期間3年のものについては当年度に一括して全額を損金算入でき、同4年、5年、10年のものは50%を当年度に一括で損金算入して、残り50%を以降の年度で損金算入していくという優遇政策が出ています。もし今年、所得から控除しきれない部分があっても、以後5年間は控除ができることになっています。
中小企業の設備調達において、かなりの減税効果がありそうな施策となっています。
ただ、こちらの政策、自社でこの優遇を享受するか否かの選択をする必要があり、自動的に適用されるものではありません。
日本の中小企業関連の施策もそうなのですが、知らないと享受できず、知らないうちに「もったいない見逃し」をしている場合があります。
ここで言われている中小企業の範囲は相当広いですので、日系企業各社でも対象になり得る会社も少なからずありそうに思われます。是非、一度ご覧ください。
また、設備や器具を販売する側の企業の場合、単位価値が500万元を超えるか超えないか微妙なときには、500万元を超えるように設定した方がむしろ税制メリットを享受できて有利、ということも考えられるかもしれません。


2022年3月8日火曜日

3月第1週:①3月5日から全人代・ウクライナ情勢、②外商投資企業授権登記管理弁法、③「小微企業」(小型薄利企業)に対する「六税両費」の減免政策

①3月5日から全人代、ウクライナ情勢

先週は3月5日からの全人代を控えていたからか、あまり目立った新法令・新政策はありませんでした。また、新聞記事の方も、ロシアとウクライナをめぐる問題が大きく取り上げられている関係で、法律関係であまり注目を集めている記事はなかった印象です。
ですので、今回はとりわけ安全生産の面で発表された取締事例と重点取締の話題をご紹介しています。工場・事業所での事故については関係者が厳しく処罰される傾向が続いていますので、改めて、事例を通じて留意点などをおさらいしておいていただければと思います。

②外商投資企業授権登記管理弁法

《外商投資企業授権登記管理弁法》が改正されました。《外商投資法》とその実施条例を受けた改正のようで、現行のものは2016年版と思っていたのですが、2002年版が廃止されて改めて発布されたという形式になっています。
外商投資企業の登記登録管理は、市場監督管理総局から権限を授権された各地の市場監督管理局が行っており、《外商投資法実施条例》第37条第1項でその名簿が公表されることが定められていますが、従来の《外商投資企業授権登記管理弁法》第7条でも授権の決定は公告されることになっていました。今回の改正はその授権の審査のための資料を簡素化するなどの見直しがあったとのこと。「登記管理についての授権」に関する弁法で、政府機関内部の権限分配の規定ですから、企業には直接影響はないものです。
いつもはなるべく企業活動に関係ありそうなものだけを取り上げるようにしているのですが、今回は次の「六税両費」の件と合わせて、開けてみて少しガッカリというものが多かったので、ここで書き留めておくことにしました。

③「小微企業」(小型薄利企業)に対する「六税両費」の減免政策

小型薄利企業に対する「六税両費用」、6つの税金と2つの費用の減免政策が出たということで中身を見てみましたが、6つの税金とは、資源税、都市維持保護建設税、家屋税、印紙税、都市・鎮土地使用税、耕地占用税です。2つの費用とは、教育費付加、地方教育付加の2つでした。ですので、これも重要度はあまり高くなさそうです。
ちなみに、優遇対象となる小型薄利企業の基準は、課税所得額300万元、従業員数300人、資産総額5000万元という基準とされています。この基準は2019年から採用されており、それ以前は2018年(財税[2018]77号)では工業企業では課税所得額100万元、従業者数100人、資産総額3000万元が基準でしたので、かなり適用範囲が拡大されてきています。
過去に該当しなくても、今は該当することもあるかもしれませんので、中小企業向けの優遇の適用範囲は常に見ておいていただければと思います。









2022年3月1日火曜日

2月第4週:①施行延期の通知、②「証照」の電子化、③個人情報保護法と業務システムへの情報記入、④プラットフォーム(Webサイトやアプリ)の利用規約変更、⑤訴訟前調停による解決の推進

①施行延期の通知

1月第4週にご紹介していた《金融機構の顧客デューディリジェンス調査と顧客身分資料及び取引記録の保存管理弁法》ですが、「技術原因」により施行延期となったようです。
発布後にいくつかの中小金融機関から、この弁法で定められている金融商品と業務モデルごとの具体的なルールや要求事項につき、金融機関側での内部管理制度、情報システム、業務フローを整備して人員の研修も行う必要があるとの求めがあったためとのこと。
もともと1月19日に発布されて2022年3月1日から施行ということで、施行まであまり時間的余裕がなかったところですが、春節休暇が間にあり、さらに今年は冬季五輪もありましたので、無理からぬところかという気もいたします。
「もう少し施行まで余裕のある期間設計にした方がよいのでは?」と思うことも多々ありますが、締切が遠いとついつい対応が後回しになってしまうのも人の常というものです。まずは施行期日を決めておいて、状況を見て延期という方式は、それはそれで合理的なのかもしれません。

②「証照」(証書・許可証)の電子化

中国では行政手続のIT化も進められています。以前から「発票」の発行のための専用システムや税務申告のためのシステム、税関関連の手続のペーパーレス化などは広く導入されていましたが、さらに営業許可証をはじめとする各種業務の許可証についても電子化して、逐一企業から情報・資料の提出を求めなくとも行政機関自身が確認できる仕組みを構築し、全国で通用するように連繋を進めようとしています。
これらの電子「証照」(証書・許可証)を取得して活用するには、申請段階からオンライン申請によることが求められます。そこでは、なりすましを防止するため、USBの認証キーなどを使った電子署名・電子印鑑が必要になりますが、これら紙の署名や印鑑に代わる本人確認手段も付随して普及する必要があります。こうした一連のインフラを整備することに民間企業が関与することも奨励されています。
ところで、日本でも行政改革の一環として「脱ハンコ」が進められています。行政機関の窓口でも、印鑑を求められることが少なくなった印象は確実にあります。ただ、個人が手書きで記入する用紙は自筆署名があるので良いのですが、会社名の書類は個人が署名する箇所はなく、会社の四角いゴムのスタンプ印だけで手続ができてしまい、代表者の丸印はもちろん会社名の角印すら不要という状況になっています。仕事柄、「これで本当に良いのか?」と思ってしまうところもあります。本来、印鑑廃止とデジタル化は表裏一体であり、デジタル化には紙の印鑑や署名に代わる本人確認も必須と思うのですが、会社の代表者の署名はあっても会社自身の署名と言うものは無いわけですから、会社の方は印鑑があった方が良いのでは...と個人的には未だに少し戸惑っています。

③個人情報保護法と業務システムへの情報記入

昨年11月1日から個人情報保護法が施行され、顧客の個人情報についてはIT企業やBtoC企業でなくとも法的に保護する義務があることが明確になっています。
今回紹介した事例では、業務システムにさまざまな情報を書き込めるようになっていたところ、従業員が「このお客様は●●が好き」「このお客様はSNSに投稿をする」などの情報を書き込んでいたことが問題となりました。
サービス業の観点から言えば、この人は顧客のことをきちんと覚えようとする仕事熱心な人なので、ご本人としても決して悪意はなかったのだと思いますし、きっとお客様の評判も良かったのだろうと想像します。
しかし、「知らないうちに」情報が記録・使用されていることは愉快ではありません。仕事熱心は間違いなく良いことなのですが、きちんと同意を得る習慣も求められる世の中になってきているという例かと思います。

④プラットフォーム(Webサイトやアプリ)の利用規約変更

引っ越しなど物流サービスをWebサイトやアプリで提供している会社が、利用規約(服務協議及び交易規則)の変更について、法律に定められた意見募集を行わなかったとのことで罰金の処罰を受けていました。
日系企業各社の立場では、運営者側ではなくユーザー側(出店者側)としてかかわることが多いと思われますが、改定内容に同意せずサービスの利用をやめることができることは当然として、さらに、改定内容が事前にプラットフォームの目立つ位置に掲示されていなかったという理由で事後にその効力を争うということも考えられます。
規約の改定があった場合、内容を見るよりも、その通知の有無や掲示されている場所などを先に見た方が良いかもしれません。

⑤訴訟前調停による解決の推進

中国ではここ数年、訴訟によらず調停によって紛争を解決することを促す方向で司法インフラの整備が進んでいます。
2021年の実績としては、訴訟前調停成立件数が610.68万件、「速裁快审」(一回結審など法律の許す範囲内で手続を簡略化した訴訟手続)の件数が871.51万件とのことで、一営業日あたり4.3万件がプラットフォーム上で調停され、1分あたり51件の紛争が訴訟前に解決されているとのことです。
(ちなみに、中国の年間訴訟件数は、民事・刑事合わせて2016年に2000件、2019年に3000万件を超えています。2020年も3000万件を超え、そのうち55%が民事案件とのことです。)
訴訟手続の迅速化は当事者に早い解決を提供するとともに、司法のリソースを有効に活用できるメリットがあります。しかし、日本にいる我々から見ると、ただでさえ十分な審理を尽くしてもらうことが難しい面がある中国での訴訟対応ですから、「事前に十分な証拠と論拠を揃える」ことが今後さらに求められてくると思われます。



2022年2月23日水曜日

2月第3週: ①ファイナンスリース会社に対する監督強化、②商品相場や価格の高騰に関する注意喚起、③フリーランスの求人募集をめぐる事件

①ファイナンスリース会社に対する監督強化

ファイナンスリース会社については、2020年5月に《ファイナンスリース会社監督管理暫定施行弁法》が中国銀保監会から発布・施行されていますが、現在はまだ3年間の過渡期の過程にあります。今回さらに、「非現場監督管理規程」が発布され、ファイナンスリース会社の重大事項についての報告を求めるなどの規制は上記の弁法でも規定されていますが、情報提供や検査権限などの面で規制が強化されるようです。
ちなみに、ファイナンスリース会社は、「金融リース会社以外の」ファイナンスリース業に携わる会社をいいます。歴史的な縦割り行政を背景とした整理として、「金融リース会社(金融租赁公司)」は銀監会の認可を経た金融機構(いわゆるノンバンク)であるのに対して、「ファイナンスリース会社」は商務部の認可により設立される非金融機構である、という違いがあります。資金源や業務面での規制が異なるのですが、2018年の国務院機構改革で銀監会と保監会が統合されて銀保監会となったとき、ファイナンスリース会社に対する監督管理権限も商務部から銀保監会に移行されました。
ただ単に監督官庁が変わっただけではなく、銀保監会による管理への移行に合わせて、2020年の弁法発布から3年間で金融機関並みの規制に対応することが求められています。しかし、これまでファイナンスリース会社は「金融機関ではない」という前提でずっと運営してきたものですから、既に移行期間の半分が経過した現状でも、なおファイナンスリース会社各社では若干の混乱があるようにも見受けられます。
グループ内にファイナンスリース会社がある企業各社では、そのような背景事情を含めて理解いただき、過去の延長線とは違う現状があることを改めて認識いただければと思います。

②商品相場や価格の高騰に関する注意喚起

2月15日に市場監督管理総局から、鉄鉱石の港での在庫量や先物取引の状況に基づき、関連する企業に対して注意喚起と警告が出ています。関係企業する企業は、虚偽の価格情報を発信することや、悪意の投機的売買、買占めや物価吊り上げ行為を行わないように、という内容となっています。
中国では《突発事件対応法》という法律があり、政府は自然災害、事故災難又は公共衛生事件の発生した場合に買占めや物価吊り上げ行為を処罰する対応措置を講じることができます(第49条第8号)。新型コロナウイルス感染拡大によりマスク価格が高騰した場面で講じられたような措置です。また、そのような事態でなくても、《価格法》第14条第3項は商品価格を高騰させるような行為を不正価格行為として禁じています。
今回も上記のような行為については厳しく取り締まるとのことです。今回は鉄鉱石の価格に関するものですが、昨年8月にも半導体について同様の通知がありました。さまざまな物価上昇が話題になる昨今ですから、中国における価格に関する規制についても目にする機会が増えるかもしれません。

③フリーランスの求人募集をめぐる事件

中国でも様々なフリーランスの方々向けの求人プラットフォームがあります。先日も中国の国家統計局から、フリーランス(灵活就业)の形態で就業する人たちが2億人を超えたことが紹介されていました。
配車アプリのときもそうでしたが、新しいサービスが普及していく過程では世間の耳目を集めるような悲惨な事件が起こって、それに応じて規制が強化されるという動きが起こります。今回は、一人の男性が求人募集に応じたところ、犯罪集団に某国に連れて行かれて違法に監禁されたうえ、大量に血液を抜かれて(「血奴」、血液の奴隷と紹介されています。)生命の危機に陥って病院に搬送され、某国の中国大使館に通報があったという記事が出ていました。
企業にとっても個人にとっても便利な求人募集のプラットフォームですが、日本でも「闇バイト」といってSNS等で犯罪に巻き込まれることもあるようですから、中国でのこうした事件も参考にしながら活用を考えていただければと思います。


2022年2月15日火曜日

2月第2週:①中国弁護士(律師)の成功報酬、②工業・情報化分野のデータの国外移転などの規制見込み(第2回意見募集)、③CMタレントとアフィリエイト

①中国弁護士(律師)の成功報酬

訴訟案件の対応を弁護士に依頼する場合、日本では着手金+成功報酬方式が一般的ですが、中国は少し様子が違います。中国では成功報酬方式(中国では「风险代理」と呼びます。)はまだ歴史が浅く、案件の対象金額に応じて固定した金額で費用を支払う方が主流でした。しかし、最近では成功報酬方式が採用されることも多くなり、依頼者側から成功報酬での対応可否を聞かれることも多くなっています。
今回、司法部など3部門から中国弁護士(律師)の収受する費用について新しい意見が出たのですが、その中では、成功報酬についての規制が強化されました。
すなわち、《律師サービス費用管理弁法》という2006年の法令では、成功報酬の上限は「(訴訟等の)対象金額の30%」が成功報酬の上限となっていたのですが(第13条)、今回の意見では金額に応じて6~18%の範囲とされました。最終的な回収額や債務の減免額も成功報酬の基準としても良いと改めて明記されているので、債務減免を目標として案件を受任する律師も増えるかもしれません。
また、離婚・相続案件や、労働報酬の支払請求案件、刑事事件や行政事件、国家賠償事件及び集団性訴訟案件などについては、成功報酬方式を用いることは禁止されていましたが(第11条、第12条)、この点については今回の意見でも変わらず禁止されています。
今後、中国での訴訟案件で中国弁護士(律師)に訴訟代理を依頼するときには、このような基準も改めて見てみていただければと思います。

②工業・情報化分野のデータの国外移転などの規制見込み(第2回意見募集)

昨年9月末に意見募集をしていた《工業及び情報化分野のデータ安全管理弁法(試行)》について、再度の意見募集が行われています。
データの国外移転については、重要データの国外移転に安全評価を求めることなど大枠は変わっていませんが、中核データは国外移転は一切不可とされていたところが、重要データと同じく安全評価を行えば国外移転できる余地が生じたようです。
また、重要データ及び中核データの保管については、前回から定められていた公共ネットワークからのアクセスの制限やバックアップ及び保管媒体の安全管理のほかに、さらに定期的にデータ復旧のテストを行うことなどが追加されています。
安全評価そのものについては、前回は一般データについても自主評価を奨励する旨が規定されていたのですが、今回はその言及は無くなったようです。
詳細はまた別の機会にどこかでご紹介できればと思いますが、引き続き、《個人情報保護法》よりもこちらの方が幅広い企業に影響がありそうな話題ですので、いつ規制が始まっても驚かないように、最新情報はフォローしておいていただければと思います。

③CMタレントとアフィリエイト

上海市の市場監督管理局から、《広告法》の定める「広告代言人(イメージキャラクター)」についてのガイドラインが出ています。
最近はTikTokなどのSNSで一般の方々がお勧めの商品やサービスを紹介していることもあり、アフィリエイト広告やステルスマーケティングなど新たなマーケティング手法についての法規制は日本でも議論されているところですが、中国《広告法》では過去にさまざまな事件があったこともあって、CMタレントが広告内容について広告主と連帯責任を負わなければならないことになっています。
どこからが有名人で、どこまでは有名人でないのか、判断が難しいところはあります。また、過激で誇張されたものでないと目立つことができず、必然的にそのようなコンテンツばかりが氾濫してしまうという傾向もあります。とても難しいテーマですが、広告については任せきりにせずに、企業側も個人側も互いにチェックしあっていただく観点が必要かと思います。

2022年2月9日水曜日

(日本の話題)「顧客満足度No.1」を謳う広告について


昨年少しブログで言及していた「No.1マーケティング」(「顧客満足度No.1」などと謳う広告など)について、
「また後日どこかで」と書いたまま忘れていましたが、
日本マーケティング・リサーチ協会から1月18日に「抗議状」を出されていました。

(過去の記事はこちら。
 https://chineselawtopics.blogspot.com/2021/05/5348.html

商品やサービスの広告表示において「No.1」を表記しても不当景品類及び不当表示防止法に抵触しないように、
その客観的な根拠資料を得る目的で行われる調査ですが、
実は調査対象者や質問票を恣意的に設定する非公正な調査が行われており、
「No.1 を取得させる」という「結論先にありき」で、「No.1 調査」を請け負う事業者やこれらをあっせんする事業者がいるとのことです。

消費者の目線では、どのような調査を行ったのか、下に書いてある小さな文字まで読むことは普通は無いと思いますが、
もし「No.1」と謳っている広告を見かけられたら、小さい字の部分を見ていただくと、少し面白いのではないかなと思います。

2022年2月2日水曜日

1月第4週:①「お歳暮」の会社への報告・届出制度、②歴史関連の地名と悪意の商標出願、③金融機関による顧客へのデューディリジェンス調査

①「お歳暮」の会社への報告・届出制度

某大手電気自動車メーカーでの社内不正取締活動が大きく報じられています。取引先側に対しても、「廉潔協議書」などに基づいて違約金などの制裁を課す制度が運用されているとのことです。
取引先との取引開始にあたり、守秘契約や取引基本契約と同時に、「廉潔協議書」などのタイトルで贈答や接待を禁じる旨の合意書に署名・提出を求められることも増えてきました。私たちのような外部専門家であっても提出を求められていますので、どのような取引であってもこの種の合意書を提出する慣行が少しづつ普及・定着しているように思われます。
春節前は、ちょうど日本でいう「お歳暮」の季節ですし、同郷の仲間と集って商売の話をする時期でもありますから、こういった節目の時期には思い出してみていただければと思います。

②歴史関連の地名と悪意の商標出願

「長津湖」という朝鮮戦争の激戦地を題名にした映画があるそうです。その映画が公開されるのに合わせて同名の商標を出願した会社があり、悪意での商標出願だと言うことで罰金及び違法所得没収の処罰を受けたという記事がありました。
出願されていないのに違法所得?と思われるかもしれませんが、この件で処罰を受けたのは出願人となった会社だけでなく、その出願を代理した代理会社も処罰を受けているので、この代理会社が受け取った出願業務の委託料であろうと思われます。
悪意の出願であると認定された理由の部分が、「明らかに正常な経営活動の必要を超えているから」と書かれているだけですので詳細は不明ですが、今後は商標の出願を委託するときには代理会社から「正常な経営に使うのですか?」と聞かれるかもしれません。

③金融機関による顧客へのデューディリジェンス調査

国際的なマネーロンダリング(洗銭)やテロ組織の資金源への取締の一環として、中国でも金融業界で顧客に対するデューディリジェンス調査の具体的要求事項の更新があります。金融リース会社や自動車ローン、消費者金融の会社も対象となっています。
疑わしい取引については顧客の身分につき独立のデータ・資料から顧客の身分を確認すべきこととなっていますが、リスクの状況に応じてデューディリジェンス調査の措置を講じなければならず、30日の双方の支払・受取累計が5万元又は1万米ドルなど、調査を行うべき一定のトリガーが定められているとともに、背後の実質的所有者についても調査することなどが規定されています。
また、第三者に委託して調査を行う場合につき、海外の第三者に委託する場合には、高リスク国家又は地域の第三者を通じて調査を行ってはならないことなども言及されています。
日常の取引にまで影響する場面は少ないかもしれませんが、金融機関からの株主の状況等に関する照会に対する対応などについては時折話題に上ることもありますので、ご参考までに。



なお、来週は春節休暇のため休載いたします。


2022年1月25日火曜日

1月第3週:①通販サイトでの低評価と誹謗中傷、②「新型オフショア国際貿易」、③商標登録の快速審査

①通販サイトでの低評価と誹謗中傷

通販サイトでのユーザー・購入者による評価について、興味深い事例が新聞で紹介されていたので、今回はこれを題材として取り上げています。
とある学習課程を購入した学生さんが、通販サイトで低評価をつけ、さらに別のブログで課程について「サービス態度が相当悪い」などの悪評を投稿したという事例です。これについて、事業者側は、「当社は高評価の割合が99.22%であり、低評価は滅多にない」などとして、低評価が誹謗中傷であるとして、その学生さんを訴えました。
裁判所はこの訴えを認め、約3200元の賠償と謝罪を命じました。(ちなみに、この課程の購入代金は300元であったようで、学生さんにとっては高い授業料になってしまったようです。)
日本では憲法で保障された表現の自由が極めて重要な権利とみなされていますが、中国では「消費者が事業者を監視・監督する活動」として捉えています。個人が好きなことを自由に発言して良いということではなく、あくまでも社会にとって有益かどうかという観点で判断されるという違いが存在しているようで、この事例もその一例かと思います。
事業を行う企業の観点では、日本では批判も甘んじて受けなければならない部分があるとしても、日本よりは中国の方が誹謗中傷に対しては厳しい態度を取っているので、たとえユーザーや購入者に対してであっても、事実と異なる誹謗中傷には毅然と対応する必要性が高いということを考えてみていただければと思います。

②「新型オフショア国際貿易」

国家外為管理局から、「新型オフショア国際貿易」の発展を支援することに関する新たな規定が出ています。
「新型オフショア国際貿易」とは、貨物が「一線」(外国と保税区の境界)を入らず、税関統計の対象にも組み入れられない、居住者と非居住者との間の売買や加工委託などの取引を指します。中国の外貨管理は基本的に資金決済と貨物通関記録が釣り合うことを求めているところ、オフショア貿易の場合は中国に出入りする貨物の通関記録がないので、以前は保税区でしか取扱いができず、その後も全国的には外為局による管理が厳しく銀行決済も難しい状況にありました。《多国籍会社クロスボーダー資金集中運用管理規定》のもとで、一部の企業は銀行を通じてこのようなオフショア貿易を含む決済が可能となっていました。もっとも、実際には、銀行の審査負担が重いことから、あまり活用されていないのではないかと思われます。今回も、銀行側で関係取引書類や顧客についてデューディリジェンスや事後モニタリング管理などの資料を5年間保存して調査に備えることが求められているので、まだまだ取扱いが厳しそうな印象ではあります。
ただ、外商投資を奨励する産業目録(2020年版)において、中西部地区外商投資優勢産業目録のうち海南省の部分で「23.新型オフショア国際貿易(オフショア転売取引及びオフショア取引に関係する商品サービス)」が挙げられていました。また、2019年の《広東・香港・マカオ大湾区発展規画綱要》でも、国際市場の開拓の項目で、香港と佛山でオフショア貿易合作を展開すること、深圳前海の深圳・香港現代サービス業合作区の機能としてもオフショア貿易の機能を発展させることが掲げられていました。さらに遡れば上海の自由貿易試験区でも以前からオフショア貿易は奨励されています。政策的にオフショア貿易が奨励されている一部地域では、銀行においても事例を蓄積して手続しやすくなっているかもしれませんので、もしオフショア貿易を検討される場合は地域を選ぶことを意識してみていただくと良いのではないかと思います。

③商標登録の快速審査

中国での商標の出願から登録に至るまでには比較的長期間が必要であり、新規登録の場合には通常、1年前後の時間がかかります。譲渡やライセンスの場合でも半年以上の時間がかかりますので、ビジネスの展開にとっては手続の負担が重くなっています。中国でも近年この審査期間を短くする方針が何度か出されていましたが、今回は、「快速審査」ということで、なんと20業務日以内に審査を終えるという新しい制度を作るようです。その前に快速審査を利用できるかどうかの審査がありますので、実際にはもう少し時間がかかるでしょうが、通常に比べると非常に短い審査期間です。
とはいえ、この制度を利用できるのは、国家の重大プロジェクトや重大災害などに関するもので、また、文字商標に限るなどの条件もあり、国家関連部門や省レベルの人民政府の発行した快速審査の推薦意見なども必要になるようですから、一般の企業が使える機会はあまり無さそうです。