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中国で提出する書類の記入・署名: なぜ「ボールペン不可」「万年筆で記入」なのか?

中国に関係するビザ申請の関係書類や、中国で会社登記機関(市場監督管理局)や裁判所(人民法院)などの公的機関に提出する書類を記入したり署名したりするときに、「ボールペンで記入しないでください」「万年筆で記入してください」と言われたことはないでしょうか。

2021年6月11日金曜日

6月第2週:①「証照分離」改革(規制緩和とコンプライアンスは表裏一体)、②大量固体廃棄物総合利用、③新エネ車と「永久無料」、④商業賄賂の不起訴事例

今週のキーワード:
審査認可制度改革、コンプライアンス第三者監督評価、企業コンプライアンス事例、新エネルギー車アフターサービス


①「証照分離」改革(規制緩和とコンプライアンスは表裏一体)

審査認可制度に関する「証照分離」改革、よく見かけるキーワードですので、少しご説明しておきます。
経営許可証と営業許可証の分離という意味で、個別業種の経営許可証は日本語と同じく許可『証』、営業許可証は中国語の「营业执『照』」で、この2つを分離しています。
昔は、営業許可証の取得(会社設立登記と同時)の前に、食品なら食品、建設なら建設、化学品なら化学品、それぞれの業種にかかわる許可を事前に取得する必要がありました。
ですから、「その業種の許可が先に取れないと、営業許可証がもらえない」、つまり会社が設立できない仕組みでした。
現在では、とりあえず先に会社を作って営業許可証(照)をもらっておいて、後で個別業種の許可証(証)をもらう、ということができるようになっています。
逆に言うと、営業許可証の経営範囲に「食品卸売」と書いてあっても、その許可証を持っているとは限らないことになっており、今では経営範囲よりも個別の許可証が大切になっています。
以前から中国ビジネスにかかわっておられる方々は、5年も経つと仕組みが大きく変わっていますので、お気をつけください。
今回の通知では、さらに、事前審査そのものを無くす業務分野が増えるとのことです。
ただ、例えば広告発行登録が廃止されても、広告法違反の処罰は多いです。そのように、規制緩和に見合った自己チェックがセットになります。
「規制緩和と企業コンプライアンスは表裏一体」、日本ではごく当たり前の常識になっている観点ですね。
(例えばネット上でも、下記のような分かりやすいご説明も掲載くださっています。
しかし、一方で中国を見ると、このような考え方はまだ「全く」浸透していませんから、中国子会社で体制・習慣を作っていくのは大変です。

②大量固体廃棄物総合利用

大量固体廃棄物の総合利用についての指導意見。
金属精錬くずを道路や建築資材に活用する、建設ゴミを道路工事で再利用する、農産物のわらをエネルギー利用や環境保護製品に再加工する、そういった産業のモデル基地を作るそうです。
2019年の総合利用率は55%であったところ、これを2025年までに60%に高めるとのこと。
リサイクルしやすさを考えた商品設計、B to Bの場面でも少し考慮する項目に入ってくるでしょうか。

③新エネ車と「永久無料」

新エネルギー自動車のお話。
新エネルギー車の販売量、使用量の増加とともに、品質問題やアフターサービスなどの問題も中国で「炎上」しています。
日本でも「永久無料」と書かれた広告を見かけることがありますが、それを「無制限に」と理解する人はあまり多くないと思います。
中国は広いですから、「いくら使っても」永久無料なのか!と喜んでしまう素朴な人たちがまだまだ多いのかもしれませんね。
同じ言葉、同じ説明をしても、受け止め方が変わってしまえばトラブルになりますから、広告の世界は難しいです。

④商業賄賂の不起訴事例

企業コンプライアンスのお話では、今回の資料では2ページを費やしました。
「商業賄賂」(取引先の担当者個人への利益供与)についての事例も紹介しています。
H社の音響設備のサプライヤーであるY社の営業担当の王さんは、累計で、H社の購買担当の劉さんに25万元、技術総監の陳さんに24万元を贈りました。その資金は別のA社という会社からY社が何かを購入したことにしてY社から支出されており、Y社の副総裁と財務総監が承認していました。
H社が公安に通報して、上記各関係者はそれぞれ処罰されたのですが、ここでの問題はY社の会社としての処罰です。
Y社の関係者らが贈賄をしたのはY社の売上のためですから、Y社も処罰を受けることになりそうですが、そこで、資料に書いたとおり、Y社は「コンプライアンス監督管理協議書」なる契約を検察との間で取り交わして、起訴を免れたという事例でした。
昔からある話ではありますが、果たして、第三者の監督機関が入ってきたとして、「中秋節に結構お高めの月餅を贈っても良いですか?」と聞かれたらどう答えるのか、個人的にはとても興味があります。

2021年6月10日木曜日

TikTok、Wechatに関する大統領令の取り消し


WechatやTikTokに関する大統領令、ワークショップの話題などでも取り上げていたので、その後どうなったのかと時々気になっていましたが、昨日付で取り消されたとのこと。
Section 1. の "The following orders are revoked: ..." とある部分です。

Wechatが引き続き使えるのは一安心ですが、私用と業務は分けて、業務では別のアプリを使う方が良いのは従来どおりですね。

「カルテルや談合の話し合いは、料亭ではなくWechatで行われている。
 プライベートなアカウントなので、会社としては完全にコントロール外になる。」
反独占法のコンプライアンスのお話をするときにいつも申し上げていることですが、
ようやく、ときどき別アプリを使う対応をなさっている会社も見かけるようになってきました。

2021年6月3日木曜日

6月第1週:①三人っ子政策、②電子証拠の効力、③市場監督管理局の「法執行責任制」、④職務発明報奨

今週のキーワード:
ブロックチェーン技術での電子証拠保存、公証サービスの最適化、三人っ子新政策、職務発明


①三人っ子政策

三人っ子政策は中国の人力資源政策の大きな方向性ですが、2016年に一人っ子政策が撤廃されたばかりですから、急展開という印象です。
日本では、産休・育休中は健康保険や雇用保険から出産手当金や育児休業給付が行われ、企業側に負担が無い制度設計になっていますが、中国でも同じように「生育保険」という保険があります。日本では男性の育休取得が話題ですが、中国でも同じように男性の育児休暇取得が導入されることも予想されます。他にも、子ども手当とか、日本で試みられたような施策が検討されるでしょう。少し前まで「一人っ子手当」とか、第二子が生まれたら「社会扶養費」を10万元以上納付とか言っていたわけですから、ついていくのも難しそうです。
育休一つ取ってみても、日本では余剰人員が少ないので、育休で人が抜けると他の人の負担が増します。日系企業の中国子会社では、日本ほどギリギリの人員で運営している例は少ない印象ですが、「自分の仕事はこれ」という守備範囲に対するこだわりが強いですので、「あの人が育休で抜けて、仕事は増えたのに給料が変わらないのはおかしい!」という会話が発生することも予想されます。
人事労務管理は「適法でありさえすれば良い」わけではなく、労働法と人事管理は別のものです。別のものではありますが、両方を理解しておく必要があるので、企業の人事ご担当者は中国でも大変だろうと思います。

②電子証拠の効力

「業務で本当によく出遭うご質問」のトップ10には間違いなく入るであろう、電子証拠の有効性について、最高人民法院の「インターネット10大典型事例」で2つ、紹介されていました。
私も使ったことがないのですが、ブロックチェーン技術を使った「保全網」というサービスがあるようで、浙江数秦科技有限公司という会社が運営主体になっています。
この会社のサイトを見てみたところ、早速、「全国初の判決の...」と宣伝文句になっていました。さすがですね。ただ、サービス自体が海外から使えるのかどうかは不明です。
もう一つの事例は、タイムスタンプに関する事例でしたが、これも第三者の電子証拠サービスプラットフォームで保存された証拠の効力を肯定したものです。
公証人役場(中国では「公証処」)に足を運ばなくても、簡単に安価で利用できるこれらのサービス、発明者の認定に関する証拠や、先使用に関する証拠など、特許や商標に関する証拠保存にも活用できそうです。著作権をはじめとする知的財産関連のお仕事をなさっている皆様には、業務の煩瑣とコストの削減に活用いただけるかもしれません。
とはいえ、日本と中国の両方で通用するサービスで、且つ、サーバーが日本国内にあるものでないと、なかなか使いづらいようには思われます。

③市場監督管理局の「法執行責任制」

市場監督管理局の「法執行責任制」の規定、部門や職位ごとの職責を明確にして、自分の守備範囲の業務は責任をもって遂行しましょう、ということですが、第10条(業務人員の法執行責任を追及する場合)と、第11条(同・追及しない場合)に列挙された事由がなかなか興味深いです。
中国の公務員の方々も、自由気ままに裁量権を振り回しているわけではなく、なかなか大変なのだなと感じられます。
さらに、第12条では、「革新的で先例に乏しく、試しながら模索する中で生じた誤りは、発展推進のための善意の過失であるから、責任を追及しない」ということが書かれています。
失敗しても間違っても、前に進み続けましょうということで、これが政府機関内部向けのものでなければ、もっと良いメッセージだと感じられるのですけれど...。

④職務発明報奨

職務発明報奨、日本で特許関係のお仕事をなさる方々ならば、特に目新しい話題でもありません。かの有名な青色LED訴訟を思い出される方も多いと思います。
中国もここ数年、中国市場向けローカライズ開発など、開発要素を伴う活動が行われ、中国子会社名義で特許出願している例も増えてきている印象があります。(特に中外合弁の場合、中国側パートナーの希望により。)
ただ、職務発明に関する契約や社内規程、整備されているでしょうか?というと、実は中国ではそこまで配慮できていないということもあり得ます。
(中外合弁会社の中国側パートナーには、「出願したがるのは良いけど、職務発明報奨のことは考えているの?」と一言聞いてみていただけると、「何のお話?」というような反応が返ってくるかもしれません。)
今回の特許法改正で、職務発明に関する規定が特に変わったわけではないのですが、状況の変化や、改正をきっかけにして注目が集まることで、紛争が増える可能性もあります。
今回pptで紹介した記事でも、「今回の改正で企業が職務発明報奨を支払う義務が明文化された」かのような誤解をされそうな書き方がされていますが、2008年、2010年から特に変更はありません。しかし、新聞を見た人が「私にも権利が?」と思うことはあり得ますので、話題にのぼる可能性は少し高まるでしょう。
新しい情報がなくても「新聞」、見ておくべきところもあるかと思います。



2021年5月28日金曜日

人民元高が進んでいます。

人民元高が進んでいます。昨年5月、人民元対ドルレートは7.1元だったところ、それから1年経って6.3元の時代を迎えたとのこと。

日系企業の中国現地法人の事業にも影響する部分もあります。

中国人民銀行や外為管理局のメンバーも参加する主要銀行を集めた会議の記事では、投機的な為替取引を控えるよう指導しつつ、悪意で一方的な予期を創り出す相場操縦は厳しく取り締まるという話も出たとのことです。

人民日報日本語版5月27日記事:http://j.people.com.cn/n3/2021/0527/c94476-9854686.html

中国新聞網5月27日記事(中国語):https://www.chinanews.com/cj/2021/05-27/9487024.shtml

5月第4週:①銀行カード不正利用(赴任・帰任の季節ですので)、②炭素排出権取引、③「東数西算」、④個人信用調査報告書、⑤レストランの紙ナプキン、⑥環境汚染の通報奨励

今週のキーワード:
危険廃棄物の監督管理、環境違法通報の奨励、地理情報事件


①銀行カード不正利用(赴任・帰任の季節ですので)

銀行カードの不正利用についての司法解釈。
あまりビジネスには関係ないので、詳しい解説が出てこないかもしれませんが、中国に赴任・駐在する方々にとっては非常に大切です。
書籍にも書きましたが、日本ではカード所持人に故意や重大な過失がなければ特に裁判手続を経なくても補償されるのに、中国では多くの場合は裁判をしないと補償されません。
ですので、現実的には泣き寝入りになりがちで、別途保険をかけておくことを強くお勧めしています。
別人によって銀行カードが不正利用されたと主張しようとすると、警察への通報記録や、紛失記録などの記録を提出しなければなりません(第4条)。
不正利用があったことを通報した後、銀行はその後の利用につき監視カメラ録画などの証拠を保存する義務を負い、これらの証拠を出せないと銀行側敗訴となります(第5条)。
ですから、中国の銀行に口座を持っている方は、必ず、口座残高の変動は全てスマホに短信(SMS)で届くように設定し、且つ、その設定が無効になっていないか常に気をつけておくことを強くお勧めします。
(※)しかし、銀行の番号から来たSMSなのに、URLを押すと詐欺だったということもありますので、身に覚えのない通知が届いても決して慌てて押さないでくださいね。
不正利用かどうかは、家族が勝手に使うような場合もあるので諸事情の総合判断になりますが(第6条)、それだけに勝ち負けが見通しにくい厄介な裁判とも言えます。中国の銀行に口座をお持ちの方は、改めてご留意ください。

②炭素排出権取引

炭素排出権取引について、全国炭素市場のリリースは6月に予定されているそうですが、それまでの間は暫定的に、排出権登録アカウントは湖北省取引センター、排出権取引アカウントは上海環境エネルギー取引所が、それぞれのシステムでのアカウント開設・運行などを担当するそうです。この全国炭素市場のカバーする排出量は40億トン以上で、温室効果ガス排出量規模では世界最大の炭素市場となる見込みとのこと。
4月第4週のときに少し触れた「生態製品」の価値実現という話題もそうでしたが、金銭的価値に換算することで分かりやすいインセンティブが働くようになると思いますので、炭素排出量削減にかかわる設備やモニタリングシステムなどのビジネスの加速を期待しています。

③「東数西算」

全国一体化ビッグデータセンターの算力中枢、訳すと何を言っているのか分かりにくいですが、私なりの理解を書いておきます。
監視カメラであれGPSであれスマホ動画であれ、今は過去とは比較にならない膨大なデータが収集・伝達・処理される時代です。5Gの普及でその傾向はさらに進みますが、そのために必要な機器はどこに置かれるでしょうか。
ここで、「東数西算」という分かりやすいキャッチフレーズがあります。
京津冀、長江デルタや広東・香港・マカオなどではユーザー規模が大きくデータ処理需要が大きいのですが、これらの地域では用地やエネルギーの面では限りがあるので、内陸部で再生エネルギーも利用しやすい場所にデータセンターを作り、リアルタイムのデータ処理が必要なものは近くで、それ以外のものは内陸に送って保管・処理する、といったような、全国をネットワークでつないだ役割分担が考えられています。
そのためには各地を結ぶネットワークやハブとなる拠点を計画的に整備していく必要がありますので、これらを政府主導で計画的に推し進めていくことを考えているようです。
同じく今週の記事で、ビットコインの「採掘(マイニング)」禁止の記事も紹介しましたが、政府主導でせっかく整備したデータ処理能力をそんなところに使われては困る、そういうこともあるのかもしれません。

④個人信用調査報告書

個人の信用調査報告書(征信報告)とは、個人の家族や勤務先の情報、個人のローンの残高や、クレジットカードの口座数、利用状況、さらには住宅積立金の納付情報などが記載された公的資料です。ビジネスの中でも、M&Aなどの重要な取引で個人の信用状況が重要となる場合には取引相手に依頼して提供を受けることもある書類ですが、ただ、その記載内容が間違っていることがあるようです。
今回紹介した記事では、過去の勤務先の情報の中に「侮辱的」な職業の記載があったとのことで、消費者金融の会社の従業員が誤って入力したようです。記事の内容としては、「自分でしっかり登録情報に誤りがないか確認しましょう」となっていますが、入力されていた過去の勤務先情報の正誤をどう説明するのか?と考えると、そう簡単なお話でもなさそうに思います。

⑤レストランの紙ナプキン

レストランの紙ナプキン、この事例は、レストランでの注文で、QRコードをスマホで読み取って注文するところ、紙ナプキン(2元)がデフォルトで注文することになっており、しかもそれを取り消せないという仕様になっていて、抱き合わせ販売で処罰されました。
普段の業務なら誰かが気づきそうなものですが、システムやアプリを外注して作るという場面になると、とたんに見落としやすくなるというのは、ありそうなお話だと思いました。

⑥環境汚染の通報奨励

なお、pptにも書きましたが、環境汚染の通報奨励事例が出ています。
最近、昔に比べると「工場に抜き打ちで検査が来た」という話をよく聞くような気がしていますが、近隣住民の通報を受けて検査が入ることもあります。
騒音や振動、異臭などの通報でも検査に来ます。
そして、検査に来た以上は「満点ですね」とは言ってくれず、いろいろと不備を指摘して帰られます。
ですので、中国現地では、検査が来るのも不備を指摘されるのも日常の業務運営の一環と考えておいていただく方がよろしいかと思います。
それにしても、Wechatで100元のお小遣い稼ぎに通報するという気楽さ、これも時代というものですね。


2021年5月21日金曜日

5月第3週:①香港企業の破産手続への大陸内での認可と協力、②ビジネス環境の評価、③労災認定と48時間

今週のキーワード:
クロスボーダーの破産協力、緊急対応管理情報化建設、違法な費用収受


①香港企業の破産手続への大陸内での認可と協力

香港の破産手続に基づいて香港企業の破産手続を行うにあたり、その企業の主たる資産が中国大陸内にある場合には、中国大陸内でもその香港での破産手続の効力を認めて、その手続に協力しましょう、という最高人民法院の意見が出ました。
これだけですと、意味がよく分からないと思いますので、背景について少しご説明しておきます。
まず、前提として、中国大陸内と香港は、一国二制度ですので、香港での破産手続の効力は当然には中国国内には及びません。しかし、歴史的経緯から、ある類型の香港企業の場合、その資産の多くが中国大陸内にある場合が存在しており、これらの資産に香港での破産手続の効力が及ばないとすると、破産手続を行うのに不便です。
ご存じのとおり、香港は歴史的に長らく中国への投資の窓口でした。1978年の改革開放の前後の時期は、いわゆる冷戦構造化でのチャイナリスクをヘッジするために、中国大陸内に直接投資するのではなく、香港に投資するスキームがとられました。中国大陸内に多額の投資をすることを避け、香港企業を設立して、その香港企業が保有する設備を中国国内に持ち込んで、香港企業が中国国内の郷鎮企業の分工場という名義を借りて実質的にその経営をコントロールすることで中国大陸内の安い労働力を活用していました。これが昔よく見られた「来料加工廠」スキームだそうです。(私が小学校に入るか入らないかの時代のことですから、当然ながら、聞いたり読んだりした伝聞情報です。念のため。)
2010年頃からこのような「来料加工廠」を中国現地法人に切り替えていく政策が推し進められてきたため、現在では来料加工を行っている工場も中国の現地法人として法人化されている例が多いと思いますが、このような歴史的な経緯もあって、現在でも中国大陸内に存在する資産が香港企業の名義になっていることはよくあります。それらについて、香港の破産管財人の「名代」になってくれる大陸内の管財人代理を中国大陸内の人民法院が指定してくれることで、香港企業が中国大陸内に預けていた資産を回収・換価して、債権者に正しく分配することができる、ということを意図したものと思われます。今回の試行内容としては、香港企業の「主たる資産」が試行地区として指定された3都市のいずれかに所在していることが条件となっています。
もちろん、他にも資金移動の便利さやキャピタルゲインについての税務上のメリットなど諸々の理由から、中国国内に事業の拠点を置きつつも香港にも別会社を設立している例も多くあります。ですので、意外に適用される場面は広いのかもしれません。
なお、余談ですが、メーカーで言うと例えば金型や治工具、検査機器など、日本の会社の資産として計上されていていても、実際には中国大陸内にあって中国企業が占有・使用している場合もよくあります。ですので、日本企業が中国大陸内に預けてある設備や部材については、相変わらず、日本の破産管財人の先生が頑張って外国企業として中国国内で訴訟を起こして回収しなければならない(それが費用倒れになる場合は放棄せざるを得ない)ということになりますが、香港現地法人経由で預けている場合は、中国大陸内に預けられている資産も円滑に回収できる場合が出てくるかもしれません。

②ビジネス環境の評価

それと、ビジネス環境評価についての新聞記事をご紹介しています。
中国では、2019年に《ビジネス環境最適化条例》を制定して、2020年1月1日から規制緩和や企業のコスト負担軽減、社会信用体系の確立などを推し進めています。世界銀行の発表している各国のビジネス環境ランキングでも中国はここ数年、順調に順位を上げてきており(その評価が妥当かどうかはともかくとして。)、中国国内でも、わが省、わが市こそビジネスをするのに便利・有利な場所だということで、「権威」「公式」などの名称を冠したビジネス環境のランキングがあれこれ発表されています。ただ、正式なものは《中国ビジネス環境報告2020》という報告が唯一のもので、それ以外のランキングは各地方政府や企業・団体から「スポンサー費用」や「手数料」などの名目でお金を払えば良い評価がもらえる、という不正なものであるようです。
実は、《ビジネス環境最適化条例》では既にこのような問題が生じることを予想して、「何者もビジネス環境の評価を利用して利益の取得を謀ってはならない」という条文を制定当初からわざわざ置いていたのですが、それでも守られていないとのこと。
少し前も、社債発行に関する企業の格付について、お金さえ払えば高い格付けが得られる仕組みが問題視されているという記事をご紹介しましたが、構造としては共通するところがあります。
日本でも、随分以前から「No.1マーケティング」という広告手法が流行っていて、「顧客満足度No.1」企業がたくさん存在する不可思議な現象なども起こっていますが(そのカラクリはまた後日どこかでご紹介したいですが)、地方政府までターゲットにしてしまうというのは、さすが中国という印象ですね。

③労災認定と48時間

もう一つ、労災についての記事では、出張からの帰路の途上で突発的に病気が発症して、救急治療の甲斐なく数日後に亡くなってしまったという事例が労災に該当するかどうか?という問題が取り上げられていました。
中国の労災認定の仕組みの中では、昔から「業務中に倒れて亡くなった場合、亡くなったのが48時間以内であれば労災とみなす」というルールがあります。ですので、私も昔から中国の労災に関するセミナーなどでは(半分冗談で)、職場で誰かが倒れたら、とにかく急いで病院に運んで、なんとしても48時間は無くならないようにする方が良いというお話をしていました。一時期、中国でも過労死という言葉が流行ったことがあり、今では定着した感もありますが、この過労死の認定のうえでも、日本と違って残業時間実績から認定するような基準がないので、48時間が一つの重要な基準になります。
ただ、この48時間はあくまでも「みなす」かどうかの基準にしか過ぎないので、理論的には、48時間が過ぎれば労災でなくなるというわけではありません。ですので、この事例では、現地の人力資源社会保障局が労災認定をしなかったのに対して、検察が是正を求め、労働者保護という初心に立ち返って、改めて労災認定をしたというお話でした。
日本もそうですが、中国でも今後は高齢の方も増えてくるかもしれません。今回のような出張の移動中や通勤途中などの微妙なケースも、実務では比較的頻繁に遭遇する場面という印象もありますので、人命第一で対応するのは当然として、労災の処理についても正確に理解して対応いただければと思います。


長々書きましたが、以上はいつもどおり私の個人的理解ですので、より正確には各法律事務所や権威ある先生が発表される論文等をご覧いただければと思います。
新しい法令や事例から遡って背景知識を増やしていただくと、今、必要な知識から順に頭に入れていただくことができると思いますので、ご興味がある項目があれば、このメール配信時の独り言にもお目通しいただければ幸いです。


2021年5月13日木曜日

5月第2週: ①危険化学品の査察活動、②不正競争の取締活動、③スマートシティ試行6都市、④外国人にも受験資格! ⑤並行輸入

今週のキーワード:
コスト低減の重点業務、人口一斉調査データ、並行輸入


①危険化学品の査察活動

危険化学品の重大危険源企業に対する2021年度第1弾の査察活動が行われます。
5月から7月にかけては化学工場の事故の件数が多い時期であり、また特別に重大な事故が起きやすい時期だそうです。
そういえば、化学工場ではありませんが、天津の爆発事故も夏の暑いころだったような気がします。
当時、北京に駐在していたので、現地の中国人の方々から「危険な化学物質が舞い散っているので、天津に行くなら髪の毛を切って行け」と親切な助言をいただいたことを思い出します。

②不正競争の取締活動

取締が来そうなテーマで言うと、もう一つ、「反不正競争法」の取締活動が5月から12月にかけて行われます。
反不正競争法といえば、虚偽宣伝や景品表示などが昔からよく取締で指摘される項目となっていますが、最近クローズアップされているのは商業秘密(日本にいう営業秘密)です。
日本でも大手通信事業者間の紛争があって注目が集まる分野ですが、最近はサイバー攻撃も多いですので、営業秘密については管理の見直しの良い機会でもあります。
なお、個人的には、昔からあるもののなかなか取締の対象にならない商業賄賂がどう扱われるのかが気になります。

③スマートシティ試行6都市

インテリジェント・コネクティッド・ビークルとスマートシティ、日本でも取り組みが進んでいますが、中国では6都市(北京、上海、広州、武漢、長沙、無錫など)を第1弾の試行都市に選定したとのこと。
壮大な実験が続けられ、関係する国家基準やビジネスモデルが模索されていくことになります。中国市場はボリュームが大きいですから、こういった試行地区でテストされる製品やサービスについても目を配っておくと、開発の方向性のヒントになることもあるかもしれません。

④外国人にも受験資格!

そして、北京市で外国人にも資格試験を開放!
何年か前ならば、私自身も中小企業診断士ではなく、そちらを受験したかな?とも思いますが、
登録会計師、医師、特許代理師、税務師、不動産仲介専業人員職業資格などが並んでいます。
ただ、残念ながら、司法試験はまだ入っていないようです。
他には、建設・土木など工事関連の資格のほかに、銀行、ファンド、証券などの業界の資格なども含まれているようですので、
中国語が堪能な方々にとっては、北京への赴任が吉となるかもしれません。
(もちろん、コロナ禍が終わった後のお話ではありますが...)

⑤並行輸入

なお、中国に詳しい方はご存じかと思いますが、
中国では並行輸入は基本的にOKとされておりまして、
直近の事例でも同様の扱いとなっています。
マーケティングを考える際には、中国の代理店と揉めないように、
知っておいていただきたい基礎知識の一つかと思います。


2021年5月11日火曜日

過去のセミナー内容を活字で掲載してみました。

※ 2023年11月追記: 申し訳ございません、このセミナー内容の掲載期間は終了いたしました。あしからずご了承ください。

 


2021年3月5日セミナー

「コロナ禍における中国マーケットに向けた販売展開とその留意点」


 1. 越境EC

 2. 中国向けプロモーションに対する規制

 3. 個人情報保護

 4. ネットワークセキュリティ


ブログページ右上のリンクをクリックしてご覧ください。

https://chineselawtopics.blogspot.com/p/web202135.html



2021年5月5日水曜日

中国の個人情報保護法草案(二次審議稿:意見募集2回目)


中国の個人情報保護法草案、第2回意見募集稿が出たので読んでいました。

http://npc.gov.cn/flcaw/userIndex.html?lid=ff80818178f9100801791b35d78b4eb4

細かい修正が多いですが、同意の撤回の効果(第16条)、受託者の個人情報保存(第22条)、期間満了や同意撤回後の処理(第47条)など少し実務を左右する箇所もあります。


日本で普段使うスマホアプリも、オプトアウトの設定がしやすく便利になりましたが、中国でも方向は同じようです。

中国から中国国外への個人情報の国外提供に関しては、先週のブログでも書きましたが、(残念ながら)あまり変わりなく、単独の同意が必要など厳しい規制がかかることになる見通しです。


中国の国家機関からの個人情報へのアクセスについては、法令所定の権限・手続の範囲に限定し(第34条)、原則として本人の同意を得ること(第35条)は、第1回意見募集稿のままです。国家機関からの外部委託に本人同意を要する条文(第36条)は削除されました。

休暇中ですので、詳細はまた後日にて。