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中国で提出する書類の記入・署名: なぜ「ボールペン不可」「万年筆で記入」なのか?

中国に関係するビザ申請の関係書類や、中国で会社登記機関(市場監督管理局)や裁判所(人民法院)などの公的機関に提出する書類を記入したり署名したりするときに、「ボールペンで記入しないでください」「万年筆で記入してください」と言われたことはないでしょうか。

2021年8月16日月曜日

8月第2週:①個人情報不正取得の処罰事例、②女性従業員の会食同席、③「鴻蒙」の商標、④職務発明の退職後出願、⑤家電業界の回収目標責任制、⑥商貿物流分野での行動計画

①個人情報不正取得の処罰事例

顔認識については司法解釈が出たことを前々回にご紹介しましたが、今回はその関連で、「315晩会」でも取り上げられたKOHLERの店舗での顔情報収集についての行政処罰決定書が7月26日付で出ていましたので、その事例を取り上げました。
全国222店舗に565台のカメラを設置し、220万件あまりの顔情報を取得したとのことで、罰金50万元の処罰を受けています。
3月15日に「315晩会」で報道されたので、翌々日3月17日に立件し、調査の結果、膨大な量の個人情報が集められていたことが判明したので4月20日に公安に移送したものの、6月22日に公安から不受理で戻ってきたので、改めて調査のうえ行政処罰した、と書かれています。
結果としては《消費者権益保護法》違反による行政処罰で終わっているわけですが、この経緯から見ると、一歩間違えると刑法上の個人情報不正取得罪(《刑法》第253条の1)で刑事犯罪として処罰されてしまうかもしれなかったようです。思いのほか重い罪になる可能性があるのですね。

②女性従業員の会食同席

ネットで話題になっている事例を取り上げている報道の中では、とある女性従業員が勤務時間外に顧客との食事(飲酒)に同席するように求められ性的被害に遭ったと述べている事例など、「8時間以外」(※勤務時間外、の意味。)の上司に絶対服従という風潮が蔓延しているとの問題意識が取り上げられています。上司の迫力に負けてお酒を飲むのも「No」と言えない、これも権力による圧迫の悪性の現れと言われています。
今はコロナ禍ですので、日本ではあまり機会は無いかもしれませんが、上司・部下が異性である場合には特に、中国でも、勤務時間外をめぐる習慣が変わってきている時代でもありますので、是非ご留意ください。

③「鴻蒙」の商標

Huaweiの新しいOS「鴻蒙」(Harmony)、米国からの制裁によりAndroid OSの最新バージョンが搭載できなくなることに対応するために開発したものですが、商標をめぐっては既に「鴻蒙」という別の登録された商標が存在していたようで、「鴻蒙HongMeng」というように中国語のピンイン表記と併記してみたり、「鴻蒙Harmony」と英語名称と併記してみたり、さまざまな工夫をして商標登録をしようと苦心しているようです。
このうち、「鴻蒙HongMeng」は中国語読みを併記したものですが、「鴻蒙」という先行商標の存在を理由に登録が拒絶され、Huaweiはこれを不服として裁判所に提訴していました。しかし、どうやら第一審ではHuaweiの訴えを退ける判決が出たようです。
OSの名称をコロコロ変えるわけにもいかないでしょうし、商標やブランド、商品名の命名は難しいものだなと思います。

④職務発明の退職後出願

職務発明について、会社を退職した人が退職後に特許出願してしまう事例につき、最高人民法院はさまざまな事情を考慮して決めると言っていますが、
判断要素が増えれば増えるほど、どういった結論が出るのか、予測可能性は小さくなっていくので、実務上は応対に困ることになってきます。
こういったトラブルに備えて、そこまで多くの事情を考慮せずとも結論が明確に見通せるように、会社内でも証拠を確保しておく習慣を作っていただくことを是非お勧めしたいところです。

⑤家電業界の回収目標責任制

家電業界について、テレビ、冷蔵庫、洗濯機、エアコンの4種類の製品については、メーカーによる回収目標責任制が奨励されています。
奨励とは言うものの、活動に取り組んでいる企業リストが公表されるほか、回収目標任務や実施状況の評価結果が公表されることになっています。
家電製品の更新・買換え消費を盛り上げていく政策の方向性の中では、必然的に古い家電製品の回収機能を販売・流通ネットワークの中に組み込んでいく必要がありますので、その面での政策的な措置が強化されている状況と理解しています。

⑥商貿物流分野での行動計画

商務部など9部門から、商貿物流分野での行動計画が出ています。
スマートラベルや自動搬送車両(AGV)、自動仕分機など先進的な流通配送システムの導入を進めることや、コールドチェーン物流のインフラ整備など、重点的に設備投資が行われそうな話題がそれなりに見て取れるように思われます。
また、小さな話題ですが、配送車両に対する駐車料金や反則金をみだりに徴収する例があるようで、「通行難、駐車難、積卸難」を解決するとされています。
また、業界団体による課題研究、コンサルティング、人材研修などの面での積極的な作用を発揮させるということも書かれていますので、日本と同じように、それぞれの業界に必要な法規制の情報が業界団体から発信されるようになれば便利になるだろうと期待しています。

2021年8月6日金曜日

8月第1週:①オリンピックと全民健身計画、②半導体価格吊り上げ、③飲食チェーン店の衛生問題、④粉塵爆発防止、⑤一定の業務完了を期限とする労働契約、⑥発票と支払どちらが先か?

①オリンピックと全民健身計画

《全民健身計画(2021~2025年)》。ちょうどオリンピック期間に合わせて発表なさったのかなと思いますが、フィットネスクラブなど直接のサービスにかかわる企業のみならず、スポーツウェアやスポーツ用品などの業界にも関係します。さらに、日本と同じく、健康寿命を延ばすということも考えると、高齢者介護などにも関係するかもしれません。
2025年までの目標として、体育鍛錬への経常参加比率を38.5%、千人あたりの体育指導員2.16名、全国の体育産業の総規模は5兆元まで高めるとのこと。
普段はまったく運動しない不健康な私のような人間でも、オリンピックを見ていると何か運動でもしようかという気持ちになります。一人で家でできるオリンピック種目があると良いのですけれども。

②半導体価格吊り上げ

日本でも半導体不足の影響が各業界に広がっていますが、中国でも自動車業界での半導体不足が取りざたされています。自動車のスマート化に伴って需要も大きいところ、価格の吊り上げ行為も見られるようで、価格のモニタリング及び通報に基づいて政府部門の調査が開始されたとのこと。
中国の新聞記事を見ても、多くの自動車メーカーで半導体チップ不足が今年のうちは継続し、もしかすると来年も継続するかもしれないと見込んでいるようで、供給遅延や価格変動によるトラブルが起こりやすい環境にあります。

③飲食チェーン店の衛生問題

飲食チェーン店の衛生問題は消費者に近いこともあり話題になりやすいですが、新聞記者が潜入取材で店舗や工場に従業員として入り込んで、「ゴキブリがいる」とか「傷んだ果物を使っている」といったような記事を書かれることがあります。
今回ご紹介した記事の事例では、報道が出た後、各地の政府部門からの調査や行政指導が入り、しかも複数の政府機関が関与してくるので、企業としては対応に追われる結果となりました。
ネット社会ですから、情報が広がるのも早いですし、政府機関が動くのも早いですので、各企業においては「避難訓練」のような形でときどきシミュレーションしておかれないと、なかなか即座に正しく対応することは難しいのではないかというようにも思います。

④粉塵爆発防止

法令の面では、個人的には、《工貿企業粉塵防爆安全規定》が現場では大事だろうと思います。工場や倉庫では様々な粉末を保管されていると思いますが、火の気がないところでも、電気配線の劣化・腐食等によって火花が散って爆発が起こってしまうこともあるようです。
「可燃性粉塵目録」というリストがあり、各種の金属粉、繊維、樹脂粉末などが列挙されています。塗料・染料や防腐剤などもありますし、幅広い産業で留意いただく必要があるものですから、この機会に是非一度ご覧ください。

⑤一定の業務完了を期限とする労働契約

雇用契約の期間に関して、中国《労働契約法》では、①固定期間、②無固定期間、③一定の業務の完成を期限とする、これら3種類とされていますが、このうち③については、なかなか使いづらく、あまり普及していないように思っています。
教科書的には、(1)あるソフトウェアの開発、(2)ある建設工事の完了、(3)農産物の収穫時期だけの臨時雇用、といった例が挙げられているのですが、その都度、社会保険に加入させ、退職時に経済補償金を払うという実務処理は、実際には煩瑣でメリットもあまりないので、活用するのがなかなか困難です。また、賃金をなるべく長くもらうために、ゆっくり仕事をして開発や工事の完成を引き延ばした方が労働者にとって得になってしまう(企業の利益と整合しない)という問題もあります。
今回、北京市では、「企業の雇用の柔軟性を高めるために」として、この一定業務完成を期限とする労働契約についてモデル文書とその締結ガイドラインを出しています。少し期待して中身を見てみましたが、まだ上記のような困難が解消されるものではないようでした。

⑥発票と支払どちらが先か?

中国では代金を請求するとき「先に発票をください。発票がないと払えません」と言われることがあります。逆に自社から取引先への支払のときにも、会社の財務の人に「発票を持ってきてもらわないと経費精算できません」と言われることがあるのではないでしょうか。
一方、発票を発行する側は、その時点で増値税を納税することになりますので、発票を発行した後に代金支払を受けられないと、増値税だけ払って代金がもらえないという困ったことになります。ですので、本当は、支払を受けてから発票を発行したいところです。
どちらが正しい処理なのか、社内の処理もあってなかなか難しいですが、よくある話題なので事例を紹介しておきました。支払が先か発票が先か、もし話題になったときには是非この事例をご活用ください。
なお、「発票」は「インボイス」と訳されることがありますが、誤解を招きやすいので、私はいつも、そのまま「発票」とご説明しています。中国で事業をするなら「発票」は基礎の基礎ですから、正確に理解しておいていただければと思います。

2021年7月29日木曜日

7月第5週:①女性従業員の定年退職年齢、②Eコマースの不正レビュー、③決済分野での規制強化、④自家用車「三包」規定改正、⑤各地の外資向け補助金

①女性従業員の定年退職年齢

従業員の「定年」について、今週は、女性従業員の定年年齢を間違ってしまい、本来の定年退職ならば生じずに済んだはずの経済補償金を支払うことになってしまった事例を紹介しました。中国では女性の定年退職年齢が50歳の場合と55歳の場合があるので、こういう間違いも起こりやすいです。
多くの日系企業が中国に進出した時期、工場は若い人ばかりでしたから、「定年」が人事労務のテーマになることはありませんでした。つまり、経験が決定的に欠けているわけです。そこに今、従業員が高齢化して徐々に定年する例が出始め、社歴が長い=日本式年功序列システムで賃金がそれなりに高い人たちが定年退職し始めています。一つ処理を間違うと、本来なら必要なかった経済補償金が発生して、人事担当者の賃金の何倍もの余計な費用が発生してしまうということになります。
大きな政策の方向としては定年延長も視野に入れるとして、足元の定年退職時の処理、しっかり見直してみることをお勧めします。

②Eコマースの不正レビュー

Eコマースの分野では、相変わらず、あの手この手の「サクラ」でレビュー・評価を高める手法が開発されているようで、正確でない評価を創り出している虚偽宣伝だということで《反不正競争法》違反で処罰されています。
日本でも少し前にAmazonで不正なレビュー・評価についての対策を強化しているという話題が出ていました。日本でも何らかの形で処罰するようになるのだろうか?という疑問も湧きますが、少なくとも、中国で横行している手法を学んでおくことは騙されないために大切なのかなと思います。

③決済分野での規制強化

今年に入ってから日本でも大きく報道された各事例に象徴されるように、ITやフィンテックなどの先進分野では、上場に関する規制が強まっているようです。
今週は《非銀行支払機構重大事項報告管理弁法》という規定が出ており、ここでは、その会社の上場はもとより、さらに、主要出資者・実質支配者の上場(いわゆるVIEスキームによる海外上場を含む)についても、事前報告を要する重大事項とされています。上場以外にも、担保設定などを通じた形を変えた支配権移転、さらにはシステムの重要なバージョン変更、会計事務所の変更といった事項まで含まれています。
この他、突発的な事態(個人情報の流出、決済業務の中断など)についてもレベルにより直ちに報告が必要となっています。
2010年に《非金融機構支払サービス管理弁法》が発布され、オンライン決済の免許取得のためにAlipay(支付宝)の株主を内資企業に変えるなどのドタバタがありましたが、あれから10年、スマホ全盛の時代となり、オンライン決済はもちろん、それに結び付いたフィンテックの分野についても、規制の動向を注視ということになりそうです。

④自家用車「三包」規定改正

自家用自動車のいわゆる「三包」(修理・交換・返品)についての規定が改正されました。動力電池、駆動モータなど、新エネルギー自動車の故障についての規定が追加されたようです。
三包証明書に動力蓄電池容量の減衰下限値を記載しなければならない、ということも書かれています。
2年又は5万キロ、3年又は6万キロという三包期間の下限については、2012年の規定(現行のもの)から変更は無いようです。ユーザーの購入(発票)又は引渡のときから起算されます。自動車部品のメーカー目線では、こちらの期間は重要ですね。
なお、改正規定の施行は来年1月1日とのことです。

⑤各地の外資向け補助金

広州市は、外資導入のために大盤振る舞いの政策を出しています。
一定規模以上の外資系の新規又は増資プロジェクトについての補助金の申請基準が示され、基準を満たしていれば外資金額の2%の奨励、最高で1億元の奨励を出すとのこと。
また、外資多国籍企業の地域本部についても省レベルの財政への貢献に応じて、最高で1億元の奨励があるようです。
広州市がこういう政策を出しているということは、他の都市でも同様の補助金があるかもしれませんから、条件を満たしているのにうっかり申請を忘れる、そんなもったいないことが起こらないようにしたいですね。
(といっても、申請できることに気づかない=申請漏れにも気づかない場合、もったいないと思うことすら無いわけですが...)

2021年7月26日月曜日

義務教育段階の学生の宿題と課外学習の負担軽減について


中国で「学科類研修機構」(学習塾?)の上場などへの新たな規制が導入されたとのこと。私が上海にいた当時通っていた語学学校の名前も新聞に出ていました。子供向けの教育もしていたのですね。
他にも、海外からの授業提供なども規制されています。オンライン教育コンテンツは視力保護のために30分以内、インターバル10分以上など、細かいルールもあります。Edtechに関わるときには、見ておく必要がありそうです。
スマホで問題を撮影してアップロードすると数秒で回答と説明が表示されるという便利なアプリ(「拍照捜題」)なども禁止すると書いてありました。勉学に近道無しです。

なお、発表されている説明を読むと、5月21日には既に中央全面深化改革委員会というところでの審議を通過していたようですので、少し話題についていくのが遅いかもしれませんが、ご容赦ください。



2021年7月24日土曜日

7月第4週:①賃金の「月末締め翌月20日払い」、②浙江省公共データ分類分級基準、③知的財産権データの開放、④非銀行金融機関の行政許可事項

①賃金の「月末締め翌月20日払い」

毎週、裁判の事例などをご紹介していますが、今回は、深センのとある事例が新聞で紹介されていたので、その件をご紹介しています。
「月末締め、翌月20日払い」。日本ではよく見られる賃金支払方式であり、私の知る多くの日系企業でも同様の方式が採用されていますが、なんと、深センでは、これが法令違反であるとのこと。
さらに、それを理由にして退職した従業員から「経済補償金」(法定退職給付。自己都合退職の場合は不要)の支払を求められ、裁判所も支払義務を認めたという衝撃的な事例です。
本当は自己都合退職なのに、会社の法令違反を理由として指摘すれば、本来はもらえなかったはずの経済補償金がもらえるという、無から有が生まれる「錬金術」が成立してしまうことになってしまいますので、おかしな事例と思いますが、新聞で紹介されていましたので、真似をする人も出てきそうです。
深センでは、「月末締め」なら、最も遅くとも「翌月7日」には支払いが必要とのこと。営業日ではなく暦日でしょうか。だとすれば、「国慶節はどうするつもりですか!?」と言いたくなりますね。
とはいえ、労働法の世界では、ローカルな条例などが意外に重要です。ローカルルール、侮らずにしっかり所在地の法令を確認したいところです。

②浙江省公共データ分類分級基準

《データ安全法》(データセキュリティ法)の施行を9月1日に控えて、各地方では、それぞれ分級分類管理についてのルールなどを出しています。今週分では、浙江省の省レベルの地方基準を紹介しています。地方により異なるというのは企業向けの規制ではなくて、地方が持っている公共データの管理についての部分のようですね。
データの管理が地方によって変わるのは不思議に思っていましたが、各地方の持っているデータということなら、それぞれの地方によって重要性は変わるでしょうから、それであれば、なんとなく納得感があります。
しかし、企業側が具体的に何をどうすれば良いのかは、未だによく分かりません。
これまでであれば、中国では、「具体的なルールが出てから対応すれば良い」と考えていたのですが、先日の滴滴のように、随分前の、まだ明文規定もガイドラインも無いような時期の行動を対象に処罰されるとすると、そうノンビリもしていられません。
とりあえず、グループ内のデータ共有について、①日中間で往来しているデータは何があって、②その通信・同期は自動か手動か、という2点については整理しておくのが良いのではないかと思います。(データを分類して管理せよを言われている以上は、どのみち必要になる作業ですので。)
そのうえで、今回ご紹介している浙江省の公共データの例のように、③各データにラベルをつけて、④それぞれ異なる管理をする、という展開が予想されますが、③のラベルのつけかた、分類のしかたが分からないとどうしようもありませんので、まずは①②をしておいて、あとは、各データにラベルをつけるか格納場所を分けられるように準備しておく、という程度が今できることかな?と思っています。

③知的財産権データの開放

国家知的財産権局の知的財産権データの開放範囲拡大については、今話題の半導体関連で、回路配置利用権関係のデータが拡充されたようです。
それと同時に、日本や欧州、韓国などの特許についてのデータも追加されたとのこと。
特許については属地主義とはいいながら、今はどの分野でもビジネスも製品もグローバル化、グローバル展開ありきですから、国を跨いだデータは特に重要ですね。
日本からも中国の知的財産権局のサーバーへのアクセスがスムーズであるように、と願っています。

④非銀行金融機関の行政許可事項

非銀行金融機関について、行政許可事項に関する申請書類などの細則が出ています。
メーカー各社でも、リース会社をグループ内に持っておられる会社も多いと思います。
そのような金融関連業務をなさっている会社については、マネーロンダリングや反社会的組織とのつながり、背後の実際の株主まで遡った出資者の調査などが拡充されるようですので、合わせてご留意ください。


2021年7月16日金曜日

7月第3週: ①電子労働契約、②月36時間残業、③経営者集中(企業結合)禁止事例、④セキュリティ脆弱性管理弁法、⑤虚偽の検査証書の販売、⑥AI医療用ソフトウェア

①電子労働契約

電子労働契約の締結についてのガイドライン(《電子労働契約締結指針》)が発布されました。
電子労働契約については、既に各都市で先行しているところがあり、例えば杭州市の人力資源社会保障局が牽引する電子労働契約サービスのプラットフォーム(通称「杭云签」)があり、2020年12月に正式リリースされて以来、既に6月中旬で130万件以上の締結実績があるとのこと。
一度も会わずに労働契約が締結できるということで、コロナ禍の時代にはピッタリなようにも思います。
さまざまな場面で活用が考えられるところです。

②月36時間残業

もう一つ、人事労務の話題では、月36時間の残業上限を超えて処罰された事例がニュースになっていました。
《労働法》では毎月の残業時間は36時間が上限と定められているのですが、人手不足や季節要因などもありますので、管理が難しいところではあります。日本では原則45時間ですが、36協定によって延長できますので、日本よりも中国の方が厳しいです。
それにしても、10年前の中国の様子を思い出すと、中国でそんなに残業が増えるとは思いませんでした。

③経営者集中(企業結合)禁止事例

「虎牙」と「斗魚」の合併を禁止した反独占法の経営者集中(企業結合)審査の事例が出ました。いずれもゲームのライブ動画配信プラットフォームのようですが、市場シェア40%と30%で、虎牙は腾讯(Tencent)が支配権を持っているとのこと。
反独占法で経営者集中が禁止された事例というのは、確か2008年に反独占法が施行されてから1件か2件しか無かったと思いますので、非常に珍しい事例と言えます。
今のIT企業に対する風当たりの強さを象徴する事例と言って良いのではないでしょうか。

④セキュリティ脆弱性管理弁法

最近話題のサイバーセキュリティ関連では、工業情報化部、国家インターネット情報弁公室、公安部の3部門から、セキュリティ脆弱性の管理規定が発布されました。
セキュリティ脆弱性が発見された場合、ネットワーク製品の提供者は2日以内に工業情報化部のセキュリティ情報共有プラットフォームに情報を報告する必要があります(第7条第1項第2号)。
ここにいう「ネットワーク製品」には、ハードウェアも含まれます。例えばネットワークカメラなど、最近の機器はネットにつながる場合も多いですから、当然といえば当然です。
ネットワーク製品の提供者が情報提供を受け付ける仕組みを作り、情報提供に対して報奨を与えることを奨励する(第7条第3項)ともありますが、見ず知らずの第三者から「御社の製品に脆弱性がありますよ」という連絡が来て対応する場面を考えてみると、なかなか大変なようにも思えます。

⑤虚偽の検査証書の販売

もはやECプラットフォーム上で買えないものはないほどの勢いですが、虚偽の検査・測定報告書も売りに出ているとのこと。
7月7日に一部メディアでそのことが報道された後、翌日7月8日には直ちに市場監督管理総局が各プラットフォームが自主的にこれを調査・排除するように要請したとのことで、検査・測定に関する市場の信頼を重視していることが見て取れます。

⑥AI医療用ソフトウェア

最後に、医療の業界の話題としては、AIを使った医療用ソフトウェア製品は医療機器として承認・登録が必要になっているところ、医療用のものかどうかの区分のガイドラインが出ています。
例えば、単に医療機器のデータを処理・分析するためのソフトウェアや、患者の主訴・検査結果などを記録するだけのソフトウェアであれば医療機器にはならず、一方で、同じく医療機器のデータを処理・分析して何らかの病変の特徴識別や性質判定、服薬指導などに使おうとすると、医療機器として管理されることになるようです。


2021年7月13日火曜日

補足:違法なアプリの取締(滴滴)


7月第2週のコメントについての補足です。

7月9日の22:00に、インターネット情報弁公室から「滴滴」(Didi)関係のアプリの公開停止についての発表が出ていました。

個人情報の重大な違法収集・使用の問題ということで、関係する国家基準も参照して是正するように求められています。
国家基準は意見募集しているものを含め多数ありますので、関係あるものを探すのもなかなか大変なように思いますが、この機会に改めて見ておく方がよさそうです。


2021年7月9日金曜日

7月第2週: ①中国IT企業の海外上場の記事、②違法なアプリの取締、③深センのデータ条例、④破産と虚偽訴訟、⑤2011年のことで処罰

①中国IT企業の海外上場の記事

日本では、中国IT企業の海外上場の規制強化というような見出しの記事を見かけましたが、おそらく、今回ご紹介している証券犯罪の取締強化に関する意見のことかと思います。
この意見は、全体としては、何度かご紹介している「康美」の巨額粉飾事件など、証券市場における違法行為によって中国国内の投資家が損害を受けないように保護しようという趣旨のように思われます。
ずっと下の方(五、とある部分)まで読まないと海外上場の話は出てこないのですが、こういうごく一部が拾い上げられて上記のような記事になっているというのは、記事を見ているだけでは分かりづらいですね。
今回のリニューアルで、「法令の全体像」を浅く広く伝えるのはやめて、一つでも二つでも、業務や事業に直接役立つ部分をクローズアップしてお届けすることにしたのですが、あまりにも一部だけを取り上げてしまうと誤解を招くこともあるので、その点はこの配信時のメールや勉強会などの機会になるべく補うようにしたいなと思っています。

②違法なアプリの取締

違法なアプリの取締についても、日本では「滴滴(Didi)」の件が注目されていますが、中国ではほとんど毎月のように100件を超えるようなアプリの取締が行われておりまして、今回もまた129件のアプリの取締の発表がありました。
著名企業のアプリや、一般の方々がよく使っているアプリも、この中に含まれています。(「滴滴」は今回のこのリストには入っていないようです。)
ライブ配信アプリなどは、広告宣伝や、ライブコマースなどに使われている場合もあり、アプリが使えなくなると売上にも影響するかもしれませんから、IT業界以外の方々でも、自社に関係するかどうか見ておいた方が良いこともあるかと思います。

③深センのデータ条例

深センのデータ条例ですが、「データ安全法」(データセキュリティ法)が成立して直ちにこのような条例を出すのは、
さすがアジアのシリコンバレーといわれる深セン、ハードウェアのみならずアプリ開発でも先進的な地域なのかなと思います。
内容としては、第一章の総則の後、第二章に個人情報(個人データ)に関する章が設けられており、かなり充実した規定ぶりになっているように思われます。第三章は公共データ、第四章はデータ要素市場、第五章がデータ安全という章建てになっています。
深セン限定の地方性法規ですから、詳細をご紹介する機会は無いかもしれませんが、他の地方でもこれに倣う可能性もありますから、参考としての価値はあろうかと思います。

④破産と虚偽訴訟

なお、「高額年俸」云々という記事は、人事労務のお話ではなく、何度もご紹介している「虚偽訴訟」の事例です。
破産した会社については、実務上、管財人から「とりあえず従業員の賃金だけは先に払わせてくれ」という要請が債権者に対して行われることがありまして、会社が破産するのは良いが、それがゆえに賃金が支払われずに騒動が起こると困る、ということで、法律上の順位よりも労働者保護が重視される傾向があります。
日本では未払賃金立替払制度という別のセーフティネットが担うこの役割、中国でも同じような制度があれば良いのにと思いますが、そうするとまた制度を不正に利用する手口を考える人も出てくるかもしれませんので、制度作りというのは国により状況により難しいものなのだなと思います。

⑤2011年のことで処罰

最後に、経営者集中(企業結合)の未申告で22件の罰金処罰が決定された件。
これも日本でも報道されていますが、なんと、10年前(2011年9月)に合弁会社を設立したときのことを取り上げて処罰しているものがあります。
私が知る限りでは、2011年9月当時は、(商務部の見解としては当時から申告が必要とのことでしたが)合弁会社設立時に申告が必要という明文規定はありませんでしたし、未申告の調査・処罰に関する弁法が発布されたのは2011年12月、初めての処罰事例が出たのは2014年のことでした。
ですから、2011年9月は予見可能性が十分ではなかったように思われるのですが、これを10年経った今、改めて取り上げて処罰したのは、なかなか衝撃的です。
行政処罰決定書からは読み取れませんが、もしかすると単純な会社設立ではなく、事業や資産を現物出資するなどM&Aに近い形で行われたのかもしれません。
ただ、規定も運用も明確でない時期のこととすると、それを処罰するのは少し過酷なようにも思えますね。



2021年7月7日水曜日

不正輸出について(安全保障貿易管理ガイダンス)

【2021年7月7日掲載】

不正輸出について、過去の違反事例など見ていると、大手の企業でも顧客や用途の確認を中国の現地子会社や現地社員に一任していたことが違反原因として指摘されている事例がありまして、実務に携わっている身としては「さもありなん」と思うところもあります。


昔のココム規制が無くなった後、今はワッセナー・アレンジメントという別の取り決めに基づいて各国が輸出規制を定めています。日本では外為法に基づき規制しています。

今は経産省で丁寧に説明してくださっていて、Youtubeの動画も活用なさっているようです。ぜひGoogleの「安全保障貿易ガイダンス」でご検索を。

   ↓

日本・経済産業省:安全保障貿易管理ガイダンス[入門編](令和3年3月)

https://www.meti.go.jp/policy/anpo/guidance.html


【2022年7月13日追記】

中国の商務部でも、「中国輸出管制情報ネット(中国出口管制信息网)」というWebサイトを作って、よくある質問と回答(FAQ)や、制度の解説動画を掲載しています。
http://exportcontrol.mofcom.gov.cn/

輸出管理のコンプライアンスに関する事例(各社での取り組み)も掲載されていますので、参考になるかと思います。