中国の個人の方々が日本で会社を設立する例は以前から多く見られますが、数年前からか、会社名義の銀行口座の開設ができないという相談が目立つようになってきました。
(2023年10月の記事でも少しご紹介しています。)
中国の方々に限らずですが、法人名義の口座を持つことができると見込んで会社を設立したのに、実際には口座が開設できないので困ってしまうことがあるようです。
単に取引時確認に必要な実質的支配者(BO:Beneficial Owner)の情報・資料を提供できていないことなどシンプルな手続上の漏れが原因である場合もありますが、口座開設ができない理由は通常は開示や説明はされませんので、なかなか悩ましい状況になります。
その結果、他社の名義を借りて資金の送金や決済をしようとしてみたり、友人・知人(時にはグレーな業者)に頼んで立替送金や代理受領で決済したり、まさに「本末転倒」と思えるような方法で解決しようとしている景色も見かけることがあります。
もともと中国の国内では、さまざまな理由で、銀行口座の利用を避けて現金決済を好んだり、名義の貸し借りを行われたりしているのを見かけますから、同じような発想で対処してしまっているわけですが、犯罪収益移転防止法(第28条)違反などの嫌疑を受けやすく、もちろん大変危険です。
新規設立では口座が作れないということで、それならば「既に口座を有している日本の会社を買えば良いではないか」と、日本の既存の会社の株式を購入しようとする例も見られます。
ただ、代表者の変更はもちろん、株主や事業内容が変更になった場合も、取引時確認事項が変更になるわけですから、通常は銀行での手続が必要となります。
(傍論ですが、対内直接投資についての報告も通常は必要になりますのでお忘れなく。)
このような方法で会社名義の口座を無事に得たとしても、その後、いわゆる「振り込め詐欺救済法」による口座凍結(利用停止)や、口座の不正利用の嫌疑を受けるなどの問題もあり得ます。
単に口座を作れる作れない、送金できるできないだけを考えるのではなく、後日の危険も考慮して、よく検討された方がよろしいのではないかなと思うことが多いです。
このように、実際に投資活動に影響を及ぼしているマネーロンダリング対策をめぐる取り組みの状況ですが、
日本側の状況としては、今後も、あまり銀行での審査が緩和されて手続が便利になることはなさそうです。
2021年8月に公表されたFATF(※)の相互審査報告書を見てみますと、一部の金融機関については、
「継続的顧客管理、取引モニタリング、実質的支配者の確認・検証等の、最近導入・変更された義務について、十分な理解を有していない。」
というご指摘も受けていたようですので、株主の変更などに関する継続的管理の部分も徐々に厳しくなるのではないでしょうか。
日本は前回の相互審査で通常フォローアップ国(3等級のうち最上位)から重点フォローアップ国にいわば格下げになってしまったので、返り咲きを期して熱心に取り組んでいるところとも思います。
(ちなみに、FATFのフォローアップは、法令等整備と有効性評価の2つの軸それぞれの未達項目数などによって、通常フォローアップ国、重点フォローアップ国、観察対象国の3段階に分かれており、日本と中国はどちらも現状では重点フォローアップ国となっています。)
一方、中国側はと言えば、既にときどきご紹介しているとおり、受益所有者情報管理弁法も11月から施行されますし、金融機関における顧客デューディリジェンス、ネット上の詐欺の防止策など、ここ数年でも関連する制度の整備が進められてきています。
日本と同じく、FATFの勧告に従って改善を進めてきているわけで、これらの法令の条文だけを見ると日本よりも厳しいように感じる部分もあるのですが、中国はいかんせん人口も会社数も日本の10倍以上ですから、実際の実務に影響してくるのは日本よりも少し後になるのかもしれないとも思っています。
(※)
FATF: Financial Action Task Force(金融活動作業部会)。
日本は発足翌年の1990年から参加していて、一方、中国は2007年からFATF(中国語では「反洗钱金融行动特别工作组」)に参加しています。
香港は返還前の1991年から参加していたので中国とは別口での参加メンバーとなっています。
FATFの参加国はOECD(中国語では「经济合作与发展组织」)の加盟国が中心で、事務局はOECD事務局内に置かれていますが、FATFはサミットでの合意に基づく他国間枠組みという位置づけですから、OECD非加盟国にも開かれています。
(なお、URLにあるgafiというのはフランス語の略称らしいです。)
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