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中国で提出する書類の記入・署名: なぜ「ボールペン不可」「万年筆で記入」なのか?

中国に関係するビザ申請の関係書類や、中国で会社登記機関(市場監督管理局)や裁判所(人民法院)などの公的機関に提出する書類を記入したり署名したりするときに、「ボールペンで記入しないでください」「万年筆で記入してください」と言われたことはないでしょうか。

2022年5月2日月曜日

4月第4週:①上海市における労働関係に関する通知、②ドローン輸出と《輸出管制法》、③職業に関する民間資格、④中国学術文献データベース(「知網」)をめぐる紛争

①上海市における労働関係に関する通知

上海市の人社局から、コロナ禍での操業停止に関連する人事労務関連の各種事項についての通知が出ていました。
  • 労働報酬、業務方式、労働時間などの変更については、メールやチャットアプリでの意見徴求と協議による変更も「コロナ禍期間のみに適用」とすれば可能とする。(二)
  • 政府による外出制限によって一つの賃金支払周期(例えば月給制なら一ヶ月)を超えて業務に従事できない場合(テレワークできる場合は除く)、労働者側との協議を経て、一ヶ月を超えた後は生活費のみ支給することができる。(九)
といったような、上海での現地法人の人事労務管理に携わっている方々は必ずご覧いただくべき内容が含まれておりますので、現地法人の人事労務のご担当者には是非一度、見ていただくようにお伝えいただければと思います。

②ドローン輸出と《輸出管制法》

ドローン大手のDJI(大疆)がロシアとウクライナでの商業活動を暫定的に停止したとのこと。
《輸出管制法》を含む関連法令のコンプライアンスを改めて自社内で見直すためというコメントも出ているようです。
これまで、中国の《輸出管制法》に関心を払うべき場面は多くはなかったように思いますが、民用技術が戦争にもかかわってしまうことが増えているのかもしれないと思いました。

③職業に関する民間資格

江蘇省のとある民間の試験認証センター(資格学校?)が「全国」で「職業資格」として認められるかのような「登録職業資格証書」を勝手に作っていたようで、問題になっています。今回、人社部から、このセンターの資格証書は国家資格に関するものではなく、採用や昇級、個人所得税優遇などの如何なる職業資格に関する優遇もありません、という声明が出ていました。
コロナ禍で外出できない時間を自己研鑽に、と考える前向きな方々を騙すような話でもありますので、お気をつけいただければと思います。

④中国学術文献データベース(「知網」)をめぐる紛争

精華大学が主導する「知網」という学術文献を一括して大きなデジタル図書館のようなものを作るプロジェクトがあります。CNKIとも略称されます。教育部や国家版権局などの協力のもと推進されており、学校や研究機関が会員になってデータベースを利用するのですが、その費用が高すぎるということで、反独占法違反の市場支配的地位の濫用行為があるとの訴訟を起こされています。実はこのプロジェクトは、単に利用者から費用を取るだけではなく、逆に、利用される論文などを掲載した人たちに対しては収益を分配するということになっているのですが、徴収される費用と分配される収益のバランスが取れていないということも問題視されているようです。
郭兵氏という浙江理工大学法政学院の特任副教授の方がいらっしゃいまして、今回の訴訟ではこの方が原告になっているのですが、実はこの方、杭州野生動物園を訴えて顔認証に関する中国初の裁判事例とされる事例の原告にもなった方です。単に発生した裁判事例だけを観察して分析・論評するだけではなく、自分で原告になってこういった新たな事例を作ってしまうというのは、本当に仕事が好きな方なのだろうなと思います。

2022年4月27日水曜日

4月第3週:①中国版iDeCo?、②中国向けEMSがサービス停止に、③操業再開と移動制限

①中国版iDeCo?

個人が任意に加入する個人養老金に関する新たな政策意見が出ていました。
専用口座を開設すること、年間の上限額が決まっていること、年金受給年齢に達するまで引き出せないこと、さらに、どの金融商品で運用するかは個人が決められることからすると、中国版iDeCoに相当するものかなと思います。銀行の理財商品や年金型の生命保険など、さまざまな金融商品が対象になるようです。
節税メリットがどの程度あるのかにもよりますが、中国の皆さんが何十年も先にならないとおろせないようなものに積立をするというのは、一昔前のイメージではちょっと考えづらいような気もしますが、私自身も一昔前のイメージから脱却しなければならないのかもしれません。

②中国向けEMSがサービス停止に

  (※ こちらは4月22日時点でのコメントです。)
日本の新聞に出ているのを見逃して、中国の新聞の記事を見て日本での変化に気づくというのもお恥ずかしい話ですが、日本から中国に向けたEMSと小包の取扱いが停止になったようです。
日本郵政のWebサイトでも確認してみました。(4月22日現在)
中国の記事を見ていると、一時的なもののようですが、再開時間未定とのこと。
業務に支障が予想されますので、事前の確認と早めのご準備をお勧めします。

③操業再開と移動制限

上海で企業の操業再開が進んでいるとの記事を目にして、「家から出られないのに、どうやって再開するのだろうか?」と不思議に思っていましたら、ちょうど、「15のよくある質問への回答」という記事が出ていました。
このうち問14部分で、「操業再開のために小区を出て職場に戻る申請をしたものの、小区がそれを許してくれません。どうすれば良いですか?」との質問があります。
基本的に企業側で人員の補充をして対応せよということですが、一部のキーになる職位の従業員の方については一定の条件で職場復帰を許すという仕組みも作るようです。工場の操業は一定の人数は必要ですし、リモートワークというわけにもいかず、工場に行くには当然ながら交通手段も必要ですから、ちょっと想像もつかないですが、早めの正常化を願うばかりです。





2022年4月20日水曜日

4月第2週:①商標の悪意による登録行為の10類型、②アカウントのIPアドレス所在地を表示、③大量のユーザーが育てるAIキャラクター

①商標の悪意による登録行為の10類型

悪意による商標登録行為、最近では冬季オリンピックが北京で行われましたので、そのオリンピックのキャラクターである「ビン・ドゥンドゥン(氷墩墩)」も人気です。パンダに似たかわいいキャラクターですね。これに便乗して、「雪墩墩」(氷→雪に変えただけ。)とか、「餅敦敦」(中国語の発音では「氷」と「餅」は声調が違うだけで同じbing。)といった商標登録が申請されているとのこと。
もちろん、話題になったオリンピック選手の名前を勝手に商標登録してしまう例もあります。
これは昔からある例なのですが、今回、国家知的財産権局が発布した通知で悪意の商標登録とされる10類型には、「出願数が多すぎる」、「大量に譲渡している」といったように、商標出願の内容そのものではなく申請者の行為を全体的に観察した類型も挙げられています。
悪意による商標登録の取締、以前から何度も言われていることですが、それでも後を絶たないのは、訴訟などで争って取り消すよりも買ってしまった方が早いということが多いからだとも思えます。定型的且つ大量に処理できるようになればコストも下がるはずなのですが、普通の企業が頻繁に出遭う問題でもないので、なかなか難しいところがあるようにも感じます。

②アカウントのIPアドレス所在地を表示

中国のいくつかのSNSで、事件の関係者になりすまして投稿することで閲覧数を増やそうとするような不正行為が目立つということで、その対策として、アカウントのIPアドレスの所在地を公表するようにしようという話が出ています。
いたちごっこと言えばいたちごっこですが、アプリの仕様が変わったときには、なぜそのように変わったのか、背景を見てみると面白いこともあるかもしれないと思いました。

③大量のユーザーが育てるAIキャラクター

スマホアプリ上でAIのキャラクターと会話をすることができ、且つ、その会話内容は多くのユーザーがアップロードする内容に従って決定されるというアプリがあるそうです。
今回の裁判事例では、実在の人物を基にしてしまったために、その人物の人格権を侵害しているとして賠償を命じられた事例を紹介しましたが、多数の方々の認識が集約されて一つのAIキャラクターが形成されるというのは、なかなか興味深いように思いました。
「一億総クリエイター時代」とも言われますが、誰かがクリエイターになると意識しなくても一人一人の日々の活動から何かが生み出されていく、なんとなくロマンを感じるところもあります。

2022年4月13日水曜日

上海市の「三区」分区差異化管理についてのFAQ


上海では現在、小区(団地のような区画)単位で、封控区(14日隔離)、管控区(7日隔離)、防範区(それ以外)の3つに区域を分けた管理に入っています。
【4月11日】「三区」区分リスト管理の発表

ただ、外出できるはずの防範区でも、実際には外に出られない小区もあるようで、FAQにその問答が掲載されていました。
【4月12日】「三区」分区差異化管理のFAQ
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問4、 なぜ、一部の防範区ではまだ外に出られないのですか?
答 防範区に感染陽性者が発生した場合は、封控区へと調整されます。
  隣接地区に比較的多くの封控区がある、クラスター性のリスクを発生させる可能性がある防範区については、各区は状況に応じて、措置を強化して管理レベルを上げることがあります。
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问4、 为什么有的防范区还是不能出门?
答 如防范区内出现阳性感染者,则调整为封控区。对毗邻地区有较多封控区、可能产生聚集性风险的防范区,各区可根据情况,强化措施提级管理。
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中国では公表された方針に実態がなかなか追いついてこないことがあるので、現場の情報はとても大切だと思います。





4月第1週:①「信訪」(陳情)に関する条例、②化学工業園区への移転促進、③失業保険と雇用安定還付金、④金融安定法の意見募集

①「信訪」(陳情)に関する条例

中国に赴任されたことがある方々は目にされたことがあると思いますが、私が北京にいたときは、毎朝、通勤の途中で、ずっと人が並んでいるのを見かける場所がありました。人気のお店などではなく、裁判所の陳情窓口でした。各種の政府機関にも同じような陳情窓口がありました。
「お上に直訴」するにもルールがありまして、《陳情条例》という法令で「多数で陳情に来る場合は代表5人までを選んで」というような決まりもあったのですが、今回はこれに代わって《陳情業務条例》というのが発布されたようです。ちなみに、多人数で押しかけるのではなく5人の代表を選んで、というルールは変わりがないようです。
会社が従業員と揉めたとき、従業員が政府に「あの会社はけしからん」と集団で陳情に押しかけることがあります。そういった状況も頭に入れて応対いただく必要がありますので、平素から政府機関との根回しは配慮しておいていただくのがよいかと思います。

②化学工業園区への移転促進

石油化学その他化学工業の化学工業園区への移転を促進する政策が出ていました。都市部にある危険化学品生産企業の移転を全面的に完了すること、2025年までに化学工業園区に業界の総生産額の70%を集約すること等の方針が示されています。
従来から都市人口の拡大に伴って化学工業分野の企業の郊外への移転は求められてきたところですが、化学工業は大規模なプラント投資を伴う業界でもありますので、移転に伴う補償などの予算がつくのかどうかも気になるところではあります。

③失業保険と雇用安定還付金

失業保険、日本の感覚では書類さえ揃えば受給できるはず、という意識になってしまうのですが、私が数年前に聞いた話では、中国の失業保険は受給することが非常に難しいようです。
なぜ受給できないのかも分からないとのことで、補助金の場合と同じように、法定の条件を満たしているかどうかの判断が人による部分があり、さらに、予算による制約があるので、申請者の見えないところで、なぜか受給できないということになるのかと推測しています。ただ、もちろん、日本と同じく、申請者の知識不足で必要書類を用意できていないだけという場合もあるでしょう。
中国でも、飲食、小売、観光、航空、旅客といった業界はコロナ禍により特に大きな打撃を受けており、中小零細企業における雇用安定もさらに重要になっています。こういった部分で、失業保険の給付を拡大するとともに雇用維持に対する奨励を引き上げて、雇用を維持しようという政策が出ています。失業保険が普通に受給できるようになってくれれば、雇用をめぐる会社と従業員とのトラブルも少し解決しやすくなると期待しています。

④金融安定法の意見募集

新聞でも報道されていますが、中国で「金融安定法」という法律を制定しようということで意見募集稿が公表されています。
過去にも中国についてはシャドー・バンキングとか地方政府融資プラットフォームといったシステミック・リスクが指摘されたことがありましたが、現在ではそういったシステミック・リスクが多様化・潜在化している、グローバル化しているといったことも言われています。
金融安定保障基金という基金も設立されるとのことで、システミックな影響をもたらす重大な金融リスクの処置に用いるのだそうです。

2022年4月5日火曜日

3月第5週:①「信用修復」をめぐる詐欺、②他社サイトの実績情報を盗用、③意匠権の権利期間延長(1年経って)

①「信用修復」をめぐる詐欺

中国では、2013年頃から、債務が返済できない債務者のうち一定の悪質とみなされるものについてブラックリストが作成されて「信用中国」Webサイトなどで公表される仕組みがあります。2014年頃からは行政処罰情報も公開されるようになり、さまざまな面で不利益が課されるようになっています。このような不利益を課す制度は信用失墜懲戒(中国語「失信惩戒」)と呼ばれています。
一方で、これらネガティブな情報が公開されてしまっている状態を解消する「信用修復」(中国語「信用修复」)の申請をすることができる制度もあります。これは特にコロナ禍において企業活動を維持するためにも重要になっており、2020年には最高人民法院が信用修復メカニズムを適切に運用するよう求めてもいました。
ところで、今回ご紹介した発改委弁公庁からの通知文によると、この公式な制度・手続である「信用修復」と似て非なる「征信修復」というサービスを宣伝して高額の費用を採る業者がいるそうで、これを厳しく取り締まる必要があるとされています。
「征信」とは、日本語では「信用調査」とか「与信」とか訳出されていますが、ローンの審査などで一般にも知られた言葉で、「征信修復」と言われると公式な制度・手続と非常に紛らわしいようです。
日本でもいわゆる多重債務問題との関係で、金融機関のブラックリストから事故記録を消すという詐欺があったようですが、中国の場合は公に似たような制度がある分、余計に紛らわしいです。

②他社サイトの実績情報を盗用

消費者からのクレームを受け付けて、それをメーカーに連絡することで解決してあげるというWebサイトがあり、これをめぐる判決の記事が一つ、新聞で紹介されていました。私が上海に赴任していたとき、ラジオ番組でも同様のコーナーがあり、タクシーの中でよく運転手さんが聞いていたことを思い出します。音楽番組はあまり聞かなかったので、中国ではこういう社会派の番組が人気なのだなと意外に思っていたものです。
今回はWebサイトに関する事件で、他社がこのサイトに掲載されたクレーム情報を勝手に自社サイトにも掲載して、自社にも多くの解決実績があるような印象を与えるように装ったということで、不正競争防止法違反で提訴されていました。判決では、このように勝手に他社のサイトに掲載された情報を流用することは商業道徳違反であり規制すべきものと判断しました。虚偽宣伝とも認定しているのですが、一つ一つの掲載情報の真実性よりは全体としてデータベース全体を一部盗用していることの適否が問題なわけですから、商業道徳違反という一般条項に基づく判断を持ち込んだのは実態に即した判断と言えると思います。ちょうど2週間前にご紹介した不正競争防止法の司法解釈に関係するもので、具体的な適用場面の事例の一つとして参考になるものと思いました。

③意匠権の権利期間延長(1年経って)

2020年の《特許法》改正により、中国の意匠権(中国語「外观设计专利权」)の権利期間は従来の10年から15年に延長されました。この改正は2021年6月1日から施行となっていましたが、今回は3月下旬に、権利維持のための年金について11~15年目の年金を年3000元とするという通知が出ていました。施行は1ヶ月後の5月5日からとのこと。
もう随分前に施行されていたのになぜかというと、どうやら、年金は毎年の権利期間が過ぎる1ヶ月前に納付するので、去年の6月1日以降に権利期間が延びた分の年金の納付期限がちょうど5月だからということのようです。
《特許法》改正、今年の6月施行だったか?と時間を一年勘違いしてしまい、我ながら歳をとったなと感じました。





2022年3月30日水曜日

3月第4週:①市場参入許可ネガティブリスト(2022年版)、②《医療機器生産監督管理弁法》《医療機器経営監督管理弁法》改正、③品質安全の特別取締活動

①市場参入許可ネガティブリスト(2022年版)

市場参入許可ネガティブリスト(市场准入负面清单)の2022年版が発布されました。
2020年版に比べて6項目減少した117項目のリスト(うち禁止事項が6、許可事項が111)となっているそうです。
リストの発布と同時に、全国統一リストでの管理が求められており、地方や部門が独自のネガティブリストを発行してはならないとされています。個別の行政許可事項を全て網羅したものではありませんが、内外資共通で参入が規制されている業種・分野のリストですので、事業・投資の管理に携わる方々は見る機会も多いかと思います。

②《医療機器生産監督管理弁法》《医療機器経営監督管理弁法》改正

《医療機器監督管理条例》は昨年改正されていましたが、今回はこれに基づく2つの弁法(生産、経営)が改正されました。
輸入・卸売・小売といった流通段階では経営弁法の方を見ることが多いですが、第三類が許可管理、第二類が届出管理、第一類は許可も届出も不要という分類になっているのは従来どおりです。
申請手続を規制緩和で簡素化しつつ、検査措置や検査手段を拡充して、事前審査から事中事後管理を強化する内容のようですので、医療機器の生産・流通にかかわる企業の方々は業務の見直しもご検討ください。

③品質安全の特別取締活動

市場監督管理総局から、2022年重点工業製品の品質安全の特別取締行動に関する方案が公表されています。
今回は、10種類の工業製品を重点対象として、品質安全事故の起こりやすい部分を重点的に取り締まるとのこと。また、クレーム・通報、世論情報などを基にモニタリングを行っていく方針も示されています。
国家基準・認証制度との不適合や、出荷前検査の実施・記録保管の不備などが対象として挙げられていますので、品質管理のご担当者には目を通していていただければと思います。

2022年3月28日月曜日

新型コロナウイルスに起因する業務遅延と民事責任(振り返り)

コロナ禍の影響による業務遅延に関して、過去に掲載いただいた原稿のURLを再度掲載しておきます。
アップデートができておらず当時のままで恐縮ですが、ご参考までにて。


【寄稿】「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)流行による経済への影響をどう乗り切るか。---中国における裁判所の取り組みから、中国企業とのトラブルの対処を考える---」
東海日中貿易センター会報誌2020年8月号


【中国法務レポート】
新型コロナウイルス肺炎の感染症流行にかかわる民事案件を法により適切に審理することにかかる若干の問題に関する最高人民法院の指導意見(一)
不可抗力や事情変更の主張には、適時の通知と証明資料が必要になります。これは後日では補うことができず、今この時点で必要な対応ですので、どうぞ忘れずにご対応ください。


2022年3月24日木曜日

3月第3週:①3・15晩会(「404エラー」の驚くべき原因)、②薬品安全に関する刑事事件の司法解釈

①3・15晩会(「404エラー」の驚くべき原因)

 今年も3月15日の消費者保護デーにCCTVの「3・15晩会」が放送されました。今年は日系企業に関わる話題はなく一安心でしたが、一つ、とても興味深い話題がありました。
 企業活動において、消費者の「口コミ」はますます重要になっています。これら口コミをめぐる各種のマーケティング活動をバズマーケティングと呼ぶそうですが、中には、消費者を装って問答を自作自演したり検索エンジンの上位に表示されるよう操作したりする業務を受託する会社もあるそうです。
 今回はそれらと並んで、「自社の評判を低下させる情報が記載されたページを『404エラー』で表示されないようにする」という手法が暴露されていました。
 「404エラー」とは、「このURLは存在しません」という表示される、インターネットを閲覧しているとよく見かけるものです。この404エラーを活用する「技術的手段」を利用して、なんと、自社にとって不都合な記載のあるページを表示されなくすることができるとのこと。番組では、従業員への給与遅配などの書き込みがなされていた某企業から依頼を受けたバズマーケティング会社が、そのページにアクセスした人の画面に404エラーが表示させるように遮蔽し、企業にとって不都合な情報を見えないようにした事例が紹介されていました。
 そう言われてよく見てみると、今週の資料でご紹介した事例の記事の中でも、「昨日は表示されていたのに、今日は表示されなくなっている」というものがありました。私自身、このような現象は中国政府による行政指導か何かによるものかと思い込んでしまっていたのですが、それ以外に、企業向けの民間による世論操作サービスによっても同様の現象が起きていることがある。これは個人的にはかなり驚きでした。
 企業法務の業務においては、法的責任の有無と並んで、企業のレピュテーションリスクもよく考慮される事項です。その観点からすると、自社の悪評を見えなくする、良い情報だけが表示されるようになるという「世論浄化契約」によるサービスは、興味を引くものではあります。
 ITの世界は次々にさまざまな手法が登場してくるので追いつくのが大変ですが、法的にどのような位置づけになるのか、私もこれから勉強してみたいと思います。

②薬品安全に関する刑事事件の司法解釈

 薬品安全の刑事事件に関する新しい司法解釈が出ました。刑法改正で新たに薬品管理妨害罪という罪名が追加されていたところですが、今回の司法解釈では、無許可で薬品を製造する工場(「黒作坊」)やそのような無許可で製造された薬品をそれと知りつつ販売する行為が薬品管理妨害罪に該当すること等が規定されています。もちろん、その薬品がニセモノや粗悪品であった場合には、さらに重い虚偽・劣悪薬品の製造・販売罪として処罰されることになります。
 医療保険基金は市民の「救命」のための資金であり、医療保険を利用して医薬品を騙し取って転売するなどの行為については厳しく取り締まるとされています。先日も処方箋を「後付け」で発行する例などをご紹介していましたが(2021年12月第1週)、薬品流通の利便性と適正確保の両立がIT技術の進歩によって高まっていくことを期待したいと思います。