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2月14日の中国会社法改正セミナー:セミナー資料の目次(予定)

中国の会社法改正について、2月14日にオンラインセミナーでお話させていただく予定になっていますので、そのセミナー資料の目次をご紹介します。 下記は現時点で手元に用意してある資料案によるものですが、当日は時間の関係で全部はお話できない可能性がありますので、その点はどうぞご容赦くださ...

2022年5月31日火曜日

5月第4週:①安全生産の重点取締活動、②上海市工会条例の改正、③離職証明書の発行時期

①安全生産の重点取締活動

安全生産の重点取締「百日清零行動」が6月初めから9月上旬にかけて行われます。
2021年11月第3週にご紹介していたとおり、この3月までの間を自主検査・是正期間と位置付けて特定業種や特定の職業資格などいくつかのテーマを重点項目とした取締に関する通知が出ていましたが、今回は2022年3月第1週に重点取締対象とされた旨をご紹介していた鉄鋼、アルミ加工、粉塵作業などが重点範囲として挙げられています。

②上海市工会条例の改正

上海市で労働組合(工会)に関する条例が改正されました。
報道では、個人で宅配業務を請け負ういわゆるフリーランスの人たちにも労働組合に参加する権利があることに言及するなど、労働組合の都市の運行安全保障に関する機能を強化したものと紹介されています。
上海ではもともと労災死亡事故や従業員の健康問題への重大危害に対する調査処理には必ず労働組合が参加しなければならないとされていましたが、生産安全事故もこのような労働組合が調査処理に参加すべき場面の一つであることが明記されるなど、企業活動に影響がありそうな内容も含まれています。

③離職証明書の発行時期

裁判事例で、退職した従業員について、次に新しい会社に就職するために離職証明書を求められたところ、前の会社の方が直ちに離職証明書を発行しなかったため、再就職機会を失ったとして賠償を命じられた事例が紹介されていました。
離職証明書には、離職に至った事由(自己都合か会社都合かなど)が記載されるほか、離職後における制限事項などが記載されることがあります(2021年9月第4週ppt資料参照)。ですので、どのように記載すべきか迷う場面もあるかもしれませんが、発行時期が遅れてしまうとそれ自体が別のトラブルを招くことになります。

2022年5月24日火曜日

5月第3週:①上海市でのコロナ禍対応に関する法律問題FAQ、②公平競争審査制度の改善、③生態環境損害賠償管理規定

①上海市でのコロナ禍対応に関する法律問題FAQ

上海市司法局から、コロナ禍における法律問題に関するFAQの第4集が公表されていました。
政府機関が実施している各種の制限措置については、《伝染病防止法》や《突発事件対応法》は「授権性立法」であり、重大な社会的危害をできるだけ早く制御・軽減・除去できるように政府関係部門に一連の緊急対応措置をとる比較的大きな権限・裁量の余地が付与されていることなどが説明されています。
第1集から第3集はいずれも3月末に相次いで発表されていたので、少し間隔が空きましたが、内容的には第1集から第3週の方が、従業員関連の人事労務対応や取引先との契約の処理に関する事項が対象となっていたので、企業活動にとっては参考になる内容であったかと思います。

②公平競争審査制度の改善

市場監督管理総局から、公平競争審査制度について、4つの面からそれぞれテスト地域を選定して改善の検討を行うことが発表されています。
例えば、江蘇省と重慶市では情報の自動収集やビッグデータ分析による審査レベルの向上、安徽省と広東省では市場主体からの通報に対する処理の改善など、各地で異なる改善項目がテスト対象となっているようです。
ちなみに、「公平競争審査制度」とは、市場主体の経済活動にかかわる法令や政策の制定にあたり、市場競争に対する影響を評価し、競争排除・制限効果を有するような法令については調整をしたうえで発布するという制度です。
詳細は2021年6月に発布された《公平競争審査制度実施細則》などをご参照ください。

③生態環境損害賠償管理規定

環境汚染があった場合の損害賠償に関する新しい規定が発布されています。
環境汚染が修復できる場合と修復できない場合の2つに分けて、修復できる場合には修復する、修復できない場合は損失を賠償又は代替措置により環境機能を同等に回復する、といったことが規定されています。
環境汚染に関しては司法と行政の重なり合う部分があるため、手続についても細かく規定されています。
引き続き環境汚染については関心の高い政策テーマということになりそうです。

2022年5月17日火曜日

5月第2週:①先週休載のお詫びとお知らせ、②職業資格の「ニセモノ証書」にご注意、③企業のコスト負担軽減の各種政策、④民間企業における職務侵奪犯罪の典型事例

①先週休載のお詫びとお知らせ

先週はブログの更新を怠っておりました。ご覧いただいている皆様にお詫び申し上げます。
先週、会員制Webサイト「キャスト中国ビジネス」のサイトがリニューアルになりました。
15年ぶりの大幅刷新で、スマホからも見られるようになり、画面もとても見やすくなっています。私も新しい動画コンテンツを掲載してもらっています。
人事異動の時期です。中国にこれから赴任される方々、既に中国事業に長らくかかわっておられる方々、どちらにも是非お役立ていただければと思っています。
機会がございましたら、どうぞ一度ご覧ください。

②職業資格の「ニセモノ証書」にご注意

人力資源社会保障部とネットワーク情報弁公室から、技能類「山寨」証書の取締活動に関する通達が出ていました。
「山寨」というのは、海賊版や模倣品といった意味の言葉ですが、職業資格まで海賊版が作られているのかと驚きました。
ネット上では、「政府推奨」、「合格保証」、「好待遇就職」などの宣伝文句で、「職業資格」「職業技能鑑定」など如何にも就職に有利なように見える資格が取得できるように見せて受講者を集める悪質な業者がいるようですので、個人でスキルアップを目指す方々はお気をつけください。
逆に、事業者の立場で言うと、国家が定めた職業資格以外に、何らかの職業資格と紛らわしいような制度を作ってしまうと、これら悪質業者と同列に扱われてしまうかもしれないと言えるかと思います。
コロナ禍で出勤できない間に自己研鑽に励もうという熱心な方々が、かえって思いがけないトラブルに遭ってしまわないように願っています。

③企業のコスト負担軽減の各種政策

国家発展改革委員会、工業情報化部、財政部、人民銀行が連名で、企業のコスト負担軽減のための政策メニューに関する通達(2022年版)を出しています。
小規模零細企業向けの税還付など税制優遇、貸し渋り(限贷)や貸し剥がし(抽贷)の防止などの金融施策、行政許可事項の削減などによる制度性コストの低減、失業保険・労災保険の納付猶予などの人件費負担軽減、賃料減免などコスト低減、通行料免除など物流コスト低減、中小企業への代金支払遅延の取締、IT活用支援など、見慣れた項目が並んでいます。
概略のみの箇条書きのような内容ですので、具体的な内容はそれぞれ各企業の所在地のルールを見る必要がありますが、自社で活用可能なメニューを見落としていないかどうか、全体を見渡してみるチェックリスト的に使うにはよさそうに思います。

④民間企業における職務侵奪犯罪の典型事例

最高人民検察院から、職務侵奪罪(日本で言えば横領や背任)に関する典型事例6件が新たに公表されました。
昔からある経費精算をめぐる不正行為や商流への親族・知人の介在などの事例ですが、Eコマースの世界で「発票」が無い支出が増えている状況を反映した事例や、コロナ禍で現地捜査がしづらい中でチャット履歴などの証拠で犯罪行為を立証した事例などがあります。
昔からある類型の不正行為でも、時代に合わせて手口も対策も少しずつ変わってきていますので、ときどきは勉強しておこうと思っています。


2022年5月2日月曜日

4月第4週:①上海市における労働関係に関する通知、②ドローン輸出と《輸出管制法》、③職業に関する民間資格、④中国学術文献データベース(「知網」)をめぐる紛争

①上海市における労働関係に関する通知

上海市の人社局から、コロナ禍での操業停止に関連する人事労務関連の各種事項についての通知が出ていました。
  • 労働報酬、業務方式、労働時間などの変更については、メールやチャットアプリでの意見徴求と協議による変更も「コロナ禍期間のみに適用」とすれば可能とする。(二)
  • 政府による外出制限によって一つの賃金支払周期(例えば月給制なら一ヶ月)を超えて業務に従事できない場合(テレワークできる場合は除く)、労働者側との協議を経て、一ヶ月を超えた後は生活費のみ支給することができる。(九)
といったような、上海での現地法人の人事労務管理に携わっている方々は必ずご覧いただくべき内容が含まれておりますので、現地法人の人事労務のご担当者には是非一度、見ていただくようにお伝えいただければと思います。

②ドローン輸出と《輸出管制法》

ドローン大手のDJI(大疆)がロシアとウクライナでの商業活動を暫定的に停止したとのこと。
《輸出管制法》を含む関連法令のコンプライアンスを改めて自社内で見直すためというコメントも出ているようです。
これまで、中国の《輸出管制法》に関心を払うべき場面は多くはなかったように思いますが、民用技術が戦争にもかかわってしまうことが増えているのかもしれないと思いました。

③職業に関する民間資格

江蘇省のとある民間の試験認証センター(資格学校?)が「全国」で「職業資格」として認められるかのような「登録職業資格証書」を勝手に作っていたようで、問題になっています。今回、人社部から、このセンターの資格証書は国家資格に関するものではなく、採用や昇級、個人所得税優遇などの如何なる職業資格に関する優遇もありません、という声明が出ていました。
コロナ禍で外出できない時間を自己研鑽に、と考える前向きな方々を騙すような話でもありますので、お気をつけいただければと思います。

④中国学術文献データベース(「知網」)をめぐる紛争

精華大学が主導する「知網」という学術文献を一括して大きなデジタル図書館のようなものを作るプロジェクトがあります。CNKIとも略称されます。教育部や国家版権局などの協力のもと推進されており、学校や研究機関が会員になってデータベースを利用するのですが、その費用が高すぎるということで、反独占法違反の市場支配的地位の濫用行為があるとの訴訟を起こされています。実はこのプロジェクトは、単に利用者から費用を取るだけではなく、逆に、利用される論文などを掲載した人たちに対しては収益を分配するということになっているのですが、徴収される費用と分配される収益のバランスが取れていないということも問題視されているようです。
郭兵氏という浙江理工大学法政学院の特任副教授の方がいらっしゃいまして、今回の訴訟ではこの方が原告になっているのですが、実はこの方、杭州野生動物園を訴えて顔認証に関する中国初の裁判事例とされる事例の原告にもなった方です。単に発生した裁判事例だけを観察して分析・論評するだけではなく、自分で原告になってこういった新たな事例を作ってしまうというのは、本当に仕事が好きな方なのだろうなと思います。

2022年4月27日水曜日

4月第3週:①中国版iDeCo?、②中国向けEMSがサービス停止に、③操業再開と移動制限

①中国版iDeCo?

個人が任意に加入する個人養老金に関する新たな政策意見が出ていました。
専用口座を開設すること、年間の上限額が決まっていること、年金受給年齢に達するまで引き出せないこと、さらに、どの金融商品で運用するかは個人が決められることからすると、中国版iDeCoに相当するものかなと思います。銀行の理財商品や年金型の生命保険など、さまざまな金融商品が対象になるようです。
節税メリットがどの程度あるのかにもよりますが、中国の皆さんが何十年も先にならないとおろせないようなものに積立をするというのは、一昔前のイメージではちょっと考えづらいような気もしますが、私自身も一昔前のイメージから脱却しなければならないのかもしれません。

②中国向けEMSがサービス停止に

  (※ こちらは4月22日時点でのコメントです。)
日本の新聞に出ているのを見逃して、中国の新聞の記事を見て日本での変化に気づくというのもお恥ずかしい話ですが、日本から中国に向けたEMSと小包の取扱いが停止になったようです。
日本郵政のWebサイトでも確認してみました。(4月22日現在)
中国の記事を見ていると、一時的なもののようですが、再開時間未定とのこと。
業務に支障が予想されますので、事前の確認と早めのご準備をお勧めします。

③操業再開と移動制限

上海で企業の操業再開が進んでいるとの記事を目にして、「家から出られないのに、どうやって再開するのだろうか?」と不思議に思っていましたら、ちょうど、「15のよくある質問への回答」という記事が出ていました。
このうち問14部分で、「操業再開のために小区を出て職場に戻る申請をしたものの、小区がそれを許してくれません。どうすれば良いですか?」との質問があります。
基本的に企業側で人員の補充をして対応せよということですが、一部のキーになる職位の従業員の方については一定の条件で職場復帰を許すという仕組みも作るようです。工場の操業は一定の人数は必要ですし、リモートワークというわけにもいかず、工場に行くには当然ながら交通手段も必要ですから、ちょっと想像もつかないですが、早めの正常化を願うばかりです。





2022年4月20日水曜日

4月第2週:①商標の悪意による登録行為の10類型、②アカウントのIPアドレス所在地を表示、③大量のユーザーが育てるAIキャラクター

①商標の悪意による登録行為の10類型

悪意による商標登録行為、最近では冬季オリンピックが北京で行われましたので、そのオリンピックのキャラクターである「ビン・ドゥンドゥン(氷墩墩)」も人気です。パンダに似たかわいいキャラクターですね。これに便乗して、「雪墩墩」(氷→雪に変えただけ。)とか、「餅敦敦」(中国語の発音では「氷」と「餅」は声調が違うだけで同じbing。)といった商標登録が申請されているとのこと。
もちろん、話題になったオリンピック選手の名前を勝手に商標登録してしまう例もあります。
これは昔からある例なのですが、今回、国家知的財産権局が発布した通知で悪意の商標登録とされる10類型には、「出願数が多すぎる」、「大量に譲渡している」といったように、商標出願の内容そのものではなく申請者の行為を全体的に観察した類型も挙げられています。
悪意による商標登録の取締、以前から何度も言われていることですが、それでも後を絶たないのは、訴訟などで争って取り消すよりも買ってしまった方が早いということが多いからだとも思えます。定型的且つ大量に処理できるようになればコストも下がるはずなのですが、普通の企業が頻繁に出遭う問題でもないので、なかなか難しいところがあるようにも感じます。

②アカウントのIPアドレス所在地を表示

中国のいくつかのSNSで、事件の関係者になりすまして投稿することで閲覧数を増やそうとするような不正行為が目立つということで、その対策として、アカウントのIPアドレスの所在地を公表するようにしようという話が出ています。
いたちごっこと言えばいたちごっこですが、アプリの仕様が変わったときには、なぜそのように変わったのか、背景を見てみると面白いこともあるかもしれないと思いました。

③大量のユーザーが育てるAIキャラクター

スマホアプリ上でAIのキャラクターと会話をすることができ、且つ、その会話内容は多くのユーザーがアップロードする内容に従って決定されるというアプリがあるそうです。
今回の裁判事例では、実在の人物を基にしてしまったために、その人物の人格権を侵害しているとして賠償を命じられた事例を紹介しましたが、多数の方々の認識が集約されて一つのAIキャラクターが形成されるというのは、なかなか興味深いように思いました。
「一億総クリエイター時代」とも言われますが、誰かがクリエイターになると意識しなくても一人一人の日々の活動から何かが生み出されていく、なんとなくロマンを感じるところもあります。

2022年4月13日水曜日

上海市の「三区」分区差異化管理についてのFAQ


上海では現在、小区(団地のような区画)単位で、封控区(14日隔離)、管控区(7日隔離)、防範区(それ以外)の3つに区域を分けた管理に入っています。
【4月11日】「三区」区分リスト管理の発表

ただ、外出できるはずの防範区でも、実際には外に出られない小区もあるようで、FAQにその問答が掲載されていました。
【4月12日】「三区」分区差異化管理のFAQ
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問4、 なぜ、一部の防範区ではまだ外に出られないのですか?
答 防範区に感染陽性者が発生した場合は、封控区へと調整されます。
  隣接地区に比較的多くの封控区がある、クラスター性のリスクを発生させる可能性がある防範区については、各区は状況に応じて、措置を強化して管理レベルを上げることがあります。
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问4、 为什么有的防范区还是不能出门?
答 如防范区内出现阳性感染者,则调整为封控区。对毗邻地区有较多封控区、可能产生聚集性风险的防范区,各区可根据情况,强化措施提级管理。
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中国では公表された方針に実態がなかなか追いついてこないことがあるので、現場の情報はとても大切だと思います。





4月第1週:①「信訪」(陳情)に関する条例、②化学工業園区への移転促進、③失業保険と雇用安定還付金、④金融安定法の意見募集

①「信訪」(陳情)に関する条例

中国に赴任されたことがある方々は目にされたことがあると思いますが、私が北京にいたときは、毎朝、通勤の途中で、ずっと人が並んでいるのを見かける場所がありました。人気のお店などではなく、裁判所の陳情窓口でした。各種の政府機関にも同じような陳情窓口がありました。
「お上に直訴」するにもルールがありまして、《陳情条例》という法令で「多数で陳情に来る場合は代表5人までを選んで」というような決まりもあったのですが、今回はこれに代わって《陳情業務条例》というのが発布されたようです。ちなみに、多人数で押しかけるのではなく5人の代表を選んで、というルールは変わりがないようです。
会社が従業員と揉めたとき、従業員が政府に「あの会社はけしからん」と集団で陳情に押しかけることがあります。そういった状況も頭に入れて応対いただく必要がありますので、平素から政府機関との根回しは配慮しておいていただくのがよいかと思います。

②化学工業園区への移転促進

石油化学その他化学工業の化学工業園区への移転を促進する政策が出ていました。都市部にある危険化学品生産企業の移転を全面的に完了すること、2025年までに化学工業園区に業界の総生産額の70%を集約すること等の方針が示されています。
従来から都市人口の拡大に伴って化学工業分野の企業の郊外への移転は求められてきたところですが、化学工業は大規模なプラント投資を伴う業界でもありますので、移転に伴う補償などの予算がつくのかどうかも気になるところではあります。

③失業保険と雇用安定還付金

失業保険、日本の感覚では書類さえ揃えば受給できるはず、という意識になってしまうのですが、私が数年前に聞いた話では、中国の失業保険は受給することが非常に難しいようです。
なぜ受給できないのかも分からないとのことで、補助金の場合と同じように、法定の条件を満たしているかどうかの判断が人による部分があり、さらに、予算による制約があるので、申請者の見えないところで、なぜか受給できないということになるのかと推測しています。ただ、もちろん、日本と同じく、申請者の知識不足で必要書類を用意できていないだけという場合もあるでしょう。
中国でも、飲食、小売、観光、航空、旅客といった業界はコロナ禍により特に大きな打撃を受けており、中小零細企業における雇用安定もさらに重要になっています。こういった部分で、失業保険の給付を拡大するとともに雇用維持に対する奨励を引き上げて、雇用を維持しようという政策が出ています。失業保険が普通に受給できるようになってくれれば、雇用をめぐる会社と従業員とのトラブルも少し解決しやすくなると期待しています。

④金融安定法の意見募集

新聞でも報道されていますが、中国で「金融安定法」という法律を制定しようということで意見募集稿が公表されています。
過去にも中国についてはシャドー・バンキングとか地方政府融資プラットフォームといったシステミック・リスクが指摘されたことがありましたが、現在ではそういったシステミック・リスクが多様化・潜在化している、グローバル化しているといったことも言われています。
金融安定保障基金という基金も設立されるとのことで、システミックな影響をもたらす重大な金融リスクの処置に用いるのだそうです。

2022年4月5日火曜日

3月第5週:①「信用修復」をめぐる詐欺、②他社サイトの実績情報を盗用、③意匠権の権利期間延長(1年経って)

①「信用修復」をめぐる詐欺

中国では、2013年頃から、債務が返済できない債務者のうち一定の悪質とみなされるものについてブラックリストが作成されて「信用中国」Webサイトなどで公表される仕組みがあります。2014年頃からは行政処罰情報も公開されるようになり、さまざまな面で不利益が課されるようになっています。このような不利益を課す制度は信用失墜懲戒(中国語「失信惩戒」)と呼ばれています。
一方で、これらネガティブな情報が公開されてしまっている状態を解消する「信用修復」(中国語「信用修复」)の申請をすることができる制度もあります。これは特にコロナ禍において企業活動を維持するためにも重要になっており、2020年には最高人民法院が信用修復メカニズムを適切に運用するよう求めてもいました。
ところで、今回ご紹介した発改委弁公庁からの通知文によると、この公式な制度・手続である「信用修復」と似て非なる「征信修復」というサービスを宣伝して高額の費用を採る業者がいるそうで、これを厳しく取り締まる必要があるとされています。
「征信」とは、日本語では「信用調査」とか「与信」とか訳出されていますが、ローンの審査などで一般にも知られた言葉で、「征信修復」と言われると公式な制度・手続と非常に紛らわしいようです。
日本でもいわゆる多重債務問題との関係で、金融機関のブラックリストから事故記録を消すという詐欺があったようですが、中国の場合は公に似たような制度がある分、余計に紛らわしいです。

②他社サイトの実績情報を盗用

消費者からのクレームを受け付けて、それをメーカーに連絡することで解決してあげるというWebサイトがあり、これをめぐる判決の記事が一つ、新聞で紹介されていました。私が上海に赴任していたとき、ラジオ番組でも同様のコーナーがあり、タクシーの中でよく運転手さんが聞いていたことを思い出します。音楽番組はあまり聞かなかったので、中国ではこういう社会派の番組が人気なのだなと意外に思っていたものです。
今回はWebサイトに関する事件で、他社がこのサイトに掲載されたクレーム情報を勝手に自社サイトにも掲載して、自社にも多くの解決実績があるような印象を与えるように装ったということで、不正競争防止法違反で提訴されていました。判決では、このように勝手に他社のサイトに掲載された情報を流用することは商業道徳違反であり規制すべきものと判断しました。虚偽宣伝とも認定しているのですが、一つ一つの掲載情報の真実性よりは全体としてデータベース全体を一部盗用していることの適否が問題なわけですから、商業道徳違反という一般条項に基づく判断を持ち込んだのは実態に即した判断と言えると思います。ちょうど2週間前にご紹介した不正競争防止法の司法解釈に関係するもので、具体的な適用場面の事例の一つとして参考になるものと思いました。

③意匠権の権利期間延長(1年経って)

2020年の《特許法》改正により、中国の意匠権(中国語「外观设计专利权」)の権利期間は従来の10年から15年に延長されました。この改正は2021年6月1日から施行となっていましたが、今回は3月下旬に、権利維持のための年金について11~15年目の年金を年3000元とするという通知が出ていました。施行は1ヶ月後の5月5日からとのこと。
もう随分前に施行されていたのになぜかというと、どうやら、年金は毎年の権利期間が過ぎる1ヶ月前に納付するので、去年の6月1日以降に権利期間が延びた分の年金の納付期限がちょうど5月だからということのようです。
《特許法》改正、今年の6月施行だったか?と時間を一年勘違いしてしまい、我ながら歳をとったなと感じました。





2022年3月30日水曜日

3月第4週:①市場参入許可ネガティブリスト(2022年版)、②《医療機器生産監督管理弁法》《医療機器経営監督管理弁法》改正、③品質安全の特別取締活動

①市場参入許可ネガティブリスト(2022年版)

市場参入許可ネガティブリスト(市场准入负面清单)の2022年版が発布されました。
2020年版に比べて6項目減少した117項目のリスト(うち禁止事項が6、許可事項が111)となっているそうです。
リストの発布と同時に、全国統一リストでの管理が求められており、地方や部門が独自のネガティブリストを発行してはならないとされています。個別の行政許可事項を全て網羅したものではありませんが、内外資共通で参入が規制されている業種・分野のリストですので、事業・投資の管理に携わる方々は見る機会も多いかと思います。

②《医療機器生産監督管理弁法》《医療機器経営監督管理弁法》改正

《医療機器監督管理条例》は昨年改正されていましたが、今回はこれに基づく2つの弁法(生産、経営)が改正されました。
輸入・卸売・小売といった流通段階では経営弁法の方を見ることが多いですが、第三類が許可管理、第二類が届出管理、第一類は許可も届出も不要という分類になっているのは従来どおりです。
申請手続を規制緩和で簡素化しつつ、検査措置や検査手段を拡充して、事前審査から事中事後管理を強化する内容のようですので、医療機器の生産・流通にかかわる企業の方々は業務の見直しもご検討ください。

③品質安全の特別取締活動

市場監督管理総局から、2022年重点工業製品の品質安全の特別取締行動に関する方案が公表されています。
今回は、10種類の工業製品を重点対象として、品質安全事故の起こりやすい部分を重点的に取り締まるとのこと。また、クレーム・通報、世論情報などを基にモニタリングを行っていく方針も示されています。
国家基準・認証制度との不適合や、出荷前検査の実施・記録保管の不備などが対象として挙げられていますので、品質管理のご担当者には目を通していていただければと思います。

2022年3月28日月曜日

新型コロナウイルスに起因する業務遅延と民事責任(振り返り)

コロナ禍の影響による業務遅延に関して、過去に掲載いただいた原稿のURLを再度掲載しておきます。
アップデートができておらず当時のままで恐縮ですが、ご参考までにて。


【寄稿】「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)流行による経済への影響をどう乗り切るか。---中国における裁判所の取り組みから、中国企業とのトラブルの対処を考える---」
東海日中貿易センター会報誌2020年8月号


【中国法務レポート】
新型コロナウイルス肺炎の感染症流行にかかわる民事案件を法により適切に審理することにかかる若干の問題に関する最高人民法院の指導意見(一)
不可抗力や事情変更の主張には、適時の通知と証明資料が必要になります。これは後日では補うことができず、今この時点で必要な対応ですので、どうぞ忘れずにご対応ください。


2022年3月24日木曜日

3月第3週:①3・15晩会(「404エラー」の驚くべき原因)、②薬品安全に関する刑事事件の司法解釈

①3・15晩会(「404エラー」の驚くべき原因)

 今年も3月15日の消費者保護デーにCCTVの「3・15晩会」が放送されました。今年は日系企業に関わる話題はなく一安心でしたが、一つ、とても興味深い話題がありました。
 企業活動において、消費者の「口コミ」はますます重要になっています。これら口コミをめぐる各種のマーケティング活動をバズマーケティングと呼ぶそうですが、中には、消費者を装って問答を自作自演したり検索エンジンの上位に表示されるよう操作したりする業務を受託する会社もあるそうです。
 今回はそれらと並んで、「自社の評判を低下させる情報が記載されたページを『404エラー』で表示されないようにする」という手法が暴露されていました。
 「404エラー」とは、「このURLは存在しません」という表示される、インターネットを閲覧しているとよく見かけるものです。この404エラーを活用する「技術的手段」を利用して、なんと、自社にとって不都合な記載のあるページを表示されなくすることができるとのこと。番組では、従業員への給与遅配などの書き込みがなされていた某企業から依頼を受けたバズマーケティング会社が、そのページにアクセスした人の画面に404エラーが表示させるように遮蔽し、企業にとって不都合な情報を見えないようにした事例が紹介されていました。
 そう言われてよく見てみると、今週の資料でご紹介した事例の記事の中でも、「昨日は表示されていたのに、今日は表示されなくなっている」というものがありました。私自身、このような現象は中国政府による行政指導か何かによるものかと思い込んでしまっていたのですが、それ以外に、企業向けの民間による世論操作サービスによっても同様の現象が起きていることがある。これは個人的にはかなり驚きでした。
 企業法務の業務においては、法的責任の有無と並んで、企業のレピュテーションリスクもよく考慮される事項です。その観点からすると、自社の悪評を見えなくする、良い情報だけが表示されるようになるという「世論浄化契約」によるサービスは、興味を引くものではあります。
 ITの世界は次々にさまざまな手法が登場してくるので追いつくのが大変ですが、法的にどのような位置づけになるのか、私もこれから勉強してみたいと思います。

②薬品安全に関する刑事事件の司法解釈

 薬品安全の刑事事件に関する新しい司法解釈が出ました。刑法改正で新たに薬品管理妨害罪という罪名が追加されていたところですが、今回の司法解釈では、無許可で薬品を製造する工場(「黒作坊」)やそのような無許可で製造された薬品をそれと知りつつ販売する行為が薬品管理妨害罪に該当すること等が規定されています。もちろん、その薬品がニセモノや粗悪品であった場合には、さらに重い虚偽・劣悪薬品の製造・販売罪として処罰されることになります。
 医療保険基金は市民の「救命」のための資金であり、医療保険を利用して医薬品を騙し取って転売するなどの行為については厳しく取り締まるとされています。先日も処方箋を「後付け」で発行する例などをご紹介していましたが(2021年12月第1週)、薬品流通の利便性と適正確保の両立がIT技術の進歩によって高まっていくことを期待したいと思います。

2022年3月15日火曜日

3月第2週:①政府業務報告、②全国商業秘密保護イノベーション試行業務方案、③手続代行業者の選定、④中小企業向け優遇政策(見逃し厳禁!)

①政府業務報告

毎年、全人代では国務院(政府)から全人代の代表の方々に対して、その一年の活動と次の一年に向けた方針の報告が行われます。
この政府業務報告は、中国政府が注力している分野などが全般的に述べられていますので、中国でのビジネスや投資に携わる方々は多くの方がご覧になっていると思います。
個人的には、今年は不動産について何か新しい言及が見られるか興味を持っていたのですが、従来どおり「住宅は住むために用いるものであり、投機のために用いるものではない」ということで、大きな方針転換は無いような印象でした。
毎年、前年分と比較してみると一層面白いだろうと思いつつ、ざっと眺める程度しかできないのが少し残念ですが、抽象的な記述が並ぶ中でも雰囲気が少し変わっている部分などもありますので、興味のある言葉が登場する部分だけでも、ご覧いただければと思います。

②全国商業秘密保護イノベーション試行業務方案

一部の地域において3年の時間をかけて、商業秘密保護をさらにレベルアップさせるという施策が打ち出されています。行政、司法、民事の多元的な保護制度によって、政府各部門が連動して互いに補いあう業務メカニズムを形成するとのこと。また、国際競争ルールとも連結された保護体系を構築するとのことです。
特許や著作権などの目に見えるものから、さらにノウハウなどの商業秘密に保護の範囲を広げるもので、企業においても十分に保護が得られるように、しっかりノウハウを認識・特定して管理することが求められるかと思います。

③手続代行業者の選定

商標局から、商標関連の代行業者の選定に関する注意喚起が出ていました。
内容としては、既に会社の法人登記を抹消されているのに、商標局の側での登録が残っているのを良いことに、そのまま新たな商標関連手続の代行業務を受託する業者がいて、代行を依頼した申請者が損害を被る事例が見られるとのことです。
手続代行を依頼するときには国家企業信用情報公示システムで登記状態を確認してください、とのこと。
とはいえ、毎回依頼するときに確認するのか?という疑問も湧きます。
商標に関する手続代行に限らず、普段の取引でも同じ問題は発生する可能性はあるので、取引先の名前を登録しておいて、登記状態に変化があったら自動的に通知が来るようなシステムやサービスがあれば良いのにと思います。
もし既にそのようなサービスがあり、ご存じの方がいらっしゃいましたら、是非、ご教示いただければと思います。
よろしくお願いいたします。

④中小企業向け優遇政策(見逃し厳禁!)

今年、2022年1月から12月にかけて、中小企業が購入した500万元以上の設備や器具について、償却期間3年のものについては当年度に一括して全額を損金算入でき、同4年、5年、10年のものは50%を当年度に一括で損金算入して、残り50%を以降の年度で損金算入していくという優遇政策が出ています。もし今年、所得から控除しきれない部分があっても、以後5年間は控除ができることになっています。
中小企業の設備調達において、かなりの減税効果がありそうな施策となっています。
ただ、こちらの政策、自社でこの優遇を享受するか否かの選択をする必要があり、自動的に適用されるものではありません。
日本の中小企業関連の施策もそうなのですが、知らないと享受できず、知らないうちに「もったいない見逃し」をしている場合があります。
ここで言われている中小企業の範囲は相当広いですので、日系企業各社でも対象になり得る会社も少なからずありそうに思われます。是非、一度ご覧ください。
また、設備や器具を販売する側の企業の場合、単位価値が500万元を超えるか超えないか微妙なときには、500万元を超えるように設定した方がむしろ税制メリットを享受できて有利、ということも考えられるかもしれません。


2022年3月8日火曜日

3月第1週:①3月5日から全人代・ウクライナ情勢、②外商投資企業授権登記管理弁法、③「小微企業」(小型薄利企業)に対する「六税両費」の減免政策

①3月5日から全人代、ウクライナ情勢

先週は3月5日からの全人代を控えていたからか、あまり目立った新法令・新政策はありませんでした。また、新聞記事の方も、ロシアとウクライナをめぐる問題が大きく取り上げられている関係で、法律関係であまり注目を集めている記事はなかった印象です。
ですので、今回はとりわけ安全生産の面で発表された取締事例と重点取締の話題をご紹介しています。工場・事業所での事故については関係者が厳しく処罰される傾向が続いていますので、改めて、事例を通じて留意点などをおさらいしておいていただければと思います。

②外商投資企業授権登記管理弁法

《外商投資企業授権登記管理弁法》が改正されました。《外商投資法》とその実施条例を受けた改正のようで、現行のものは2016年版と思っていたのですが、2002年版が廃止されて改めて発布されたという形式になっています。
外商投資企業の登記登録管理は、市場監督管理総局から権限を授権された各地の市場監督管理局が行っており、《外商投資法実施条例》第37条第1項でその名簿が公表されることが定められていますが、従来の《外商投資企業授権登記管理弁法》第7条でも授権の決定は公告されることになっていました。今回の改正はその授権の審査のための資料を簡素化するなどの見直しがあったとのこと。「登記管理についての授権」に関する弁法で、政府機関内部の権限分配の規定ですから、企業には直接影響はないものです。
いつもはなるべく企業活動に関係ありそうなものだけを取り上げるようにしているのですが、今回は次の「六税両費」の件と合わせて、開けてみて少しガッカリというものが多かったので、ここで書き留めておくことにしました。

③「小微企業」(小型薄利企業)に対する「六税両費」の減免政策

小型薄利企業に対する「六税両費用」、6つの税金と2つの費用の減免政策が出たということで中身を見てみましたが、6つの税金とは、資源税、都市維持保護建設税、家屋税、印紙税、都市・鎮土地使用税、耕地占用税です。2つの費用とは、教育費付加、地方教育付加の2つでした。ですので、これも重要度はあまり高くなさそうです。
ちなみに、優遇対象となる小型薄利企業の基準は、課税所得額300万元、従業員数300人、資産総額5000万元という基準とされています。この基準は2019年から採用されており、それ以前は2018年(財税[2018]77号)では工業企業では課税所得額100万元、従業者数100人、資産総額3000万元が基準でしたので、かなり適用範囲が拡大されてきています。
過去に該当しなくても、今は該当することもあるかもしれませんので、中小企業向けの優遇の適用範囲は常に見ておいていただければと思います。









2022年3月1日火曜日

2月第4週:①施行延期の通知、②「証照」の電子化、③個人情報保護法と業務システムへの情報記入、④プラットフォーム(Webサイトやアプリ)の利用規約変更、⑤訴訟前調停による解決の推進

①施行延期の通知

1月第4週にご紹介していた《金融機構の顧客デューディリジェンス調査と顧客身分資料及び取引記録の保存管理弁法》ですが、「技術原因」により施行延期となったようです。
発布後にいくつかの中小金融機関から、この弁法で定められている金融商品と業務モデルごとの具体的なルールや要求事項につき、金融機関側での内部管理制度、情報システム、業務フローを整備して人員の研修も行う必要があるとの求めがあったためとのこと。
もともと1月19日に発布されて2022年3月1日から施行ということで、施行まであまり時間的余裕がなかったところですが、春節休暇が間にあり、さらに今年は冬季五輪もありましたので、無理からぬところかという気もいたします。
「もう少し施行まで余裕のある期間設計にした方がよいのでは?」と思うことも多々ありますが、締切が遠いとついつい対応が後回しになってしまうのも人の常というものです。まずは施行期日を決めておいて、状況を見て延期という方式は、それはそれで合理的なのかもしれません。

②「証照」(証書・許可証)の電子化

中国では行政手続のIT化も進められています。以前から「発票」の発行のための専用システムや税務申告のためのシステム、税関関連の手続のペーパーレス化などは広く導入されていましたが、さらに営業許可証をはじめとする各種業務の許可証についても電子化して、逐一企業から情報・資料の提出を求めなくとも行政機関自身が確認できる仕組みを構築し、全国で通用するように連繋を進めようとしています。
これらの電子「証照」(証書・許可証)を取得して活用するには、申請段階からオンライン申請によることが求められます。そこでは、なりすましを防止するため、USBの認証キーなどを使った電子署名・電子印鑑が必要になりますが、これら紙の署名や印鑑に代わる本人確認手段も付随して普及する必要があります。こうした一連のインフラを整備することに民間企業が関与することも奨励されています。
ところで、日本でも行政改革の一環として「脱ハンコ」が進められています。行政機関の窓口でも、印鑑を求められることが少なくなった印象は確実にあります。ただ、個人が手書きで記入する用紙は自筆署名があるので良いのですが、会社名の書類は個人が署名する箇所はなく、会社の四角いゴムのスタンプ印だけで手続ができてしまい、代表者の丸印はもちろん会社名の角印すら不要という状況になっています。仕事柄、「これで本当に良いのか?」と思ってしまうところもあります。本来、印鑑廃止とデジタル化は表裏一体であり、デジタル化には紙の印鑑や署名に代わる本人確認も必須と思うのですが、会社の代表者の署名はあっても会社自身の署名と言うものは無いわけですから、会社の方は印鑑があった方が良いのでは...と個人的には未だに少し戸惑っています。

③個人情報保護法と業務システムへの情報記入

昨年11月1日から個人情報保護法が施行され、顧客の個人情報についてはIT企業やBtoC企業でなくとも法的に保護する義務があることが明確になっています。
今回紹介した事例では、業務システムにさまざまな情報を書き込めるようになっていたところ、従業員が「このお客様は●●が好き」「このお客様はSNSに投稿をする」などの情報を書き込んでいたことが問題となりました。
サービス業の観点から言えば、この人は顧客のことをきちんと覚えようとする仕事熱心な人なので、ご本人としても決して悪意はなかったのだと思いますし、きっとお客様の評判も良かったのだろうと想像します。
しかし、「知らないうちに」情報が記録・使用されていることは愉快ではありません。仕事熱心は間違いなく良いことなのですが、きちんと同意を得る習慣も求められる世の中になってきているという例かと思います。

④プラットフォーム(Webサイトやアプリ)の利用規約変更

引っ越しなど物流サービスをWebサイトやアプリで提供している会社が、利用規約(服務協議及び交易規則)の変更について、法律に定められた意見募集を行わなかったとのことで罰金の処罰を受けていました。
日系企業各社の立場では、運営者側ではなくユーザー側(出店者側)としてかかわることが多いと思われますが、改定内容に同意せずサービスの利用をやめることができることは当然として、さらに、改定内容が事前にプラットフォームの目立つ位置に掲示されていなかったという理由で事後にその効力を争うということも考えられます。
規約の改定があった場合、内容を見るよりも、その通知の有無や掲示されている場所などを先に見た方が良いかもしれません。

⑤訴訟前調停による解決の推進

中国ではここ数年、訴訟によらず調停によって紛争を解決することを促す方向で司法インフラの整備が進んでいます。
2021年の実績としては、訴訟前調停成立件数が610.68万件、「速裁快审」(一回結審など法律の許す範囲内で手続を簡略化した訴訟手続)の件数が871.51万件とのことで、一営業日あたり4.3万件がプラットフォーム上で調停され、1分あたり51件の紛争が訴訟前に解決されているとのことです。
(ちなみに、中国の年間訴訟件数は、民事・刑事合わせて2016年に2000件、2019年に3000万件を超えています。2020年も3000万件を超え、そのうち55%が民事案件とのことです。)
訴訟手続の迅速化は当事者に早い解決を提供するとともに、司法のリソースを有効に活用できるメリットがあります。しかし、日本にいる我々から見ると、ただでさえ十分な審理を尽くしてもらうことが難しい面がある中国での訴訟対応ですから、「事前に十分な証拠と論拠を揃える」ことが今後さらに求められてくると思われます。



2022年2月23日水曜日

2月第3週: ①ファイナンスリース会社に対する監督強化、②商品相場や価格の高騰に関する注意喚起、③フリーランスの求人募集をめぐる事件

①ファイナンスリース会社に対する監督強化

ファイナンスリース会社については、2020年5月に《ファイナンスリース会社監督管理暫定施行弁法》が中国銀保監会から発布・施行されていますが、現在はまだ3年間の過渡期の過程にあります。今回さらに、「非現場監督管理規程」が発布され、ファイナンスリース会社の重大事項についての報告を求めるなどの規制は上記の弁法でも規定されていますが、情報提供や検査権限などの面で規制が強化されるようです。
ちなみに、ファイナンスリース会社は、「金融リース会社以外の」ファイナンスリース業に携わる会社をいいます。歴史的な縦割り行政を背景とした整理として、「金融リース会社(金融租赁公司)」は銀監会の認可を経た金融機構(いわゆるノンバンク)であるのに対して、「ファイナンスリース会社」は商務部の認可により設立される非金融機構である、という違いがあります。資金源や業務面での規制が異なるのですが、2018年の国務院機構改革で銀監会と保監会が統合されて銀保監会となったとき、ファイナンスリース会社に対する監督管理権限も商務部から銀保監会に移行されました。
ただ単に監督官庁が変わっただけではなく、銀保監会による管理への移行に合わせて、2020年の弁法発布から3年間で金融機関並みの規制に対応することが求められています。しかし、これまでファイナンスリース会社は「金融機関ではない」という前提でずっと運営してきたものですから、既に移行期間の半分が経過した現状でも、なおファイナンスリース会社各社では若干の混乱があるようにも見受けられます。
グループ内にファイナンスリース会社がある企業各社では、そのような背景事情を含めて理解いただき、過去の延長線とは違う現状があることを改めて認識いただければと思います。

②商品相場や価格の高騰に関する注意喚起

2月15日に市場監督管理総局から、鉄鉱石の港での在庫量や先物取引の状況に基づき、関連する企業に対して注意喚起と警告が出ています。関係企業する企業は、虚偽の価格情報を発信することや、悪意の投機的売買、買占めや物価吊り上げ行為を行わないように、という内容となっています。
中国では《突発事件対応法》という法律があり、政府は自然災害、事故災難又は公共衛生事件の発生した場合に買占めや物価吊り上げ行為を処罰する対応措置を講じることができます(第49条第8号)。新型コロナウイルス感染拡大によりマスク価格が高騰した場面で講じられたような措置です。また、そのような事態でなくても、《価格法》第14条第3項は商品価格を高騰させるような行為を不正価格行為として禁じています。
今回も上記のような行為については厳しく取り締まるとのことです。今回は鉄鉱石の価格に関するものですが、昨年8月にも半導体について同様の通知がありました。さまざまな物価上昇が話題になる昨今ですから、中国における価格に関する規制についても目にする機会が増えるかもしれません。

③フリーランスの求人募集をめぐる事件

中国でも様々なフリーランスの方々向けの求人プラットフォームがあります。先日も中国の国家統計局から、フリーランス(灵活就业)の形態で就業する人たちが2億人を超えたことが紹介されていました。
配車アプリのときもそうでしたが、新しいサービスが普及していく過程では世間の耳目を集めるような悲惨な事件が起こって、それに応じて規制が強化されるという動きが起こります。今回は、一人の男性が求人募集に応じたところ、犯罪集団に某国に連れて行かれて違法に監禁されたうえ、大量に血液を抜かれて(「血奴」、血液の奴隷と紹介されています。)生命の危機に陥って病院に搬送され、某国の中国大使館に通報があったという記事が出ていました。
企業にとっても個人にとっても便利な求人募集のプラットフォームですが、日本でも「闇バイト」といってSNS等で犯罪に巻き込まれることもあるようですから、中国でのこうした事件も参考にしながら活用を考えていただければと思います。


2022年2月15日火曜日

2月第2週:①中国弁護士(律師)の成功報酬、②工業・情報化分野のデータの国外移転などの規制見込み(第2回意見募集)、③CMタレントとアフィリエイト

①中国弁護士(律師)の成功報酬

訴訟案件の対応を弁護士に依頼する場合、日本では着手金+成功報酬方式が一般的ですが、中国は少し様子が違います。中国では成功報酬方式(中国では「风险代理」と呼びます。)はまだ歴史が浅く、案件の対象金額に応じて固定した金額で費用を支払う方が主流でした。しかし、最近では成功報酬方式が採用されることも多くなり、依頼者側から成功報酬での対応可否を聞かれることも多くなっています。
今回、司法部など3部門から中国弁護士(律師)の収受する費用について新しい意見が出たのですが、その中では、成功報酬についての規制が強化されました。
すなわち、《律師サービス費用管理弁法》という2006年の法令では、成功報酬の上限は「(訴訟等の)対象金額の30%」が成功報酬の上限となっていたのですが(第13条)、今回の意見では金額に応じて6~18%の範囲とされました。最終的な回収額や債務の減免額も成功報酬の基準としても良いと改めて明記されているので、債務減免を目標として案件を受任する律師も増えるかもしれません。
また、離婚・相続案件や、労働報酬の支払請求案件、刑事事件や行政事件、国家賠償事件及び集団性訴訟案件などについては、成功報酬方式を用いることは禁止されていましたが(第11条、第12条)、この点については今回の意見でも変わらず禁止されています。
今後、中国での訴訟案件で中国弁護士(律師)に訴訟代理を依頼するときには、このような基準も改めて見てみていただければと思います。

②工業・情報化分野のデータの国外移転などの規制見込み(第2回意見募集)

昨年9月末に意見募集をしていた《工業及び情報化分野のデータ安全管理弁法(試行)》について、再度の意見募集が行われています。
データの国外移転については、重要データの国外移転に安全評価を求めることなど大枠は変わっていませんが、中核データは国外移転は一切不可とされていたところが、重要データと同じく安全評価を行えば国外移転できる余地が生じたようです。
また、重要データ及び中核データの保管については、前回から定められていた公共ネットワークからのアクセスの制限やバックアップ及び保管媒体の安全管理のほかに、さらに定期的にデータ復旧のテストを行うことなどが追加されています。
安全評価そのものについては、前回は一般データについても自主評価を奨励する旨が規定されていたのですが、今回はその言及は無くなったようです。
詳細はまた別の機会にどこかでご紹介できればと思いますが、引き続き、《個人情報保護法》よりもこちらの方が幅広い企業に影響がありそうな話題ですので、いつ規制が始まっても驚かないように、最新情報はフォローしておいていただければと思います。

③CMタレントとアフィリエイト

上海市の市場監督管理局から、《広告法》の定める「広告代言人(イメージキャラクター)」についてのガイドラインが出ています。
最近はTikTokなどのSNSで一般の方々がお勧めの商品やサービスを紹介していることもあり、アフィリエイト広告やステルスマーケティングなど新たなマーケティング手法についての法規制は日本でも議論されているところですが、中国《広告法》では過去にさまざまな事件があったこともあって、CMタレントが広告内容について広告主と連帯責任を負わなければならないことになっています。
どこからが有名人で、どこまでは有名人でないのか、判断が難しいところはあります。また、過激で誇張されたものでないと目立つことができず、必然的にそのようなコンテンツばかりが氾濫してしまうという傾向もあります。とても難しいテーマですが、広告については任せきりにせずに、企業側も個人側も互いにチェックしあっていただく観点が必要かと思います。

2022年2月9日水曜日

(日本の話題)「顧客満足度No.1」を謳う広告について


昨年少しブログで言及していた「No.1マーケティング」(「顧客満足度No.1」などと謳う広告など)について、
「また後日どこかで」と書いたまま忘れていましたが、
日本マーケティング・リサーチ協会から1月18日に「抗議状」を出されていました。

(過去の記事はこちら。
 https://chineselawtopics.blogspot.com/2021/05/5348.html

商品やサービスの広告表示において「No.1」を表記しても不当景品類及び不当表示防止法に抵触しないように、
その客観的な根拠資料を得る目的で行われる調査ですが、
実は調査対象者や質問票を恣意的に設定する非公正な調査が行われており、
「No.1 を取得させる」という「結論先にありき」で、「No.1 調査」を請け負う事業者やこれらをあっせんする事業者がいるとのことです。

消費者の目線では、どのような調査を行ったのか、下に書いてある小さな文字まで読むことは普通は無いと思いますが、
もし「No.1」と謳っている広告を見かけられたら、小さい字の部分を見ていただくと、少し面白いのではないかなと思います。