注目の投稿

2月14日の中国会社法改正セミナー:セミナー資料の目次(予定)

中国の会社法改正について、2月14日にオンラインセミナーでお話させていただく予定になっていますので、そのセミナー資料の目次をご紹介します。 下記は現時点で手元に用意してある資料案によるものですが、当日は時間の関係で全部はお話できない可能性がありますので、その点はどうぞご容赦くださ...

2021年8月31日火曜日

8月第4週:①自動車データ安全管理若干規定、②会社の「休眠」制度、③「農民工」(出稼ぎ労働者)、④食品安全関連の6件の著名事件

①自動車データ安全管理若干規定

自動車関連のデータセキュリティに関する規定が発布されました。施行は《データ安全法》と《個人情報保護法》のちょうど中間、10月1日の予定です。内容から考えて、「2022年」の10月なのでは?と不思議に思い、2回、3回と見直してみましたが、やっぱり今年、「2021年10月1日」と書いてありました。
ずっと以前からあるカーナビや地図案内アプリはもちろん、日本では最近「あおり運転」の問題があって搭載が増えたドライブレコーダー、カメラやレーダーなどを使ったセーフティ・サポートカーなど、自動車の走行に関しては敏感な地図データ、運転者の個人データなどを含めて、多くのデータが収集・処理されますし、今後はもっとその傾向が加速するでしょう。
今回の規定では、「重要データ」は中国国内に保存しなければならないことが定められました(第11条)。安全評価を受けて認められれば中国国外に提供することもできるようですが、安全評価時に明確にした目的・範囲・方式及びデータの種類・規模などの範囲を超えることができません(第12条)。《データ安全法》第31条では、従来から《ネットワーク安全法》で規制されていた範囲以外の「重要データ」の国外移転について、別途の安全管理弁法を制定することとされていましたが、今回のこの自動車データの安全規定がそのうちの一つということになるのでしょう。
草案段階では、「個人情報」も中国国内での保存となっていたようですが、正式発布された内容では、対象は「重要データ」に限られています。「重要データ」には、顔やナンバープレートなど社外の画像データや、10万人を超える個人にかかわる個人情報などが含まれますが(第3条)、それ以外の個人情報の国外提供の安全管理については、別途、関係する法令の規定に従うとされています。
(ちなみに、「重要データ」の一番目にはもちろん、軍の施設や党の機関などの重要な敏感区域に関する地理情報や人員・車両の通行量などのデータが挙げられています。うっかりこれらの情報を国外に持ち出すと、スパイの嫌疑を受けることにもなりそうです。)
データの保管場所を変えるのは10月1日までにできそうな事柄には思えませんので、先んじて中国にデータセンターを確保していた各企業の方々は非常に先見の明があったということになりそうですね。
このほか、4つの原則(第6条)が掲げられていますが、このうち「デフォルト不収集」原則というのは、毎回の運転時にデフォルトの設定としてデータを収集しない設定にするようにすることが提唱されています。本人が自主的な設定で変更することは可であるものの、データ収集にあたっての告知事項が細かく、さらに、ユーザーマニュアルや車載画面、音声、アプリなどで目立つ方式で告知しなければならないとされているので(第7条)、もし毎回の設定になると、なかなか面倒なようにも思います。
その他、自動車業界に限らず、《データ安全法》と《個人情報保護法》のもとでは同様の規制が多方面で見られるようになるのではないかという気もしますので、是非、参考にしていただければと思います。

②会社の「休眠」制度

以前にもご紹介したことがあったかと思いますが、会社の「休眠」制度が正式に全国で適用されるものとして国務院から規定されました。企業等の登記に関する規定の一部で定められています。
「休眠」の登記をすることによる具体的効果がどうなのか、今後の運用を見ながら考えていかなければなりませんが、事実上「休眠」状態にある会社は既に多数存在しているのが実態ですので、それらの会社はわざわざ「休眠」登記の申請をすることはなさそうな気もします。
一点、中国ではペーパーカンパニーは認められないと長らく言われてきましたが、今回のこの条例では文書送達場所をもって登録住所と見なすとされています。「休眠」状態であればバーチャルオフィスも何もなくてもOKとなりましたので、この点は一つ、無駄なオフィス賃料を節約できて良いことかと思います。
一方で、取引先管理という観点では、債務の支払をしないまま「休眠」状態に入ってしまう会社も出てくると思われます。会社が運営している状態ならば、継続的な収益から弁済を受けることも期待することもできますし、売掛金や在庫商品などからの回収も図れるのですが、事業活動が止まってしまうと取引先としては困ることも増えそうです。(ただ、これまでは登記や届出の制度がなかっただけで、事実上は知らないうちに休眠してしまっている会社もありましたから、実はそれほど実務面での影響は無いのかもしれません。)

③「農民工」(出稼ぎ労働者)

「農民工」と言えば、上海万博や北京五輪の当時に建設現場などでよく見かけたような、農村から大きな布団を持って都市に出てきて働く出稼ぎ労働者をイメージします。しかし、現在、北京に出稼ぎに来ている人たちのうち半数以上は、肉体労働ではなくIT業界などで働いているそうです。
80年代以降に生まれた比較的若い世代の出稼ぎ労働者は、農業にほとんど従事したこともなく、報酬の多寡だけではなく自身の将来性などを考慮して仕事を選ぶ、といった傾向がみられるとのこと。
特段の技能を要しないローエンドの製造業などで働き、流動性が比較的高い伝統的な出稼ぎ労働者が農村からほぼ無限に供給された時代は終わりを迎え、都市化のための新たな戸籍制度も推進されてきています。
10年で大きく変わった中国、「農民工」という言葉のイメージも少し変えていかないといけないようです。

④食品安全関連の6件の著名事件

「民有所呼,我有所应」。民衆の呼ぶ声があればそれに応えるということで、今年4月以来話題となった食品安全関連の6件の著名事件(火鍋店や喫茶店、ファーストフード店やスーパーなど)について、それぞれ厳しく取り締まった状況が発表されています。
「四个最严」、4つの面から最も厳しい取り締まりがなされたとのことで、①問題が発見された店舗だけでなく同ブランドの全店舗を対象とした調査、②末端の店舗だけでなく本部及び地域支部への行政指導、③店舗だけでなく店長や責任者個人への処罰、④当該企業だけでなくサプライチェーンの上下流の同業関係企業にも調査を広げる、といったことが紹介されています。
食品安全には「ゼロリスク」はないが、あらゆる違法行為に「ゼロ容認」を貫くとのこと。これまでも、取引先や同業他社で何らかの事故や不備があると我が社にも調査が波及してくるという事例は目にしたことがありますが、今後はさらにそういった展開も予測しておくべきということになりそうです。


2021年8月24日火曜日

セミナー告知: 中国《データ安全法(データセキュリティ法)》、《個人情報保護法》の対応

中国の《個人情報保護法》が成立して、11月1日施行まで、およそ2ヶ月となります。
10月には国慶節休暇期間もありますので、対応は早めに進めておいた方が良い部分もあるかもしれません。

日本では、施行までの準備期間も長く設定されていることが多いですし、どのような対応を取れば良いかについても、公的機関や各種業界団体からさまざまな形での情報発信がなされ、比較的取り組みやすい親切な環境があります。
しかし、中国ではそういった便利な情報が少なく、今回の中国《個人情報保護法》についても、具体的に何をすれば良いのか、分かりやすい情報はあまり見当たりません。
また、中国《個人情報保護法》の内容についてネット上で参照することができる記事も、現在のところ、まだ過去の意見募集稿に関する古いものが多いようです。(ネットの記事を参照する際は気をつけてみてください。)

ちょうど10月19日に登壇させていただくセミナーもありますので、この機会にお知らせしておきます。


化学工業日報社様主催:
10/19ライブ配信《ビジネスセミナー》
『中国データ安全法(データセキュリティ法)と、中国個人情報保護法に関する対応』

2021年8月23日月曜日

8月第3週:①個人情報保護法が成立! ②基幹情報インフラ安全保護条例、③保険を解約して再契約させる違法行為、④「刷酸(ピーリング?)」美容施術は医療行為

①個人情報保護法が成立!

中国の《個人情報保護法》がついに成立しました。6月に成立した《データ安全法》と並行して審議されていたので、そろそろかと思っていましたが、8月18日に第三次審査稿が出たという発表があってから数日での正式公布という急展開となりました。
正式公布になった全文は、下記URLから見ることができます。
(今回配信の資料では、まだ、第三次審査稿が出たという発表までしか反映できておりません。ご容赦ください。)
施行は11月1日からとなっています。
詳細はまだ見ていませんが、個人との間で契約を結ぶために必要な情報や、会社が個人を雇用するために必要な情報の処理は、同意不要になったようで、少し安心しています(第13条第1項第2号)。もちろん、同意なしでできる範囲は限られるので、結局は同意を得なければならないということも考えられますが、これは今後の課題となります。
一方、個人情報の国境を跨いだ提供については、単独の同意が必要であること(第39条)など、概ね従来の意見募集稿と変わりないようですから、これらについては今後、各企業においても対応が必要になる部分と思われます。
ちょうどお盆休みのうちにセミナーの資料を作成しておりまして、残念ながらその資料の内容は修正しなければならなくなりましたが、10月のセミナーでしたので、開催直前の変更ではなくてよかったとホッと胸をなでおろしています。

なお、同じく8月20日付で、自動車データ安全管理に関する若干の規定(試行)も発布されています。こちらでも個人情報に関する規定がありますし、中国国外へのデータ提供についての安全評価制度が導入されているなど、実務に影響がありそうですが、こちらも今回の資料では間に合いませんでしたので、来週以降取り上げます。

②基幹情報インフラ安全保護条例

基幹情報インフラストラクチャ―安全保護条例も発布されています。
ネットワーク安全法(サイバーセキュリティ法)では、基幹情報インフラの安全を非常に重視しており、その運営者には通常のネットワークに比して段違いに重い各種の義務を課しています。
(些事ですが、ネットワーク安全法はまさにネットワークの安全に関するものであり、サイバー空間はネットワークの中にあるとか限らないのでは?と常々疑問に思っています。ですので、私は頑固にずっとネットワーク安全法と呼んでいます。)
滴滴の一件でも話題になった《ネットワーク安全審査弁法》もありますが、銀行ATM一つとっても問題が生じると多数の人たちに非常に不便を生じることを考えると、この方面での規制が厳重になるのは自然かとも思います。
《ネットワーク安全法》で定められていた「専門のネットワーク安全管理機構の設置」及び「ネットワーク安全管理責任者及び基幹職位の人員に対する安全背景審査の実施」について、より具体的な規定が出るかと少し期待していましたが、見たところその部分は特に従来と変わりないようです。
テロ対策との関係でも求められている「安全背景審査」、オリンピック関係者のお話もありましたが、今の時代、どこでも人選にあたって従来とは異なる配慮が必要になっているのだなと思います。

③保険を解約して再契約させる違法行為

今回のニュース記事の中では、社内不正関連の題材として、保険の勧誘について、元の保険を解約して改めて契約させるという違法行為が摘発されていた事件を取り上げました。
日本でもかんぽの事例がありましたが、全然異なる点として、日本のかんぽの問題は過剰なノルマをこなそうという「会社のため」の真面目さの表れでしたが、こちらの中国の事例は「新規顧客獲得」インセンティブをせしめるための「個人のため」の不正行為でした。日本のかんぽの事例は被害者は個人の消費者でしたが、中国のこの事例は被害者は保険会社である、という点も異なります。(保険会社の従業員になりすまして販売している点も異なります。この点は、オレオレ詐欺にも似ていますね。)
ただ、保険の業界に限らず、営業活動について様々なインセンティブを付与している例は多いと思いますので、その制度を悪用している人がいないか、内部統制にかかわる方々には視点として持っておいていただければと思います。
また、異なる背景、異なる動機であっても、現れてくる現象としては共通ということもありますので、やはり、何らかの現象に違和感を感じて察知する感性は日ごろから磨いておきたいなと思っています。

④「刷酸(ピーリング?)」美容施術は、医療行為

国家薬品監督管理局から発表された注意喚起情報によると、「刷酸」という美容用語が流行しているとのこと。
「刷酸」とは、美容施術の一種で、角質除去・保湿、新陳代謝促進、毛穴をきれいにする、といったように美容に良いとされているのですが、腫れ、シミ、痛みなどの副作用も出てくることがあり、傷跡が残ってしまうこともあるそうです。
ですので、「刷酸治療」は必ず医療資質のある病院や診療所で、研修を受けた専門スタッフの施術を受けるようにしてください、という注意喚起になっています。
化粧品の中でも「酸で皮膚を入れ換える」といったような宣伝をしているものがあるらしいですが、化粧品は医療作用があるものではないので、「刷酸治療」とは本質的に別のものだということも説明されています。ですから、化粧品についてこのような宣伝をしてはいけないと言われています。
いつもセミナー等で申し上げていることですが、日本での宣伝文句をそのまま中国語に訳していると、中国では違法となってしまう場面がありますので、どうぞご留意ください。

2021年8月16日月曜日

8月第2週:①個人情報不正取得の処罰事例、②女性従業員の会食同席、③「鴻蒙」の商標、④職務発明の退職後出願、⑤家電業界の回収目標責任制、⑥商貿物流分野での行動計画

①個人情報不正取得の処罰事例

顔認識については司法解釈が出たことを前々回にご紹介しましたが、今回はその関連で、「315晩会」でも取り上げられたKOHLERの店舗での顔情報収集についての行政処罰決定書が7月26日付で出ていましたので、その事例を取り上げました。
全国222店舗に565台のカメラを設置し、220万件あまりの顔情報を取得したとのことで、罰金50万元の処罰を受けています。
3月15日に「315晩会」で報道されたので、翌々日3月17日に立件し、調査の結果、膨大な量の個人情報が集められていたことが判明したので4月20日に公安に移送したものの、6月22日に公安から不受理で戻ってきたので、改めて調査のうえ行政処罰した、と書かれています。
結果としては《消費者権益保護法》違反による行政処罰で終わっているわけですが、この経緯から見ると、一歩間違えると刑法上の個人情報不正取得罪(《刑法》第253条の1)で刑事犯罪として処罰されてしまうかもしれなかったようです。思いのほか重い罪になる可能性があるのですね。

②女性従業員の会食同席

ネットで話題になっている事例を取り上げている報道の中では、とある女性従業員が勤務時間外に顧客との食事(飲酒)に同席するように求められ性的被害に遭ったと述べている事例など、「8時間以外」(※勤務時間外、の意味。)の上司に絶対服従という風潮が蔓延しているとの問題意識が取り上げられています。上司の迫力に負けてお酒を飲むのも「No」と言えない、これも権力による圧迫の悪性の現れと言われています。
今はコロナ禍ですので、日本ではあまり機会は無いかもしれませんが、上司・部下が異性である場合には特に、中国でも、勤務時間外をめぐる習慣が変わってきている時代でもありますので、是非ご留意ください。

③「鴻蒙」の商標

Huaweiの新しいOS「鴻蒙」(Harmony)、米国からの制裁によりAndroid OSの最新バージョンが搭載できなくなることに対応するために開発したものですが、商標をめぐっては既に「鴻蒙」という別の登録された商標が存在していたようで、「鴻蒙HongMeng」というように中国語のピンイン表記と併記してみたり、「鴻蒙Harmony」と英語名称と併記してみたり、さまざまな工夫をして商標登録をしようと苦心しているようです。
このうち、「鴻蒙HongMeng」は中国語読みを併記したものですが、「鴻蒙」という先行商標の存在を理由に登録が拒絶され、Huaweiはこれを不服として裁判所に提訴していました。しかし、どうやら第一審ではHuaweiの訴えを退ける判決が出たようです。
OSの名称をコロコロ変えるわけにもいかないでしょうし、商標やブランド、商品名の命名は難しいものだなと思います。

④職務発明の退職後出願

職務発明について、会社を退職した人が退職後に特許出願してしまう事例につき、最高人民法院はさまざまな事情を考慮して決めると言っていますが、
判断要素が増えれば増えるほど、どういった結論が出るのか、予測可能性は小さくなっていくので、実務上は応対に困ることになってきます。
こういったトラブルに備えて、そこまで多くの事情を考慮せずとも結論が明確に見通せるように、会社内でも証拠を確保しておく習慣を作っていただくことを是非お勧めしたいところです。

⑤家電業界の回収目標責任制

家電業界について、テレビ、冷蔵庫、洗濯機、エアコンの4種類の製品については、メーカーによる回収目標責任制が奨励されています。
奨励とは言うものの、活動に取り組んでいる企業リストが公表されるほか、回収目標任務や実施状況の評価結果が公表されることになっています。
家電製品の更新・買換え消費を盛り上げていく政策の方向性の中では、必然的に古い家電製品の回収機能を販売・流通ネットワークの中に組み込んでいく必要がありますので、その面での政策的な措置が強化されている状況と理解しています。

⑥商貿物流分野での行動計画

商務部など9部門から、商貿物流分野での行動計画が出ています。
スマートラベルや自動搬送車両(AGV)、自動仕分機など先進的な流通配送システムの導入を進めることや、コールドチェーン物流のインフラ整備など、重点的に設備投資が行われそうな話題がそれなりに見て取れるように思われます。
また、小さな話題ですが、配送車両に対する駐車料金や反則金をみだりに徴収する例があるようで、「通行難、駐車難、積卸難」を解決するとされています。
また、業界団体による課題研究、コンサルティング、人材研修などの面での積極的な作用を発揮させるということも書かれていますので、日本と同じように、それぞれの業界に必要な法規制の情報が業界団体から発信されるようになれば便利になるだろうと期待しています。

2021年8月6日金曜日

8月第1週:①オリンピックと全民健身計画、②半導体価格吊り上げ、③飲食チェーン店の衛生問題、④粉塵爆発防止、⑤一定の業務完了を期限とする労働契約、⑥発票と支払どちらが先か?

①オリンピックと全民健身計画

《全民健身計画(2021~2025年)》。ちょうどオリンピック期間に合わせて発表なさったのかなと思いますが、フィットネスクラブなど直接のサービスにかかわる企業のみならず、スポーツウェアやスポーツ用品などの業界にも関係します。さらに、日本と同じく、健康寿命を延ばすということも考えると、高齢者介護などにも関係するかもしれません。
2025年までの目標として、体育鍛錬への経常参加比率を38.5%、千人あたりの体育指導員2.16名、全国の体育産業の総規模は5兆元まで高めるとのこと。
普段はまったく運動しない不健康な私のような人間でも、オリンピックを見ていると何か運動でもしようかという気持ちになります。一人で家でできるオリンピック種目があると良いのですけれども。

②半導体価格吊り上げ

日本でも半導体不足の影響が各業界に広がっていますが、中国でも自動車業界での半導体不足が取りざたされています。自動車のスマート化に伴って需要も大きいところ、価格の吊り上げ行為も見られるようで、価格のモニタリング及び通報に基づいて政府部門の調査が開始されたとのこと。
中国の新聞記事を見ても、多くの自動車メーカーで半導体チップ不足が今年のうちは継続し、もしかすると来年も継続するかもしれないと見込んでいるようで、供給遅延や価格変動によるトラブルが起こりやすい環境にあります。

③飲食チェーン店の衛生問題

飲食チェーン店の衛生問題は消費者に近いこともあり話題になりやすいですが、新聞記者が潜入取材で店舗や工場に従業員として入り込んで、「ゴキブリがいる」とか「傷んだ果物を使っている」といったような記事を書かれることがあります。
今回ご紹介した記事の事例では、報道が出た後、各地の政府部門からの調査や行政指導が入り、しかも複数の政府機関が関与してくるので、企業としては対応に追われる結果となりました。
ネット社会ですから、情報が広がるのも早いですし、政府機関が動くのも早いですので、各企業においては「避難訓練」のような形でときどきシミュレーションしておかれないと、なかなか即座に正しく対応することは難しいのではないかというようにも思います。

④粉塵爆発防止

法令の面では、個人的には、《工貿企業粉塵防爆安全規定》が現場では大事だろうと思います。工場や倉庫では様々な粉末を保管されていると思いますが、火の気がないところでも、電気配線の劣化・腐食等によって火花が散って爆発が起こってしまうこともあるようです。
「可燃性粉塵目録」というリストがあり、各種の金属粉、繊維、樹脂粉末などが列挙されています。塗料・染料や防腐剤などもありますし、幅広い産業で留意いただく必要があるものですから、この機会に是非一度ご覧ください。

⑤一定の業務完了を期限とする労働契約

雇用契約の期間に関して、中国《労働契約法》では、①固定期間、②無固定期間、③一定の業務の完成を期限とする、これら3種類とされていますが、このうち③については、なかなか使いづらく、あまり普及していないように思っています。
教科書的には、(1)あるソフトウェアの開発、(2)ある建設工事の完了、(3)農産物の収穫時期だけの臨時雇用、といった例が挙げられているのですが、その都度、社会保険に加入させ、退職時に経済補償金を払うという実務処理は、実際には煩瑣でメリットもあまりないので、活用するのがなかなか困難です。また、賃金をなるべく長くもらうために、ゆっくり仕事をして開発や工事の完成を引き延ばした方が労働者にとって得になってしまう(企業の利益と整合しない)という問題もあります。
今回、北京市では、「企業の雇用の柔軟性を高めるために」として、この一定業務完成を期限とする労働契約についてモデル文書とその締結ガイドラインを出しています。少し期待して中身を見てみましたが、まだ上記のような困難が解消されるものではないようでした。

⑥発票と支払どちらが先か?

中国では代金を請求するとき「先に発票をください。発票がないと払えません」と言われることがあります。逆に自社から取引先への支払のときにも、会社の財務の人に「発票を持ってきてもらわないと経費精算できません」と言われることがあるのではないでしょうか。
一方、発票を発行する側は、その時点で増値税を納税することになりますので、発票を発行した後に代金支払を受けられないと、増値税だけ払って代金がもらえないという困ったことになります。ですので、本当は、支払を受けてから発票を発行したいところです。
どちらが正しい処理なのか、社内の処理もあってなかなか難しいですが、よくある話題なので事例を紹介しておきました。支払が先か発票が先か、もし話題になったときには是非この事例をご活用ください。
なお、「発票」は「インボイス」と訳されることがありますが、誤解を招きやすいので、私はいつも、そのまま「発票」とご説明しています。中国で事業をするなら「発票」は基礎の基礎ですから、正確に理解しておいていただければと思います。

2021年7月29日木曜日

7月第5週:①女性従業員の定年退職年齢、②Eコマースの不正レビュー、③決済分野での規制強化、④自家用車「三包」規定改正、⑤各地の外資向け補助金

①女性従業員の定年退職年齢

従業員の「定年」について、今週は、女性従業員の定年年齢を間違ってしまい、本来の定年退職ならば生じずに済んだはずの経済補償金を支払うことになってしまった事例を紹介しました。中国では女性の定年退職年齢が50歳の場合と55歳の場合があるので、こういう間違いも起こりやすいです。
多くの日系企業が中国に進出した時期、工場は若い人ばかりでしたから、「定年」が人事労務のテーマになることはありませんでした。つまり、経験が決定的に欠けているわけです。そこに今、従業員が高齢化して徐々に定年する例が出始め、社歴が長い=日本式年功序列システムで賃金がそれなりに高い人たちが定年退職し始めています。一つ処理を間違うと、本来なら必要なかった経済補償金が発生して、人事担当者の賃金の何倍もの余計な費用が発生してしまうということになります。
大きな政策の方向としては定年延長も視野に入れるとして、足元の定年退職時の処理、しっかり見直してみることをお勧めします。

②Eコマースの不正レビュー

Eコマースの分野では、相変わらず、あの手この手の「サクラ」でレビュー・評価を高める手法が開発されているようで、正確でない評価を創り出している虚偽宣伝だということで《反不正競争法》違反で処罰されています。
日本でも少し前にAmazonで不正なレビュー・評価についての対策を強化しているという話題が出ていました。日本でも何らかの形で処罰するようになるのだろうか?という疑問も湧きますが、少なくとも、中国で横行している手法を学んでおくことは騙されないために大切なのかなと思います。

③決済分野での規制強化

今年に入ってから日本でも大きく報道された各事例に象徴されるように、ITやフィンテックなどの先進分野では、上場に関する規制が強まっているようです。
今週は《非銀行支払機構重大事項報告管理弁法》という規定が出ており、ここでは、その会社の上場はもとより、さらに、主要出資者・実質支配者の上場(いわゆるVIEスキームによる海外上場を含む)についても、事前報告を要する重大事項とされています。上場以外にも、担保設定などを通じた形を変えた支配権移転、さらにはシステムの重要なバージョン変更、会計事務所の変更といった事項まで含まれています。
この他、突発的な事態(個人情報の流出、決済業務の中断など)についてもレベルにより直ちに報告が必要となっています。
2010年に《非金融機構支払サービス管理弁法》が発布され、オンライン決済の免許取得のためにAlipay(支付宝)の株主を内資企業に変えるなどのドタバタがありましたが、あれから10年、スマホ全盛の時代となり、オンライン決済はもちろん、それに結び付いたフィンテックの分野についても、規制の動向を注視ということになりそうです。

④自家用車「三包」規定改正

自家用自動車のいわゆる「三包」(修理・交換・返品)についての規定が改正されました。動力電池、駆動モータなど、新エネルギー自動車の故障についての規定が追加されたようです。
三包証明書に動力蓄電池容量の減衰下限値を記載しなければならない、ということも書かれています。
2年又は5万キロ、3年又は6万キロという三包期間の下限については、2012年の規定(現行のもの)から変更は無いようです。ユーザーの購入(発票)又は引渡のときから起算されます。自動車部品のメーカー目線では、こちらの期間は重要ですね。
なお、改正規定の施行は来年1月1日とのことです。

⑤各地の外資向け補助金

広州市は、外資導入のために大盤振る舞いの政策を出しています。
一定規模以上の外資系の新規又は増資プロジェクトについての補助金の申請基準が示され、基準を満たしていれば外資金額の2%の奨励、最高で1億元の奨励を出すとのこと。
また、外資多国籍企業の地域本部についても省レベルの財政への貢献に応じて、最高で1億元の奨励があるようです。
広州市がこういう政策を出しているということは、他の都市でも同様の補助金があるかもしれませんから、条件を満たしているのにうっかり申請を忘れる、そんなもったいないことが起こらないようにしたいですね。
(といっても、申請できることに気づかない=申請漏れにも気づかない場合、もったいないと思うことすら無いわけですが...)

2021年7月26日月曜日

義務教育段階の学生の宿題と課外学習の負担軽減について


中国で「学科類研修機構」(学習塾?)の上場などへの新たな規制が導入されたとのこと。私が上海にいた当時通っていた語学学校の名前も新聞に出ていました。子供向けの教育もしていたのですね。
他にも、海外からの授業提供なども規制されています。オンライン教育コンテンツは視力保護のために30分以内、インターバル10分以上など、細かいルールもあります。Edtechに関わるときには、見ておく必要がありそうです。
スマホで問題を撮影してアップロードすると数秒で回答と説明が表示されるという便利なアプリ(「拍照捜題」)なども禁止すると書いてありました。勉学に近道無しです。

なお、発表されている説明を読むと、5月21日には既に中央全面深化改革委員会というところでの審議を通過していたようですので、少し話題についていくのが遅いかもしれませんが、ご容赦ください。



2021年7月24日土曜日

7月第4週:①賃金の「月末締め翌月20日払い」、②浙江省公共データ分類分級基準、③知的財産権データの開放、④非銀行金融機関の行政許可事項

①賃金の「月末締め翌月20日払い」

毎週、裁判の事例などをご紹介していますが、今回は、深センのとある事例が新聞で紹介されていたので、その件をご紹介しています。
「月末締め、翌月20日払い」。日本ではよく見られる賃金支払方式であり、私の知る多くの日系企業でも同様の方式が採用されていますが、なんと、深センでは、これが法令違反であるとのこと。
さらに、それを理由にして退職した従業員から「経済補償金」(法定退職給付。自己都合退職の場合は不要)の支払を求められ、裁判所も支払義務を認めたという衝撃的な事例です。
本当は自己都合退職なのに、会社の法令違反を理由として指摘すれば、本来はもらえなかったはずの経済補償金がもらえるという、無から有が生まれる「錬金術」が成立してしまうことになってしまいますので、おかしな事例と思いますが、新聞で紹介されていましたので、真似をする人も出てきそうです。
深センでは、「月末締め」なら、最も遅くとも「翌月7日」には支払いが必要とのこと。営業日ではなく暦日でしょうか。だとすれば、「国慶節はどうするつもりですか!?」と言いたくなりますね。
とはいえ、労働法の世界では、ローカルな条例などが意外に重要です。ローカルルール、侮らずにしっかり所在地の法令を確認したいところです。

②浙江省公共データ分類分級基準

《データ安全法》(データセキュリティ法)の施行を9月1日に控えて、各地方では、それぞれ分級分類管理についてのルールなどを出しています。今週分では、浙江省の省レベルの地方基準を紹介しています。地方により異なるというのは企業向けの規制ではなくて、地方が持っている公共データの管理についての部分のようですね。
データの管理が地方によって変わるのは不思議に思っていましたが、各地方の持っているデータということなら、それぞれの地方によって重要性は変わるでしょうから、それであれば、なんとなく納得感があります。
しかし、企業側が具体的に何をどうすれば良いのかは、未だによく分かりません。
これまでであれば、中国では、「具体的なルールが出てから対応すれば良い」と考えていたのですが、先日の滴滴のように、随分前の、まだ明文規定もガイドラインも無いような時期の行動を対象に処罰されるとすると、そうノンビリもしていられません。
とりあえず、グループ内のデータ共有について、①日中間で往来しているデータは何があって、②その通信・同期は自動か手動か、という2点については整理しておくのが良いのではないかと思います。(データを分類して管理せよを言われている以上は、どのみち必要になる作業ですので。)
そのうえで、今回ご紹介している浙江省の公共データの例のように、③各データにラベルをつけて、④それぞれ異なる管理をする、という展開が予想されますが、③のラベルのつけかた、分類のしかたが分からないとどうしようもありませんので、まずは①②をしておいて、あとは、各データにラベルをつけるか格納場所を分けられるように準備しておく、という程度が今できることかな?と思っています。

③知的財産権データの開放

国家知的財産権局の知的財産権データの開放範囲拡大については、今話題の半導体関連で、回路配置利用権関係のデータが拡充されたようです。
それと同時に、日本や欧州、韓国などの特許についてのデータも追加されたとのこと。
特許については属地主義とはいいながら、今はどの分野でもビジネスも製品もグローバル化、グローバル展開ありきですから、国を跨いだデータは特に重要ですね。
日本からも中国の知的財産権局のサーバーへのアクセスがスムーズであるように、と願っています。

④非銀行金融機関の行政許可事項

非銀行金融機関について、行政許可事項に関する申請書類などの細則が出ています。
メーカー各社でも、リース会社をグループ内に持っておられる会社も多いと思います。
そのような金融関連業務をなさっている会社については、マネーロンダリングや反社会的組織とのつながり、背後の実際の株主まで遡った出資者の調査などが拡充されるようですので、合わせてご留意ください。


2021年7月16日金曜日

7月第3週: ①電子労働契約、②月36時間残業、③経営者集中(企業結合)禁止事例、④セキュリティ脆弱性管理弁法、⑤虚偽の検査証書の販売、⑥AI医療用ソフトウェア

①電子労働契約

電子労働契約の締結についてのガイドライン(《電子労働契約締結指針》)が発布されました。
電子労働契約については、既に各都市で先行しているところがあり、例えば杭州市の人力資源社会保障局が牽引する電子労働契約サービスのプラットフォーム(通称「杭云签」)があり、2020年12月に正式リリースされて以来、既に6月中旬で130万件以上の締結実績があるとのこと。
一度も会わずに労働契約が締結できるということで、コロナ禍の時代にはピッタリなようにも思います。
さまざまな場面で活用が考えられるところです。

②月36時間残業

もう一つ、人事労務の話題では、月36時間の残業上限を超えて処罰された事例がニュースになっていました。
《労働法》では毎月の残業時間は36時間が上限と定められているのですが、人手不足や季節要因などもありますので、管理が難しいところではあります。日本では原則45時間ですが、36協定によって延長できますので、日本よりも中国の方が厳しいです。
それにしても、10年前の中国の様子を思い出すと、中国でそんなに残業が増えるとは思いませんでした。

③経営者集中(企業結合)禁止事例

「虎牙」と「斗魚」の合併を禁止した反独占法の経営者集中(企業結合)審査の事例が出ました。いずれもゲームのライブ動画配信プラットフォームのようですが、市場シェア40%と30%で、虎牙は腾讯(Tencent)が支配権を持っているとのこと。
反独占法で経営者集中が禁止された事例というのは、確か2008年に反独占法が施行されてから1件か2件しか無かったと思いますので、非常に珍しい事例と言えます。
今のIT企業に対する風当たりの強さを象徴する事例と言って良いのではないでしょうか。

④セキュリティ脆弱性管理弁法

最近話題のサイバーセキュリティ関連では、工業情報化部、国家インターネット情報弁公室、公安部の3部門から、セキュリティ脆弱性の管理規定が発布されました。
セキュリティ脆弱性が発見された場合、ネットワーク製品の提供者は2日以内に工業情報化部のセキュリティ情報共有プラットフォームに情報を報告する必要があります(第7条第1項第2号)。
ここにいう「ネットワーク製品」には、ハードウェアも含まれます。例えばネットワークカメラなど、最近の機器はネットにつながる場合も多いですから、当然といえば当然です。
ネットワーク製品の提供者が情報提供を受け付ける仕組みを作り、情報提供に対して報奨を与えることを奨励する(第7条第3項)ともありますが、見ず知らずの第三者から「御社の製品に脆弱性がありますよ」という連絡が来て対応する場面を考えてみると、なかなか大変なようにも思えます。

⑤虚偽の検査証書の販売

もはやECプラットフォーム上で買えないものはないほどの勢いですが、虚偽の検査・測定報告書も売りに出ているとのこと。
7月7日に一部メディアでそのことが報道された後、翌日7月8日には直ちに市場監督管理総局が各プラットフォームが自主的にこれを調査・排除するように要請したとのことで、検査・測定に関する市場の信頼を重視していることが見て取れます。

⑥AI医療用ソフトウェア

最後に、医療の業界の話題としては、AIを使った医療用ソフトウェア製品は医療機器として承認・登録が必要になっているところ、医療用のものかどうかの区分のガイドラインが出ています。
例えば、単に医療機器のデータを処理・分析するためのソフトウェアや、患者の主訴・検査結果などを記録するだけのソフトウェアであれば医療機器にはならず、一方で、同じく医療機器のデータを処理・分析して何らかの病変の特徴識別や性質判定、服薬指導などに使おうとすると、医療機器として管理されることになるようです。


2021年7月13日火曜日

補足:違法なアプリの取締(滴滴)


7月第2週のコメントについての補足です。

7月9日の22:00に、インターネット情報弁公室から「滴滴」(Didi)関係のアプリの公開停止についての発表が出ていました。

個人情報の重大な違法収集・使用の問題ということで、関係する国家基準も参照して是正するように求められています。
国家基準は意見募集しているものを含め多数ありますので、関係あるものを探すのもなかなか大変なように思いますが、この機会に改めて見ておく方がよさそうです。


2021年7月9日金曜日

7月第2週: ①中国IT企業の海外上場の記事、②違法なアプリの取締、③深センのデータ条例、④破産と虚偽訴訟、⑤2011年のことで処罰

①中国IT企業の海外上場の記事

日本では、中国IT企業の海外上場の規制強化というような見出しの記事を見かけましたが、おそらく、今回ご紹介している証券犯罪の取締強化に関する意見のことかと思います。
この意見は、全体としては、何度かご紹介している「康美」の巨額粉飾事件など、証券市場における違法行為によって中国国内の投資家が損害を受けないように保護しようという趣旨のように思われます。
ずっと下の方(五、とある部分)まで読まないと海外上場の話は出てこないのですが、こういうごく一部が拾い上げられて上記のような記事になっているというのは、記事を見ているだけでは分かりづらいですね。
今回のリニューアルで、「法令の全体像」を浅く広く伝えるのはやめて、一つでも二つでも、業務や事業に直接役立つ部分をクローズアップしてお届けすることにしたのですが、あまりにも一部だけを取り上げてしまうと誤解を招くこともあるので、その点はこの配信時のメールや勉強会などの機会になるべく補うようにしたいなと思っています。

②違法なアプリの取締

違法なアプリの取締についても、日本では「滴滴(Didi)」の件が注目されていますが、中国ではほとんど毎月のように100件を超えるようなアプリの取締が行われておりまして、今回もまた129件のアプリの取締の発表がありました。
著名企業のアプリや、一般の方々がよく使っているアプリも、この中に含まれています。(「滴滴」は今回のこのリストには入っていないようです。)
ライブ配信アプリなどは、広告宣伝や、ライブコマースなどに使われている場合もあり、アプリが使えなくなると売上にも影響するかもしれませんから、IT業界以外の方々でも、自社に関係するかどうか見ておいた方が良いこともあるかと思います。

③深センのデータ条例

深センのデータ条例ですが、「データ安全法」(データセキュリティ法)が成立して直ちにこのような条例を出すのは、
さすがアジアのシリコンバレーといわれる深セン、ハードウェアのみならずアプリ開発でも先進的な地域なのかなと思います。
内容としては、第一章の総則の後、第二章に個人情報(個人データ)に関する章が設けられており、かなり充実した規定ぶりになっているように思われます。第三章は公共データ、第四章はデータ要素市場、第五章がデータ安全という章建てになっています。
深セン限定の地方性法規ですから、詳細をご紹介する機会は無いかもしれませんが、他の地方でもこれに倣う可能性もありますから、参考としての価値はあろうかと思います。

④破産と虚偽訴訟

なお、「高額年俸」云々という記事は、人事労務のお話ではなく、何度もご紹介している「虚偽訴訟」の事例です。
破産した会社については、実務上、管財人から「とりあえず従業員の賃金だけは先に払わせてくれ」という要請が債権者に対して行われることがありまして、会社が破産するのは良いが、それがゆえに賃金が支払われずに騒動が起こると困る、ということで、法律上の順位よりも労働者保護が重視される傾向があります。
日本では未払賃金立替払制度という別のセーフティネットが担うこの役割、中国でも同じような制度があれば良いのにと思いますが、そうするとまた制度を不正に利用する手口を考える人も出てくるかもしれませんので、制度作りというのは国により状況により難しいものなのだなと思います。

⑤2011年のことで処罰

最後に、経営者集中(企業結合)の未申告で22件の罰金処罰が決定された件。
これも日本でも報道されていますが、なんと、10年前(2011年9月)に合弁会社を設立したときのことを取り上げて処罰しているものがあります。
私が知る限りでは、2011年9月当時は、(商務部の見解としては当時から申告が必要とのことでしたが)合弁会社設立時に申告が必要という明文規定はありませんでしたし、未申告の調査・処罰に関する弁法が発布されたのは2011年12月、初めての処罰事例が出たのは2014年のことでした。
ですから、2011年9月は予見可能性が十分ではなかったように思われるのですが、これを10年経った今、改めて取り上げて処罰したのは、なかなか衝撃的です。
行政処罰決定書からは読み取れませんが、もしかすると単純な会社設立ではなく、事業や資産を現物出資するなどM&Aに近い形で行われたのかもしれません。
ただ、規定も運用も明確でない時期のこととすると、それを処罰するのは少し過酷なようにも思えますね。



2021年7月7日水曜日

不正輸出について(安全保障貿易管理ガイダンス)

【2021年7月7日掲載】

不正輸出について、過去の違反事例など見ていると、大手の企業でも顧客や用途の確認を中国の現地子会社や現地社員に一任していたことが違反原因として指摘されている事例がありまして、実務に携わっている身としては「さもありなん」と思うところもあります。


昔のココム規制が無くなった後、今はワッセナー・アレンジメントという別の取り決めに基づいて各国が輸出規制を定めています。日本では外為法に基づき規制しています。

今は経産省で丁寧に説明してくださっていて、Youtubeの動画も活用なさっているようです。ぜひGoogleの「安全保障貿易ガイダンス」でご検索を。

   ↓

日本・経済産業省:安全保障貿易管理ガイダンス[入門編](令和3年3月)

https://www.meti.go.jp/policy/anpo/guidance.html


【2022年7月13日追記】

中国の商務部でも、「中国輸出管制情報ネット(中国出口管制信息网)」というWebサイトを作って、よくある質問と回答(FAQ)や、制度の解説動画を掲載しています。
http://exportcontrol.mofcom.gov.cn/

輸出管理のコンプライアンスに関する事例(各社での取り組み)も掲載されていますので、参考になるかと思います。

2021年7月5日月曜日

滴滴(Didi)アプリについての2つの発表について




中国の滴滴(Didi)のアプリにつき、ネットワーク安全審査を行うこと及び審査期間中は新規ユーザー登録を停止すること(7月2日)、個人情報収集の重大な違法によりアプリストアに「滴滴出行」の公開停止を通知したこと(7月4日)、2つの公式情報が出ています。

一つめは国家安全法とネットワーク安全法の2つを根拠とし、国家安全・公共利益の観点からのものですが、二つめはネットワーク安全法のみを根拠とし、個人情報保護を目的にした措置です。似たような法律が登場して混同されそうですが、中身は多面的です。

報道等では米国ADR上場との関係も指摘されていますし、アプリの個人情報収集については3月に出た必要個人情報の範囲についての規定もありますから、複数の要因があるでしょうが、中国でアプリが公開停止になるのは珍しいことではないですし、よく勉強しておきたいと思います。

(ワークショップ資料3月第4週分より)



2021年7月2日金曜日

7月第1週:①資料をリニューアルしました! ②汚染防止設備がいつのまにか停止していて

①資料をリニューアルしました!

中国共産党成立100周年とは何ら関係ありませんが、7月1日から、
いつもご紹介しているワークショップの資料の構成・体裁をリニューアルしました!


「どの業務を担当なさっている方にご覧いただきたいか」を最初に書いていますので、
ご自身の業務に関係あるものだけを選んでご覧いただければと思います。


相変わらず、日本語・中国語の両文の資料を週1回、同時に配信していますので、
中国現地の方々と一緒にご覧いただければと希望しております。


②汚染防止設備がいつのまにか停止していて

今週ご紹介したうちの一つ、上記の記事は、
工場で、いつのまにか汚染防止処理の設備が止まってしまっているのに気づかないまま、
23時間、そのまま操業してしまっていたとのこと。

周辺住民が異臭か何かに気づいて通報したのかと思ったら、
設置されているモニタリングシステムで環境局に発見されてしまったのだそうです。
丸一日にも満たないのに発見されて処罰されてしまうとは、
一昔前では考えられない厳しさですね。


時代に置いていかれないように、現地の方々とともに勉強していきたいと思いますので、
どうぞ今後ともよろしくお願いいたします。


2021年6月25日金曜日

6月第4週:①価格指数の新しい管理弁法、②リハビリ医療の発展促進、③仮想通貨の資金源、④知財法廷の事例紹介、⑤「新型学徒制」と実習生、⑥資料リニューアル予定

今週のキーワード:
キーワード: オンライン訴訟規則、新型学徒制、特許共同実施者


①価格指数の新しい管理弁法

地味ですが企業活動には重要なものとして、価格指数に関する新しい管理弁法が出ています。
営業であれ購買であれ、世間の「相場」を見ながら取引価格を商談して決めているのが通常と思われますが、この「相場」を知るために実際にお仕事をされている各位がご覧になっているのが、業界における各種の指数です。
これには、公開の取引所における株価等の指数や、政府機関が発表している各種物価指数のほかに、民間や各種団体で出されている各地の不動産価格指数、各地の市場での原材料価格指数など、どこからどう計算してきたのか必ずしも明確でない指数もあります。変わったものでは、マスクの価格指数というものもあるそうです。
日本は長らくデフレが定着し、物価が極めて安定しているので、商習慣として「値上げ」に対して非常に消極的になる習慣が染みついてしまっています。しかし、中国では日本とは全く異なり、価格は変動しますし、基本的にインフレ基調を保つものです。
ですから、「機敏・柔軟な価格調整」は、少なくとも中国で事業を営むならば必須であり、そのための指数も皆さんよくご覧になっていますので、是非、この機会に、どんな指数を見るか、その指数の信頼性はどうか等々、考えてみていただければと思います。

②リハビリ医療の発展促進

リハビリ医療の発展を促進する指導意見は、日本での経験を活かして事業展開することを考えるには一見の価値ありかと思います。
リハビリ治療師(康復治療師)には、物理療法、作業療法、言語療法といった方法があるそうで、日本では理学療法士とか作業療法士という国家資格がありますが、中国でも試験と資格証書の制度があり、その人数を2022年までに10万人あたりリハビリ医師6人、リハビリ治療師10人に増やす、という目標を立てています。
注目すべき点として、リハビリ医療に関するサービス価格についても医療保険の支払管理を含めて見直していくこと、臨床とリハビリの連携したサービルモデルを構築していくことが挙げられていますので、このあたりは日本での経験を活かしていただけるチャンスがありそうにも思えます。

③仮想通貨の資金源

意外にビジネスに影響があるかもしれないのが、仮想通貨(暗号資産)の話題です。
今回は、CCTVで紹介されていたニュースを取り上げましたが、中央銀行から主要銀行とアリペイなどの第三者決済サービス事業者に向けて、仮想通貨取引のために口座や資金が使われないように、顧客の身分確認や資金用途を確認するようにという行政指導が行われたそうです。
「国境を跨ぐ違法な資産移転」やマネーロンダリングに使われているということですが、書籍でも触れたとおり、中国は外為規制が厳しいですので、仮想通貨を使って中国から日本に資金を持ち出して日本で不動産を買う、といった資金移動が行われているようです。
このルートがふさがれることは、日本で不動産投資にいそしんでいる中国の方々の資金繰りがショートしてしまう可能性をはらんでいるので、仮想通貨の取引とは無縁の我々にも影響してきてしまうかもしれません。
中国でも日本でも、やはり、その場で現金一括決済が一番ですね。

④知財法廷の事例紹介

最近、最高人民法院の知財法廷が毎週、ブログのような形で典型事例を1つずつ発表しているようでして、これがなかなか、他の政府機関から嫌われそうな(?)事例を出しているので、個人的には興味をもってご紹介をしています。
先週、今週の資料では最後のページに入れたものですが、中国で知財業務を担当なさっている方には参考になると思います。
当方で全部ご紹介できるものではありませんが、出典をお知らせしておきます。

⑤「新型学徒制」と実習生

なお、ppt資料でも取り上げた「新型学徒制」ですが、技能人員の育成目的のために、学生を企業が受け入れて職業訓練を施す産学連携の活動が行われています。
学生を受け入れる企業の側には補助金が支給されます。在学中に「実習生」として工場などで働く人たちは以前からいましたが、労働法の世界では、これらの方々が労働者として適切な保護を受けていないなどの問題も多く見られました。
ただ、ニーズがあるのは確かなのですから、このようにルールを作って推進していくのは良いことのように思います。
日本は今後も労働人口がどんどん減少していきますので、例えば、中国にある工場側でこういった学生さんを受け入れてもらって、一定のスキルを身につけた人に日本に来てもらえないか誘うといったことも考えられるかもしれません。
ただ、残念ながら、中国では人件費は今も変わらず一貫して上昇しているので、これは「安い労働力」調達の目的ではおそらく使えないことにはご留意ください。

⑥資料リニューアル予定

ところで、来週か再来週から、このワークショップ資料は構成・体裁を変えて、リニューアルの予定です。
ご覧いただける方々のお役に立つものをご提供できるように、随時見直しをしながら作り上げていきたいですので、なにとぞよろしくお願い申し上げます。






2021年6月18日金曜日

6月第3週:①データ安全法、②反外国制裁法、③「網紅」がニセモノ販売で懲役、④中国製ワクチンと隔離免除、⑤水曜は「ノー残業デー」、⑥公的機関による特許実施と許諾

今週のキーワード:
データ安全法、安全生産法、高速道路差別化料金、特許権侵害判断事例


①データ安全法

「データ安全法」については、キャスト中国ビジネスのニュースレターでもご紹介しましたが、データの国外移転に関する具体的な規則は今回の法律の中には規定されておらず、別途定められることになっています。《ネットワーク安全法》では基幹インフラ運営者の重要データだけが対象だったところ、これに規制が上乗せされることにはなるものの、内容は未定ということで、引き続き細則や国家基準の制定を待つこととなります。
データの分類・分級保護についても、各部門、各地方が業界ごとの基準などを定めていくようです。

②反外国制裁法

「反外国制裁法」については、G7直前に公布されたので注目を集めました。
「報復リスト」に掲載されると、会社の場合は経営陣や支配株主などにつき入国禁止や国外追放、資産凍結、中国企業との取引禁止・制限などの措置が講じられるとのこと。
ある国の行う制裁に「制定、決定又は実施に直接的又は間接的に参与」すると報復リストに入れられてしまうようですが、「制定、決定」はともかく、国が決めればその国の組織・団体は「実施」には参与することになるのだろうか?という気もします。
昨年9月に出た《信頼できないエンティティリスト規定》によるリストも未だ出ていないようですので、具体的な運用がどうなるのか見てみないと分かりませんが、「誰も見たくない」場面とも言えるでしょうから、なんとなくモヤモヤしたままの方が平和なようにも思います。

③「網紅」がニセモノ販売で懲役

「網紅」とは、ネット上の人気者(インフルエンサー)のことです。
今回紹介した記事では、SK-II、資生堂などの化粧品のニセモノを大量に購入してきて、アリババのライブ配信チャンネルで販売し、懲役3年3ヶ月及び罰金22万元の処罰を受けたとのこと。
燕の巣であったり、ダイエット薬であったり、「網紅」が関与するトラブルはときどき話題になります。
「網紅」自身がわざわざニセモノを買い集めてきて売る悪質な事例は稀と思いますが、たくさんのファンがいる「網紅」は影響力が大きく、商品を紹介してもらうための「広告料」も高額なようですから、トラブルも起きやすくなります。「網紅」を起用するときは、その人が他に紹介している商品がどんなものかなどを含めて、イメージが合うかどうかをよく見ていただく方がよさそうですね。
(といっても、如何にもニセモノを売っていそうな人は人気者にならないと思いますが...。)

④中国製ワクチンと隔離免除

COVID-19のワクチンですが、中国製ワクチンを含む一定のワクチンを接種していると、キプロスやスペインで隔離が免除されるという記事がありました。韓国でも条件付きですが7月1日から中国製ワクチンを接種していると隔離が免除される見込みとのこと。
個人的には、中国製ワクチン接種で中国入国時の隔離措置が免除されるように将来的にはなってくるのかどうかを気にしています。

⑤水曜は「ノー残業デー」

Tencentのゲーム関連の一部門では、毎週水曜日は強制的に6時で退勤するというルールを導入したとのことで、Weiboで話題になったそうです。
中国では「996(9時から9時まで週6日勤務)」という言葉が随分前から流行していますが、この社内通知では、「業務効率を高めるのに996は不要だということを証明しましょう」と書いてありました。
日本でも水曜をノー残業デーにする試みは以前からありましたし、少し親近感と懐かしさを感じます。プレミアムフライデーも、コロナ禍が過ぎ去ったら、辛い時期を過ごした飲食業界の方々を応援するためにも再び盛り上がると良いですね。

⑥公的機関による特許実施と許諾

なお、資料の最後でご紹介した特許に関する裁判事例は、最高人民法院の知的財産権法廷が紹介している事例の一つですが、飼料添加剤に関する特許を有する特許権者(個人)が、中国農業科学院飼料研究所、北京市大興区農業農村局を相手取って、無許諾での実施に対する賠償を求めたものです。
《特許法》第11条は、特許権者の許諾なしに「生産経営の目的のために」特許等を実施してはならないことを定めているところ、これは「営利目的」を意味するものではなく、公益性事業を行う公的機関だからといって許諾なく特許等を実施できるわけではない、という事例です。
ちなみに、この特許法第11条も2020年改正での変更はなく、従来どおりのものですので、「今さら」の感もありますが、念のため。

2021年6月11日金曜日

6月第2週:①「証照分離」改革(規制緩和とコンプライアンスは表裏一体)、②大量固体廃棄物総合利用、③新エネ車と「永久無料」、④商業賄賂の不起訴事例

今週のキーワード:
審査認可制度改革、コンプライアンス第三者監督評価、企業コンプライアンス事例、新エネルギー車アフターサービス


①「証照分離」改革(規制緩和とコンプライアンスは表裏一体)

審査認可制度に関する「証照分離」改革、よく見かけるキーワードですので、少しご説明しておきます。
経営許可証と営業許可証の分離という意味で、個別業種の経営許可証は日本語と同じく許可『証』、営業許可証は中国語の「营业执『照』」で、この2つを分離しています。
昔は、営業許可証の取得(会社設立登記と同時)の前に、食品なら食品、建設なら建設、化学品なら化学品、それぞれの業種にかかわる許可を事前に取得する必要がありました。
ですから、「その業種の許可が先に取れないと、営業許可証がもらえない」、つまり会社が設立できない仕組みでした。
現在では、とりあえず先に会社を作って営業許可証(照)をもらっておいて、後で個別業種の許可証(証)をもらう、ということができるようになっています。
逆に言うと、営業許可証の経営範囲に「食品卸売」と書いてあっても、その許可証を持っているとは限らないことになっており、今では経営範囲よりも個別の許可証が大切になっています。
以前から中国ビジネスにかかわっておられる方々は、5年も経つと仕組みが大きく変わっていますので、お気をつけください。
今回の通知では、さらに、事前審査そのものを無くす業務分野が増えるとのことです。
ただ、例えば広告発行登録が廃止されても、広告法違反の処罰は多いです。そのように、規制緩和に見合った自己チェックがセットになります。
「規制緩和と企業コンプライアンスは表裏一体」、日本ではごく当たり前の常識になっている観点ですね。
(例えばネット上でも、下記のような分かりやすいご説明も掲載くださっています。
しかし、一方で中国を見ると、このような考え方はまだ「全く」浸透していませんから、中国子会社で体制・習慣を作っていくのは大変です。

②大量固体廃棄物総合利用

大量固体廃棄物の総合利用についての指導意見。
金属精錬くずを道路や建築資材に活用する、建設ゴミを道路工事で再利用する、農産物のわらをエネルギー利用や環境保護製品に再加工する、そういった産業のモデル基地を作るそうです。
2019年の総合利用率は55%であったところ、これを2025年までに60%に高めるとのこと。
リサイクルしやすさを考えた商品設計、B to Bの場面でも少し考慮する項目に入ってくるでしょうか。

③新エネ車と「永久無料」

新エネルギー自動車のお話。
新エネルギー車の販売量、使用量の増加とともに、品質問題やアフターサービスなどの問題も中国で「炎上」しています。
日本でも「永久無料」と書かれた広告を見かけることがありますが、それを「無制限に」と理解する人はあまり多くないと思います。
中国は広いですから、「いくら使っても」永久無料なのか!と喜んでしまう素朴な人たちがまだまだ多いのかもしれませんね。
同じ言葉、同じ説明をしても、受け止め方が変わってしまえばトラブルになりますから、広告の世界は難しいです。

④商業賄賂の不起訴事例

企業コンプライアンスのお話では、今回の資料では2ページを費やしました。
「商業賄賂」(取引先の担当者個人への利益供与)についての事例も紹介しています。
H社の音響設備のサプライヤーであるY社の営業担当の王さんは、累計で、H社の購買担当の劉さんに25万元、技術総監の陳さんに24万元を贈りました。その資金は別のA社という会社からY社が何かを購入したことにしてY社から支出されており、Y社の副総裁と財務総監が承認していました。
H社が公安に通報して、上記各関係者はそれぞれ処罰されたのですが、ここでの問題はY社の会社としての処罰です。
Y社の関係者らが贈賄をしたのはY社の売上のためですから、Y社も処罰を受けることになりそうですが、そこで、資料に書いたとおり、Y社は「コンプライアンス監督管理協議書」なる契約を検察との間で取り交わして、起訴を免れたという事例でした。
昔からある話ではありますが、果たして、第三者の監督機関が入ってきたとして、「中秋節に結構お高めの月餅を贈っても良いですか?」と聞かれたらどう答えるのか、個人的にはとても興味があります。

2021年6月10日木曜日

TikTok、Wechatに関する大統領令の取り消し


WechatやTikTokに関する大統領令、ワークショップの話題などでも取り上げていたので、その後どうなったのかと時々気になっていましたが、昨日付で取り消されたとのこと。
Section 1. の "The following orders are revoked: ..." とある部分です。

Wechatが引き続き使えるのは一安心ですが、私用と業務は分けて、業務では別のアプリを使う方が良いのは従来どおりですね。

「カルテルや談合の話し合いは、料亭ではなくWechatで行われている。
 プライベートなアカウントなので、会社としては完全にコントロール外になる。」
反独占法のコンプライアンスのお話をするときにいつも申し上げていることですが、
ようやく、ときどき別アプリを使う対応をなさっている会社も見かけるようになってきました。

2021年6月3日木曜日

6月第1週:①三人っ子政策、②電子証拠の効力、③市場監督管理局の「法執行責任制」、④職務発明報奨

今週のキーワード:
ブロックチェーン技術での電子証拠保存、公証サービスの最適化、三人っ子新政策、職務発明


①三人っ子政策

三人っ子政策は中国の人力資源政策の大きな方向性ですが、2016年に一人っ子政策が撤廃されたばかりですから、急展開という印象です。
日本では、産休・育休中は健康保険や雇用保険から出産手当金や育児休業給付が行われ、企業側に負担が無い制度設計になっていますが、中国でも同じように「生育保険」という保険があります。日本では男性の育休取得が話題ですが、中国でも同じように男性の育児休暇取得が導入されることも予想されます。他にも、子ども手当とか、日本で試みられたような施策が検討されるでしょう。少し前まで「一人っ子手当」とか、第二子が生まれたら「社会扶養費」を10万元以上納付とか言っていたわけですから、ついていくのも難しそうです。
育休一つ取ってみても、日本では余剰人員が少ないので、育休で人が抜けると他の人の負担が増します。日系企業の中国子会社では、日本ほどギリギリの人員で運営している例は少ない印象ですが、「自分の仕事はこれ」という守備範囲に対するこだわりが強いですので、「あの人が育休で抜けて、仕事は増えたのに給料が変わらないのはおかしい!」という会話が発生することも予想されます。
人事労務管理は「適法でありさえすれば良い」わけではなく、労働法と人事管理は別のものです。別のものではありますが、両方を理解しておく必要があるので、企業の人事ご担当者は中国でも大変だろうと思います。

②電子証拠の効力

「業務で本当によく出遭うご質問」のトップ10には間違いなく入るであろう、電子証拠の有効性について、最高人民法院の「インターネット10大典型事例」で2つ、紹介されていました。
私も使ったことがないのですが、ブロックチェーン技術を使った「保全網」というサービスがあるようで、浙江数秦科技有限公司という会社が運営主体になっています。
この会社のサイトを見てみたところ、早速、「全国初の判決の...」と宣伝文句になっていました。さすがですね。ただ、サービス自体が海外から使えるのかどうかは不明です。
もう一つの事例は、タイムスタンプに関する事例でしたが、これも第三者の電子証拠サービスプラットフォームで保存された証拠の効力を肯定したものです。
公証人役場(中国では「公証処」)に足を運ばなくても、簡単に安価で利用できるこれらのサービス、発明者の認定に関する証拠や、先使用に関する証拠など、特許や商標に関する証拠保存にも活用できそうです。著作権をはじめとする知的財産関連のお仕事をなさっている皆様には、業務の煩瑣とコストの削減に活用いただけるかもしれません。
とはいえ、日本と中国の両方で通用するサービスで、且つ、サーバーが日本国内にあるものでないと、なかなか使いづらいようには思われます。

③市場監督管理局の「法執行責任制」

市場監督管理局の「法執行責任制」の規定、部門や職位ごとの職責を明確にして、自分の守備範囲の業務は責任をもって遂行しましょう、ということですが、第10条(業務人員の法執行責任を追及する場合)と、第11条(同・追及しない場合)に列挙された事由がなかなか興味深いです。
中国の公務員の方々も、自由気ままに裁量権を振り回しているわけではなく、なかなか大変なのだなと感じられます。
さらに、第12条では、「革新的で先例に乏しく、試しながら模索する中で生じた誤りは、発展推進のための善意の過失であるから、責任を追及しない」ということが書かれています。
失敗しても間違っても、前に進み続けましょうということで、これが政府機関内部向けのものでなければ、もっと良いメッセージだと感じられるのですけれど...。

④職務発明報奨

職務発明報奨、日本で特許関係のお仕事をなさる方々ならば、特に目新しい話題でもありません。かの有名な青色LED訴訟を思い出される方も多いと思います。
中国もここ数年、中国市場向けローカライズ開発など、開発要素を伴う活動が行われ、中国子会社名義で特許出願している例も増えてきている印象があります。(特に中外合弁の場合、中国側パートナーの希望により。)
ただ、職務発明に関する契約や社内規程、整備されているでしょうか?というと、実は中国ではそこまで配慮できていないということもあり得ます。
(中外合弁会社の中国側パートナーには、「出願したがるのは良いけど、職務発明報奨のことは考えているの?」と一言聞いてみていただけると、「何のお話?」というような反応が返ってくるかもしれません。)
今回の特許法改正で、職務発明に関する規定が特に変わったわけではないのですが、状況の変化や、改正をきっかけにして注目が集まることで、紛争が増える可能性もあります。
今回pptで紹介した記事でも、「今回の改正で企業が職務発明報奨を支払う義務が明文化された」かのような誤解をされそうな書き方がされていますが、2008年、2010年から特に変更はありません。しかし、新聞を見た人が「私にも権利が?」と思うことはあり得ますので、話題にのぼる可能性は少し高まるでしょう。
新しい情報がなくても「新聞」、見ておくべきところもあるかと思います。